ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第63話 夜明けの砂漠

 

「レジスタンスぅ?」

 

「らしいですぜ、ハリー技師」

 

怪訝な顔をしてブリッジからの連絡を聞いたハリーに、マードックも同じように肩をすくめた。

 

「信用できるんですか?」

 

砂埃の掃除をしていたフレイが、モップに手をかけながら不安そうにハリーにそう言うが、対する彼女も困った様子で頭に手を置いた。

 

「んー、そればっかりは私じゃ判断できないからね」

 

地球とプラントと言っても、そこに属する勢力は多岐にわたる。一部の無法地帯では、この機を逃さず独立を掲げようとしたり、政治に不満を持った小国ではクーデターが起きたりと、地球の勢力だけでも正に群雄割拠だ。

 

おそらく、自分たちを助けてくれたのもそういった勢力の一つなのだろう。

 

「はぁい!仕事仕事!今にもスピアヘッドとスカイグラスパーが戻ってくるんだから準備する!!」

 

パンっと手を叩いて乾いた音を立てたハリーの一言で、ハンガーは慌ただしく動き出した。戦闘が終わったのだから、出撃した機体が戻ってくるのも時間の問題だ。

 

フレイもモップを使って大急ぎでハンガーから砂を追い出すと、作業つなぎの袖をまくって点検道具がぶら下がった腰道具を装着していく。

 

「艦長。味方、と判断されますか?」

 

ブリッジでは戦闘状況から解放された中で、ナタルがマリューの隣に立って指示を仰ごうとしていた。ナタルの言葉に、マリューも考えるように顎先へ指を添える。

 

「銃口は向けられてないわね。ともかく、話してみましょう。その気はあるようだから。上手く転べばいろいろと助かるのも確かだし」

 

例えば物資面。宇宙では事足りていたことが、地球では不自由になる事もある。そんな中で補給を受けられる可能性があるなら、乗らない手は無いとマリューは判断した。

 

「そうだ。ホルドマン大尉の機体は帰投だ。ストライクとレイレナード機は念のためにーー」

 

その二人の後ろでは、管制室でエンジェルハートこと、トーリャがメビウスライダー隊への指示を出していく声が静かに響いていた。

 

 

////

 

 

「先程は助けていただいた、とお礼を言うべきなんでしょうかね。地球軍第8艦隊、マリュー・ラミアスです」

 

アークエンジェルから砂漠に降りたマリューは、深くかぶった軍帽の下から相手の様子を注意深く窺っていた。

 

黒い肌に、恰幅のいいガタイ、そして目つきはギラギラしていて、とても人相がいいとは言えない相手であるが、今はこちらに対してどう出てくるか。マリューの興味はそこにあった。

 

「第7艦隊のメビウスライダー隊、ムウ・ラ・フラガだ」

 

「同じく、メビウスライダー隊のラリー・レイレナードです」

 

ナタルも同行していたが、相手の出方がわからないので、砂場に着陸したスピアヘッドからムウとラリーも護衛の名目でマリューたちと合流していた。

 

「俺達は明けの砂漠だ。俺はサイーブ・アシュマン。メビウスライダー隊、あんたらの噂は予々聞いとるよ」

 

まさか地上にも知ってるやつがいるなんてな、とムウはすこし困ったように笑ったが相手は愛想笑いさえ返さなかった。

 

「まぁ謝礼なんざ要らんが、分かってんだろ?別にあんた方を助けた訳じゃない。こっちもこっちの敵を討ったまででねぇ」

 

無愛想を通り越して敵意を感じるレベルだ。そんなレジスタンスに切り込んだのはムウだ。

 

「あんたらは砂漠の虎相手に、ずっとこんなことを?」

 

「それに情報もいろいろとお持ちのようね。私達のことも?」

 

続くように言うマリューの言葉に、レジスタンスのリーダー格であるサイーブの目つきが鋭くなっていく。

 

「ーー地球軍の新型特装艦アークエンジェル、だろ。クルーゼ隊に追われて、地球へ逃げてきた。そんで、あれが…」

 

「X-105。ストライクと呼ばれる、地球軍の新型機動兵器のプロトタイプだ」

 

そんなサイーブの隣に立つ、この場には似合わない少女が恨めしさを含んだ目でストライクを見上げていた。なんでこんなところに少女が?と疑問に思うムウの隣で、ラリーはその少女の姿を吟味していた。

 

カガリ・ユラ・アスハ。

 

ヘリオポリスでの戦闘後、無事にオーブに帰国を果たすも、あくまで中立の立場を貫く父親に反発した彼女は、今ある世界をその眼で見るため国を飛び出していた。

 

その後、護衛のオーブ陸軍第21特殊空挺部隊キサカと共に、彼の故郷である北アフリカに行き、そこでレジスタンス「明けの砂漠」に加わり、対ザフト軍抵抗活動を続けている。

 

銃を手にする事だけが守る事では無いということをまだ知らぬ彼女のあり方は、まるで抜き身の刀身のように思えた。

 

「さてと、お互い何者だか分かってめでたしってとこだがな、こっちとしちゃぁ、そんな厄の種に降ってこられてビックリしてんだ。こんなとこに降りちまったのは事故なんだろうが、あんた達がこれからどうするつもりなのか、そいつを聞きたいと思ってね」

 

「力になっていただけるのかしら?」

 

「ーー話そうってんなら、まずは銃を下ろしてくれ。あれのパイロットも」

 

サイーブが指差す先を見て、マリューは小さくため息をついた。

 

「ふぅ…分かりました。大尉、お願いできる?」

 

これも艦長のお願いだ。キラを出したら十中八九厄介なことになるだろうが仕方がない。ラリーは小走りでストライクの元へ向かって、音声通信でコクピットで待機するキラへ語りかけた。

 

「キラ!艦長のお許しが出たぞ!降りてこれるか?」

 

すると、ストライクのハッチが開きヘルメットを脱いだキラが姿を現した。

 

「…ああっ!」

 

「ああ?あれがパイロット?まだガキじゃねぇか。ほんとかよ…」

 

ワイヤーウィンチに掴まって降りてくるキラの顔を見て、カガリの顔が豹変するのを横目で見ながら、ラリーは気にしない様子でキラの肩を抱いた。

 

「キラ、さっきはナイス判断だったな。どんなことやったんだ?」

 

「大したことは…ただ、砂漠の流体の運動に機体設定を合わせてーー」

 

「お前…!」

 

取り付く島も与えないようにしたつもりだったが、猪突猛進なカガリの前では無意味だったのか、彼女はラリーを押しのけて、キラの顔を一発殴った。それもグーで。

 

「お前…お前が何故あんなものに乗っている!?」

 

「う゛ぅっ…!?」

 

思わず呆けるキラの胸ぐらを掴み上げるカガリをラリーも慌てた様子で羽交い締めにして押さえつけた。

 

「あー待て待て!!」

 

「あっ!?君…あの時…モルゲンレーテに居た…」

 

キサカが胸にかけたガンベルトに手をかけたのを目視したが、羽交い締めをとけば彼女は間違いなくキラに飛びかかるだろう。事実だから仕方ないとは言え、仲間がいいように殴られるのは正直気に食わなかった。

 

「ええい!離せこのバカっ!」

 

「どっちがだ!とにかく落ち着け!それに、仲間に暴力を振るう相手を簡単に離せるかっての!!」

 

俺の言い分にも屈せずに、暴れウナギのような動きをするカガリ。

 

「カガリ!」

 

「うわぁ!!」

 

いい加減にしろと言わんばかりに、今度はキサカがカガリを押さえつけた。すれ違いざまにラリーを凄まじい形相で睨みつけていたが、どこ吹く風と言った風にラリーも無視して、頬を押さえるキラをいたわる。

 

「何なんだ?一体…」

 

そんなムウのつぶやきをフォローするものは誰もおらず、隣ではマリューとナタルが頭を抱えているのだった。

 

 

////

 

 

「OK、引っ張って!」

 

しばらくしてから、アークエンジェルは夜明けの砂漠が拠点を置く岩山の合間に鎮座することになった。人型を模したストライクの協力の元、アークエンジェルには防塵処理や、カモフラージュ処理が施されていく。

 

「了解!けどこんなものでカモフラージュになるんですか?」

 

「地球のレーダー網はNジャマーでズタボロだからってさ。やった本人でもあるザフトもその影響から逃れられないんだって。赤外線レーダーにさえ引っかからなければ、割と何とかなるらしいよ」

 

そう答えてくれるトールに、キラはふーんと感心したような声を上げた。たしかに、目視による監視に頼るこの世界では、カモフラージュの効果は絶大なものだろう。

 

「ところで、キラ。さっきの女の子は?」

 

「え?」

 

トールの問いに、今度はキラが間抜けな声を出した。すると、トールの隣にいたミリアリアが不思議そうに小首を傾げる。

 

「殴られてたじゃない。もしかして元カノ?」

 

「ええ!?違うよ!?」

 

過剰と言えるキラの反応を見て、トールたちとは別にカモフラージュの作業をしていたクラックスの整備員が思わず噴き出した。

 

「やめとけ、キラはその辺は純情だからな」

 

「え?もしかしてバカにされてます?」

 

「はっはっはっ、どうかな?」

 

まあ、あっちよりはマシだろうよ。と整備員が親指で指すと、視線の先には荒野に正座させられているラリーと、それを仁王立ちで見下ろすハリーという、なんとも言えない光景が広がっていた。

 

「で?言い訳はそれで終わり?」

 

「いやぁ、まさか出来るとは思ってなくて」

 

あははーと惚けるラリーに、ハリーは苦虫を100匹まとめて噛み潰したようなしかめ面を作って地団駄を踏む。

 

「VTOL機でポストストールマニューバをやろうって人はまず居ないわよ!バカなの!?下手すると機体が空中分解するところだったのよ!?」

 

「正直、やり過ぎたと思ってる」

 

開き直って言ったラリーの頭を思いっきりひっぱたく。思ったよりダメージがなさそうで、それが余計ハリーの心を苛立たせた。

 

「少しは機体の事も考えなさい!宇宙とは違うんだから!!」

 

「うっそぉ、これ出撃前はピカピカだったのに、こんなに汚れるものなんですか…?」

 

反対側では、ラリーの乗ってたスピアヘッドから外した消耗品を眺めながらフレイが目を剥いていた。エンジン周りの部品だが、すでに煤にまみれていて、汚れもひどいものだった。

 

「はっはっはっ、それはコイツが異常だからさ」

 

「笑い事じゃないわよ!!」

 

それを面白そうに見物していたアイザックの言葉に、ハリーの叫びが荒野にこだまするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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