ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第61話 シードの目覚め

バルトフェルドの指令からレセップスの砲撃が始まった。その反応をいち早くオペレーターが感知する。

 

「南西より熱源接近!砲撃です!」

 

その一報を聞いてから、マリューの判断は早かった。

 

「離床!緊急回避!」

 

そこからアークエンジェルは空へと浮かび上がる。しかしここは地球。水平に離床できるほど操舵は慣熟されていない。したがって傾きが生まれ、そしてその被害を受けるのは他でもないハンガーだった。

 

「ばかやろー!!ここは宇宙じゃねぇんだぞ!!」

 

柱にしがみつきながらマードックが誰にも伝わらない怒声を上げた。いや、ハリーやフレイには伝わってるが、彼女らは何も言わなかったし、言えなかった。なぜかと言うと自分たちも固定された工具棚やハシゴに掴まるので精一杯だったからだ。

 

「どこからだ!」

 

「南西、20キロの地点と推定!本艦の攻撃装備では対応できません!」

 

正確な射撃だなーーということは、こちら側を見ている何者かがいるということか?そんな事をナタルは考えるが、今は晒されている主砲の攻撃をどうにかするのが先決だ。

 

《こちらライトニングリーダー!俺が行って、レーザーデジネーター照射する。それを目標に、ミサイルを撃ち込め!》

 

砲撃を何とか躱したアークエンジェルに、ムウからの通信が入る。

 

「今から索敵しても間に合いません!」

 

《やらなきゃならんだろうが!それまでは当たるなよ!》

 

それだけ言って、ムウは相手艦船への索敵へ移っていく。だが、それにナタルは難色を示した。

 

「しかし!それでは攻撃ヘリの相手が…」

 

そこで、ナタルの後ろにいたオペレーターが素っ頓狂な声を上げた。

 

「こ、これは…スカイグラスパーが発進シークエンスに入ってます!!」

 

「ええ!?」

 

スカイグラスパーはまだ慣らし飛行もしていないので出す予定はない、そう伝えられていたはずなのに。驚くマリューとは違って、ナタルはイレギュラーすぎる報告に怒りを露わにしていた。

 

「誰が乗っている!」

 

それを調べていたAWACS担当であるトーリャは、ヒットした認識番号を見て思わず頭を抱えた。

 

「あのバカ…なんてタイミングで…!」

 

良くも悪くも、タイミングがいいのか、悪いのか。思わず拳で自分の膝を叩いたトーリャは意を決して立ち上がり、マリューへ敬礼する。

 

「ラミアス艦長!発艦許可をお願いしたい!」

 

「アリスタルフ中尉!?」

 

「彼は行動はアレですが、第八艦隊では信用できるパイロットです!」

 

そう言うトーリャの目は真っ直ぐなものだった。それに、現状ではヘリからの攻撃を防ぐ術がない。できることなら防衛網に穴を開けたくなかったマリューは、その進言に頷く。

 

「わかりました。許可します!」

 

「艦長!?」

 

「今は時間が惜しいわ!それに切れる手札があるなら切るしかない!」

 

抗議を一喝したマリューにナタルは驚きながらも、立ち上がりかけた腰を下ろして、トーリャへ視線を向けた。

 

「ーー発艦させろ!」

 

よし!と言った風にトーリャが座席に座りなおすと、ミリアリアが手順通りに発艦準備が整ったスカイグラスパーをデッキへ誘導していく。

 

「スタンバイ。進路クリア。システム、オールグリーン!」

 

「スカイグラスパー、発艦!!」

 

 

////

 

 

新たに飛び立った機体を見つめてバルトフェルドは首を傾げた。

 

「なに?報告にはなかった機体だな」

 

すると遠くの方でレセップスが主砲を放つ音が聞こえる。遠くから打ち上がった閃光が夜空を駆け上がり、頂点に達して緩やかに落ちてくる。

 

狙いはもちろん、離床したアークエンジェルだ。

 

《第二波、接近!》

 

《回避!総員衝撃に備えて!》

 

《直撃…きます!》

 

無線機越しに聞こえた言葉に、キラの呼吸は無意識に早くなっていった。思い出すのはーー大気圏での出来事。何もできなかった自分の無力さ。そして、聞こえなくなっていくリークの声。

 

もうたくさんだ。

 

あんな思いはもう嫌だ。

 

だから、守るんだ。

 

その為に僕はアークエンジェルに、ラリーさんや、ベルモンド中尉と同じメビウスライダー隊に残る事を決めたんだ。

 

だから、僕が、ベルモンド中尉の分も。

 

全部、守ってみせるーー!!

 

自分の中で何かが弾けたような気がした。頭は今まで感じたことがないように冴えていて、滑るように操縦桿を操る手が動き、迫る砲撃の閃光へ狙いを定める。

 

「あたれぇえええ!!!」

 

キラの咆哮と、アグニの閃光が走り、アークエンジェルに向かっていた砲撃は、その光の向こうへ消えていった。

「やるなぁ!!キラ!!」

 

正に夜空に光る星と化した砲撃に口笛を鳴らして、ラリーは軽快にスピアヘッドを飛ばす。その機動は最初の覚束なさが消え、鋭さを徐々に増していった。

 

『なんでだ!?なんで当たらないんだ!?』

 

リニアキャノンやミサイルで応戦していたバクゥのパイロットたちは、徐々に自分たちが相手している者の異常性に気がつき始めていた。

 

今まで自分たちが相手にした戦闘機というのは、一撃離脱が当たり前であり、捉えられない速度で突入しては、バルカンやミサイルで横槍を入れてくる鬱陶しい存在でしかなかったはずなのに。

 

目の前で相手をする戦闘機はどうだ?こちらが捉えられる低速域で飛んでいると言うのに、何を撃ってもカスリもしない。ロックはしているのに、ミサイルやリニアキャノンが不思議と逸れていくのだ。

 

直撃コースだと確信しても、戦闘機では考えられない軌道を描いて躱して、地上ギリギリで息を吹き返してはこちらに向かってミサイルやバルカンを撃ち込んでくる始末だ。

 

なんだこれは。

 

なんだコイツは。

 

こんなやつが本当にナチュラルなのか?

 

宇宙で暴れまわる流星の噂を聞いたことはあったが、その噂の方が可愛げがあるように思えた。

 

しかし、しかしだ。

 

こちらにも地上を制圧したザフト兵の意地がある。砂漠の虎と恐れられる自分たちの指揮官の前で、はいそうですかといって手玉に取られるのは、意地とプライドが許さなかった。

 

故に、彼らは戦闘機よりもストライクに狙いを定めた。

 

いくら回避に優れているとは言え、戦闘機である以上、攻撃面は頼りない。こちらに致命打を与えるには、貧弱な火器でダメージを積み重ねなければならない。その間に地上のストライクを落とせば、この場の勝利はこちらのものになる。

 

だから、バクゥの攻撃はストライクへ集中した。

 

「キラ!!ええい!!邪魔だ!!どけぇー!!」

 

もちろん、攻撃ヘリも黙ってはいない。バクゥの援護をするように稜線から現れたヘリは、バクゥの気を引こうとするラリーのスピアヘッドを執拗に狙う。

 

ラリーはヘリから放たれるミサイルやロケット砲を巧みに躱しては返り討ちにするが、肝心のストライクの援護に手が回らなくなっていた。

 

それに、無理な機動が祟ってスピアヘッドのコクピットは各所に異常を知らせるアラームが鳴りっぱなしだ。

 

《ストライクのパワーが危険域に入ります!》

 

そして、その消耗戦はストライクを操るキラにも影響を及ぼし始める。ミリアリアの通信からキラはハッとしてエネルギーゲージに目を向けた。もうほんの少しでストライカーパックのエネルギーが尽きる。キラは小さく舌打ちをした。

 

「アグニを使いすぎたか!くっそー!」

 

その様子を眺めながら、肝を冷やしたがとバルトフェルドはニヤリとほくそ笑む。

 

「確かにとんでもない奴のようだが、情報ではそろそろパワーダウンのはずだ。悪いが沈めさせてもらう。メイラムの仇だ!」

 

消耗し始めたラリーとキラへ、バクゥと残ったヘリが猛攻を仕掛け始める。残エネルギーを気にしたストライクは、後手に回るしかない。コクピットに響く衝撃をキラは耐え忍んだ。

 

『これでぇ!!』

 

そんなストライクへ飛びかかろうとしたバクゥの横っ腹に、閃光が走った。横殴りの攻撃を受けたバクゥは、煙を上げてストライクの目の前から横へと吹き飛んでいく。

 

『なんだ!?』

 

「ハァ…ハァ…!?」

 

驚愕するバクゥとストライクの頭上を一機の戦闘機が過ぎ去った。

 

スカイグラスパー。

 

それは星空の僅かな光の中、バブルシェルター型のキャノピーを光らせて悠然と空を駆けていく。

 

その飛び方は、ムウのような大空を舞う飛行や、ラリーのような異質な機動ではなく、鮮やかな羽ばたきのように思えた。

 

「全く、何という飛び方をしてるんだ。無茶をするなぁ」

 

突如として通信が入ったことに驚いたラリーは、残った戦闘ヘリを振り切って空を飛ぶスカイグラスパーの後ろに編隊飛行で追従する。

 

「スカイグラスパー?誰が乗ってるんだ?」

 

《こちらエンジェルハート。よく聞いてくれたライトニング1。彼は第八艦隊からの増援だよ》

 

その問いに答えたのは、トーリャだった。スカイグラスパーは尾を引いて旋回するとバクゥへの攻撃態勢に入った。

 

「俺のことは今はいい!とにかくストライクを下がらせるぞ!」

 

『くそっ!!戦闘機風情が…うわっ!!』

 

後ろを飛んでいるラリーから見ても、名も知らぬ誰かが扱うスカイグラスパーは、大気圏飛行に特化した性能を存分に活かしているように思えた。ピッチの上げ方やロール、そして加速減速まで無駄が見当たらない。

 

まるで、それは地球での飛び方を熟知したーーそんな技術だ。

 

「スピアヘッドでポストストールマニューバをやるとは、一体どんな技術だ?」

 

バクゥを翻弄するだけすると、満足したように飛翔するスカイグラスパーからそんな通信が飛んできた。あんな飛行をしたというのに、パイロットの声はまだまだ余裕そうだった。

 

「あんたは…」

 

「申し遅れた。アイザック・ボルドマン大尉だ。ローからアークエンジェルに合流したが挨拶はまだだったな?よろしく頼む」

 

そう言ってアイザックは、スカイグラスパーを乱れる大気の中でラリーよりも鋭く旋回させて、再びバクゥへの攻撃態勢にはいる。

 

「地球には地球での戦い方がある。エンジンで無理を通そうとするな!風を読むんだ」

 

まるで付いて来いと言わんばかりに言うアイザックに、ラリーはどこか刺激されたような感覚に陥った。

 

面白い。なら学ばせてもらおうじゃないか。

 

ふつふつと湧いた闘争本能の赴くままに、ラリーはバクゥへ突っ込んでいくアイザックのスカイグラスパーへ追従していくーー。

 

砂漠の夜は、まだ明けない。

 

 

 

 

 


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