ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第80話 アフリカの裏側で

 

穏やかな木漏れ日が、窓から差し込んでいる。目を覚まして見た光景は、意識を失う直前に見ていた狭いコクピットではなく、清潔感が溢れた部屋の天井だった。

 

緩やかに覚醒していく意識を感じながら、違和感に従って手を口へ持っていくと呼吸器用のマスクが付けられていた。腕を確認するといくつもの検査用の線や、点滴の管が繋がれている。

 

意識は混乱することもなく、自然とここが病院か、それに準じた医療施設であるということを理解する。

 

腕を下ろして体を起き上がらせてみると、しばらく動いていなかったのか体の節々が痛みを発し、関節の骨がポキポキと音を奏で、今まで感じたことのない倦怠感が全身を襲った。

 

「目が覚めたか?」

 

起き上がって痛みに顔を歪めていると、目の前からそんな声が投げられた。顔を上げると、そこには簡素な椅子に座りながら本を読んでいた初老の男性が優しい笑みを浮かべていた。

 

自分は、その男性をよく知っている。痛みではっきりとした意識でなんとか体を起き上がらせてから、こちらも笑って久々の再会の言葉を述べる。

 

「お久しぶりです、ドレイク艦長」

 

病院着で起き上がったリーク・ベルモンドは、いつもの地球軍の軍服ではなく私服姿のドレイクと挨拶を交わした。

 

リークはしばらく窓から外の景色を眺める。すぐそこは病院の中庭で、宇宙では見なかった木々が風に揺られながら穏やかな陽気を浴びている。

 

その下には看護師が患者の車椅子を押していたり、患者同士がベンチに腰掛けて談笑している様子も窺えた。

 

「天国にしては、やたら現実的な風景ですね」

 

「残念ながらここは現実だぞ?命拾いしたな、お互いに」

 

リークの軽口にドレイクは笑いながら、ベッドの脇に水を置いた。リークは久々に飲む水を煽る。自分の記憶にあるのは、大気圏の熱に晒されたコクピットの蒸し暑さと、それに耐え続けて遂に意識を手放したことだけだ。

 

「ドレイク艦長ーー俺はどうやってここに?」

 

「メネラオスのシャトルの貨物ユニットに回収されて、ここに降下したんだ。運が良かったとしか言いようがないな」

 

リークが大気圏に突入したのは、デュエルが放った攻撃からシャトルを守るためだった。

 

その光景を見ていたシャトルのパイロットは、恩人を見殺しにできないと独断で機体表面に備わる貨物ユニットを解放し、乗客の荷物全てを大気圏にばら撒いた上で、リークのメビウスを格納したのだ。

 

しかし大気熱の受け皿となったシャトルだが、リークのメビウス全てをカバーできることが出来ずに、リークは高温に晒され続け、地上に降りてから今まで熱射病の後遺症で昏睡状態にあったのだ。

 

何度か意識が持ち直しかけたことはあったが、こうやって動くことができたのは今日が初めてだった。

 

「重篤化が危惧されていたが、後遺症も特に無いようだ。メビウスライダー隊で体が鍛えられたようだな」

 

ドレイクの言う通りに、リークは体を動かしてみるが倦怠感はあるものの、触感や感覚は正常で、動かないような違和感はなかった。

 

「ドレイク艦長たちは…?」

 

「ザフト艦がラリーに撃たれてから、モビルスーツが撤退してな。大破よりの中破で済んだくらいだ」

 

「さすが、不可能を可能にする男が乗っていた船ですね」

 

「私としては、流星の加護があったと言いたいところだがな」

 

そう談笑していて、リークはひとつ気になることがあった。

 

「ドレイク艦長、ここは一体どこなんですか?」

 

そう聞くと、ドレイクはわずかに顔を強張らせる。たしかシャトルの降下先は、フレイの父親であるジョージ・アルスターが指定したブルーコスモスの本拠地でーー。

 

そこで、病室の扉にノックが響いた。

 

応答をする前に扉が開かれると、使用人か看護師かに扉を開けさせた金髪のスーツ姿の男性がそこに立っていた。

 

「おや、お目覚めになられましたか」

 

にこやかにスーツ姿の男性はそういうと、病室に入ってくる。リークもドレイクも、その男性には見覚えがあった。

 

反コーディネイターを掲げる政治団体「ブルーコスモス」の盟主、ムルタ・アズラエル。

 

「ヤダなぁ、そんな怖い顔をしないでくださいよ」

 

アズラエルは強張った表情をするドレイクとリークを見て、困ったように笑った。

 

「こう見えても僕は貴方方、メビウスライダー隊のファンでしてねぇ。年甲斐もなくはしゃいじゃって、ベルモンド中尉のお見舞いには何度も来てるのですよ?」

 

リークが入院する病院は、デトロイトに本拠を置くアズラエル財団直営の病院でもあり、大気の熱に晒されて意識を失っていたリークを先立って引き取ったのもアズラエルの指示であったのだ。

 

「戦闘データや低軌道上の戦いのことは聞きましたよ。いやはや、モビルアーマーにあれだけのことができるとは思ってもみませんでした。レイレナード大尉も素晴らしい技術を持ってらっしゃる」

 

そう言ってアズラエルがリークに端末を見せると、そこにはグリマルディ戦線から続くメビウスライダー隊の戦いの全てが記されていた。彼がいうファンという言葉はあながち嘘ではないらしい。

 

「で、ミスターアズラエル。なぜ貴方は一介の兵士である俺に、ここまで手厚い対処をしてくれたのですか?」

 

しばらくアズラエルのまくし立てるような言葉に受け答えをしたあとに、リークはベッドの上で姿勢を正し、改めて問いかける。

 

そう言うリークに、アズラエルも緩んでいた笑みを仕舞って、真剣な眼差しでリークを見つめた。

 

「実は貴方にお願いしたいことがありましてね。まだ極秘なのですが、とあるプロジェクトに参加して欲しいのですよ。もちろん、ドレイク艦長やクラックスのクルーたちにも」

 

もう上層部とは話はついていますと言うアズラエルに、ドレイクは顔に出さないようにしながら、急すぎる地球降下に納得がいった。深傷を負ったクラックスは第八艦隊と共に月に入港し、ドレイクたちも今後の指令を待つ身となるはずだったが、急遽地球降下、それもブルーコスモスの本拠地であるデトロイトに向かえという指示が上層部から出されたのだ。

 

今この場には居ないが、クラックスのメンバー全てがデトロイトに到着している。

 

なるほど、アズラエルの極秘プロジェクトに参加させるためということかーーしかし、そこで疑問が生まれる。宇宙でも爪弾き部隊として揶揄されていたメビウスライダー隊が何故?

 

その答えを、アズラエルは緩やかな声で教えてくれた。

 

「使えるものは使う。方針に従わないからと力を持つ者を他所にやるなんて、愚の骨頂です。貴方方は強力な兵士なんですよ。兵士は使わなきゃ」

 

言い方は気にくわないが、確かにとドレイクは思う。そうやって自分たちも力を持っていたから生き残れたのだ。軍の下らない方針や指針に従って命を落とす若者を何人も見ているのだからなおさらだ。

 

「ですから、協力をして頂きたいのですよ。勿論断って頂いても構いません。しかし、受けてくださるなら貴方の妹さんたちにも我々は補助を出すことをお約束します。契約書も用意してますよ」

 

パチンと指を鳴らすと、病室外に控えていた使用人が書類一式を持って部屋に入ってくる。そこには確かに、リークの妹たちの情報と多額の補助金の話が書いてあった。

 

そして、リークはこれに嫌な汗を流す。

 

ブルーコスモスは嫌いだ。しかし、こうやって自分の大切な者たちの情報を握られている以上、ここで断った場合に何をされるかわかったものじゃない。

 

アズラエルは非常に上手い男だとリークは感じる。断ってもいいと前置きで言っておきながら、断った時のリスクをそれとなく理解させるのだ。こうされた以上、リークの答えは一つだった。

 

それに軍属である以上、上層部の命令は絶対でもある。

 

「貴方方とはいい仕事が出来そうですよ。お互いに楽しくやりましょうーーー僕の理想の為にも、ね」

 

そう言って微笑むアズラエルを、ドレイクは鋭い視線でただ見つめているのだった。

 

 

 

 

 

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