ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第5話 ヘリオポリス内戦

 

ヘリオポリス内部への侵入を果たした新造艦「アークエンジェル」。その全てを司るブリッジは混乱の渦の中にあった。

 

本来のスタッフや、操舵を行う艦員のほとんどがザフトの急襲により戦死し、今のアークエンジェルを操るのは、コンピュータに従う不慣れな人員しかいない。代行で艦の指揮をとるナタル・バジルールも、艦を動かすだけで四苦八苦だった。

 

「開口部を抜けました!コロニー内部に進出!」

 

操舵を担うノイマンが、やったと安堵するようにナタルへ告げるが、状況は切迫している。

 

「モルゲンレーテは大破!ストライクが起動中!…いや、戦闘中です!」

 

アークエンジェルの周辺は、ザフトのシグーにストライク、そしてメビウス編隊が戦闘を行なっている最中だ。

 

しかも、アークエンジェルも閉じ込められた造船ドッグから出たのは良いものの、閉鎖されたコロニー内での航行は前代未聞。不慣れな艦員が気を抜いてる間に、コロニーを支える柱が艦の鼻先へ迫ってきていた。

 

「回避!面舵!」

 

ナタルの叱咤に似た指示に、慌ててノイマンが舵を切っていく。

 

////

 

「やりやがった馬鹿野郎…!!コロニー内に戦艦を入れるなど…!!」

 

爆煙と共に現れたアークエンジェルを旋回して見渡しながら、俺は原作通りに隔壁をぶち抜いて現れたアークエンジェルの所業に毒づいた。

 

シグーとの戦闘、戦友の死で激昂していた俺だが、アークエンジェルの出現により、僅かにだが冷静さを取り戻しつつある。

 

アニメを見ている時は、ナタルの判断も、コロニーにアークエンジェルを入れたことも特には気にしなかったが、それが現実となると話は変わってくる。

 

アークエンジェルが進むコロニーには、大勢の人々が住んでいる。シグーやストライクが戦闘をする場所も、俺が飛んでいるここも、多くの人々が生活する場だ。

 

そんな場所は、戦艦や、モビルスーツが戦闘していい場所ではない。自分たちの眼下には、多くの人が避難したシェルターがあるのだ。にも関わらず、戦闘は続いている。

 

「くそ…!!コロニー内での戦闘は、避けられないのか…!!」

 

俺はフットペダルを踏み込み、下でストライクの性能をテストするかのように戦闘を行うシグーめがけて下降する。

 

《フェイズシフト。これはどうだ》

 

「伏せて!」

 

クルーゼが放った弾丸は、フェイズシフト装甲を前に弾き飛ばされる。だが、その跳弾した弾丸は側にいるキラの友人たちへと襲いかかった。

 

周辺の音を拾うマイクから、誰かの叫び声が聞こえた。

 

《チッ!強化APSV弾でも…》

 

「ここでそんな物を撃つなバカヤローー!!」

 

シグーの直上から一切減速せずに、その機体の目の前を通り過ぎる。

 

《なに…!!》

 

交差する直前に放ったレール砲が、シグーが構えていたライフルを撃ち穿ち、クルーゼは思わず後退する。俺は地表に当たるスレスレで、追加で装備されたサブブースターを全開に吹かして、機首を上へ上げ、再度クルーゼへ接敵する。

 

《来るか、流星のパイロット!!》

 

すかさずクルーゼも、ライフルの残骸を投げ捨て、対艦刃を装備する。まだ、戦う気なのか…!!

 

「ここには人が住んでるんだぞ…!!コロニーに住む人たちが!!そんな場所で、こんなものを撃っていい訳がないんだ!!」

 

速度を一切落とさずに、まっすぐとクルーゼのシグーへ突貫する。

 

「ライトニング1!!まさか特攻を!?」

 

置き去りにされた僚機であるリークが、絶望するように叫んだが、俺の答えは違う。

 

「射角よし、安全距離カット…分離セット」

 

メビウス・インターセプターに追加されたサブブースターは、エンジンが停止した場合や、燃料が切れた場合、身軽になれるように任意で切り離しができるように設計されている。

 

俺はメビウスの動力を切り、サブブースターの全てを点火。

 

燃料が三割残ったサブブースターを切り離して、シグーめがけてミサイルのごとく打ち出した。

 

《その程度の攻撃が、私に通じるとでも?》

 

所詮はサブブースター。加速量はミサイルに劣るし、大きさもある。クルーゼほどの技量を持つ相手なら、当てることは困難だ。現に、クルーゼのシグーは、軽やかに飛来したサブブースターを避けた。

 

「避けたな。それが狙いだ」

 

今の俺の機体は動力を落とし、真上を向いたまま失速している。しかし、それで都合が良かった。射角は計算通り、クルーゼを横切ったサブブースターに狙いを定めている。

 

レール砲が一撃。

 

それは、クルーゼの背後に到達したサブブースターを貫き、残っていた燃料全てに火をつけた。

 

「ぬ…おぉ!?」

 

シグーの真後ろで爆発したサブブースターは、自由に飛び回るシグーの翼にダメージを与える。モビルスーツにとって、背部スラスターは機動力の要だ。大破まではいかなかったが、その影響はすぐに出る。

 

《やはり…素晴らしいな…流星のパイロット…!》

 

「アンタに褒められても、なんにも嬉しくないけどな…!」

 

クルーゼも、自分の呟きに返答が来ているとは思うまい。

 

傍から見ても、クルーゼのシグーは戦闘を続行することは出来ない。そして、それはこちらもだ。ムウのメビウス・ゼロも推力が限界。俺に至ってはサブブースターを無くした以上、燃料も底を尽きかけている。リークのメビウスも、俺やムウに付いてくるだけで限界ギリギリだ。

 

ゲイルや、仲間の仇を取れないのは残念だが、コロニーに無駄な被害を出すわけには行かない。ここは相手が引くのを祈るしかーー。

 

そう考えた矢先、アークエンジェルの武器管制官から退避の信号が送られてきた。

 

「敵機は被弾している!アークエンジェルの情報を持ち帰られるのは厄介だ。艦尾ミサイル発射管、7番から10番まで発射準備!目標、敵モビルスーツ!レーザー誘導!いいな、間違えてもシャフトや地表に当てるなよ!」

 

ナタルがブリッジで指示する光景が、頭によぎった。

 

「バカ!!撃つな!!」

 

「てぇ!」

 

俺の叫びも届かずに、アークエンジェルから艦尾ミサイルが放たれる。

 

スラスターに被弾しようが、相手はクルーゼだ。逃げ足も一級品。サブスラスターも使って艦尾ミサイルを地表スレスレで避けて行く。

 

そして避けられ、目標を失ったミサイルは、コロニーの地表や建物へ着弾した。そして、その爆風は、地上にいたストライクや、キラの友人たちを襲った。

 

「じょ!冗談じゃない!!」

 

「待って!それは!」

 

ランチャーパックを背負っていたストライクが、条件反射のように、逃げるシグーへ砲身を向ける。その光景が俺の視界の端に映った。

 

「撃つなーーー!!!!」

 

超高インパルス砲「アグニ」の一閃は、回避したシグーの片腕を消し飛ばし、コロニーの地表に大穴を穿つ。

 

「ああ…」

 

その恐怖の声が、誰の声かはわからない。しかし、酸素が急激に抜けていく大穴を前にして、誰もが愕然としていた。

 

《…これほどまでの火力、モビルスーツに持たすとは》

 

その言葉を最後に、クルーゼは機体を反転させてヘリオポリスの外へと離脱していった。

 

 

 


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