感想もとても励みになってます!!体調崩しながらも更新です!!
突如として現れた伏兵に、アークエンジェルの対応は後手に回っていた。
「艦砲、直撃コース!」
放たれた砲撃の弾道予測をしたオペレーターが悲鳴のような声を上げる。そんな中でもマリューは冷静さを保っていた。
「反転!ランダム回避運動!躱して!」
即座にノイマンが舵を切り、波のように襲いかかってくる砲撃を掻い潜る。しかし、敵はそれで止まってはくれない。今度は目を離したレセップスからの砲撃が放たれてくる。
「撃ち落とせ!6番からヘルダート、斉射〝サルボー〟!!」
ナタルの言葉に従い、ミサイル発射管からヘルダートが斉射され、撃ち降りてくる艦砲と激突し、相殺されていく。その衝撃波にアークエンジェルの船体が揺れ、工場区の廃墟へその翼を接触させてしまった。
「くっそー!やってくれるじゃないの!虎さんよ!」
到着したムウとアイクのスカイグラスパーが、伏兵で現れた敵艦へ迫り、アークエンジェルへの追撃を許さない。しかし、外から見た状況は悪いもので、ジープに乗っていたキサカとカガリが、煙を上げて廃墟に着底したアークエンジェルを見て叫びを上げた。
「アークエンジェルが!」
本来はサイーブたちの後方支援をする役目を負っていたカガリたちだったが、こうも乱戦状態になっては前線に出るには危険すぎるため、レジスタンスは廃墟の遮蔽物に後退していたのだ。
「これでは、狙い撃ちだぞ!ストライクは?…カガリ!?」
キサカが周りを見渡してる間に、カガリはジープから飛び降りると真っ直ぐにアークエンジェルへ駆け出していた。キサカが止まるように叫んだが、彼女は聞くことなく走り続ける。
あとを追おうとキサカも動くが、逸れた艦砲射撃が辺りに落ちて、彼もまた身動きが取れなくなるのだった。
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一方で、キラたちは現れたラゴゥとの戦いに身を投じていた。
「バクゥとは違う…隊長機?あの人か!」
他のモビルスーツとは色も動きも違う。明らかに秀でた存在に、キラの脳裏にはバルトフェルドの顔がちらつく。
ラゴゥは不規則な機動を行い、それを捉えきれないキラの横っ腹を強靭な四肢で蹴りつけ、ストライクは地面に倒れ伏す。
トドメと言わんばかりにビーム砲の銃口をストライクに向けるが、それをラリーが乗るスーパースピアヘッドが妨害した。
ファストパックに備わる小型のミサイルを放って、ラゴゥの足を乱れさせながら、ラリーは倒れるキラに向かって叫んだ。
「キラ!敵の動きに惑わされるな!近づいた瞬間を予測するんだ!」
「はい!!」
答えたキラは素早くストライクの体勢を立て直し、エールストライカーの揚力を存分に活かしてラゴゥとの距離を取った。
『なるほど、いい腕ね』
そんな二人の戦い振りを狙撃スコープから眺めながらアイシャが少し嬉しそうに言う。そんな彼女の声に、バルトフェルドも自慢げに頷いた。
『だろ?今日は冷静に戦っているようだが、この間はもっと凄かった』
ストライクの鬼神めいた動き。
スピアヘッドの常識から逸脱した機動。
そのどれを見てもバルトフェルドを飽きさせることはない。そんな彼に、アイシャは少し悲しそうな声で問いかけた。
『なんで嬉しそうなの?』
その言葉に、バルトフェルドは何も言えなかった。
少年が戦いに迷いながらも、信念を持って銃を取っていること。流星が確かな思いを持って兵士として戦っていること。
バルトフェルドにとって、二人の在り方はとても好ましいものであり、願わくば同胞として彼らと出会いたかったと心から思っている。そんなセンチメンタルな気持ちをアイシャは的確に汲み取っていた。
『辛いわね、アンディ。ああいう子たち、好きでしょうに』
『ーー投降すると思うか?』
『いいえ』
故に、はっきりと彼女は答えた。彼らは投降することはない。するとすればアークエンジェルを落として、ストライクとあのスピアヘッドを戦闘不能にしたときくらいだ。
そして、仮にできたとしても彼らから憎しみを受けることになるので、こちらの仲間になるとは到底思えない。
ならばやることは一つだ。
バルトフェルドは操縦桿を握り、アイシャは引き金に指をかけた。
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ラゴゥと交差するキラは、相手の技量の高さに歯を噛み締める。正確な射撃だ。着地の瞬間を的確に狙ってくる。宇宙でもXナンバーと幾度と剣を交えたが、そのどれとも違う感覚がラゴゥにはあった。
まるで戦場をよく知るベテランとの戦い。ラリーやアイク、ムウとの模擬戦で感じる緊張感やプレッシャーが相手には備わっていた。
だからこそ、いやらしい戦い方に対しての対処はしっかりと叩き込まれている。
「このぉ!!」
着地間際にスラスターを吹かしてタイミングをずらし、虚を突かれれば焦らずにシールドで受け流し、正攻法でくるならば回り込んで相手の隙を突く。
ラリーとの仮想空間での模擬戦で嫌という程叩き込まれた経験から、キラは最適解を引っ張り出してラゴゥとの大立ち回りを演じる。
そして、ラリーもストライクを支援しながら高速で動き回るラゴゥと交差した。ビーム砲を横に滑るように避けてはミサイルを放ち、ストライクに好機を作る。
その連携にバルトフェルドも思わず舌を巻いた。
『戦闘機でよくやる…!!』
上空に舞い上がった途端に旋回して、こちらに銃口を向けるスーパースピアヘッド。その驚異的な機動とストライクを相手取りながら、彼もまた激戦にのめり込んでいくのだった。
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「ヘルダート、コリントス、てぇ!」
二隻の敵艦からの砲撃に晒されるアークエンジェルは、粘り強く抵抗を続けていた。バリアントとミサイルを吐き出しつつ、飛んでくる砲撃やミサイルを撃ち落としていく。
すると、索敵を行なっていたサイが宇宙で見た識別ナンバーを見て、目を見開いた。
「こ、これは…レセップスの甲板上にデュエルとバスターを確認!」
「なに?!」
最大望遠で敵艦を捕捉すると、そこにはビーム砲台となるデュエルとバスターの姿があった。
「スラスター全開!上昇!ゴットフリートの射線が取れない!」
「やってます!しかし、船体が何かに引っかかってて…」
ノイマンが顔をしかめながら舵を動かすが、船体が言うことを聞かない。おそらく、工場区の跡地に落ちた際に、瓦礫の何かが引っかかったのだろう。
すると、ノイマンの補助を行なっていたトールが急に立ち上がった。
「あ、ケーニヒ二等兵!どこにいく!?」
「船体が何かに引っかかってるんでしょ!?外さないと!!」
「どうやって…おい!ケーニヒ!!」
ノイマンの制止も聞かずに、トールは走り出した。向かう先はアークエンジェルのハンガー。あそこにはまだ使われていないスピアヘッドが一機、眠っているはずだ。
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整備員は、戦闘状態になると割と暇になる。いや、言い方は悪いが非戦闘員である彼らにやれる仕事がないのだ。しかも戦闘中は艦内が揺れるため、部品の整備や清掃もままならない。
そんなことを考えているマードックの脇を、入り口から走りこんできたカガリが通り過ぎる。
「う、う…ん?おい!なんだ!お嬢ちゃん!」
奥で眠っているスピアヘッドに被せられたシートを引き剥がすカガリに、思わずマードックは声を上げた。
「機体を遊ばせていられる状況か!こいつで出る!」
「なんだって!?馬鹿野郎!これは子供のおもちゃじゃねぇんだぞ!」
そう言ってマードックは機体を出そうとするカガリを羽交い締めにして取り押さえる。いくら状況が悪かろうとそれは許可できない。それにラリーからも『彼女が無謀に出ようとするなら何としても止めてくれ』と釘を刺されているので尚更だ。
「だいたい、貴方正規兵でもないのに!」
「黙ってやられろと言うのか!?そんなこと言ってる場合か!」
それにアークエンジェルが落ちれば、ザフトがこの地の支配を更に強固なものにする。そうなればレジスタンスもタダでは済まないし、地球軍が支援する難民キャンプの立ち位置はもっと危ういものになりかねない。
カガリにとって、ここでの戦いは絶対に負けられないものだった。
そうして騒ぐ傍で、パイロットスーツに着替えた一人の影が、スピアヘッドの複座に乗り込んだ。
「トール!?」
悲鳴をあげたのはフレイだった。アイクに習った通りにスピアヘッドの電源立ち上げ手順を行いながら、トールは押し問答するハリーたちに大声で言った。
「俺も出ます!」
「はぁ!?」
「アークエンジェルが何かに引っかかってるんだ!とにかくそれを外さないと!早く!」
瓦礫さえ撤去できれば、あとは後方へ大急ぎで下がればいい。逃げ回っていれば死にはしないと言ったのはアイクだ。カガリはトールよりも操縦経験がある。マッピングしながら飛ぶには理想的な相手だ。
正規兵であるトールが乗り、アークエンジェルに引っかかった瓦礫を破壊するミッション。
「って、ことだが…どうするよ、アリスタルフ准尉」
《仕方がない。こちらエンジェルハート、これより君たちの管制サポートを行う。ミッションは瓦礫の撤去だ。有事の時以外の敵との交戦は認めない。コールサインはオメガ1だ》
「こちらオメガ1、了解した!」
コクピットに滑り込んだカガリも、トールから渡された予備のヘルメットを被り、スピアヘッドを発進位置へと移動させる。
「あーもう!今時のガキどもは!ハッチ開けろ!落としたら承知しねぇからなぁ!」
飛び立っていくスピアヘッドの後ろ姿に、マードックはそう怒鳴り声を上げて見送るのだった。アークエンジェルから出てきたスピアヘッドはそのまま旋回して、船体に引っかかっている瓦礫に一直線に向かっていく。
「うひょー!やるねぇ、落ちるなよ!」
ムウもアイクも、出てきたスピアヘッドに敵が向かないように戦艦の注意をそらしつつ、攻撃を続行していくーー。
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『チィ!ビームの減衰率が高すぎる!大気圏内じゃこんなかよ!』
レセップスの甲板上で砲台となるバスターの中で、ディアッカは本来の威力が発揮できないことに苛立ちの声を上げた。それに外気温も高い。砂漠の環境にビーム兵器というのはあまりにも扱いづらい代物となっていた。
『くっそー!この状況でこんなことをしていられるか!』
遠くで見えるストライクとラゴゥ、流星の戦闘を見ていたイザークは痺れを切らしたように甲板上からスラスターを吹かして飛び上がる。
『イザーク!』
そんな独断行動を取るイザークを放っておけないと、ディアッカもバスターを艦上から飛び立たせた。
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「くそー!!」
ラゴゥの不規則な動きと消耗戦に苦しめられるキラはコクピットで悪態をつきながらも、必死にストライクを動かし続けていた。しかし、いくら最小限の動きをしていたとしてもエネルギーは減るものだ。
不規則な動きで消耗戦にもっていくバルトフェルドの狙いもそれだった。
『そろそろパワーが心許ないのではないかな?』
ヘルメットの中でニヤリと笑みを浮かべるバルトフェルドに、ラリーの戦闘機が迫る。アイシャが放つビームをひらりと躱して、少しでもストライクから離そうとミサイルとビームサーベルでの格闘戦に乗り出した。
そんなラゴゥの後方に、レセップスから飛び立ったデュエルが降り立つ。砂漠に足をつけた瞬間、流体の大地に踏ん張りが利かずにデュエルはすぐに膝をついた。
『うわ!くっそーなんなんだこれは!』
降り立ったイザークが不満の声を上げる。そのはるか前方、消耗し息を切らしたキラが、砂漠の大地にもがくデュエルの姿を見た。
「ハァ…ハァ…デュエ…ル…?」
その瞬間、キラの中で何かが弾けた。