それは、あり得るかもしれない可能性の話。
「……えぇ、今日はちょっと遅くなるかも。……ふふ、大丈夫よ。今日は留美さんのお家だから、心配しないで。メンバーは留美さんと早苗さんと小鳥さんよ。……えぇ、ふふ、私も愛してるわよ、アナタ」
愛しい旦那様である良太郎君との通話を終える。
先ほどの良太郎君との電話で言ったように、今日は留美さんの家に四人で集まって宅飲みをしていた。所謂女子会というやつである。四人とも女子という年齢ではないが、そこは気にするところではない。
本当ならもう少し早く終わる予定だったのだが全員の飲むペースから『予想通り』予定よりも長引きそうだったので、遅くなる旨を旦那様に連絡したのである。
ただ良太郎君も今日はジュピターの三人と居酒屋で飲んでいるらしいので、お互いに遅くなりそうだ。
私はスマートフォンを手に廊下から三人が待つリビングへと戻る。
「「「………………」」」
「……あら?」
しかし何故かリビングに戻ると三人が机に突っ伏していた。三人ともお酒には強いはずなのに、もう酔ってしまったのだろうか。
「……っ! 皆さん、今
我ながら会心の出来だと思う。
「……十点」
「あら、十点満点?」
「千点満点」
もう少しあってもいいと思うのだけど。
机に突っ伏していた三人がノロノロと顔を上げるが、何故か三人ともジト目だった。
「楓ちゃん、アンタねぇ……毎回あんな電話してるの?」
「? あんな電話って、ただ遅くなるっていう連絡じゃない」
早苗さんの言葉の意味がよく分からず首を傾げる。その意味に答えてくれたのは小鳥さんと留美さんだった。
「その連絡に入る前の長い前置きのことを言ってるんですよ」
「なんなの、あの聞いてるこっちの背中がむず痒くなってくる甘い言葉は」
マナーとして廊下に出てから電話をしていたのだが、どうやらリビングにまで聞こえてしまっていたらしい。
しかし、自分としては言うほど甘い言葉を言っていたつもりはないのだけれど。
「あーあー、これだから熱々の新婚夫婦は」
「はぁ……本当だったら、今頃私も幸太郎さんと……」
「……ふ、ふふ、まさかここに来て美優に掻っ攫われるとは思ってもいなかったわ」
自分たちの言葉でズーンと暗い影を背負う三人。
この三人は私が良太郎君と知り合う前から良太郎君の兄である幸太郎さんを巡って争う恋のライバルだったらしいのだが、その戦いは幸太郎さんが123プロの事務員である三船美優さんと結婚することで勝者不在のまま終結してしまった。その話を聞いた時は「これは酷い」と言わざるを得なかった。漁夫の利っていうレベルじゃない。
「えぇい! 思い出したらまた腹が立ってきた! 今日はトコトン飲むわよ!」
「お付き合いするピヨ!」
「楓さん! 貴方の前の棚のオレオ取ってオレオ!」
「はいはい」
苦笑しつつ私も三人の輪の中に戻り、何度目か分からない乾杯をするのだった。
「それで、ぶっちゃけ良太郎君との新婚生活はどうなんですか? もう入籍して一ヶ月以上経ちますけど」
しばらくして二本目の一升瓶が空になった辺りで、小鳥さんがそんなことを尋ねてきた。
「え? 至って普通だと思いますけど」
「その普通がどんなのか聞いてるのよ」
「生憎私たちは全員独身なんでねー」
ガジガジとスルメを齧りながら随分と自虐的な早苗さんの目は完全に座っていた。この目の座り方は酔いではなく別のことから来るそれだろう。
「お話していいのならお話するけど」
かく言う私も、少し他の人に話したくてウズウズしていた。自分が幸せの絶頂だと、他人にそれを話したがるのは世の摂理である。
「話しちゃいなさいよ。もうここまで来たら毒でも皿でも食ってやろうじゃないの」
私と良太郎君の話を毒扱いされるのは些か不本意ではあるが。
「それじゃあ、遠慮なく話させてもらうわね」
私と旦那様の
ピピピピピピ
「……ぅん……」
朝、私は目覚まし時計の電子音で目を覚ます。閉じられたカーテンの隙間から陽の光が差し込むまだ薄暗い部屋の中、腕だけを頭上に伸ばして目覚まし時計を止める。
ゆっくりと目を開くと、良太郎君の寝顔が真っ先に視界に飛び込んできた。同じマンションの一室の同じベッドの上で眠るようになってから一ヶ月以上経つが、こうして間近で良太郎君の顔を見ると未だにドキッと胸が高鳴ってしまう。普段から無表情の良太郎君だが、寝顔だけは安らかな表情を浮かべているように感じる。
このように、大抵私は良太郎君よりも早く起きる。故にこの時間だけは、私が良太郎君を独占することが出来るのだ。
「……ふふ」
寝たままで無防備な良太郎君の胸板に頬を当てる。『今日は』お互いに服を着ているので布越しではあるがしっかりと良太郎君の心臓の鼓動が聞こえてきた。トクントクンという心落ち着くリズムが、彼が確かにここにいるということを実感させてくれる。
一分ほどそのままの状態を堪能したら今度はそのまま上にズレ、良太郎君の頭を自身の胸の間に挟むようにしてギュッと抱きしめる。大きな胸が大好きな良太郎君と一緒に居続けるようになったからかどうかは分からないが、私の胸は少しずつ大きくなったような気がする。……流石に早苗さんや三浦さんほど大きくはないが、少なくとも星井さんや我那覇さんほどはあると思う。
「……んっ……」
良太郎君はやや苦しそうな反応を見せるが、そのまま抱きしめ続けるとグリグリと顔を擦り付けるように動かし始める。この甘えるような行動が愛おしくて、自然と私の頬は緩んでしまう。
十分に眠ったままの良太郎君を堪能した後、私は良太郎君を起こす。
「起きて、良太郎君」
「……ん……」
私が揺り動かすと良太郎君はゆっくりと目を開く。自身が私の胸の谷間にいることを把握してから視線を上に動かし、そこで私と良太郎君の視線が交差する。
「……おはよう、楓さん」
「ふふ、おはよう、良太郎君」
それが、私と良太郎君の朝。
今日は本当の意味で嫁となった楓さんが留美さんの家で女子会をするということで、夜の時間が空いてしまった。ならばたまにはと事務所にいたジュピターの三人と共に居酒屋へと飲みにやって来た。
冬馬と北斗さんは当然成人しているので飲酒可なのだが、翔太はまだ未成年なので飲酒は当然NG、飲み物はジュースオンリーである。未成年の居酒屋の入店はイメージが悪いのではないかとも思ったが、まぁ大事にはならないだろう、番外編だし。
四人ともトップアイドルだが個室がある居酒屋なので、全員のんびりとお酒と料理を楽しむ。
そんな中、北斗さんに俺と楓さんの新婚生活はどんな感じなのかと尋ねられた。
「――とまぁ、俺と楓さんの新婚生活の朝はそんな感じだな。っと、どうした?」
焼酎のロックをチビチビと飲みながら話をしていたら、いつの間にか三人が机に突っ伏していた。もう酔ったのか? しかしジュースしか飲んでいなかった翔太まで倒れているのは何故だ。
「……いや、りょーたろーくんの惚気話っていう時点である程度覚悟はしてたんだけど……」
「流石に独り身には効くねぇ……」
「背中がクソ痒ぃ……」
そんなことを言いながらノロノロと顔を上げる三人。個室故にいきなりの三人の奇行に周りから変な目で見られることは無かった。
「というか、楓さんは良太郎君が起きてることに気付いてないのかい?」
「間違いなく気付いてないと思いますよ。寝たふりしてますし」
寝ていると信じ切っている楓さんの行動が可愛い&胸に顔を埋めるのが気持ちいいので、一緒に暮らし始めて楓さんがそれをするようになってからずっと寝たふりを続けていた。いつかそれに気付き顔を真っ赤にして恥ずかしがる楓さんを想像すると、今からその時が楽しみで仕方がない。
内心ニヤニヤとしながら居酒屋の看板メニューであるチキン南蛮に舌鼓を打っていると、不意に北斗さんが疑問の声を上げた。
「あれ? そういえば良太郎君、結婚してからも『楓さん』って呼んでるんだね」
「あ、言われてみれば」
「そーいやそーだな」
それに翔太と冬馬も同意する。
「結婚してからは一ヶ月かも知れないけど、実際に交際してた期間はもっと長いんでしょ? だったら、もう少し砕けた呼び方になっててもいいと思うんだけど」
「あー、それなんですけどね……」
朝のスキンシップを終えて目を覚ますと、復活した日課であるランニングに俺が出かけている間に楓さんは朝食作りに取り掛かる。一人暮らし故に料理は人並みに出来ると話していた楓さんだったが、彼女は俺と結婚してからはお義母さんや我が家のリトルマミー、更には桃子さんにまで指導を仰いで改めて料理の勉強を始めたのだ。
「私自身もアイドルではあるのだけど、これからはトップアイドルの妻として、私生活の面でしっかりとサポートしたいと思ったの」
そんな楓さんが腕によりをかけて作ってくれた朝食(純和風)を向かい合って食べている時のことだった。
「ねぇ良太郎君。良太郎君は、いつまで私を『楓さん』って呼ぶの?」
ずずっとお味噌汁を飲んでいると、不意に楓さんがそんなことを尋ねてきた。
「……いつまで、と言われましても」
「私と良太郎君はもう夫婦で、伴侶で、新婚さんなのよ?」
全部同じ意味だと思うんですけど。
「それなのに、未だにさん付けで呼ばれるのは少し寂しいわ」
ほぅ、と頬に手を当てて悲しそうな顔をする楓さん。しかしモグモグとだし巻き卵を咀嚼している様子からそれほど深刻にその話題を出したわけではなさそうだ。ただの話題提供の一種だろう。
「いや……ほら、昔からの癖と言いますか、親しき仲にも礼儀ありと言いますか」
別に殺伐とした世界観のニンジャ=サンではないので敬称を付けなければスゴク・シツレイという訳ではないのだが。
なんというか、その敬称まで含めてその人のキャラみたいな。アニメや漫画のキャラの名前を呼ぶ時、無意識的にさん付けで呼んでしまうアレみたいな感じと言えば分かってもらえるのだろうか。
「別に意識的に変える必要はないと思うんですけど。今の呼び方の方がしっくりしますし」
「あら、分からないわよ。もしかしたら意外としっくりするかもしれないじゃない」
そう言うと箸を机に置いた楓さんは膝に手を置いてワクワクとした表情でじっとこちらを見てきた。
……どうやら今からその違う呼び方で呼んで欲しいらしい。
とりあえず朝食を食べ終わってからでいいんじゃないかと思ったのだが、楽しそうな楓さんを止めるのも憚られたので俺も箸を机に置いた。
では改めて……。
「楓」
「っ……!」
そう呼んだ途端、楓さんはビクリと肩を震わせ、次の瞬間その顔が真っ赤になった。
「楓?」
「……っ」
再度呼んでみると再びビクリと肩を振るわせ、今度は視線を逸らす楓さん。
(……面白い……じゃなくて、可愛い!)
「どうしたんだ楓? ちゃんと顔を見せてくれよ楓」
「りょ、良太郎君、や、やっぱり、その……」
「何だ、楓」
「……ゴメンナサイ」
怒っていたわけでもないのに謝られてしまい、結局呼び方は以後普段の生活での呼び捨てを禁止されてしまった。とりあえず珍しく恥ずかしがって顔を赤くする楓さんを見ることが出来ただけで満足です。ご馳走様でした。
……が、とある場所でのみ呼び捨てが解禁されるのだが、まぁ別にこいつらに話すようなことでもないだろう。
「それで、結局はお互いに普段通りの呼び方に収まった、ということね」
「えぇ。無理に変えなくても、お互いに自然な呼び方でいいのよ」
なんだそりゃ、と言わんばかりの早苗さんの視線を受け流しつつ、私はお猪口に注がれた日本酒をクイッと口に含む。ピリッとした辛みが、烏賊の塩辛の塩辛さに丁度良かった。
あら、塩辛の塩辛さ……。
「全然上手くないわよ」
「別に何も言ってないじゃない」
言おうとしたけど。
(はぁ……それにしても)
あの時、良太郎君から呼び捨てで呼ばれた時のことを思い返す。
成人しているとはいえ、良太郎君は私にとって年下の男の子。そんな良太郎君に真っ直ぐと私の目を見つめながら名前を呼び捨てにされた途端……何だかこう、ゾクゾクとしてしまった。気恥ずかしさと嬉しさが入り混じり、良太郎君の顔を真っ直ぐと見ることが出来なくなってしまった。
それ以降、良太郎君に対して呼び捨てを禁止してしまったが、恥ずかしながらとある場所のとあるタイミングでのみ呼び捨てにしてもらっている。……今それを言うと少々怖いことになりそうなので黙っておくが。
「休日はお二人で過ごされているんですよね?」
パリパリと落花生の殻を剥きながら小鳥さんが尋ねてくる。
「えぇ、基本的には」
「でも事務所が違うと休みを合わせづらいんじゃないですか?」
そこんとこどうなってるんですか? と小鳥さんは123プロの社長秘書兼プロデューサーの留美さんに視線を向ける。
「123プロと346プロは周藤良太郎及び周藤楓……芸名、高垣楓の両名を中心とした合同プロジェクトを進行中です。アイドル夫婦として二人でのイベントやライブを進めています。これを機にアイドルにも自由な恋愛を、という考えの一方で、他のアイドルのファンが今回と同じように受け入れてくれるのかという不安もありますが」
ふぅ、と一息つきながら答える留美さん。765プロの事務員である小鳥さんに話すには少々拙い話だったような気もするが、その話を聞いて小鳥さんがどうこうするとも思えないのでスルーする。
「んー、要するに、合同プロジェクトを進めて同じ仕事が増えたから仕事の休みを合わせやすくなったってこと?」
「簡単に言えばそうです」
なるほど、と早苗さんはぐい飲みの中身を煽った。
「そうやって作ったオフを、二人で仲睦まじく過ごしているわけですね分かります」
「そんなにいつも仲良くしてるわけじゃないですよ。良太郎君が苛めてくることだってあるんですから」
「良太郎君、今から何か見たい番組ある?」
「んー? いや、特に無いですけど。面白いのもやってないですし」
とあるオフの日の昼過ぎ。昼食後の洗い物が終わってキッチンから戻って来た良太郎君にそれを尋ねると、彼はエプロンを畳みながら首を横に振った。
「何か見たいものでもあるんですか?」
「ふふ、実は事務所の子からお勧めの映画を借りたから、今日は二人で映画鑑賞会でもしようかと思って」
私が良太郎君と結婚したと世間に公表してから、事務所内で私に話しかけてくる人が多くなった。そんな中でも特に同じアイドルの女の子が多く、やはりアイドルでありながら好きな男の人と結婚することが出来た私に対して憧れに近いものがあるのではないかと考えている。今回映画を貸してくれた子も、そういった経緯で仲良くなった女の子の一人である。
「仲の良い二人が一緒に見ると、もっと仲良くなれる映画なんですって」
「へぇ、面白そうですね。いいですよ」
良太郎君が同意してくれたので、私は早速その子から手渡された袋を開く。
「アイドルの後輩の
「……ん? 白坂小梅ちゃんって確か……」
「……『クロユリマンション』」
中から出てきたのは、ホラー映画のブルーレイだった。
「やっぱり。白坂小梅ちゃんって言ったら、霊感があることで有名なアイドルじゃないですか」
……そっとブルーレイのケースを袋に戻す。
「さ、さて良太郎君、今日は何しよっか? ちょ、ちょっとエッチなことでも――」
「ところがぎっちょん。今日の俺はそれで流されないのですよ」
パッと背後からブルーレイが入った袋を取り上げられてしまった。良太郎君が中から取り出したことで再び叫ぶ女性が印刷されたブルーレイケースが目に入ってしまい、ビクリと肩が震えてしまった。
「あ、ちょっ……!」
「へー、なかなか面白そうじゃないですか。観ましょう観ましょう」
良太郎君はブルーレイをデッキにセットすると、雰囲気作り~と鼻歌を歌いながら手早くカーテンを閉めて部屋を暗くし始めた。あっという間に部屋はテレビの液晶の明かりだけになってしまう。
「りょ、良太郎君、あ、あの、その……」
「さぁさぁ楓さん。一緒に映画鑑賞会しましょう?」
そう言いながらソファーに深く腰を掛け、やや足を開いて手招きをする良太郎君。
「……意地悪」
「さて、何のことですかね」
素知らぬ顔でとぼける良太郎君を全力で睨みつつ、私は良太郎君の足の間に体を収めるように腰を下ろした。少しでも怖さが紛れるように、良太郎君の体に出来るだけ密着させる。良太郎君も私のお腹に腕を回してギュッと抱きしめてくる。
「よし、それじゃあ再生しますよー」
そして始まってしまうホラー映画。
この時、良太郎君が体に触れてくるなどの悪戯をしてくれたら多少気が紛らわすことが出来たのだが、こういう時に限って何もしてこない良太郎君に対して内心で文句を言うのだった。
「苛めっ子だなぁ……」
「りょーたろーくんってやっぱりSだよね」
「やっぱりってなんだよやっぱりって」
いやまぁ、本人は全力で睨んでいるつもりでも涙目故に全然怖くなかった楓さんは凄く可愛かったけど。
「っと、もうこんな時間か」
スマートフォンを取り出した冬馬の言葉に腕時計を覗くと、既に時刻は十時を回ろうとしていた。
「明日も撮影があるから、そろそろお開きにしないとね」
「良太郎は明日オフだっけか?」
「おう。今回も楓さんと二人でのんびり過ごすぜ」
「僕先にお店出てタクシー捕まえとくねー」
こうしてほぼ俺と楓さんの惚気話のみだったジュピターの三人との飲み会は終了したのだった。
「ただいまー」
マンションの鍵を開け、帰宅する俺。部屋に入ると既に明かりが点いていたが、既に帰宅する旨のメールは送ってあり、楓さんからも「私も帰ります」という旨のメールが届いているので別に不審には思わなかった。
ガチャリとリビングを開けると、そこには愛おしい妻の姿が――。
「って、あれ?」
「……すー……すー……」
そこには、リビングの机に突っ伏して可愛らしい寝息を立てる楓さんの姿があった。服が出かけた時のままなので、どうやらシャワーを浴びる前に寝てしまったらしい。お酒が強い楓さんにしては珍しかった。
シャワーはともかく、このままここで寝ていたら服に皺がついてしまうし、何より風邪を引いてしまう。だからここは起こすかそのまま寝室に連れていくかのどちらかを選択するべきなのだが。
「………………」
なんとなくそのまま楓さんの横に座り、同じように机に突っ伏してみる。
顔を横に向けると、すぐ側に楓さんの寝顔。長い睫、上気した頬、瑞々しい唇。美人としか形容することが出来なかった。
「……りょーたろーくんの、いじわる……」
不意に楓さんの口からそんな言葉が紡がれた。起こしてしまったかと思ったが、どうやら寝言のようだ。果たしてどんな夢を見ているのやら。
……若干眉根がよっているところを見ると、あまり良い夢ではなさそうだ。もしかしたら以前ホラー映画を一緒に鑑賞した時のことを夢に見ているのかもしれない。
「嫌がらせるつもりはなかったんですよー?」
聞こえてはいないだろうなぁと思いつつ、楓さんの顔にかかった前髪を払う。
「でも……」
「ん?」
「……だいすき」
「……随分とベタですね」
内心苦笑しつつ、それでもこの顔の熱さはアルコールによるそれではないとハッキリと自覚した。
口付けが出来る距離にまで顔を近づけ、しかし唇は合わせずコツンと額同士を合わせる。
「俺も大好きだよ、楓」
「……ふふっ」
「ん? 楓さん、どうしたんですか? 急に笑い出して」
「新婚特有の色ボケじゃないのー」
『以前に私が寝たふりをした時のこと』を思い出して、思わずクスリと笑ってしまった。
恐らく、良太郎君はあの時私が起きていたということを知らない。
だからこれは、私のとっておきの惚気話。
私と愛しい旦那様の、幸せな日常の一片の物語。
・「ここに来て美優に掻っ攫われるとは」
まさかの美優さん大逆転ルート。こういう外史があってもいいんじゃなかろうか。
・「貴方の前の棚のオレオ取ってオレオ!」
やめてくれ、そのコラ画像は俺の腹筋に効く。
・『今日は』お互いに服を着ているので
たまに寝ぼけて脱ぐんじゃないかな(すっとぼけ)
・殺伐とした世界観のニンジャ=サン
古事記にもそう書いてある。
・無意識的にさん付けで呼んでしまうアレ
いつの間にか年上になっていても、今でもあずささんと呼んでしまうみたいなアレ。
・とある場所でのみ呼び捨てが解禁
別に書かなくても勝手に察してくれますよね(適当)
・白坂小梅
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール。
鬼太郎ヘアーの霊感少女。アニメでも武内Pに霊が憑いていないことを見抜くなど大活躍(?)
実は「リア充爆発しろ」とか言っちゃうキャラなので、楓さんにホラー映画を渡したのはちょっとした悪戯だったという裏設定。
・『クロユリマンション』
団地より視聴中のふなっしーの動きの方が怖いと思いました(震え声)
・ところがぎっちょん
調べてみたら古くから「ところがどっこいぎっちょんちょん」という言い回しがあるらしい。更に遡ると同じく藤原さんがビーストウォーズで同じ言い回しをしていたとのこと。ガンダムネタというよりはビーストウォーズネタなのか……?
・『以前に私が寝たふりをした時のこと』
無駄に叙述トリック的なものぶっこんでみた。
今回の話は現在(楓さん視点)→過去(楓さん視点)→現在(良太郎視点)→過去(良太郎視点)を交互に繰り返し、最後に現在(楓さん視点)で終わるようになっております。
というわけでお詫び的な意味合いでの楓さん編でした。以前ほどイチャイチャしてない気もしますが、テーマはのんびりなので。こういう日常生活を妄想したっていいじゃない。
これにて楓さんシリーズ三部作、完っ!
……と、思っていたのかぁ?(ブロリーボイス)
さぁて、楓さんシリーズ(子育て編)は何時頃書こうかなぁっと。
次回からはようやく本編に戻ります。
『デレマス十八話を視聴して思った三つのこと』
・冒頭うわキツ
・第四話以来のアーニャのポンポンにワイ歓喜
・バスガイド姿の紗江はん可愛いどすなぁ(幸子には目もくれず)