ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第75話 砂漠の決戦2

 

 

ムウとアイクのスカイグラスパーから放たれるアグニが、艦砲射撃を行っていたレセップスの脇を掠める。掠めた程度だが、その威力は計り知れない脅威を艦に与えていた。

 

「機関区に被弾!速力50%にダウン!」

 

ビーム砲は掠めただけでも膨大な熱エネルギーに晒される。機関区ギリギリに通ったアグニの威力は、たったそれだけでレセップスの足を奪うほどだった。

 

「消火急げ!転進して残骸の影に入るんだ!」

 

言うことを聞かなくなりつつあるエンジンを庇いながら、ダコスタの指示のもとレセップスは艦砲射撃をやめてアグニの脅威から脱しようと試みる。

 

スカイグラスパーも、ザウートの対空防御と攻撃ヘリにより行く手を阻まれていた。

 

「なんて強力な砲だ!間もなく、ヘンリーカーターが配置に付く!持ち堪えろ!」

 

その瞬間、ブリッジのすぐそばを、今度はアークエンジェルのゴットフリートが横切った。思わず目を腕でかばい、ブリッジ要員が悲鳴のような声を上げた。

 

「ええい!」

 

攻めているのは、立ち塞がっているのはこちらだというのに…!ダコスタは先の戦闘から感じていたアークエンジェルの並ならぬ勝負強さに拳を握りしめる。

 

このままでは、抜けられるのも時間の問題だ。

 

 

////

 

 

砂漠の大空。

 

地球軍の戦闘機が悠々と青空を駆け抜けて、地上をうろつくバクゥを手玉に取っていた。ミサイルとバルカンで援護をしていたタスク隊だが、一機の戦闘機の目覚めにより、彼らは戦闘空域から待機空域へと一旦機体を上げる羽目となる。

 

「タスクリーダー、あれ。見えてるか?」

 

「ああ、しっかり見えている」

 

僚機からの通信に答えながら、タスク隊の全員が機体を旋回させながら眼下で繰り広げられる戦闘に目を奪われていた。

 

ストライクが人型を存分に活かした戦闘を行う中で、その一機は異様なまでの軌道を描く。尾を引く飛行機雲の軌跡が、その異常性をはっきりと表していた。

 

「クルビット、フックにポストストール…なんだありゃ、複合マニューバか?」

 

高速機動で離脱するスーパースピアヘッドを、数機のバクゥがミサイルやリニアカノンで狙い撃つ。だが、その全てをスーパースピアヘッドは、急減速から織りなす様々なストールマニューバで躱していた。

 

降下し始めると一気に速度を出して、バクゥの死角からバルカン砲やミサイルを当てているのが見える。

 

その軌道を表すなら、まるで空から落ちる木の葉、桜の花びらのような規則性のない動き。

 

それでありながら高速機動で旋回し、近づこうものならアフターバーナーを用いた音速機動により発する衝撃波で機体を揺らされるというーー、あれは本当に戦闘機なのだろうか?

 

「とにかく、人間業じゃないのは確かですね」

 

タスク3の言葉に全員が頷く。今まで多くの戦場と戦闘機パイロットを見てきたが、あの機体だけは異質だ。そもそも比べる次元が違うのだ。

 

ただ、ひとつだけ分かっていることはある。

 

彼を敵に回すのだけは止めておこうということだ。

 

 

////

 

 

 

超絶機動をするラリーのスピアヘッドを他所に、キラのストライクも鬼神めいた動きをしていた。

 

ビームライフルの消費を抑えるため、飛びかかってきたバクゥを引き抜いたビームサーベルで切りつけ、別方向から向かってきたバクゥにはシールドを突き立ててコクピットを潰すという戦法を取り、キルスコアで言えばラリーの補助もあってかなりのものとなっていた。

 

しかし、キラの心の中には重く苦しいものがのしかかっている。

 

〝ならどうやって勝ち負けを決める?どこで終わりにすればいい?敵である者を全て滅ぼして、かね?〟

 

バクゥのコクピットを両断するたびに聞こえてくるバルトフェルドの言葉に、キラは頭を振って思考を追いやる。

 

「くそぉ!!うわぁああ!!」

 

今は、攻めてくる敵を倒す。大切な人を傷つけようとする相手を倒す。ただそれだけを考えてキラはストライクの操縦桿を握りしめていた。

 

すると、攻勢に出ていたアークエンジェルの周辺に砂の柱が乱立する。

 

《6時の方向に艦影!敵艦です!》

 

《なんですって!?》

 

サイの言葉とマリューの驚きに満ちた声で、キラはアークエンジェルの背後、砂丘から現れた敵艦を目で捉える。

 

「もう一隻?伏せていたのか!アークエンジェルが!」

 

援護に向かおうにも、バクゥがまだ残っている。このまま下がれば、敵艦の気は逸らすことはできるが、アークエンジェルがバクゥの攻撃に晒されることになる。

 

どうする…!

 

「ライトニング2!俺とエレメントを組むぞ!」

 

ラリーからの通信が入ると、キラの周辺に群がっていたバクゥに、スーパースピアヘッドからのバルカンとミサイルの嵐が降り注ぐ。

 

「アイク!俺と来い!敵艦を引きつける!」

 

「了解!」

 

攻撃ヘリを退けたムウたちが、バーニアの火を放ちながらアークエンジェルの後方へと戦場を移動していく。

 

そうだ、戦っているのは自分一人ではない。

自分一人が、戦おうとしているんじゃない。

ここには頼もしい仲間がいる…!

 

キラは焦りを捨て、向かってくるバクゥにその銃口を構えた。今、自分にできること、やるべきことを確実に果たすだけだ。

 

すると、交戦の最中にバクゥとは違う特殊なカラーリングのモビルスーツが、戦場に現れた。

 

その動きは他のバクゥとは雲泥の差であり、容易にビームライフルで狙うこともできない。

 

「くそ!こいつは…!」

 

『君の相手は私だよ、流星に…奇妙なパイロット君!』

 

アンドリュー・バルトフェルド。

彼が操るラゴゥが、ラリーとキラの前に立ち塞がった。

 

 

 

 

 


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