ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第88話 紅海の激戦4

 

 

「くっそー!!水中から好き勝手撃ちやがってー!!」

 

無線から流れてくるムウの苛立った声を聞きながら、トールは複座に備わる観測モニターをつぶさに観察していた。

 

「ボルドマン大尉!二時の方向!ボギー!」

 

「ちぃ!!」

 

トールの声にアイクは直ちに反応して、スカイグラスパーを大きく旋回させる。すると、さっきまで自分たちがいた場所に水面から顔を出したグーンが放つビームが通り過ぎていく。

 

それに安堵することなく、トールは顔すら上げずに観測モニターを見つめて、再び潜水を始めたグーンの動きを注視する。トールからしたら、ザフトが駆る水中用モビルスーツはおおよそのパターンで動いているところまでは見当がついていた。

 

観測モニターでも分かるグーンの熱量は、水中用モビルスーツの特徴の一つだ。いくら水の抵抗を少なくしたとはいえ、人型の物を水中で動かすとなると、膨大なエネルギーを要する。

 

そのエネルギーの痕跡を辿れば、敵がどのタイミングでこちらを狙ってくるのか。海上の戦いが始まってしばらく、なんども見せつけられればパイロットの癖や感覚が自ずとわかってくるものだ。

 

しかし、そのばらつきが致命的だった。

 

「くそ…これじゃラチがあかねえ!」

 

戦闘機でグーンを狙い撃ちにしようにも、海面に出たところを撃ち抜かなければ、水中で圧倒的な加速性を誇るグーンを射抜くことはできない。

 

そして、そのタイミングがバラついているためムウ達は攻めあぐねいていたのだ。

 

そんな焦れる戦いの中で、アークエンジェルが広域通信で回線を開けた。

 

《こちら、地球連合軍、第7艦隊所属のアークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです》

 

『ーーなんだ?』

 

その声が響いた途端に、グーンのパイロットたちが戸惑った声を出し、打ちあがっていた攻撃が止む。ムウやアイクたちも戦闘状態から抜け出して、戦闘空域上空を旋回するように飛びながらマリューの声に耳をすました。

 

《交戦中の水中用モビルスーツのパイロットに告げます。貴方達の母艦である潜水母艦は、こちらが撃沈しました。無駄な戦闘はやめて、投降して下さい》

 

それを聞いて、アイクがエンジェルハートに確認を取ると、それが真実であるという答えが帰ってきた。

 

ラリーたちが紅海の鯱を仕留め、そして敵潜水空母を撃沈し、こちらに帰投中とのことだ。そして、マリューは投降の猶予を与えた。

 

いくら水中用グーンとは言え、このインド洋の真ん中で帰る場所が無くなれば、戦闘を終えた後は海底に沈むしかないだろう。

 

マリューは繰り返して、毅然とした声で言った。

 

《このまま戦闘を続けても、無意味です。繰り返します。無駄な戦闘はやめて投降をーー》

 

その瞬間、アークエンジェルのモニターに警報が映し出される。とっさにナタルがマリューに向かって叫んだ。

 

「艦長!」

 

「面舵20!!」

 

まるで分かっていたように、アークエンジェルは舵を切ると海面から出たグーンが放つビームを鮮やかに躱す。それを見たザフトのパイロットは、生じた疑念を振り払うように吐き捨てた。

 

『なにが投降だ!でまかせを!』

 

『ナチュラルの分際でぇ!』

 

静まっていた戦いに再び火がついた。海面に現れては消えるグーンの攻撃が再開し、旋回していたムウたちの機体も迎撃を再開する。

 

「艦長」

 

アークエンジェルのブリッジで、ナタルが真っ直ぐとした軍人らしい瞳でマリューを見上げると、彼女も分かっていますと落ち着いて言葉を返す。

 

「ナタル、約束通り勧告は一度だけよ。残念だけどね」

 

慈悲を見せるのは一度だけだ。マリューは投降勧告をすると決めた時、ナタルとそう約束を交わしたのだ。ザフトは敵ではあるが、互いに軍人だ。帰る場所を失い、漂流に近い状況に相手がいるというなら、それを救う言葉をかけるのも軍人の在り方だ。

 

しかし、ザフトはそれに応じなかった。ならば、やることは一つだ。マリューは悲しさに満ちる心を一喝し、前を向く。

 

生き残る。生きて、生き延びて、使命を果たす。

 

ドレイクが口癖のように言っていたその言葉を真意を、マリューはようやく理解し始めていたのだった。

 

 

////

 

 

カガリはスピアヘッドの操縦桿を握り締めながら、機体の行く先と海面を交互に見ては、自分のできることを模索していた。

 

単に空に上がればどうにかなると思っていたが事はそう簡単には運ばない。浮上するグーンはこちらの行動をセンサーで探知してるのだろう。いやらしいタイミングで浮上しては攻撃し、そして潜航を繰り返している。

 

今はまだ被害は酷くはないが、消耗戦になれば空を飛ぶこちらの燃料が先に尽きはじめ、後手に回り、形勢は傾いていくだろう。

 

「くそぉ!やってくれるじゃないの!」

 

「せめて敵を海上に釘付けにできれば…」

 

無線機からのメビウスライダー隊の言葉に、カガリはふと一案を思いついた。過去の戦闘でも、敵がある特定の場所に籠城するときに、そこから叩き出す、またはあぶり出すためにとられてきた代表的な手法を。

 

「海面…そうか!オメガ1より各機へ!」

 

通信でカガリは思いついた案を整理し、ムウやアイクに伝える。最初は反対されるかと思ったが、この埒があかない状況に苛立っていた二人は、カガリの提案を快く迎えた。

 

「なるほど!それはナイスなアイデアだ!」

 

そうムウが言うと、ムウ、アイク、そしてカガリの機体はそれぞれ三方向からグーンが潜む海域へと侵入し始める。

 

「信管設定完了!いつでもいけます!」

 

トールの声に、アイクは満足げに頷く。

 

「よし!ミサイル投下しろ!!」

 

スカイグラスパーの腹が開き、スピアヘッドの両翼に搭載されたそれぞれのミサイルが、無誘導、推進装置を起動せずにまるで爆弾のように海へとばら撒かれていく。

 

機影が過ぎ去り、ザフト兵がグーンを水面に上げようとしたところで、2機のグーンは衝撃に襲われた。

 

『うわぁああ!』

 

『なんだ!?機雷か!?そんなバカな!』

 

そう叫ぶザフト兵が、あたりをソナーで調べるが既存の機雷反応は見受けられなかった。しかし、再び衝撃がグーンを襲う。

 

その時に、彼らは見た。水中をゆっくり落ちてくるミサイルの姿を。

 

『ちがう!奴らミサイルを…うわぁ!!』

 

カガリが提案したのは、ミサイルを信管起爆タイマーをセットした状態で海へ投下すると言う、単純な作戦であった。単純な故に効果は絶大。予期していなかった戦闘機からの攻撃により、グーンはバラストタンクや姿勢制御装置を損傷し、海面に出ざるをえなくなる。

 

「ラミアス艦長!」

 

ムウの声がアークエンジェルに届く。敵は海面に釘付けにした。それに頷いたマリューは即座に判断し、命令を出した。

 

「わかりました。上部の砲の射線をとります!ノイマン少尉!一度でいい、アークエンジェルをロールさせて!」

 

「えぇ!?」

 

「艦長!?」

 

マリューの判断に、操舵を担うノイマンとナタルが驚いた声を上げた。たしかにスカイグラスパーで海面に釘付けになったグーンを攻撃すればいいが、この消耗戦の中でアイクのスカイグラスパーに搭載したランチャーストライカーパックのバッテリーは危険域に近づいている。

 

万が一外して、敵が再び海底に逃げたら今度こそこちらが不利になる。

 

「一撃で勝負を付けます。ゴットフリートの射線を取る。一度で当ててよ、ナタル」

 

「…分かりました!」

 

「ノイマン少尉!やれるわね?」

 

「はい!」

 

 

////

 

 

アークエンジェルからの艦砲射撃の予告を受けて、ムウたちに与えられた任務は海面に釘付けになったグーンを逃さずに引きつけることだ。

 

『ナチュラルのくせにっ!!おちろぉ!!』

 

しかし、彼らも大人しくはしていない。7連装の魚雷が搭載された腕を戦闘機に向けて放つ。ロケット推進を持つ魚雷は狙いはお粗末だが、カガリの操るスピアヘッドを驚かせるには十分な威力を発揮した。

 

「お嬢ちゃん!チョロチョロすんなよ!俺が撃っちゃうじゃないか!」

 

魚雷に驚いてふらつくカガリをムウが強い口調で窘める。その言いように、気性が荒いカガリも負けじと言い返そうとしたが。

 

「うあぁ!」

 

ミサイルの後に打たれたビームがスピアヘッドの脇をかすめる。装甲をわずかに溶かされたせいで、スピアヘッドの後部から黒煙が吹き上がり始めた。

 

《エンジェルハートよりオメガ1へ!大丈夫か?》

 

「ナビゲーションモジュールをやられただけだ!大丈夫!」

 

そう答えてカガリは再び操縦桿を傾けようとしたが、それを抑えるようにムウのスカイグラスパーが鼻先に現れる。

 

「ライトニングリーダーよりオメガ1、帰投できるな?早く離脱しろ!下のやつらはこちらが抑える!」

 

「大丈夫だ!まだ…!」

 

そう。まだ戦える。まだ飛べるとカガリが答えようとした瞬間、いつもの調子のいい穏やかな声とは違うムウの怒声がスピアヘッドのコクピットに響いた。

 

「フラフラ飛ばれてても邪魔なだけなんだよ!それぐらいのこと、分からんか!」

 

「くっ!分かったよ!」

 

言い方は気に入らないが、ふらふら飛んでるのはカガリの技量不足だ。それを自覚しているからこそ、カガリはムウの怒声に反抗せずに従い、戦闘空域から離れていく。

 

それを見送ってからムウは小さく息を吐いた。

 

自分は、ラリーやリーク、キラのように誰かを気遣いながら飛ぶ余裕はない。自分の戦いをすることだけで手一杯だ。このまま行けば、彼女がグーンに落とされる可能性もある。

 

ただそれを指をくわえて眺めるくらいならばーー自分の戦いを貫こう。彼女を逃す時間を稼ぐなど器用なことは考えない。ただ、ひたすらに敵を撃つ。それだけを考えてーー。

 

「くぉぉりゃぁぁ!!」

 

ムウは雄叫びを上げて、海面から腕を出したグーンをめがけて急降下していく。

 

 

 

////

 

 

 

《本艦はこれより、180度ロールを行う!!》

 

ナタルが直接艦内放送で乗組員全員にこれからする事を伝える。そして、その報を聞いて1番叫び声が上がったのはハンガーだった。

 

「えー!?嘘でしょ!?」

 

フレイが信じられないと声をあげながら、体は慣れたものでまだ固定されていない工具箱や台をベルトでしっかりと固定していく。

 

ほかの作業員も手早く重量物や精密機械を固定していく。

 

《総員、衝撃に備えよ!繰り返す!本艦はこれより、ロールを行う!》

 

ただ、彼らは機材のことだけを考えていて肝心なことを忘れていた。

 

「グーン2機、来ます!」

 

「ゴットフリート照準、いいわね!」

 

「いつでも!」

 

「行きますよ!!」

 

ノイマンが舵を傾けていくと、アークエンジェルはゆっくりとその巨体を反転させていく。

 

「ゴットフリート、てぇ!!」

 

船体が反転し、ゴットフリートがグーンを捉えると間髪入れずにナタルが叫んだ。緑色の極光は海面を穿ち、そこで足掻いていたグーンを海水もろとも蒸発させる。

 

そしてハンガーも阿鼻叫喚に包まれていた。

 

ギリギリ最後の工具箱を固定したフレイが一息ついたとき、傾きは始まっており、そこからは早かった。

 

「うわわ…うそぉおお!!」

 

咄嗟に工具箱にしがみつくが足は完全に地を離れて、視界はさっきまで見ていた景色が90度傾いていた。

 

「無重力じゃねぇんだぞぉおお!!」

 

そう叫びながらマードックが急勾配になったハンガーの床を転がり落ちていき、すぐそこでは固定したベルトにかじりついてぶら下がっているハリーが見える。

 

作業員って大変だなぁ、とそれだけの感想で済ましてしまうフレイも、自身が相当毒されていることに気づく様子はなかった。

 

 

////

 

 

 

 

 

 

インド洋、どこかの無人島。

 

「こちらオメガ1、エンジェルハート、アークエンジェルどうぞ。アークエンジェル…。あぁ!くそ!」

 

そしてカガリは運命の出会いをする。

 

 

 

 

 

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