アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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『お詫び』
本来、今回は前回の後書きにて触れたようにカーニバル・ファンタズムを見て思いついた『アイドル大激突! チキチキ! アイドルアルティメイト!』を投稿するつもりでしたが、予定を変更してアイ転のプロトタイプをお送りいたします。

※詳しい事情説明&謝罪はあとがきにて。


番外編12 どうやらアイドルの世界に転生したようで

 

 

 

 

 それは、あり得たかもしれない可能性の話。

 

 

 

 

 

 

 第一話

 

 

 

 少年は、気が付いたら光の中に立っていた。

 

 一体ここは何処なのかと首を傾げていると、突如として頭の中に直接声が響いてきた。それはうら若き女性の声のようにも聞こえ、しゃがれた老人の声のようにも聞こえた。

 

 曰く、声の主は神様らしい。

 

 曰く、少年は不慮の事故でその生涯を終えてしまったらしい。

 

 曰く、少年の死は神様の予定にはなかったものらしい。

 

 曰く、代わりに何でも好きな能力一つと共に別世界に生まれ変わらせてくれるらしい。

 

 そこまで聞いた少年は、なるほどと頷いた。

 

(転生モノってやつだな、それもとびっきりのテンプレの)

 

 思い出すのは生前ネットで読み耽った、オリ主(オリジナル主人公)たちが「俺TUEEEE」などと言いながら原作キャラ相手に大立ち回りを繰り広げる転生モノの二次創作小説の数々。

 

 なるほどどうやら今度は自分がそのオリ主として選ばれてしまったらしい。

 

 あれって空想の話じゃなかったんだなーと心の片隅で思いつつ、それと同時に今更ながら死の直前のことを覚えていないことに気付く。しかしその疑問は口に出す前に解消された。

 

 曰く、余りにもむごい死に方をしたため、ある程度記憶に補正をかけておいてくれたらしい。

 

 ただそのおかげで生前に対する未練みたいなものまで補正をうけてしまったそうだ。道理で死んでしまったことに対して何の感慨も沸かないはずである。

 

 ならばしょうがないとある種の諦めに似た感情と共に、少年は貰う能力について考え始める。

 

 神様から貰う能力というのはオリ主にとっての最大の武器であり、オリ主がオリ主たる理由となりえるものだ。

 

 しかし、貰う能力を選ぶにしてはやや情報が足りない。

 

 例えばの話である。転生オリ主のテンプレ能力である『異空間から大量の武器を取り出す能力』を貰って巨大ロボットが戦う世界に転生したとする。確かに数多の武器を大量にばら撒けばロボットは倒せるかもしれないが、超遠距離からの広範囲殲滅兵器などの対処法が思い浮かばない。

 

 逆に巨大ロボットに乗りこなす才能を貰って魔法の世界に転生してしまっては宝の持ち腐れ以外の何物でもなくなってしまう。才能ではなく巨大ロボット自体を貰った場合でも同じである。

 

 となると転生先に見合った能力の選択が必要となる。

 

 そこで自分の転生先の世界の情報を貰おうと尋ねてみるが、何故か反応がなかった。

 

(これは困った)

 

 貰える能力は一つ。転生先が分からないこの状況で最善の能力は何かと考え、とある一つの考えに至る。

 

 そしてその能力を口にした瞬間、少年の意識は暗転した。

 

 少年の願いは受理され、転生が始まった。

 

 

 

 『転生する世界で最も武器となる能力』と共に……。

 

 

 

   #

 

 

 

 ○月○日

 

 今日から俺も小学一年生になったので、これを機に日記を書き始めることにする。日記は基本的に自分以外の誰かが読むことを想定しないので、決して人に言えない秘密もここに記して残しておこうと思う。

 

 まず、俺こと周藤良太郎は前世の記憶を持つ転生者だということだ。

 

 気が付いたら死んでいて、自称神様から特典として『転生する世界で最も武器になる能力』を貰ったのだが、未だに能力が何なのか判明していない。そもそも俺が生まれたこの世界は前世と同じような極々普通の世界である。魔法が無ければ巨大ロボットも無い。しいて言うならややアイドルの番組が多いぐらいだ。てっきり物語のような世界に転生するとばかり思い込んでいたため上記のような特典を望んだのだが、これでは全く持って無駄な特典となってしまった。もしかして日常系超能力モノの世界なのかとも考えたのだが、超能力らしきものもない。よくよく考えてみると神様は転生先が物語の世界とは一言も言っていなかったから、俺の勘違いだったのかもしれない。

 

 だがその場合、特典の能力は一体何なのだろうか。普段の日常生活の中に最も武器となる能力となると知力や体力の向上だが、それらしい傾向も無い。世間様からは天才児ではないかと騒がれていたりするが、これは前世の記憶を持っていることが理由だから当てはまらないだろう。全く持って謎である。

 

 自分の誰にも話せない秘密はここまでにしておいて、そろそろ日記らしいことを書くことにする。

 

 最初に書いたように今日から俺は小学生となった。つまり今日は小学校の入学式だったのだ。俺が入学したのは市立旭小学校。初め両親は俺に小中高一貫の私立校を受験させようとしたのだが、悪いが断らせてもらった。俺が同年代の子供より頭がいいのはあくまでも前世の記憶を持っているからであり、俺の頭脳は平凡そのもの。小学校はともかく中高で学ぶ全ての内容を覚えているわけではない。故に将来両親を失望させてしまう可能性があるため、自分からハードルを下げることにしたのだ。

 

 入学式は何事も無く終了。校長先生の挨拶が長いと周りの子供たちがうるさいのは幼稚園の頃と同じなので特に思うところはない。そもそも一ヶ月前まで幼稚園にいた子供たちが、小学生になった途端にちゃんとするようになるわけがないのだ。

 

 式の後はそれぞれの教室(一年一組)に移動して担任の先生(高橋宮子女史)と一緒に自己紹介。他の生徒が自分の名前と好きなモノをたどたどしくも答えていくのを(頑張れ頑張れ)と完全に父兄目線で観察していた。

 

 その後は高橋女史から簡単な説明があった後に解散となった。同じ幼稚園でよく遊んでいた子にバイバイと手を振りながら母上と手を繋いで帰宅。夕飯は入学祝いということで前世の頃からの好物であるハンバーグだった。

 

 ここまで書いて読み返してみたのだが、前半と後半の温度差が半端じゃない。まぁ前半のような話を書くことはこれからほとんど無くなるだろう。あくまでもこれは日記であり、俺の転生人生の考察文ではないのだから。

 

 特典の能力の詳細が分かるまで、精々二度目の小学生ライフを楽しむことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 ×月×日

 

 日記を書き始めてから早四年である。入学式の日から書いているから、大体四年と十カ月。あと少しで五年目に差しかかる。何故このような中途半端な時期にこのような書き出しをしたかと言うと、久しぶりに自分の誰にも言えない秘密について書くからである。

 

 久しぶりに書くが、俺は『転生する世界で最も武器になる能力』を特典として生まれ変わった転生者である。転生して九年経ち、今まで分からなかった特典のヒントを掴んだのだ。

 

 どうやら俺は『他の人より歌が上手い』らしい。

 

 今日は一ヶ月後に控えた校内合唱コンクールの練習を行ったのだが、クラス全員の推薦を受けて俺が合唱曲のソロパートに選ばれてしまったのだ。思い返してみれば幼稚園の頃も先生に「リョウ君はお歌が上手だねー」と言われていたし、一年生の頃から音楽の成績は常に五で、音楽の先生からも他の生徒の手本になって欲しいと言われたこともあった。寧ろ何故今の今まで気付かなかったのだろうか。

 

 昔から言われていたことでもう一つ思いだしたことがあった。それは『他の人より若干身体能力が高い』みたいだということ。

 

 幼稚園でのかけっこでは常に一着で、小学校に入ってからの体育の授業でも他の子供たちよりも若干ながら成績が良い。これも転生したからだろうと考えていたが、よくよく考えてみると身体は間違いなく子供のものなのだから前世がどうのこうのという話ではない。

 

 『歌が上手い』と『身体能力が高い』。この二つのどちらか、もしくは共通する何かが俺の特典なのだろう。

 

 しかしこの二つの何処が最も武器となる能力なのかが全く分からない。いよいよ歌いながら戦う世界が現実味を帯びてきたようで非常に怖い。ここまで何事も無く過ごしてきたのだから、このまま何事も無く過ごしていきたいものだ。

 

 さて、四年ぶりの転生考察はここまでにしておいて日記を書くことにしよう。

 

 上にも書いたように今日は合唱コンクールの練習があった。今回歌う曲は先日書いたように珍しくソロパートというものが存在する。そこでクラスの誰がソロパートを担当するかを話し合ったのだが、片桐が「周藤君がいいと思いまーす!」と言った途端にクラス全員がそれに賛同してしまい、とんとん拍子に決まってしまったのだ。

 

 な、何を言っているのか分からないと思うが(以下略)。

 

 まあ選ばれたからにはしっかりとやりましょう。歌うことは好きだしね。

 

 

 

 

 

 

 △月△日

 

 春である。俺が周藤良太郎に転生してから十一回目の春であり、この日記を書き始めてこれで六年目。新学期を境に新しい日記帳に変えているため、これも六冊目である。我ながらよく続いたものだ。

 

 そんな六冊目の日記帳の冒頭なのだが、日記に書かなければならない重大な事柄が発生してしまった。

 

 周藤良太郎、十一歳。アイドルを目指すことになってしまった。

 

 結論を最初に書いたことだしここからはしっかりと過程を書くことにしよう。

 

 ことの始まりは我が両親、母上と父上である。夕食後に家族揃ってリビングでテレビを見ていた時のことだった。ちょうどその時見ていたのは日本最大のアイドルコンテスト『IU(アイドルアルティメイト)』の特集で、それを見ていた母さんが一言。

 

「ここに出てる人たちよりリョウ君の方が歌上手じゃなーい」

 

「確かにそうだ! 俺と母さんの息子であるリョウならきっとアイドルだってやっていけるに決まっている!」

 

 とまぁ何故か知らないけどすごい勢いで父さんまでもが喰いついてしまった。「おにいちゃんアイドルになるのー?」と小首を傾げてくる美咲を抱きかかえて「そうだぞー! お前の兄ちゃんはきっとすごいアイドルになるぞー!」とくるくる回り出す始末。これと決めた時の両親の行動は早く、あれよあれよと話は進んで来週の土曜日にはアイドルの事務所に出向くことになってしまった。正直、どうしてこうなったと言わざるを得ない。確かに歌も体を動かすことも好きだが、それとアイドルとしてやっていくことは別問題である。あんなテレビに出ている人たちのように周りに愛嬌を振りまくことが果たして俺に出来るのだろうか。

 

 まぁ、望まれていた私立校に通うことなくのんびりとさせてくれた両親の頼みを聞くことはやぶさかではない。身内視点の親バカめいた考えからの発言以外の何物でもないだろうが。

 

 ここは一つ、アイドル目指して頑張ってみることにしますか。

 

 とりあえず、下から「応援グッズの定番はやっぱり団扇だよな」という父さんの言葉が聞こえてきたからちょっと止めてくる。

 

 

 

 

 

 □月□日

 

 今日は両親及び美咲と共にアイドル事務所に行った。765プロという出来たばかりの事務所で、社長兼プロデューサーの高木さんとアイドル候補生一人だけの本当に小さなところだった。

 

 母さんが友人に俺がアイドルを目指すということを相談したところ、この事務所を紹介されたそうだ。何でもその人物というのが今は引退してしまった歌手の音無水鳥さん(そんな大物が友人だったとは一言も聞いたことが無かった)。高木さんは水鳥さんの古くからの友人で、所属するアイドル候補生も水鳥さんの娘さんらしい。出来たばかりで実績が無ければ所属アイドルも候補生一人だが、高木さんは安心して自分の子供を送り出すことが出来る人物である。と水鳥さんが言っていたと母さんから聞いた。

 

 段ボールが積まれていてまだまだ出来たばっかりというのが目に見えて明らかな事務所内のソファーに座り、両親と高木さんが話し始める。話していることは自分に関係のある事柄なのだが、付いてきた妹様がとても暇そうにしていたので仕方なく遊び相手になってやる。

 

 するとどうやら「とりあえずどれぐらい歌が上手いのか聞いてみたい」ということになったらしく、ここでいいからちょっと歌って欲しいと言われた。先日声変りが来て若干喉は本調子ではないのだが、とりあえず最近のヒット曲を歌ってみた。

 

 歌い終わった途端、高木さんが突然「ティンと来た!」と叫んでボーカルレッスンとダンスレッスンの日程を決めることになった。どうやら俺の歌は高木さんのお眼鏡にかかったようで、アイドル候補生としてこの事務所に所属することになった。高木さん曰く俺にアイドルとしての才能を見出したと言っており、今からレッスンを積めば次は無理でもその次の『IU』には十分出場して優勝を狙うことが出来ると言って

 

 ここまで書いて気付いたのだが、まさか俺の転生の特典ってこれじゃないよな?

 

 転生する際に俺が神様から頼んだ特典は『転生する世界で最も武器となる能力』である。この世界には様々なアイドルの番組が存在し、全国的なアイドルコンテスト『IU』なんてものが存在する。明らかに俺の前世よりも『アイドル』という存在が重視されている。となるとそれ関連の能力が最も武器になる能力であっても何もおかしくない。

 

 つまり俺が神様から貰った『転生する世界で最も武器となる能力』とは。

 

 『アイドルとしての才能』

 

 ということなのだろうか。

 

 

 

   #

 

 

 

「ふぅ……」

 

 高木順一郎はソファーに深く体を預けながら、先ほど見送った周藤一家のことについて思いを巡らせる。

 

 いくらあの音無水鳥からの紹介とはいえ、所詮肉親からの推薦。親としての贔屓の目が存在するものだとばかり考えていた。確かに小学生にしては落ち着いた雰囲気を持つ大人びた少年で、将来きっと美少年と呼ばれる存在になることは十二分に考えられた。だが小学生レベルで歌が上手いということだけでは、渡り抜けるほど甘くないのだ。

 

 しかし、その考えはあっさりと覆されることとなる。

 

 何か一曲歌って欲しいと頼むと、妹と遊んでいた少年はソファーから立ちあがってコホンと咳払いをした。その瞬間、少年が纏っていた雰囲気が一変した。先ほどまでの落ち着いた雰囲気はなく、まるで歴戦の戦士のような鋭いオーラが漂っているように感じる。そのオーラに呆けているうちに、少年は何曲か歌い始めた。最近のヒット曲のサビだけを何曲か歌ったのだが、その全てを少年は完璧に歌いきった。

 

 歌は確かに上手かった。しかしそれ以上に、まるで周りの人間を引き込むかのような強いオーラを感じた。

 

 彼は必ず将来トップアイドルになる。そう確信めいたものを感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 第二話

 

 

 

 ○月○日

 

 今日は初めてのレッスンの日だった。レッスンはボーカルレッスンとダンスレッスンの二種類を行っていくらしく、今日はボーカルレッスンを受けた。事務所に集合した後、高木さんの車で水鳥さんの娘の小鳥と共にレッスンスタジオまでまとめて送迎された。

 

 スタジオに到着してこれからお世話になる先生と顔合わせをしたのだが、なんと先生は水鳥さんだった。なんでも歌手業を引退した後、こうしてインストラクターとして働いているらしい。全く知らなかったから素直に驚いた。

 

 という訳でボーカルレッスン開始。今まで学校での音楽の授業ぐらいしかしたことが無かったので、こうした真剣な歌の練習と言うのは初めてである。基礎的な音程の取り方や呼吸の仕方など、水鳥先生(本人からこれからはそう呼ぶように言われた)の指導のもと行われた。水鳥先生曰く、俺は相当筋が良いらしい。歌が上手いなどのことは今まで散々言われてきたが、あの音無水鳥に褒められるのはすごく嬉しい。慢心するつもりはないが、本当に俺は歌が上手いんだという実感が湧いた。小鳥も流石水鳥先生の娘、といった上手さだった。

 

 しかし歌が上手いというだけで本当に『アイドルとしての才能』というのだろうか。歌が上手いだけがアイドルの才能だとは思わないが。

 

 レッスンの後は水鳥先生に連れられ小鳥と共に夕飯を食べに行った。水鳥先生でもこんなファミリーレストランにはいるんだなぁ、とそんなことを思った。相変わらず小鳥は俺に慣れていないらしく、食事中もちらちらとこちらを見つつも俺が視線を向けると俯いてしまう。これから765プロでアイドルを目指す仲間として仲良くやっていきたいのだが。

 

 果たして小鳥と仲良くやっていける日と俺の特典が分かる日はいつ来ることやら。

 

 

 

 

 

 

 ×月×日

 

 前日に引き続き、今日もレッスンの日。今日はダンスレッスンを受けた。昨日と同じように高木さんに送迎されてダンススタジオに向かう。

 

 俺達のダンスレッスンを引き受けてくれるのはダンストレーナーの増田さん。何処かで見たことある顔だなーと思っていると、向こうは俺のことを知っていた。何でも増田さんは去年からの俺のクラスメイト、増田レナの母親らしく、去年の授業参観で俺のことを見たことがあったらしい。俺は一切覚えていないが、確かに増田さんの面影を感じた。

 

 レッスンは昨日同様に初日ということで実際のダンスをするのではなく、柔軟運動などの基礎的なものを行った。本格的に運動をしていたわけではないが体の柔らかさにはちょっと自信があり、百八十度とまではいかないでもそれに近い開脚前屈が出来る。一方小鳥は「お前そんなんで本当に大丈夫なのか」と言いたくなるぐらいの体の硬さだった。とりあえず前屈でつま先を触れるようになるまで頑張ろう。

 

 昼休憩は小鳥を誘ってスタジオ近くの公園へ弁当を食べに行った。お互いに母親に作ってもらった弁当を食べながら少し話をした。小鳥は母親が歌手だったからアイドルを目指しているわけではなく、母親の仕事に着いて行った時に見たアイドル(名前は知らないらしい)の笑顔を見て、それに憧れたんだとか。親に勧められたから受動的な理由の俺と違い、しっかりと自分の意思で能動的に動いたということに、素直に感心した。その後もちょっとずつ自分達の周りのことを話し合っている内に昼休憩は終わり、スタジオに戻るのが少し遅れて増田さんに怒られてしまった。

 

 けど少し小鳥と仲良くなることが出来たので結果オーライとする。

 

 

 

 

 

 

 △月△日

 

 今日はアイドル候補生としてレッスンを初めてちょうど一ヶ月となる日である。確かにやるからにはしっかりとやると決めたが、自分からなりたいと言ったわけじゃないのによくもまぁ続いたものである。

 

 土曜日で学校が休みなため朝から事務所に向かうと今日は珍しく誰もいなかった。三人しかいない事務所のため一応合鍵を預かっているので、それを使って事務所に入る。いつも俺が来る時は誰かしらがいるので事務所の合鍵を使ったのは何気にこれが初めてだった。

 

 いつも通りスケジュールの確認をしようと思ったが高木さんがおらず、やることが特になかったのでいつも小鳥がしている掃除を代わりにやることにした。少しずつ物が増えてきたが、まだまだ出来たてホヤホヤの事務所の掃除はいたって簡単。軽く床を掃いてから雑巾がけ。時間にして三十分程度で終わった。

 

 雑巾がけで痛んだ腰をトントンと叩いていたら小鳥がやってきた。何でも珍しく寝坊してしまったらしい。理由を聞いてみたところ、ゴニョゴニョと「アニメは夜遅くのものの方が面白くてですね……」とかなんとか言っていた。いや、俺も前世でそれなりに深夜アニメは見ていたが、お前俺と同い年で小学六年生だよな。こんな早くから染まってしまってこいつは大丈夫なのだろうかと若干心配になる。

 

 掃除も終わり今度こそやることが無くなってしまったので、高木さんが来るまで適当にテレビを見ながら待つことにする。最近のアイドル事情を把握しておくことも勉強になる、と高木さんは言っていた。菓子やら何やらを摘みつつテレビを見ていたら高木さんがやや興奮気味にやってきた。何事かと思ったら

 

 俺の『持ち歌』の作成が決まったらしい。

 

 何でも作詞作曲で有名な九十九兄弟に、水鳥さん経由で紹介してもらって俺達の曲を作ってもらうように交渉したらしい。まだアイドル目指して一ヶ月そこそこで実績すらない新人以下の俺達に、そんな簡単に曲を作ってもらえるはずがない。と思っていたのだが、何か俺のボーカルレッスンとダンスレッスンの様子を録画したものを見せたらOKサインをもらったそうだ。光るものを見たとかなんとか言ってたそうだが、もしかしてこれも特典の一部なのだろうか。とにかく曲が出来次第、ボーカルレッスンとダンスレッスンをそれらの練習に移行するらしい。

 

 ようやくアイドルらしくなってきて素直に嬉しいのだが、一つだけ素直に喜べないことがある。曲を作ってもらえるのは俺だけで、小鳥の曲はまだ先になるということだ。小鳥は笑顔で祝福してくれたが、やはり申し訳なさがある。小鳥の方が俺よりも先にアイドル候補生として頑張っていたというのに、これは俺の方がアイドルとしての素質を見出されたと考えるべきなのだろうか。

 

 まぁ、ここで俺がどうこう考えてもこの結果は変わることはないだろう。俺が小鳥の曲を作ってくれと言って聞いてもらえるわけもない。だったら、先に作ってもらった曲で精々一花咲かせてみましょうか。

 

 とりあえず、明日その兄弟のところに挨拶に向かうそうだ。

 

 

 

 

 

 

 □月□日

 

 俺の曲が完成した。九十九兄弟のところに挨拶に行って僅か一週間のことである。

 

 事務所で高木さんから完成の連絡を受けたと聞いた時はリアルで「早っ!?」と叫んでしまった。何でも俺のレッスンの方を見たときからある程度のイメージは固まっていたらしく、俺が挨拶に行って直接対面したことでインスピレーションが爆発したとかなんとか。何というか、芸術家ってすごいと思った。

 

 そしてついに完成した、俺のアイドルとしてのデビュー曲。

 

 そのタイトルは『Birthday』。

 

 この曲を以てアイドル『周藤良太郎』は誕生するんだとか。確かに、この曲を人前で歌うことが俺のアイドルとしての誕生日となるのだろう。

 

 そしてその誕生日も決定したことが高木さんから告げられた。一ヶ月後に行われる新人アイドルのオーディション番組『ゴールデンエイジ』への出演が決定したそうだ。これは新人があの『IU』に出場するための一番の近道となるオーディションらしく、このオーディションで優勝すると『IU』への出場資格が得られるとのこと。

 

 明日からは俺の『バースデイ』のボーカルレッスンと振り付けの練習になるそうだ。つまり今まで一緒にレッスンをしていた小鳥とはこれからは別メニューとなってしまうそうだ。今まで一緒にやってきたのに、それはそれで少し寂しい気がする。それを本人に直接言ってみると、小鳥は頬を赤く染めてモジモジと俯いてしまった。小鳥と美咲は俺の二大癒しである。

 

 美咲で思いだしたが、今日事務所から帰ってくると美咲の幼稚園の友達がお泊りに来ていた。あずさちゃんと言って、美咲と一番仲がいいお友達らし

 

 

 

 変なところで途切れてしまったが、日記を書いている途中に気配を感じて後ろを振り返るとあずさちゃんがいて驚いてしまったのだ。どうやらお手洗いに行こうとして俺の部屋に迷い込んでしまったみたいであった。これはもう方向音痴とかいうレベルじゃないような気がする。あずさちゃんの将来が心配である。

 

 

 

 

 

 

 ◇月◇日

 

 いよいよ明日は『ゴールデンエイジ』出演の日ということで、今日は一日ボーカルとダンスの最終チェックを行った。『バースデイ』を貰ってから一ヶ月間、学校帰りにスタジオに向かいただひたすら練習の毎日の成果を見せる時なのだ。水鳥先生と増田さんの両者から太鼓判を押されているものの、流石にテレビ出演ということでかなり緊張している。

 

 今まで周りの人から散々歌が上手いだのどーだのと言われ続けてきたが、その審議がはっきりとする。周りの人たちが俺を煽てているとは考えづらいが、なまじ前世と言う記憶と知識を持っているだけに不安は拭いきれないのだ。

 

 そんな俺の不安に気付いていたのか、小鳥がミサンガをくれた。何でも手作りらしく、俺のデビュー成功祈願だそうだ。さらに家に帰ると美咲も友達と一緒に作ったというお守りをくれた。癒し二人からの贈り物に感じていた不安が空の彼方へ吹き飛んでしまった。ついでに父さんと母さんは俺の応援グッズとして団扇やら横断幕やら作っていた。応援してくれるその姿勢は大変ありがたいのだが、それは出来れば家の中だけの使用に留め、決して外に持ち出さないようにしていただきたい。流石にまともにデビューしていないのにそれは恥ずかしすぎる。

 

 応援してくれている人たちのためにも、明日は頑張ろう。

 

 

 

   #

 

 

 

 トップアイドルを目指す十五歳以下の新人アイドルのためのオーディション番組『ゴールデンエイジ』。

 

 年に二回行われるその番組内で、一人の新人アイドルが産声を上げた。

 

 アイドルを目指し始めてから僅か三ヶ月にも関わらず、あの九十九兄弟に曲を作ってもらうという異例な存在。

 

 しかしそんな事実すら霞むほどの、圧倒的な実力。ダンスが目を、歌が耳を捕えて離さず、発するオーラが審査員と観客全員を飲み込んだ。

 

 一切の実績を持ち合わせない、僅か十一の少年。彼は番組史上最高得点を叩きだして優勝した。

 

 この日が、アイドル『周藤良太郎』の誕生日となった。

 

 

 

※続かない

 

 

 




 というわけで今回は現在のアイ転の形になる以前のプロトタイプをお送りしました。

 名前や特典の設定は現在のものと変わりませんが

・幸太郎(兄)がおらず美咲(妹)が存在する。
・音無小鳥や日高舞と同期(つまりアニマスから16年前)
・765プロに所属

 などが変更になっております。他にもクラスメイトに早苗さんがいたり、デビューの経緯が違ったり。

 そして何よりも「日記形式」というのが大きな違い。こうすることで勘違い要素を多くしようと考えていた名残が、現在の勘違いタグ。一応「実は」その要素が含まれているけど、微妙だから消してもいいかなぁ。



 さて、それでは改めて今回の予定変更の事情説明を。

 といっても、ストーリーの骨組みは出来たがネタの肉付けが出来なかったという単純でクソ情けない理由です。別の話に路線変更しようにも時間が足りず、残っていたプロトタイプを漁ってきて掲載する始末。(世間では夏休みかつお盆休みだというのに時間が取れないとかイミワカンナイ……)

 楽しみにしていらした方がおられましたら、大変申し訳ありませんでした。『アイドル大激突! チキチキ! アイドルアルティメイト!』はもう少しネタが集まってから改めて執筆したいと思います。

 そして今回のお詫びとして(本当にお詫びになるのかは別)、来週も番外編として、次回SRが配信された時に書くつもりだった楓さん編の続きを書かせていただきます。(作者がただ書きたくなっただけ説)

 今後は、このようなことが起こらないようにスケジュール管理をしっかりとしたいと思います。

 それでは、また次回。



『デレマス十七話を視聴して思った三つのこと』

・ちゃ、ちゃまだあぁぁぁ! ママって呼んでもいいですかあぁぁぁ!

・声かけ事案発生。早苗さんこっちです。

・大仙人杏様

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