ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

62 / 213
第60話 地上の流星

 

 

 

「戦闘機が二機発艦を確認…あっ、出てきました!あれがX-105ストライクですね」

 

双眼鏡から見える光景。二機の戦闘機がアークエンジェルから飛び立ち、続いて人型であるストライクが砂漠へと降り立った。だが、スラスターを吹かしても上手く砂の上に立つことが出来ない様子だ。

 

それを冷静に眺めながら、バルトフェルドはダコスタへ次なる指令を伝える。

 

「よし、バクゥを出せ。反応を見たい」

 

 

////

 

 

眼下で膝をつくストライク。それを見ながらも、ラリーもムウも慣れない地球での飛行に顔をしかめる。

 

「これが地球か…!くそ!思いのほか気流が不安定だな」

 

機体が横へ流れていくような浮遊感がある。計器では正常でも、機体は大気の流れに正直なものだ。ラリーは操縦桿を操るも、機体のふらつきを抑えることができない。

 

《エンジェルハートからメビウスライダー隊へ。こちらでも観測した。気象情報を送信する。それを参考に軌道修正をしてくれ》

 

トーリャから送られてきたデータが、コクピットの気象モジュールへ送られ、機体コントロールの補助が入り始める。その分、握っていた操縦桿が鈍重になっていくように思える。

 

「宇宙よりも繊細に扱えよ?ここじゃ下手をすれば地面とハグすることになるぞ!」

 

ムウに言われて、ラリーは鈍重な舵を切って機体を旋回させていく。

 

「キラは!」

 

その視線の先では、ストライクが砂丘の稜線から現れた攻撃ヘリのミサイル攻撃に晒されている。機敏に躱そうとキラもフットペダルを踏み込んだが、流体状の足場で踏ん張りが利かず、ストライクは再び地に膝をついてしまう。

 

「くそっ、足場が…!くぅぅっ!」

 

フェイズシフト装甲があるとはいえ、ミサイルの被弾で伝わる衝撃はキラへ多大な負荷を与えた。歯を食いしばって耐えるキラへ、AWACSであるエンジェルハートからの追い討ちが入った。

 

《敵反応多数!!》

 

その通信に顔を上げたキラの視界に入ったのは、砂丘を飛び越えて現れた独特なフォルムをしたモビルスーツーーバクゥだ。

 

「キラ!」

 

ラリーが舵を切り、スピアヘッドのミサイルを放つが、バクゥは鮮やかに砂漠を疾走し、迫るミサイルを素早く避けていく。

 

《TMF/A-802…ザフト軍モビルスーツ、バクゥと確認!》

 

三機のバクゥは四つ足での疾走から、脚部に設けられたキャタピラに動作を切り替え、砂漠を滑るように移動し始める。背部に設けられたミサイル砲とリニアキャノンを駆使して、自由に動けないストライクへ猛攻を加えていく。

 

『宇宙じゃどうだったか知らないがな』

 

そう言って飛び上がったバクゥは、もがくストライクをあざ笑うように蹴り飛ばして、倒れ伏させる。

 

『ここじゃこのバクゥが王者だ!』

 

《スレッジハマー、撃て!ストライクに接敵するバクゥを足止めするだけでいい!》

 

ナタルの声が響き、アークエンジェルから放たれたミサイルは苦戦するストライクを守るよう的確に周辺へ着弾する。しかし、バクゥはそれすら躱して動けないストライクへじわじわと攻撃を繰り出していた。

 

「くっ!機体の旋回が…!」

 

ラリーが鋭く舵を切ってもスピアヘッドの反応は今一つだった。宇宙でやっていたような鋭い機動ではなく、だらりとした円弧を描いて旋回し、キラに襲いかかるバクゥへと飛翔する。

 

だが、ミサイルを撃とうとも、バルカンを撃とうともバクゥはなんら怯むこともなく、ラリーを無視してストライクへ攻撃を集中していく。

 

「くっそー!」

 

キラも負けじとアグニを振り回すが、砂漠を素早く移動するバクゥへ照準を合わせるなど至難の技だ。ムウも、稜線の向こう側にいるザフトのヘリの相手で手一杯だ。

 

「くっ…キリがねぇ…」

 

ラリーは情けなさを懸命に嚙み殺して、スピアヘッドを操る。その光景を眺めながら、戦場の後方にいるバルトフェルドは冷笑を浮かべながら追い詰められていくストライクを眺める。

 

「確かにいいモビルスーツだ。パイロットの腕もそう悪くはない。が、所詮人型。この砂漠でバクゥには勝てん」

 

////

 

 

「ぬああああ!!」

 

アークエンジェルのハンガーは攻撃の衝撃で嵐と地震が一緒に来たような状態にさらされていて、壁に掴まっている者や、成すすべなくハンガーの床を転がる者で溢れかえっている。

 

出撃前に大慌てで工具などの重量物は固定したので、荷物に押しつぶされることはないが、衝撃だけはどうしようもなかった。

 

「宇宙じゃそんな気にならなかったけど、地球だとかなり揺れるのね…いたた」

 

尻餅をついてるハリーは腰をさすりながら立ち上がると、壁沿いでひっくり返ってるフレイを見てギョッとした。

 

「ハリー技師、大変です世界が逆さまになってます」

 

出撃を聞きつけて手伝いに来たフレイも、その衝撃の餌食になっていた。彼女は前転している途中のようなーー股から顔を逆さに覗かせて、尻をハリーに向けてうずくまっていた。

 

「嫁入り前の子がそんな格好をすんじゃありませんっ」

 

そう言って目を回すフレイを立ち上がらせる中ーー。

 

「少しいいかな?」

 

少し、渋めの声がハリーの背後から発せられた。

 

「はぁい?どちらさまでーー?」

 

ハリーが振り返ると、そこにはパイロットスーツを来た一人の男性が肩にヘルメットをかけて立っていた。彼は固定されているスカイグラスパーを親指で指しながら、平然と言い放った。

 

「この機体、空は飛べるのかな?」

 

 

////

 

 

「ぬぐぁああ!」

 

バクゥの気を引こうと飛ぶラリーは、鬱陶しさから放たれるリニアキャノンをなんとか躱しながら作戦を練っていた。

 

キラのストライクは、砂漠に足を取られて動きが鈍っている。このままでは良い的だ。だから、やられる前にバクゥを何とか足止めして、キラの持つアグニで屠るしかない。

 

しかし、こんな鈍重な機動しかできない機体でできるのか?ラリーは自問する。せめてこの旋回機能に指向性があれば、どうにかーー。

 

そこで、ラリーはシミュレーターでハリーが言っていたことをふと思い出した。

 

VTOLは〝垂直離着陸〟だ。ということは、エンジンの噴射口を真下に向けて離陸することができる。ーーエンジンの向きを任意で変えられるということを。

 

「旋回…そうか!!」

 

ラリーは閃いたように叫ぶと、消極的だった機動を煌めかせて、一気にバクゥへと速度を上げて突っ込んでいく。

 

「ラリー!?」

 

その様子を見たムウは驚きの声を上げたが、ラリーの機体は止まることはない。進路を変えることもだ。

 

「ぐぅうう…!!おりゃあああああ!!」

 

ラリーの雄叫びに呼応するように、キラも自分の置かれた状況の打破へ踏み切る。砂漠という流体状の地形のせいで、脚部へ与えられる接地圧が逃げる。それならば、とキラは横に収納していたキーボードを取り出して目にも留まらぬ速さでデータを更新していく。

 

「逃げる圧力を想定し、摩擦係数は砂の粒状性をマイナス20に設定!」

 

地質調査などはしていないが、暫定的なデータを仮に立てて、それを数値へ当てはめていく。そんなキラのストライクへ、一機のバクゥが迫った。

 

『もらった…!』

 

そう言ってストライクを格闘戦の距離に捉えた時に、共に出ていた僚機からの通信が届く。

 

『メイラム!敵の戦闘機が!』

 

視線をストライクからあげると、一機のスピアヘッドが自分の元へと突っ込んでくるではないか。

 

『たかが戦闘機が…!!』

 

そう毒づいて邪魔をして来ようとするスピアヘッドへミサイルを放つが、ミサイルの信管が作動する前に戦闘機がその下をくぐり抜けて、バクゥの元へ至った。

 

目くらまし程度のバルカンがバクゥの頭部を揺らすと、スピアヘッドは足元ギリギリを過ぎ去り、バクゥの背後へ飛び去っていくーーーはずだった。

 

「ーーーッハァッ!!」

 

想像を絶する力が、ラリーの体にのしかかった。

 

ラリーはバクゥの足元を通過した瞬間、エンジンの向きを水平離着陸する際の方向へ無理やり向けたのだ。

 

機体はもちろん、推進方向が変わり不安定になる。ガタガタと鳴る翼の音は、歪な歪む音へ変貌していき、スピアヘッドは高度を維持したまま、機首を水平から垂直へ上げていく。航空力学からかけ離れた状態の機体に風が当たり、白い煙となって尾を引いた。

 

バクゥを操っていたパイロットは、戦闘機の後を見ようと後方モニターへ視線を向かわせて、戦慄した。

 

モニターに映っていたのは、飛び去ったはずの機体がこちらに逆さになって向いている光景だった。

 

「ポストストールマニューバ…!?」

 

ムウが驚愕の声でそう言ったと同時に、逆さまになったスピアヘッドのコクピットの中で、ラリーは慣性を殺さないまま射線上にバクゥを捉え、その瞬間にミサイル発射の引き金を引く。

 

放たれたミサイルは、バクゥの背後から背部ミサイルポッドにめり込み、爆散させる。

 

ラリーは機体の姿勢を戻すと、大急ぎで機体を上昇させた。

 

今だ、キラ!!

 

「このぉ!!」

 

心の叫びが通じたのか、安定性を取り戻したキラが放ったアグニの一閃が、ミサイルポッドを破壊されたバクゥを穿ったのだった。

 

 

////

 

 

その光景を目の当たりにして、バルトフェルドは目を見開いた。なんだあの機体は。短時間で、運動プログラムを砂地に対応させたストライクもそうだがーー、問題は戦闘機だ。

 

バルトフェルドも幾度となく地球軍との戦闘機と相見えたが、あんな機動をしたスピアヘッドは見たことも聞いたこともなかった。

 

自分の目に間違いがなければ、あの戦闘機は飛行してる最中にエンジンの向きを変えたように見えた。そんなバカなと信じられない自分がいる。そんなことをしたら、機体は制御を失うどころか、急激な軌道の変化で空中分解してもおかしくないはずだ。

 

だが、そんなことしてもその戦闘機は平然と空を飛んでいる。その動きも、さっきと比べたら鋭さが増しているように思えた。

 

ふと、頭によぎるのは宇宙で暴れまわっていた流星の話。彼の部隊は、ザフトでも理解できない機動でジンを翻弄して撃破したという。

 

あれが本当にナチュラルなのか?

 

そんな弱気を見せた心をバルトフェルドは厳しく律して、ダコスタへ次なる指令を出した。

 

「レセップスに打電だ。敵艦を主砲で攻撃させろ!」

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。