ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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誤字指摘、修正ありがとうございます!

最近疲れが溜まりすぎて誤字脱字とコピペミスが多すぎて本当に申し訳ないです…更新は頑張りますので、皆さん生暖かい目で見守っていてくだせぇ…おこさないでやってくれ、死ぬほど疲れてるんだ…


第73話 迎え撃つ刃

避難民キャンプのはずれに降り立ったアークエンジェルから、非戦闘員や、タッシルの住人、そして怪我人やレジスタンスから脱退した者を乗せたいくつものジープがキャンプに向かって走っていく。

 

カガリはすっかり広くなったハンガーを眺めながら考えにふけっていた。彼女は、こちらに残ることを選択した。もともとは、キサカが紅海を抜けるまでの道案内を務めることになったので、必然的にカガリもアークエンジェルに残る事にはなっていたが、自分だけキャンプに向かうという選択肢もあった。

 

キャンプにさえ行けば、あとは定期便でオーブに戻ることもできたし、そこで見つけられるものも多くあるとキサカには言われていたが、レジスタンスを煽った自分がキャンプに行くことは間違っているとも思えたし、何よりその事で迷惑をかけたアークエンジェルや、サイーブたちにも責任を取らなければならないと思った。

 

砂漠の虎への最後の攻勢。アークエンジェルが無事に逃げられるかの分水嶺だ。その結末を見ることが、自分がオーブから飛び出した意味にも繋がる。

 

「それは?」

 

隣にいたキサカが、カガリが握りしめている鉱石を眺めて聞いてきた。

 

「アフメドが、いずれ加工して私にくれようとしていた物だ」

 

「マラカイトの原石か。大きいな」

 

彼はジープから投げ出された際に、体を強く打って療養の身となっている。車椅子姿のアフメドから鉱石を渡されたとき、カガリの胸の中には言い難い複雑な感情が渦巻いていた。

 

 

〝君も死んだ方がマシなクチかね?〟

 

〝いい目だねぇ。真っ直ぐで、実にいい目だ〟

 

〝戦争を止めるために俺たちは戦ってる〟

 

〝わかるか?戦争をしてるんだよ。戦争はヒーローごっこなんじゃあない!〟

 

 

この地で出会って、聞いた言葉がカガリの中に蘇る。

 

もっと戦争というものは単純なものだと思っていた。虐げるものと苦しむもの。強者と弱者の戦い。理不尽を強いるものと、理不尽に苦しむもの。そんな正と邪で成り立つものが戦争だと思っていた。

 

けど、現実は違った。

明確な悪は戦争には無い。

ルールも無い。

 

どちらかが滅ぶまで戦い続ける戦争が目の前に広がっていて、自分の力などそんな大きな渦の前では全くの無力だ。

 

アフメドからもらった鉱石を握りしめて、拳を額に当てながらカガリは思考の渦の中で喘ぐ。

 

「今の私には、一体何ができるのだ…くそっ」

 

 

////

 

 

 

「えー、動き出しちゃったって?」

 

「は!北北西へ向かい進行中です」

 

難民キャンプで止まっていたアークエンジェルが、ついに動き出した。その一報を受けて、バルトフェルドは顔をしかめる。

 

「タルパディア工場区跡地に向かってるかぁ。ま、ここを突破しようと思えば、私が向こうの指揮官でもそう動くだろうからなぁ」

 

遮蔽物が多い場所だ。上手くやればこちらを出し抜くこともできるし、戦闘での数的不利をモビルスーツの機動力で覆す可能性もある場所だろう。

 

ラリーの言った言葉も気になるところだがな。バルトフェルドは机にしまってある通信端末のことを思い出しながら頬をかいて立ち上がった。

 

「ん~、もうちょっと待って欲しかったが、仕方ない」

 

「出撃ですか?」

 

「あぁ。レセップス!発進する!ピートリーとヘンリーカーターに打電しろ!」

 

 

////

 

 

アークエンジェルの食堂で、キラはぼんやりと自分のトレーに乗った食事を眺めていた。

 

戦争には制限時間も得点もない。スポーツの試合のようなねぇ。ならどうやって勝ち負けを決める?どこで終わりにすればいい?

 

敵である者を、全て滅ぼして!…かね?

 

思い出すのはバルトフェルドの言葉だ。キラは大切な人を守るために軍人の道を選んだが、この果てない戦争の終わりが何なのかは深く考えたことがなかった。

 

ラリーやリークのように、戦争を終わらせるために戦っているという気持ちはあるが、具体的にどうすれば戦争は終わるのかーー、考えても答えは出ない

 

「なんだ遅いなぁ。早く食えよ。ほら、これも」

 

考えに耽っていると、正面にムウが座り、呆けてるキラのトレーに追加で白い紙に包まれたケバブを置いた。

 

「フラガ隊長、ありがとうございます…」

 

そう言ってキラも包みを開けて、ケバブを食べる。すると、ムウが目の前で白色のヨーグルトソースをケバブにかけて頬張っていた。

 

「ん~。やっぱ、現地調達のもんは旨いねぇ。とにかく俺達はこれから戦いに行くんだぜ?食っとかなきゃ力でないでしょ。ほら、ソースはヨーグルトのが旨いぞぉ」

 

その様子を、キラは戸惑った様子で見ていた。もう一口いこうとしたムウが、そんなキラの様子に気がついて手を止める。

 

「どうした?」

 

「いえ…虎もそう言ってたから。ヨーグルトのが旨いって」

 

「味の分かる男だな。気になるか?」

 

ムウの言葉に、キラはドキリと肩を揺らす。その動揺した様子を見て、ムウは確信したように手を下ろした。

 

「俺たちは、これからその虎と命のやり取りをしようってんだ。知ってたってやりにくいだけだろ」

 

向かってくる敵機に誰が乗っているのか。それを考えたり、分かったりしてしまうと、人を殺めたときの感情で心は大きくすり減ることをムウはよくわかっていた。

 

だから、キラにはなるべくその傷を負わせたくは無い。ただでさえ無理をさせているのだ。そんな人殺しの烙印を背負うのは自分たちだけで十分だ。

 

そんなムウに、キラは悩みを抱えた目線を向けて問いかける。

 

「隊長は、どうやったらこの戦争が終わると思いますか?」

 

「ん?どうって…」

 

「向かってくる敵をすべて滅ぼして…とか」

 

「なんだよその覇道的な考え。怖いんだけど」

 

そこでムウも、砂漠の虎と会ってからキラに何かがあったのだと確信する。顔を知ってるだけでは無い、キラが戦う意思そのものに揺らぎを与える何かを虎は言ったのだろう。ムウは最後の一口を飲み込んで、不安に揺れるキラの目を見た。

 

「戦争ってのは、お互いの利益や不利益に納得がいかないから起こる国家間の争い。だから、お互いに納得できる妥協点を見つけたり、そもそも戦える力を削いで、戦争を終わらせたりするもんだ」

 

戦争は子供の喧嘩とは訳が違う。国益、利潤、領土、民族、植民地や資源、さまざまな要因が複雑に絡み合って戦争は続いている。どちらかが滅ぶまで戦うのは、終局になればなるほど、それは戦争とは言わずに虐殺や侵略という一方的なものになっていくだろう。

 

「早く戦争を終わらせるなら、妥協点を見つけるべきだろうが…見つかると思う?」

 

この均衡を維持し、互いの国家の威信や在り方を保ったまま戦争を終わらせるには、それが1番の落とし所ではあるがーー

 

「難しいですね…」

 

少し考えただけのキラでも、それがいかに難しいかが分かった。伸びきった戦線、膠着する戦場、憎しみによる制御できない戦いが、あちこちで起こっている。

 

そんな中で、互いが納得できる妥協点となると難易度は計り知れないものだった。

 

「だろ?だから俺たちは戦うんだよねぇ。今を生き残るためにな」

 

だから飯食って力を付けとけ。そう言って、ムウはもう一つケバブを口にしたとき、アークエンジェルが凄まじい揺れに見舞われて、思わずムウはケバブを吹き飛ばし、キラは無駄にコーディネーターの反射神経を駆使して、散らばったケバブを回避するのだった。

 

 

////

 

 

「レジスタンスの地雷原の方向です!」

 

アークエンジェルで観測していたサイが叫ぶ。マリューやナタルが見るモニターの向こうには、派手に爆煙が上がっており、続くように砂漠から爆発が巻き起こっている。

 

「ピートリーより、スコーピオン隊、全機発進。ヘンリーカーターはどうか?」

 

「所定の位置に向かっております。敵に察知された兆候は、認められません」

 

レセップスから攻撃ヘリとバクゥが発進していき、艦砲射撃が地面に唸りを響かせる。

 

「始まったか!」

 

アークエンジェルから降りて迷彩テントに身を潜めているレジスタンスが、浮き足立っていた。目と鼻の先で爆発が起こり続けている。

 

「サイーブ!」

 

「狼狽えるな!攻撃を受けた訳じゃない!」

 

息を殺して、爆発が収まるのを待つ。目を凝らすと、敵の艦砲射撃が砂漠に放たれていた。おそらく、艦砲による衝撃で自分たちが仕掛けた地雷を一掃しようと言うのだろう。

 

爆発が収まると、数発の艦砲射撃が砂漠に叩きつけられ、やがて静かになった。

 

「地雷すべてを無力化したのか…?」

 

絶望したように言うレジスタンスの仲間を見ながら、サイーブは双眼鏡であたりを見つめる。そこには、レセップスと数機のバクゥ編隊が陽炎を纏ってこちらに向かってきている光景があった。

 

「虎もいよいよ本気で牙を剥いてきたようだな」

 

 

////

 

 

でたらめな地雷の破壊が行われてる最中、アークエンジェルでは警戒を知らせるアラームが鳴り響いている。

 

「あーもう、まだテスト飛行もできてないのに!」

 

組み立てたばかりのスピアヘッドから這い出てきたハリーが苛立ったようにザフトの来襲を嘆いていると、コクピットで設定をいじっていたラリーが振り返った。

 

「システム上は問題ないはずだろ?」

 

「確実性の話をしてるの!確実性の!」

 

そう言いながらハリーはスピアヘッドのタンクへ冷却材を投入していく。そんな二人の後ろでは、マードック指揮の元、着々と出撃準備が進められていた。

 

「1号機、2号機共にランチャー装備だ!バルカンで敵は落ちないんだから仕方ないだろ!」

 

すでにスカイグラスパーに乗るムウが叫んだ。フレイも大急ぎでスカイグラスパーの出撃前チェックを行っていく。そんな彼女の横を駆け抜けてパイロットスーツ姿のキラが現れた。

 

「隊長!ラリーさん!」

 

「キラはエールストライクで出てくれ!俺はこいつで出る!!」

 

「ええ!?無茶ですよ!?」

 

まだ試運転でエンジンに火を入れたばかりでしょ!?と叫ぶキラに、ラリーはシートベルトを着用しながら言葉を返した。

 

「この状況じゃ、飛ばさんとどうにもならんでしょ!」

 

《各員は搭乗機へ!繰り返します!各員は搭乗機へ!》

 

ああもう!と言わんばかりにキラが右往左往していると、もう一人のパイロットがメビウスライダー隊に加わった。

 

オレンジの一般用パイロットスーツを着て、アイザックがムウやラリー、キラに挨拶する。

 

「ほんとはゆっくり挨拶をしたかったが、本日からメビウスライダー隊付けになった。よろしく頼むぞ、少年」

 

「ボルドマン大尉!」

 

すると、ラリーがスピアヘッド改良機から降りてきて、キラの肩に手を置く。

 

「キラ、お前がライトニング2だ。できるな?」

 

ライトニング2。

 

かつて、リークが務めたラリーの相棒の称号。

 

ラリーの言葉が何を意味するか。それを知った上で、ラリーはキラにそのナンバーをキラに預けようと言うのだ。それを自分が名乗る…キラはさまざまな思いが胸に溢れた。

 

〝真っ直ぐ進むんだ。君が選んだ道を、君が見つけた使命を果たすために、ただ、信じたものを見て真っ直ぐに〟

 

その不安をかき消し、キラの背中を押すのは、あの時に聞いたリークの言葉だ。

 

「ーーはい!」

 

キラの決意に満ちた眼差しに満足したようにラリーも頷く。

 

「よーし、ブリーフィングを始めるぞ!」

 

 

 

 

 

 

今回の任務は、我々の進行方向を塞ぐザフト軍との戦闘だ。場所はタルパディア工場区跡地、多くの廃墟が混在する地形的に極めて複雑な場所だ。おそらく敵は地上戦力で我々に攻撃をしてくるだろう。

 

メビウスライダー隊の役割は、ザフト軍モビルスーツ「バクゥ」の進行阻止と迎撃だ。アークエンジェルがこの区域を抜けるまでが勝負どころになる。

 

今作戦では、ボルドマン大尉もメビウスライダー隊として参加することになる。コールサインはライトニング3。ヤマト少尉はライトニング2となる。

 

フラガ少佐、ボルドマン大尉のスカイグラスパー、そしてヤマト少尉のストライクが攻撃の要となる。敵機の撹乱と、攻撃ヘリの迎撃も忘れないでくれ。レジスタンスのタスク隊も、合流する予定だ。

 

ここがアフリカ最大の戦いになるだろう。各員、健闘を祈る。メビウスライダー隊、発進せよ!!

 

 

 

 

 

 

《こちら、エンジェルハート。レーダーに敵機とおぼしき影。Nジャマーによる撹乱酷く、数、確認不能!予測では1時半の方向だ》

 

《その後方に、大型の熱量2。敵空母、及び駆逐艦と思われます!》

 

トーリャとサイの言葉に、メビウスライダー隊全員が頷きながら発進準備を整える。甲高いエンジンの音がハンガーに響いた。

 

《対空、対艦、対モビルスーツ戦闘、迎撃開始!メビウスライダー隊、発進!メビウスライダー隊、発進!》

 

コンソールパネルを操作していると、音声通信がわずかなノイズを上げて、援護に駆けつけた者達の音声が届く。

 

《タスク隊、交戦エリアへ侵入。これより作戦行動に入る!》

 

フランカー4機で駆けつけたタスク隊は、主に攻撃ヘリや足の遅いレセップスなどへの攻撃が任務となる。メビウスライダー隊の任務はバクゥなどのモビルスーツの迎撃だ。

 

《スカイグラスパー1号、フラガ機、発進位置へ。進路クリアー、フラガ機、どうぞ!》

 

「ムウ・ラ・フラガ、スカイグラスパー、ライトニングリーダー、出るぞ!」

 

《続いて、スカイグラスパー2号機、ボルドマン機、発進位置へ!》

 

「新顔だが、よろしく頼む。アイザック・ボルドマン、スカイグラスパー、ライトニング3、発進する!」

 

2機のスカイグラスパーが発艦した後、通常のスピアヘッドとはかけ離れた外見を有する機体が発進位置へと進んでくる。

 

《ラリー機、発艦位置へ!》

 

増設されたエールストライカーの補助ウイング、そして、ラリーが墜落させたスピアヘッドのエンジンを丸ごと追加ブースターとして機体背面に接続するという大胆な改修が加えられており、本体のエンジンにもチューンを施した結果、通常時の推力は20パーセント増しという破格の推進力を手にしている。

 

スピアヘッドの面影を残しているのはコクピット付近くらいだった。

 

「気をつけてね、ラリー!まだ調整は完全じゃないんだから!」

 

ハリーの忠告に敬礼で返しながらラリーは操縦桿を強く握った。

 

「あとは空に出てから確かめるさ!ラリー・レイレナード、スーパースピアヘッド、ライトニング1、発進する!」

 

スピアヘッドと補助ブースターを唸らせて、ラリーの機体もアークエンジェルから飛び出していく。続いて入ってくるのはストライクだ。

 

《APU起動。カタパルト、接続。ストライカーパックはエールを装備します。エールストライカー、スタンバイ》

 

「本当にエールでいいのか?」

 

直前まで調整に付き合ってくれたマードックの言葉に、キラもキーボードを片付けて答えた。

 

「バクゥ相手には、火力より機動性ですから」

 

「分かった。気をつけろよ、ボウズ!死ぬんじゃねぇぞ!」

 

《システム、オールグリーン。続いてストライク、どうぞ!》

 

「キラ・ヤマト、ストライク、ライトニング2、行きます!」

 

 

 

 


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