日本から北北西の方角にある小さな島国を知っているかい?
その国の名はアイスランド。
古くから妖精の伝説が伝わる神秘の島だ。
僕はその国へ友人を頼ってやって来たんだけど、たまたま一人でドライブしているときに出会ったんだ。
その姿は美しく、目を奪われた。
そして僕は確信した。
きっと彼女こそが北北西の妖精なんだと。

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北北西の妖精

北北西の妖精というものを、きっと僕は見たんだと思う。

外の世界に憧れて、バイトをして貯めたお金で初めて日本を発った僕は偶然にもその地で彼女を見かけた。

雨上がりの、雲の合間から射す光に照らされてキラキラと輝く雫の草原を彼女はサクサクと歩いていた。

いったい何を考えているのか、遠いからよくは分からない。

けれども、彼女は美しい、それだけははっきりと分かった。

 

 

 

 

――まぁ、そのせいで何も無い場所で友人に借りた車を横転させたのは悪かったと思う。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

「いやぁ、すみません。ありがとうございました……」

 

横転してから約一時間後、たまたま通りかかった現地の人に手伝って貰ってなんとか車を建て直した僕は拙いアイスランド語で感謝を伝えた。

 

「いいって、いいって。困ったときは助け合うものさ……まぁこんな所で横転する奴は初めて見たがな」

 

「ですよねー……ハハハ」

 

まさか草原に立つ美しい女性を余所見していたらハンドル操作をしくじってカーブを曲がりきれずにそのまま道から外れてしまったなんて言えるはずもなく、僕は彼らの言葉に苦笑いするしかなかった。

 

「にしても君何人? 顔立ちからすると東洋系だけど……もしかして日本から?」

 

僕の容姿が珍しいからか、彼らはそんなことを聞いてきた。

別に聞かれて困るものでもないし、現地の人と話せる良い機会を逃すには惜しいから僕は頬を緩ませながら答えた。

 

「えぇ、まぁ。友人に誘われて遊びに来ました」

 

友人というのは僕とは十年も付き合いのあるアイスランドの女の子のことだ。

彼女は僕が中学生の頃にアイスランドから遥々ホームステイにやって来た。

それ以来日本に興味がある彼女とは連絡を取りつつ、来日したときには僕の実家に泊まらせている。

 

「へぇ、なるほど。その友人とやらは……?」

 

だが、この場所には彼女はいない。

その事が気になったのか彼らは僕に聞いてみたようだ。

 

「ちょっと今日は用事があるみたいで……一人でドライブしてみたらと」

 

朝、彼女は何やら大事な用事があったらしく、開口一番に僕に謝ってきた。

本当は彼女の案内でゴールデンサークルを巡る予定だったが、仕方なく借りた車でドライブを楽しんでいた……のだが、こうなるとは思ってもみなかったけど。

 

「なるほどなぁ……まぁ今度からは二人以上で旅しろよ。きっと君はまた同じことを繰り返しそうだ」

 

「気を付けます……」

 

肩をバンバンと叩かれながら彼らは陽気に忠告してきた。

うん、彼らの言う通りだ。僕は何となくこれを繰り返しそうな気がした。

今度からは絶対に彼女を連れていこう。

 

 

あ、そうだ。良いこと思い付いた。

 

 

「すいません、写真撮りませんか?」

 

僕は車の中に置いていたカメラを取り出すと、彼らにそう提案した。

日本を発つときに両親に沢山写真を撮ってきて欲しいとせがまれたのを思い出したのだ。

最初は風景だけで良いかなぁと思っていたけれど、アイスランドの人と一緒にこの地で撮るのも良いかもしれない。

 

「あぁ、いいよ。おい、皆!! 日本の坊主が写真撮りたいってよ!!」

 

彼らは快く応じてくれた。彼女から聞いていたけれど、やはりアイスランドの人は気さくで優しいようだ。

僕らは近づくと全員が収まる構図で写真を撮った。

嬉しいな。見ず知らずとはいえ、一緒に写真を撮ると何だか気分が高揚する。

この感じは昔修学旅行で偶然中国の人達と写真を撮った時と同じである気がする。

何枚か写真を撮り、彼らのうちの一人とメールアドレスを交換して、後から写真のデータを送ることを約束した。

  

「それじゃあ、よい旅を!!」

 

「あ、はい。ありがとうございました!!」

 

少しだけ談笑した後、彼らは車に乗り込みここを後にした。

僕はそれを見送りながら手に持つ缶コーヒーを口へ運ぶ。

成り行きでこれを貰ったが、わりと寒かったのでありがたい。

アイスランドという国は北極圏にとても近い高緯度帯で、今は八月。

日本は今年も最高気温を更新するぐらいの夏真っ最中ではあるが、この地アイスランドは逆に日本の秋から冬にかけての気温に近い。

因みにさっきの彼らは半袖で過ごしていたが、どうやら今日はアイスランドでは高温の方のようだった。

やはり住む土地によって気温の感じ方が異なるのだろう。

 

「さてと……レイキャビクに戻るか」

 

僕は飲みかけのコーヒーとカメラを手に車に乗り込む。

エンジンをかけるとラジオから陽気な音楽が流れてくる。

それの鼻歌を口ずさみながら僕はレイキャビクに向かって車を発進させた。

 

「流石に……もういないなぁ」

 

ふと、気になって先の草原を見た。

しかし、そこにはもう何もいない。

まるで狐に化かされたかのように幻想的な風景は既に霧散し、残されたのはアイスランドの風土を感じさせる広い草原だけだった。

夢だったのだろうか……けれど、それでもいい。

帰ったら彼女にこの話を聞かせてやりたいなぁと思いながら、僕はこの場所を後にするのだった。

 

 

 

 

 

――Velkomin(ようこそ)

 

 

風にのって聞こえてきたその美しい音色(コトバ)は、きっと……

 

 


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