ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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今回は短め。
みんなからのクルーゼさん大人気感想がほんとにすこ

うちのクルーゼさんはこうだから許して




第78話 祝福の狂気

ラウ・ル・クルーゼは、これまで経験したことがない苦痛と死をイメージした。

 

部下達と違って、クルーゼはナチュラルだ。イザーク達はG兵器での大気圏突破時に掛かるGや高温に耐えることはできるだろうが、クルーゼは違う。大気の熱に焼かれながら、彼は苦しみ、もがいた。

 

地中海付近に不時着したクルーゼ一行は、ディアッカのSOS信号によりジブラルタル基地へ運ばれることとなった。

 

高熱による熱中症と火傷、そして高Gによる圧迫症を併発し、クルーゼはジブラルタル基地での療養を余儀なくされた。

 

だが不思議と死ぬ気にはならなかった。テロメア遺伝子の減少短縮問題により、自身は余命が短く早期に老いがくるのはわかっていたというのに、ジブラルタルでの療養の日々、クルーゼは清々しい気持ちで過ごしていた。

 

イザークの銃声の後、遠く離れていく流星。彼は生きている。それだけは確信が持てた。普段感じるムウへの直感ではない。

 

クルーゼは、確かな感覚でラリーの生を感じていたのだ。

 

自らのようなものを生み出しながら科学の叡智や進化した種を謳う人間を憎み、それを滅びに導くべく、地球連合対プラントの戦争を利用し、総力戦をエスカレートさせて共倒れに追い込むことも考えたがーーそれは一旦止めだ。

 

科学では説明できない、純然たる本物が自分を殺そうと戦場にいる。その真実以外に何がいるだろうか?

 

コーディネーター?ナチュラル?そんな生まれ、生み出された者たちのいがみ合いが馬鹿馬鹿しくなるほど、彼は強く、本物だ。

 

故に、クルーゼはその身を癒してすぐに行動を起こした。彼を倒せるのは他でもない自分だけだという確信も同時にあったからだ。

 

ラリーを殺した先に何があるのかはわからない。いや、おそらく絶望と失望の世界だろう。もし、彼を殺したら自分は世界を絶滅の渦へと投げ入れて彼と同じく死を選ぶに決まっている。

 

だから、彼が自分を殺すことを切に願い、それに期待しながらも彼を殺すことに自分も喜びを見出してしまっている。

 

矛盾した思考だなと、クルーゼは自らがオーダーした機体を眺めながら自分を笑った。

 

ディン・ハイマニューバ。

 

大気圏内で大破したシグー・ハイマニューバのデータを基に全身の関節部構造を見直し、オプション用ハードポイントを増設した空中戦用量産型MS。

 

音速では飛べないこの機体は、最高速度は地球連合軍の主力ジェット戦闘機F-7D スピアヘッドに劣る。それに彼のことだ。単なるスピアヘッドで現れるとは考えづらい。

 

故に対策を考えた。それが、目の前にあるディン・ハイマニューバ・フルジャケットだ。

 

戦闘機であるスピアヘッドと同等の機動性を確保するために、機体各所に設けたハードポイントにエンジンなどを搭載したファストパック、フルジャケットユニットを外付けした形態だ。

 

フルジャケットユニットは、インフェストゥスと呼ばれる大気圏内用VTOL戦闘機のエンジンを補助エンジンとし、メインエンジンにはモビルスーツ支援空中機動飛翔体グゥルという大気圏内用のサブフライトシステムのエンジンを可変式ピボットに増設してある。

 

これにより推力が大きく向上し、モビルスーツの人型ならではの機動性に加え、亜音速での飛行が可能。背部に設けられたパージ可能なプロペラントタンクにより、航続距離も大幅に延長されている。

 

武装面でも、脚部に増設されたスラスター側面に6連装ミサイルランチャーが二つ、腰部にはJDP8-MSY0270試製指向性熱エネルギー砲、

両肩部に計2基装備される。10メートル近い全長を持ち、ユニットの多くには冷却システムが内蔵される。

 

そして近接格闘専用の重斬刀が二本、フルジャケットユニットを分離した時に使用できるようになっている。

 

ユニットを纒うディン・ハイマニューバはもはや上半身のわずかな部分と頭部しか出ておらず、全体で見ればディンとは思えない。むしろモビルアーマーと呼ばれた方がしっくりくる外見となっていた。

 

しかし、クルーゼにとってはそれが正解だった。モビルスーツで倒せなかった。運動性能を底上げしたモビルスーツでも一手先を行かれた。となれば、やるべきことは、流星と同じ土俵に上がるしかない。

 

破格の機動力を示すデータシートを渡してきた作業員に感謝を表しながら、クルーゼは輸送機に繋がれて戦場に運ばれるこの機体で、流星ーーラリー・レイレナードに挑む。

 

自分が憎しみ、焚きつけ、戦火を広げ、互いに憎しみ合わせ、互いの正義を信じさせ、互いを分かり合わせず、知らせず、聞かせずに終末戦争を笑いながら見ているつもりだった。

 

そんな戦争の中で現れた本物。

 

誰が望んだわけでもなく、誰が作り出したでもなく、生まれたわけでも、生み出されたわけでもない。

 

純然たる力を持った本物。

 

そんな彼と果たし合う。

 

その狂気に、身を委ねよう。

 

あとのことは、彼を殺した後に考えればいい。

 

そして、彼が自分を殺すか、戦い続ける限り、この狂気は続くのだ。

 

なんと素晴らしい。

 

なんと清々しい。

 

彼と戦っている時だけ、自分は過去を捨て、ラウ・ル・クルーゼという男として生きていられる。

 

その瞬間を、クルーゼは何より楽しみ、慈しんだ。

 

 

 

 

 

さあ、流星。

 

私は君の存在を歓喜して迎え、認めよう。

 

殺せるのは私だけ。

 

殺されるのは流星だけだ。

 

聞こえているか?

 

続きを始めよう。

 

この短き命をかけた戦いを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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