ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第62話 レジスタンス

 

アイザック・ボルドマン。

 

彼は地球軍所属の軍人であると同時に、空を飛ぶパイロットであった。卓越した操縦センスは幼い頃から同じパイロットである父に憧れて始めた曲芸飛行を経て更に磨かれ、地球での飛行に必要なセンスを生まれ持って獲得していた。

 

しかし、彼の技術が平和な世界で使われることは無かった。

 

パイロットを目指して軍に志願した彼を待ち受けていたのは、ザフトによるエイプリルフールクライシスだった。

 

多くの戦友を失いながら、彼はカーペンタリア制圧戦から始まり、珊瑚海海戦、第一次カサブランカ沖海戦、そしてスエズ攻防戦という、地球専用のモビルスーツを投入してくるザフトに対して、戦闘機で戦い抜いた。

 

その功績が認められ、ハルバートン提督推薦のもと、第八艦隊へ配属されることになり、地上でのG兵器テストパイロットの教官を務めた経歴もある。

 

しかし、宇宙に上がってからはメビウスの慣熟訓練もままならなかった。

 

それどころか、彼は宇宙を飛ぶこともできなかった。

 

ローのパイロットとして配属されたものの、大尉という肩書きだけを与えられ、奪われたG兵器に撃ち落とされる戦友を見ることしかできなかった。

 

本来ならば、そのままローと共に運命を散らす人物であったが、この世界に紛れ込んだ流星によって命を繋ぐことができた。

 

ローの艦長の判断により、地球に降りるアークエンジェルの戦力として、彼が選ばれたのは必然か、または運命だったのか。それを知る者は誰もいない。

 

エンジェルハートであるトーリャから聞いたスカイグラスパーのパイロットの経歴に、ラリーは改めて舌を巻いた。

 

宇宙の飛び方のスペシャリストがラリーと言うなら、地球での飛び方のスペシャリストはアイザックだった。

 

旋回一つにしろ、ラリーとアイザックの間には確実に差が開いていく。焦れば焦るほど、その開きは顕著に出た。

 

アイザックは、エンジンの出力だけではなく、気流も、風も、地球の大気全てを駆使して飛んでいるのだ。

 

それにより、機体の燃費や耐久性にも如実に差が出る。

 

そして、不謹慎ではあるが。

 

ラリーは戦場の中で、アイザックの後ろを飛ぶことで彼から多くのことを学んでいた。

 

アイザックの飛行をトレースするだけで、どれだけ機体に負担をかけてマニューバーや旋回をしていたのかが改めて把握できた。

 

バクゥの足止めをしながらも、ラリーは今まで宇宙で築き上げた感覚全てを打ち砕かれ、そして新しい技術を身につけていく感覚を楽しんでいたのだ。

 

そんな最中に、キラやラリーの通信にある周波数が割り込み、音声が流れ込んでくる。

 

《そこのモビルスーツと戦闘機のパイロット!死にたくなければ、こちらの指示に従え!そのポイントにトラップがある!そこまでバクゥを誘き寄せるんだ!》

 

聞いたことがない声だ。ラリーもアイザックも、動揺を悟られないように機動を描きながらこの通信相手の真意を測りかねていた。

 

アークエンジェルブリッジも同じように通信を受けて、混乱状態にあった。IFF要求に応答はない。だがザフト特有の周波数ではない。となると、考えられる可能性は限られてくる。

 

「レジスタンス…?」

 

マリューのつぶやきに、ナタルはそんなバカなと顔をしかめるが、真実は思いのほか単純なものであった。

 

双眼鏡を覗いていたダコスタが、砂漠で砂煙をあげる一団を発見する。

 

「隊長、明けの砂漠の奴等です」

 

ダコスタの報告に、バルトフェルドはチッと悔しげに顔をしかめて頭を掻いた。全く良いところで邪魔をしてくれる…!

 

「地球軍のモビルスーツを助ける気か?」

 

 

////

 

 

エネルギーが底をつきかけ、後手にしか回れないストライクにとって、レジスタンスらしき組織からの提案は魅力的なものだった。

 

引きつける程度ならまだパワーには余力がある。キラは頭を振って伝った汗を外へ追いやると、ストライクを巧みに操作しながら敵を案内されたポイントへ誘導していく。

 

『えーい!逃すものか!』

 

ここが勝機と踏んでいる敵は、時折攻撃を仕掛けてくる戦闘機はこの際無視だと言わんばかりに、逃げ始めたストライクに目標を定めた。

 

「食い付いたな」

 

レジスタンスの少女の隣で、褐色肌で筋肉質な男性が無機質な声と表情でそう呟く。隣にいた少女はそんな仏頂面の男性にしてやったりといった笑顔で答えた。

 

「餌が上等だからな」

 

その視線の向こうでは、ストライクがついにレジスタンスが指定した場所へモビルスーツをおびき出すことに成功する。ポイントを通り過ぎたキラは、なけなしのアグニを虚勢で構え、突っ込んでくるバクゥを迎え撃つ体勢に入った。

 

(信じるしかない!)

 

迫り来るバクゥへの恐怖心をなんとかねじ伏せてキラは目の前を見つめていた。すると、バクゥ群がポイントに突っ込んだ瞬間、土煙が盛大に上がった。

 

落とし穴。

 

古典的なやり方であるが、ここは過去の石油や天然ガスの採掘施設があった場所だ。そこらに穴を掘ればモビルスーツを落とす穴くらい簡単にこしらえられる。

 

「よし!タスク隊!攻撃を開始せよ!」

 

ガッツポーズをした少女はそのまま無線機の相手にまくし立てる。すると相手からも「待ってました!」と言わんばかりに通信が入る。

 

《タスク隊!攻撃を仕掛けよ!今日の朝飯はバクゥの丸焼きだ!!》

 

その瞬間、空に轟音が鳴り響いた。

 

下に折れ曲がったウィング・チップを持つ長スパンの直線翼が特徴の戦闘機が、低高度空域を4機の編隊を組んで砂漠の水平線から姿を現す。

 

A-10、サンダーボルトII。

 

旧世紀の戦闘機が、このコズミックイラの世界で悠然と空を飛んでいたのだ。

 

《こちらタスクリーダー。これより気化爆弾での爆撃を開始する》

 

《タスク2、コピー》

 

《タスク3、コピー》

 

《タスク4、コピー》

 

4機は高速を維持したまま、穴にハマったバクゥの頭上で次々と燃料気化爆弾を投下していき、彼らが過ぎ去った頃には巨大な爆音と煙が上がり、穴に落ちたバクゥの全てを吹き飛ばしていた。

 

《こういう仕事ならいつでも歓迎なんですがねぇ、お姫様》

 

「うるさいぞ。金は払ってやってるんだからしっかりと働け」

 

オペレーターのぼやきにそう言い放って、少女は通信を切った。

 

 

////

 

 

呆然とするダコスタを余所に、バルトフェルドは即座に撤退の旨を伝えた。

 

「撤収する。この戦闘の目的は達成した。残存部隊をまとめろ!」

 

「了解!」

 

バクゥ隊の損失は手痛いものであったが、相手の手札のほとんどを知れたことは十分な成果であった。バルトフェルドはジープに乗り込んでから、黒煙に散っていった部下たちに哀悼の敬礼を捧げて、その場を後にするのだった。

 

突然のレジスタンス、そして旧世紀の飛行隊に驚かされてばかりのアークエンジェルのブリッジに一報が入った。

 

「フラガ少佐より入電です。敵母艦を発見するも、攻撃を断念。敵母艦はレセップス!」

 

「レセップス!?」

 

驚きのあまり再起動したマリューの言葉に、ミリアリアは一瞬詰まった様子だったが構わずに続きを読み上げていく。

 

「敵母艦は、レセップス!これより帰投する。以上です!」

 

「ラミアス艦長、レセップスとは?」

 

ナタルの問いに、マリューはやや疲れた様子で頭を抱えながら答えた。

 

「アンドリュー・バルトフェルドの母艦だわ。敵は――砂漠の虎と言うことね」

 

 

 

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