ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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紅海の戦いでは、エースコンバット要素を入れました!
皆さん大好き潜水艦です



第85話 紅海の激戦1

 

「ええ!?トールをですか!?」

 

出撃準備が進む中で、通信に出たミリアリアがアイクの言葉に絹を裂いたような悲鳴を上げる。

 

パイロットスーツに着替えたアイクの出した指示は、トールを複座の管制パイロットとして乗せるというものだった。驚くミリアリアに、アイクは畳み掛けるように言葉をつなぐ。

 

「敵が一機とは思えん!索敵とマッピング要員でこちらに寄越してくれ!」

 

ミリアリアがマリューへ顔を上げると、彼女も頷いて操舵手であるノイマンに確認の視線を向けた。

 

「行けるか?ケーニヒ」

 

「はい!」

 

よし、死ぬんじゃねぇぞ!と言うノイマンに、トールは敬礼をして更衣室へと駆け出していった。

 

「ライブラリー照合…ザフト軍、大気圏内用モビルスーツ、ディンと思われます!」

 

サイの言葉により、いよいよ戦闘が目前に迫ってきていることがわかる。第二から第一戦闘配備に繰り上がると、ミリアリアがすぐに艦内放送を流した。

 

「総員、第一戦闘配備!フラガ少佐、ボルドマン大尉、ケーニヒ二等は搭乗機へ!」

 

「ディン接近!距離300、グリーン16!」

 

「対空防御!敵を近づけさせるな!ミサイル発射管、7番から10番、ウォンバット装填!順次発射!イーゲルシュテルン、バリアント、ゴットフリート起動!」

 

ナタルの指揮のもと、アークエンジェルの武装は覚醒していき、迫り来る敵を迎え撃つ。

 

 

////

 

 

《スカイグラスパー1号、発進位置へ。スカイグラスパー、フラガ機。進路クリアー。発進どうぞ!》

 

発進位置へ着いたムウのスカイグラスパーは、機動戦を想定したエールストライカー装備だ。コクピットの中でバイザーを下げながら、ムウは自分自身に気合いを入れる。

 

「よっしゃぁ!スカイグラスパー1号機、ムウ・ラ・フラガ、ライトニングリーダー、出るぞ!」

 

タイヤの軋む音を響かせながらスカイグラスパーはアークエンジェルから飛び出していく。

 

《スカイグラスパー2号、発進位置へ。スカイグラスパー、ボルドマン機。進路クリアー。発進どうぞ!》

 

アイクの駆るスカイグラスパーは、機動戦をするムウを援護するために、ランチャーストライカー装備となっている。

 

「ケーニヒ、訓練通りにやるんだ。できるな?」

 

「はい!」

 

複座で計器の設定をするトールにそう言って、アイクは良しと頷いて前を見据えた。

 

《スカイグラスパー2号機、アイザック・ボルドマン、トール・ケーニヒ、ライトニング3、発進する!!》

 

二機のスカイグラスパーが出て行った後、ハンガーのクルー達は帰投する際の準備を始めていく。そんな中で、カガリはハンガーの奥に固定されたスピアヘッドを見つめながら、何か焦れるような、そんな表情をしている。

 

それに気がついたハリーが、カガリの肩をそっと掴んだ。

 

「落ち着きなさい。今は状況を見るしかないでしょう?」

 

そう言うハリーの言葉に、カガリは「わかっている」と答えながらも、その目には何かが燃えるように映っているのだった。

 

 

////

 

 

「バリアント、てぇ!」

 

轟音、爆音。打ち出された黄色の弾丸をひらりと躱すディンの動きは、明らかな力量を示していた。

 

「えぇぃ!カーペンタリアの奴か!」

 

ストライクを乗せたラリーのスピアヘッド・フロートは、普段の異次元的な空戦機動ではなく、ディンの攻撃を旋回で躱しつつ、相手との一定距離を保ちながら攻撃の機会を窺っていた。

 

ストライクに装備されたバズーカだが、威力が強力な分、弾頭の重さから速度が遅いため、空戦を得意とするディンには当てることは難しい。

 

頭部のイーゲルシュテルンで応戦するものの、戦況は思わしくなかった。そんな中、ムウ達のスカイグラスパーが合流しようとする時だった。

 

《エンジェルハートより、メビウスライダー隊へ!これは…!アクティブソナーに感あり。4、いや2!》

 

「なにぃ!?」

 

ソナーからの音を聞く音響機器を耳元に当てるクルーとその情報を元にデータを更新するトーリャが、顔を青くさせた。

 

《このスピード…推進音…モビルスーツです!》

 

ムウが機体を反転させて海面を見ると、エンジェルハートから報告があった場所に、明らかに海の生物とは違う影がアークエンジェルに向かって進んで行く様子が見えた。

 

「水中用モビルスーツ…!」

 

《ソナーに突発音!今度は魚雷です!》

 

その言葉に、マリューは即座に反応する。

 

《面舵30!回避!》

 

《間に合いません!》

 

《くっ!推力最大!離水!》

 

その指示にノイマンは戸惑いながらもすぐに答えた。重い舵を引き上げて、海を走るように進んでいたアークエンジェルを浮き上がらせていく。

 

そして、その揺れはダイレクトにハンガーにも伝わった。

 

「うわっうっ…何やってやがんだぁ!」

 

通告なしに行われた離水により、ハンガーの傾斜がみるみる急になり、マードックたちは坂道になっていく床の上で絶叫した。

 

その様子をつぶさに観察していたディンのパイロット、モラシムは思惑通りに動くアークエンジェルに向けて、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

『浮上したか!SWBM装填!』

 

浮上したアークエンジェルで、索敵を行なっていたカズイが、即座にレーダーが捉えた反応を捕捉する。

 

《艦長!南西の方角より何かが打ち出されました!これはーーミサイルです!》

 

それは、ラリーのスピアヘッドからも見えた。

 

遥か先の海から打ち上げられた何かが、白い帯を引いて青い空へと伸びていく。それはアークエンジェルを狙うわけでもなく、ただ大空に向かって飛翔していくようにも思える。

 

そして、それを見たバルトフェルドが途端に顔をしかめて、通信を開いた。

 

「アークエンジェル!早く着水しろ!」

 

《バルトフェルドさん!?一体なにをーー》

 

「言い合いをしてる時間はない!戦闘機は極低空飛行を!高度は30メートルまで下げるんだ!」

 

「ライトニング1より各機へ!急降下!高度は30メートル以下だ!」

 

バルトフェルドがなにを知ってそう言ったのはわからないが、戦場では情報というのは絶対だ。彼がそういう以上、空に伸びるあの軌跡がどのような脅威なのか想像することは容易い。

 

ラリーの怒声に近い声により、ムウもアイクも自機を低空飛行へ移行させる。

 

《推力最大!着水!総員、衝撃に備えよ!》

 

アークエンジェルが着水した瞬間、空に火の玉が走った。白い大きな光点が大空で咲いた瞬間に、凄まじい衝撃波がアークエンジェルを襲う。

 

《うわああああ!》

 

「おいおいおい、マジかよ!!」

 

衝撃波で機体が煽られそうになるのを必死に押さえ込みながら、ムウは起こった出来事に驚愕の声を上げる。

 

「チィ!モラシム!あれを持ち出したのか!」

 

「バルトフェルドさん!今の衝撃は!?」

 

激しい揺れに耐えた機体の中で、キラがそう問いかけるとバルトフェルドは顔をしかめたまま、打ち上げられた兵器について情報を口にした。

 

「ザフトが地球軍の航空戦力に対して開発した、SWBMと呼ばれる特殊な燃料気化爆弾を弾頭とする弾道ミサイルだよ。あれのおかげでインド洋の制空権がひっくり返ったんだ」

 

「なんてこった…!カーペンタリアの悪夢のあれか!」

 

アイクが言う「カーペンタリアの悪夢」の話は、ムウもラリーも耳にしたことがあった。

 

ザフトがまだジンで地上戦略を行なっていた時、唯一の対抗手段であった航空機大隊での反攻作戦を行った際、出撃したほぼ全ての戦闘機が、ザフトの新型兵器により撃ち落とされ、大敗したと言う出来事で、使用されたのが、バルトフェルドが言うSWBMだ。

 

その言葉に続くように、ライブラリーからデータを引っ張ってきたエンジェルハートが、代わりに敵の兵器の詳細を伝える。

 

《SWBMは、弾頭の燃料気化爆弾が水平方向に広く拡散する様に指向性を持たせている!水平方向数十キロに及ぶ範囲で強力な衝撃波を発生させ、一定高度にいる戦闘機を根こそぎ撃墜する兵器だ!》

 

おそらく、敵潜水空母に備わってるのだろう、とバルトフェルドは続けた。

 

《数十秒から数分の飛翔の後、指定座標及び高度で炸裂する。大気を瞬間的に熱膨張させ非常に広範囲にわたり航空機をその圧力で粉砕する仕組みになっている》

 

原理としては簡単なものだが、その威力は凄まじく、ある一定の高度に存在する航空戦力の全てを根こそぎ撃破するに相応しい破壊力を持っている。

 

「そんなもん、どうやって避けろって言うんですか!?」

 

「空域制圧を目的として開発された為、大気の密度や温度の関係上地表付近では威力が大きく減退する。そのため極低空を飛行する航空機には効果が低いという欠点がある!」

 

「飛翔体が確認されたら全速力で極低空飛行をするしかないでしょ!」

 

悲鳴のような声を出すトールに、バルトフェルドもラリーが大声で返すと、今度はアークエンジェルが悲鳴を上げた。

 

《ソナーに突発音!魚雷!来ます!》

 

《回避!推力最大!離水!》

 

さっき着水したばかりだと言うのに、アークエンジェルは再び魚雷を避けるために海面を離れる。その度に、ハンガーは阿鼻叫喚の地獄絵図に変貌する。だが、紅海の鯱は容赦がなかった。

 

《距離500 グリーン14 マーク18アルファ!飛翔体確認!》

 

《くっ…!魚雷回避後に緊急着水!総員、対ショック姿勢!》

 

《しかし、これを繰り返せばアークエンジェルにも甚大な被害が…!》

 

海面を離れては着水、離れては着水を続ければ大質量を持つアークエンジェルはひとたまりもない。しかし、それをしなければ魚雷の餌食になるか、SWBMの衝撃波に晒されるかのどちらかだ。

 

「うわぁあああどうなってんだよぉぉお!!」

 

まるで絶叫マシーンと化したハンガーの中で、マードックたちはそんな叫び声をあげながら転がり回っている。ハリーたちは早々に準備していたコクピットシートの予備を改造した固定シートに体を預けて考えることをやめていた。

 

しかし、このままではジリ貧だ。消耗してしまえば、いつかはどちらかの攻撃によりアークエンジェルは被害を受けるだろう。

 

「駄目だ…このままじゃ!ラリーさん!」

 

「わかってる!こちらライトニング1、エンジェルハート!敵潜水母艦の位置は!?」

 

《雑音が多い!正確な位置はわからんが、距離おおよそ800 グリーン16へ移動…いや、潜水してる!》

 

「バルトフェルド!SWBMの発射準備時間は!」

 

「排水からサイロ展開までのおよそ三分だ」

 

その情報で、ラリーとキラの方針は固まった。

 

「ライトニング1から各機へ!こちらは敵潜水母艦の撃破に向かう!行けるな!ライトニング2!」

 

「了解!なんとかしなきゃ、アークエンジェルが!」

 

 

 

 

 


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