ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第86話 紅海の激戦2

 

エールストライカー、ランチャーストライカーをそれぞれ装備したムウとアイクのスカイグラスパーだが、予想していた相手は航空戦力であるディンであり、水中のグーン相手に、ムウ達が装備する兵装ではあまりにも苦しかった。

 

「ええぃ!あいつら!水中から好き勝手に!」

 

海面に頭を出して、浮遊するアークエンジェルにミサイルを放ち、SWBMを避けるために着水すればすぐ様魚雷を放ってくる。ムウ達にとってグーンに攻撃できるチャンスは、海面に浮上し、アークエンジェルへミサイル攻撃をしているタイミングしかない。

 

『ふん!たかが戦闘機で!』

 

そして、その事情は相手にも丸わかりであり、海面に出たグーンは、まるでモグラ叩きのように不規則的な位置に出現しては、撃つだけ撃って海中に戻るという挙動を繰り返している。

 

『水中のグーンに勝てるものか!』

 

アークエンジェルの中で、マリューは唇を噛みしめる。水上ではグーンの魚雷、そして浮けばSWBMと海面のグーンからのミサイル攻撃。見事にモラシムの両面作戦にはまっている構図となる。

 

それに、紅海を行く航路の中で、魚雷による船体の損傷は致命的だ。下手をするとアラスカにたどり着く前に沈没する恐れもある。

 

SWBMの発射間隔は潜水からの浮上、排水、サイロ展開でおおよそ十分だ。これがアークエンジェルがどちらかの脅威を排除するタイムリミットともなる。

 

「推力最大!離水!敵モビルスーツを海面に誘い出す!敵艦からのミサイルには充分に注意して!」

 

SWBMの衝撃を受けた直後からアークエンジェルは離水する。手荒な真似だが今はこうするしかない。

 

「バリアント、ウォンバット、てぇ!回避しつつロール20!グーンを取り付かせるな!ヘルダート、斉射〝サルボー〟!」

 

海面に浮上する位置がわからないならば、範囲攻撃で牽制するまでだと、ナタル渾身の弾幕展開に、グーンは浮上することができずに海中を進む。

 

「くっそー!どうにか足を止めないと…!」

 

眼下の海を眺めながら、アイク機の複座に座るトールは、管制官であるミリアリアから貰った海図データと海の状況をつぶさに観察している。

 

「ケーニヒ!敵水中モビルスーツの位置は把握してるか!?」

 

「三時の方向!海面に影!数は2です!」

 

アイクは機体を鋭く旋回させて、浮上したグーンめがけて後部に備わるランチャーストライカーの武装、アグニの火を吹かせた。

 

しかし、着弾する前にはグーンは海中に潜っており、そこにはアグニから発せられる強力な熱により、水蒸気と海水のタワーが築かれた。

 

「くそ!海面に出てもこれじゃあ間に合わない!」

 

地球に降りてからというもの、今まで相手にしてきた汎用機とは違う、特化型のモビルスーツに翻弄されるアークエンジェルの戦闘部隊。

 

そんな中で、モラシムは高みの見物をしていた。

 

クルーゼが通信まで寄越した「流星」が乗る船を、こうも手玉に取れるとは。それが向こうが地球の戦いに不慣れだからであろうが、モラシムにとってはどうでもいいこと。

 

眼下で喘ぐ地球軍の新鋭軍艦に泡を吹かせてるという優越感こそが、モラシムがもっとも欲する愉悦だ。

 

ふと、敵の戦闘部隊に目をやると、最初に出てきていたモビルスーツを乗せたゲテモノ戦闘機の姿がないことに、モラシムは気がつく。あたりを素早く索敵すると、その機体は海面すれすれを水を切るように飛行しながら、ある方向に向かっていた。

 

それは、モラシムが母艦とする潜水軍艦の方角だ。

 

『なにぃ?!モビルスーツを乗せた奴が抜けたか?逃すものかよ!!』

 

モラシムはディンの翼を展開して、先を行くモビルスーツを乗せた戦闘機に向かって飛び立つ。

 

『こいつは私がやる!お前達は船を!』

 

グーン隊にそう伝え、了解の意を聞いてからモラシムは髭面の乾いた口元を舌で舐め、目を細めた。

 

『流星とやら…その機体、バラバラにしてくれるわ!』

 

 

 

////

 

 

 

「だから!なんで機体を遊ばせておくんだよ!私は乗れるんだぞ!」

 

大揺れするアークエンジェルのハンガーの中で、カガリはマードックに摑みかかる勢いで食ってかかっていた。

 

「でもあんたは」

 

レジスタンスだろ!?と言いかけたところで、アークエンジェルが離水し始める。さっきまで転がっていたが、感覚を掴んでくるとマードックたちは何かに掴まりながら、足を踏ん張る程度で耐えられるようにはなっていた。

 

「アークエンジェルが沈んだらみんな終わりだろ?!なのに何もさせないでやられたら、私が化けて出てやるぞ!!」

 

ハンガーの柱に掴まりながら、カガリが大声で叫んだ。彼女は向こう見ずなところはあるが、本質的には誰かを守りたいという気持ちで動いている。それを見ると、まるで感情が尖ったキラのように見えて、ハリーは思わず笑ってしまった。

 

「あっはっはっは。カガリちゃんの勝ちだねぇ、マードックさん、フレイちゃん。スピアヘッド、用意しますよ!」

 

「この揺れの中の出撃ですか!?正気じゃありやせんぜ!?」

 

「けど、出さないとこちらがやられますよ!」

 

幸い、アークエンジェルは離水してしばらくは安定する。カガリのスピアヘッドを出すには今しかない。一部始終をハリーが、AWACSであるエンジェルハートに伝えると、その返事をしたのはトーリャではなくムウだった。

 

《そりゃ、火力は多い方がいい。だが、遊びじゃないんだぜ?お嬢ちゃん。言い出した以上は分かってるんだろうな?》

 

「カガリだ!分かってるさ、そんなこと!」

 

そう勇ましくカガリが答えてから、準備は早かった。ハリー、マードック、フレイの3人がかりでスピアヘッドのエンジンに火を入れ、兵装を詰め込み、そして発艦準備を整えていく。

 

《スピアヘッド3号機、発進位置へ。スピアヘッド、ユラ機。進路クリアー。発進どうぞ!》

 

ミリアリアの誘導に従って、カガリがスピアヘッドを発艦位置へと移動させていると、今度は困ったように頭を掻くトーリャが通信を開いた。

 

《エンジェルハートよりユラ機へ。全く君というやつは…、とにかく戦況は混乱している。君のコールサインはオメガ1だ。出撃後はライトニングリーダーの指揮下に入れ。補佐はこちらがする!》

 

「了解した!カガリ・ユラ──んんっ、スピアヘッド、オメガ1、発進する!」

 

ギュア!とタイヤから甲高い音を立てながら、スピアヘッドは戦場空域へと飛び立っていく。

 

「落としたら承知しねぇからなぁ!!うわぁ!」

 

それを見送った瞬間に、マードックたちは急激な浮遊感に襲われる。アークエンジェルが降下し始めたのだ。

 

《SWBM確認!》

 

《緊急降下!着水間際で止めて!》

 

マリューの悲鳴のような声が艦内放送で響き渡る。いくらアークエンジェルとは言え、何度も着水と離水を繰り返していれば、翼やボディに計り知れない影響が及ぶ。3発目のSWBMでおおよその危険な空域は判断できた。

 

計算上では水面ギリギリまで降下すれば、被弾は免れるはずだ。あくまで、できればの話だが。

 

《ええい!ままよ!》

 

ノイマンの気合の入った声と操舵により、アークエンジェルは海面ギリギリまで降下する。次に襲いかかってきたのは、SWBMによる衝撃波の余波だ。

 

 

////

 

 

「ちぃ!しつこい奴!」

 

ラリーはエールストライク・ローニンを乗せたまま、モラシムからの攻撃を掻い潜り、敵潜水母艦が潜伏している海域へと急いでいた。

 

『行かせるか!』

 

ディンの両腕に備わるライフルから放たれる弾丸を機体を旋回させて躱していくが、さっきからアラームが鳴りっぱなしだった。

 

「流星!翼端面に想定以上の荷重がかかっている!これ以上の旋回は危険だ!」

 

複座で機体のコントロールの補佐をするバルトフェルドが、機体の限界を告げる。ラリーは普段よりもデリケートになったスピアヘッドを丁寧に飛ばしながら、後方のディンに気取られないように巧みに機動を変えていく。

 

「ラリーさん!パージしてください!水中でもストライクなら!」

 

上に乗るストライクから、キラの声が響くがラリーはその提案を即座に却下した。

 

「そんなことしたらここまで来た意味がないだろ!!」

 

このスピアヘッド・フロートに付く武装はバルカン砲と、スーパースピアヘッドから変わらずに付いている翼端のビームサーベルくらいだ。

 

本来はミサイルも付くはずだったが、今回はあくまでテストであり、機動性を重視した為、武装も最低限しか積んでいない。

 

つまり、敵母艦にたどり着いても有効な攻撃手段がないのだ。敵の船を落とせるカギを握っているのは、キラが乗るストライクだ。

 

「ライトニング1より、エンジェルハートへ!目標の海域に到着したが、敵艦の姿が見えない!パッシブソナーで追えるか!?」

 

通信でそう問いかけてみるが、帰ってきた答えは芳しいものではなかった。

 

《雑音が多すぎる…!必ず見つけ出す!それまで持ちこたえてくれ!》

 

信じるぞ!とラリーは伝えて、迫るモラシムのディンを避けては逃げ、避けては逃げを繰り返していく。旋回するたびにアラームは大きくなり、コクピットから僅かに見える翼端も普段で考えられないほどの揚力を得ていて、跳ね上がってるように見える。

 

翼端が限界を迎える数値になる前に、バルトフェルドの合図に従って、ラリーは機体を操る。しかし、執拗にモラシムはラリーのスピアヘッドを追い立てた。

 

『落ちろよ、野蛮なナチュラルめ!』

 

「ええい!しつこい!紅海の鯱は!」

 

紅海の戦いに、まだ終わりは見えてこないーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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