ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第59話 出撃

 

 

 

「よーし、始めよう」

 

双眼鏡で戦況を眺めていたバルトフェルドの一言で、攻勢は本格化する。砂丘の稜線を利用したザフトの攻撃ヘリが、まだ無防備なアークエンジェルへと徐々に距離を詰めていく。

 

「航空隊、攻撃開始」

 

状況は整ったと言わんばかりに、ダコスタの一言で攻撃ヘリは砂丘から飛び出して、懐に抱えた火器から存分に銃撃を放っていく。

 

「5時の方向に敵影3、ザフト戦闘ヘリと確認!」

 

砂丘から姿を現した攻撃ヘリをいち早く探知したアークエンジェルであるが、向こうには地の利があった。一度は捕捉しても磁気嵐とNジャマー、そして稜線へ直ぐに隠れてしまう敵機のせいで、識別信号の確認すらできない。

 

「ミサイル接近!」

 

残っているのはこちらに向けて放たれた敵のミサイルだけだ。イーゲルシュテルンで迎撃するものの、アークエンジェルからすれば酷い消耗戦を強いられている。

 

「ええい!こちらの兵装を知って…!フレア弾散布!迎撃!敵は実弾攻撃で来るぞ!」

 

ナタルの一声で、アンチビーム爆雷を下げ、フレアを装填していく。早々に離床したいところであるが、敵戦力が判明しない以上、焦れて出てくるのを待つ罠の可能性もある。とにかく今は、彼らに頼るしかない。

 

〝艦に乗る部隊は、その艦の剣であり、艦は剣の鞘だ。鞘が剣を折る道理がどこにある?〟

 

〝我々船乗りは、できうる最大限の敬意と尊重の心を持って船を発つパイロットを送り出してきた。その敬意に彼らは応えてくれた。だから、私も彼らを信じるのですよ〟

 

ふと、ナタルの脳裏にドレイクから言われた言葉が過った。アークエンジェルは鞘であり、メビウスライダー隊は剣。そう考えると、いつもは緊張感と名状しがたい焦りのような気持ちで満ち溢れていた心が、どこか落ち着くようだった。

 

 

////

 

 

ハンガーでハリーと作業員たちが機器の最終チェックを行なっていると、遅れましたと大声で言いながらパイロットスーツへ着替えたキラが走りこんできた。

 

「キラ!」

 

そのままストライクへ向かおうとするキラを、ラリーがスピアヘッドのコクピットから呼び止める。

 

「出れるか?大丈夫か?」

 

そういつも声をかけていたのはリークだった。彼はいつでも、キラの心のあり方を大切にしていた。だからラリーもそんなリークの在り方を受け継ごうと決めていたのだ。

 

そんなラリーの言葉に、キラは優しげな笑みを浮かべてうなずく。

 

「ありがとうございます…だけど、僕は受け取った使命を果たします。ベルモンド大尉や、バーフォード艦長の分も」

 

今はザフトの勢力圏で、宇宙との連絡も取れない状態だ。ムウも言っていたが、あの艦長の指揮する船だ。そう易々とは落ちはしないだろう。そう信じているラリーたちにできるのは、艦長から最後に伝えられた《使命を果たす》こと、ただそれだけだ。

 

キラに向かってラリーは親指を立てて告げた。

 

「よし、背中は任せとけ」

 

「はい!」

 

ストライクへ再び駆け出したキラを見送っていると、スピアヘッドの通信機の受信合図が灯った。

 

《こちらAWACS。トーリャ・アリスタルフ中尉だ。メビウスライダー隊、聞こえるか?》

 

《アリスタルフ中尉か!》

 

トーリャ・アリスタルフ中尉。

 

彼は以前、モントゴメリと共に航行したローの管制官を務めていた男であり、ラリーとリークは彼と酒を飲み交わしたことがある。

 

《トーリャで構わないよ、ライトニング1。これより君たちをサポートする。コールサインは「エンジェルハート」。まだシステムが完璧ではないができる限りのサポートは行う。よろしく頼む》

 

クラックスのAWACSであるオービットに変わって、今後は彼らがその役割を担ってくれる。ドレイクが大気圏突入間際に渡してくれた餞別だ。

 

トーリャはそれを深く理解していたし、彼が選んだスタッフも第八艦隊では優秀と言われた人員ばかりだ。

 

《では、コクピットで申し訳ないがブリーフィングをはじめよう》

 

改めてそういうと、トーリャが今回の作戦を説明していく。

 

 

 

 

 

 

場所はアフリカ共同体領土の北アフリカ・リビア。

 

砂漠化が進む地域であるが、敵は砂丘を利用して死角からアークエンジェルを攻撃しようとしている。我々の作戦は、稜線に隠れる敵と発射位置を特定し、これを迎撃することだ。

 

重力下での飛行であるため、高度と風向きには注意を払え。

 

敵の保有戦力は未知数だ。

 

最悪の場合、敵モビルスーツの出現も予測されるため、ストライクは地上初のモビルスーツ戦へ突入する危険もある。

 

よって今回のストライクは後方支援も兼ねたランチャーストライカーパックで出撃してもらう。敵モビルスーツが展開した場合は、ライトニング1がストライクの援護に回ってくれ。

 

各員、慣れない地上での戦闘ではあるが我々には果たさなければならない使命があることを忘れないでほしい。

 

健闘を祈る。メビウスライダー隊、発進せよ!!

 

 

 

 

 

 

《ハッチ開放、各機発進態勢へ移行!メビウスライダー隊は敵戦力を排除せよ!重力に気を付けろよ!》

 

ナタルの声にメビウスライダー隊の全員が頷く。ここは地球。宇宙とは勝手が違う。それを自分に言い聞かせて、誰もが操縦桿を固く握っていた。

 

「下がってろ!宇宙と勝手が違うんだから!吹き飛ばされてもしらねぇぞ!」

 

マードックたちが発艦に伴って邪魔な機材や人員を奥へと追いやっていく。

 

《進路クリア!発進どうぞ!》

 

「ラリー・レイレナード、ライトニング1、スピアヘッド一号機、発艦する!!」

 

リニアカタパルトではなく、ランディングギアを出したスピアヘッドは、双発エンジンを軽快に吹かして短い滑走路を進み、機体を飛翔させていく。

 

《続いて二号機、発進どうぞ!》

 

「全く慣熟運転もまだだってのに!ムウ・ラ・フラガ、ライトニングリーダー、スピアヘッド二号機、出るぞ!」

 

ラリーに続いてムウも、夜の闇が支配する砂漠の空へと飛び立っていく。最後に出るのはキラのストライクだ。

 

《カタパルト、接続。APU、オンライン。ランチャーストライカー、スタンバイ。火器、パワーフロー、正常。進路クリア!》

 

背部にランチャーストライカーを背負ったストライクは、デュアルセンサーを瞬かせて出撃準備を整えていく。

 

《ストライク、発進どうぞ!》

 

「誰も死なせない…。死なせるもんか!キラ・ヤマト、ライトニング3、ストライク、行きます!!」

 

 

 

 


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