ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第4話 アークエンジェル

白き閃光。

 

それはジンでは無くシグーと呼ばれるジンの後継機たる特殊なモビルスーツ。戦場でも僅かな目撃情報しか無い機体ではあるが、俺たちはその機体を知っている。

 

グリマルディ戦線から、今日に至るまでの、我が部隊の宿敵。

 

「くそー!ラウ・ル・クルーゼかっ!」

 

こんなときに、と叫びそうなムウが高機動戦闘をしながら喘いだ。俺もムウとは違う機動で、クルーゼが操るシグーと接戦する。

 

「クルーゼ!!今日こそ引導を渡してやる!!」

 

ムウと共にいる以上、彼と出会うことは必然だった。SEED史上、最悪の戦争を泥沼化させ、人類悪として憎しみに駆られて散った相手。コーディネーターでもなく、ナチュラルだというのに、主人公であるキラ・ヤマトに迫る操縦技術を持つ相手と、俺たちは幾度となく相見えてきた。

 

「お前はいつでも邪魔だな!ムウ・ラ・フラガに、メビウスライダーたち…!!尤もお前にも私が御同様かな!?」

 

「戯言を!!」

 

シグーから放たれるライフル弾を避け、俺とムウはクルーゼとの戦闘に熱中して行く。この機動やメビウス・インターセプターの力を使っても、クルーゼを落とすことは叶わない。せいぜい接戦、互いに消耗戦へ縺れ込ませることしかできない。

 

いや、もしかすると手加減されているかもしれない。ラウ・ル・クルーゼに。

 

「フランツの仇ー!!」

 

「ゲイル!?だめだ!!」

 

熱中していた戦闘の最中、僚機が無謀にもクルーゼの許へ接近して行く。引き返すように叫ぶが、そうする前に俺の直感が告げる。

 

「ゲイル!!避けろーーッ!!!」

 

メビウスの突貫を容易くいなしたクルーゼは、腰に携えた重斬刀を抜き、すれ違ったメビウスのコアブロックーーコクピットへ無情に突き刺す。

 

通信機越しに、くぐもった声が聞こえた。

 

斬撃を受けたメビウスは、黒煙を上げることなくしばらく宙を漂い、そして爆発した。

 

「ゲイル!!くそが!!馬鹿野郎!!リーク!!俺とエレメントを組め!!勝手な行動はするなよ!!」

 

『りょ、了解!!』

 

クルーゼをバルカン砲で牽制しつつ、俺は乱れた編隊を再編する。フランツ、ミハエル、リョウ、ーーそしてゲイル。

 

メビウスライダー隊で戦死した仲間の名前がまた増えた。その全てがクルーゼによって落とされている。

 

許しはしない…!!!確実に、ここで殺す!!!

 

その時の俺もまた、戦争の憎しみによって、未来を見ることができなかった。

 

クルーゼが操るシグーは、ムウのガンバレルのオールレンジ攻撃を難なく避けて、ヘリオポリスの中へと侵入して行く。

 

「ええーい!ヘリオポリスの中にっ!追うぞ!!各機、続け!!」

 

それを追うように、メビウス・ゼロを先頭に三機の編隊がヘリオポリスの中へと突入してゆくーー。

 

 

////

 

 

「やはりムウは居たか。そして奴も…」

 

複雑なヘリオポリス内部へ続くトンネルを飛びながら、クルーゼは過去、そしてグリマルディ戦線から続く因縁の相手に思いを馳せていた。

 

ムウ・ラ・フラガ。

 

言うまでもなく、自分の因縁、憎しみの源とも言える相手の一端だ。彼との決着は付ける時は来るが、まだその時では無い。

 

問題は、だ。

 

グリマルディ戦線から突如として現れたメビウス乗り。ジン一機にモビルアーマー三機という絶対条件を覆し、それどころかメビウス一機に多くのジンが撃破されるという、偉業を成し遂げたパイロット。

 

ムウを感じる時、必ずそのパイロットがいる。

 

部下を落とし、自分をも喰らおうとする「流星」。その脅威と出会うたびに、クルーゼは歓喜した。

 

絶望しかない世界に光が灯ったような気がした。

 

自分のような「成り損ない」でも、「誰もが願った理想像」でもなく、己が力だけでその極地へと至った存在。命を削る戦いを重ねるたびに、その高ぶりは憎しみではない、別の何かに変わっていくようだった。

 

「全く…厄介な相手だよ…流星は…」

 

その呟きに応えるように、クルーゼの背後からムウを先頭にメビウス隊が迫る。

 

 

////

 

 

「この野郎!!もう逃がさないぞ…!!」

 

シグーとメビウスが、通気トンネルを抜けてヘリオポリス内部に入った瞬間だった。

 

眼下に、ランチャーパックを装備したG兵器、ストライク。そしてそれを確認したと同時。

 

外壁をビームが穿ち、白い巨船が姿を現して行く。

 

《今のうちに沈んでもらう!》

 

「うわぁぁ!ビーム兵器!?」

 

味方の通信が混線する中、白いシグーがこちらを狙ってくる。下にいるストライクは、巨船が放ったであろうビーム兵器にたじろぐばかりだ。

 

「させるか!!」

 

俺は少なくなったエネルギーをフル活用して、シグーに接敵する。もつれ合うように飛びながらも、クルーゼの意識は眼下のストライクに向いていた。

 

「ん?新型か!仕留め損ねたか!?」

 

「戦艦?コロニーの中にか!」

 

クルーゼも、そしてムウも、目の前で起こる展開について行けていない。その中で唯一、状況を把握しているマリューが、空に姿を現した巨艦を見て叫んだ。

 

「アークエンジェル!」

 

 

 


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