アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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スターライトステージ、始めた人ー(はぁーい)


Lesson90 合宿スタート! 3

 

 

 

「亜美さん、真美さん、あずささん、到着です!」

 

 アタシが部屋を出て行こうと立ち上がった丁度その時、電話をかけるために部屋を出ていた星梨花がやや興奮気味に戻って来た。

 

「えっ! やっぱナイスバディやった!? 亜美真美ちゃんはどやった!? いいボケかましとった?」

 

 そこが気になるとは流石関西人……などと考えながら、星梨花の脇を抜けて廊下に出る。

 

「あれ? 恵美さんもお電話ですか?」

 

「うん、ちょっとね~」

 

 星梨花にヒラヒラと手を振りながら昨日考え事をしていた縁側に向かった。

 

「さてと」

 

 ポケットからスマホを取り出し、電話帳からリョータローさんの番号を――。

 

 

 

「恵美ちゃん、良太郎さんに電話かしらぁ?」

 

 

 

「ひっ!?」

 

 唐突に背後からかけられた声に飛び上がってしまった。

 

「だ、だからさぁ、リョータローさん関係のことを超能力みたいに察知するのやめてよ……まゆ」

 

「うふふ」

 

 振り返ると、予想通りそこには微笑むまゆが佇んでいた。先ほどまでテレビの良太郎さんに夢中になっていたはずなのに……。

 

「良太郎さんに電話するんでしょう? なら、恵美ちゃんの後でいいから代わって欲しいの」

 

「別にいいけど……リョータローさんと話したいなら自分でかければよかったんじゃない?」

 

 態々アタシの電話に便乗しなくても。

 

「だって特に用事もないのに、しかもこんな時間に電話をかけるなんて失礼じゃない? だから、たまたま用事があって電話をかける恵美ちゃんの後にお話させてもらおうと思って」

 

 両手を合わせて小首を傾げるまゆ。いやまぁ、別に構わないんだけど……。

 

「まゆってさぁ……本当はリョータローさんのこと好きだよね?」

 

「あら恵美ちゃん。いつも言ってるじゃない」

 

 

 

 ――私のこれは『恋愛感情なんかじゃない』って……。

 

 

 

 変わらぬ笑顔のまま、まゆはそう言い切った。

 

(……うっそだぁー)

 

 とは直接口には出せず、心の中に留めておく。

 

 これ以上電話をかけるのが遅くなったらリョータローさんに迷惑になってしまう。ただでさえもうそろそろ九時を回ろうとしているのだから、急いで聞かなければ。

 

 縁側に座り、順番待ちのように横に座ったまゆを視界の隅に収めながらリョータローさんのスマホに電話をかける。

 

 二度三度とコールが続くが、なかなかリョータローさんは出ない。流石にもう寝てしまったということは無いだろうが、まだ仕事中だったのだろうか。

 

 十回目コールが鳴り、時間を置いてかけ直そうかと思ったその時、呼び出しのコールが止まった。

 

『はい、もしもーし。ディスイズリョータロースピーキーング』

 

 受話器越しに聞こえてきたのは、ガシガシという音に重なって聞こえてくるリョータローさんの声だった。

 

「こんばんはー、リョータローさん。遅くにすみません。もしかして、まだお仕事でした?」

 

『全然大丈夫だよ、もう帰ってきて今はお風呂上がり。だからちょっと頭拭きながらだけどゴメンねー』

 

 なるほど、聞こえてくるのは頭を拭く音だったのか。

 

『ちなみに上半身は裸です』

 

「そーいう情報はいらないですって!?」

 

 サラッとセクハラ発言をされ、以前見たリョータローさんの上半身を思い出してしまいカアッと顔が熱くなるのを感じた。隣で聞き耳を立てるように近寄っていたまゆもその時のことを思い出していたようでクネクネと身を捩らせていた。……ホントに恋愛感情無いの?

 

『安心して恵美ちゃん……(下は)穿いてますから』

 

「いいから上も着てください!」

 

 いくら受話器の向こうが見えないとはいえ、何となく上半身裸の男性と会話しているという事実が気恥ずかしかった。

 

 『うーん、パンツじゃないから恥ずかしくないのになー』などとよく分からないリョータローさんの独り言が遠ざかると、ゴソゴソという衣擦れの音が聞こえてきた。

 

 ……ほらまゆ、リョータローさん服着たみたいだから悶えるのやめて。

 

『はい、改めてお待たせ。それで、どうしたの? 合宿で何かあった?』

 

 何事も無かったかのように話を進めようとするリョータローさんに少しだけ苦言を呈したかったが、時間も遅いので早速本題に入る。

 

「えっと、リョータローさん、バックダンサー組の子たち覚えてます?」

 

『うん、覚えてるよ』

 

「その中にいた北沢志保っていう子、分かります?」

 

『北沢志保……あぁ、あのあんまり人に懐かない黒猫みたいな子だね』

 

 その認識の仕方に思わず納得してしまった。確かに言われてみればそんなイメージ。

 

 

 

「もしかしてなんですけど……志保って、123プロダクションのオーディションを受けてたりします?」

 

 

 

 これがアタシの思いついたことである。

 

 まず一つ。志保はリョータローさんに興味があるにも関わらず興味が無いフリをしている。これは飛行機の中や先ほどの番組視聴の際の態度からも分かる。とはいえ『実はリョータローさんのファン』だったとしても、それ自体がおかしい訳ではなく、寧ろアイドルを目指しているのだから良太郎さんに憧れていても別段不思議ではない。だがそれを隠す理由は何だろうか。

 

 次に二つ。志保はアタシやまゆに対して態度が硬い。性格的に合わないのだろうと思われるアタシはともかく、まゆはリョータローさんが関わらなければ基本的に人当たりのいい良い子である。そんなまゆに対しても似たような反応をしていたのは少しおかしい。つまりあの態度はアタシに、というよりは『123プロダクション』という肩書きに対してのものが起因しているのではないかと考えた。

 

 そして三つ。志保はプロ意識が高い。お風呂場での志保の発言もそうだし、アイドルの世界に対する甘い夢よりもシビアな現実を直視しているような気がするのだ。勿論、奈緒や百合子たちもこの世界が厳しいということは理解しているのだろうが、志保のシビアさは何か過去にあったのでは、と考えてしまうほどだ。

 

 以上のことからアタシが辿り着いたのが『志保は123プロダクションのオーディションを受けて、落ちてしまった』という結論である。これならばリョータローさんに対して変な態度を取る理由も分かるし、アタシたちに対する態度も嫉妬に似た感情から来るものだと判断できる。

 

「――ということで、リョータローさんに聞いてみたんです」

 

『………………』

 

「? リョータローさん?」

 

 受話器の向こうのリョータローさんの反応が無かった。何故か隣のまゆまで驚いた表情でアタシを見ていた。

 

『いや、なんというか……そういう考察パートは恵美ちゃんのキャラじゃないなーって思って』

 

「酷くないですか!?」

 

「ごめん恵美ちゃん、私も同じこと思ったわぁ」

 

「まゆまで!?」

 

 二人からのアタシに対する評価に愕然とする。確かに学校の成績はイマイチなのは認めるけど!

 

 むーっと唇を尖らせると、受話器の向こうから『ごめんごめん』というリョータローさんの声。

 

『えっとそれで、志保ちゃんがウチのオーディションを受けたかどうかだっただよね』

 

「はい」

 

「でも恵美ちゃん、123プロのオーディションって一万人近い応募があったのよぉ?」

 

「あ……」

 

 そういえばそうだった。しかも、多分リョータローさんが目を通す段階になる前に社長や留美さんが(ふる)いにかけているだろうし、いくら何でも……。

 

『んー、じゃあまず今回のオーディションの選考方法について順を追って説明するところから始めようか』

 

 『まゆちゃんにも教えてなかったけど、多分これ聞いてるよねー?』と前置きしてからリョータローさんは話し始めた。

 

『一応、123プロのオーディションは書類審査・一次審査・二次審査・最終審査の四段階って世間には公表してるんだけど、実は書類審査の段階で三段階の審査を行う合計六段階のオーディションだったんだよ』

 

 曰く、一万を超える履歴書を一枚一枚入念に見ていたら時間がかかって仕方がない。そこでまずリョータローさんが履歴書に張られている写真を見て一目で『ある』か『ない』かを直感で判断して仕分けをしたとのことだ。この時点で既に二割にまでザックリと絞ったらしい。

 

『あ、ちなみ『ある』か『ない』かって言っても胸の話じゃないよ?』

 

「分かってますって」

 

 もしかして、とは思ったけど。

 

「っていうか、サラッと言いましたけど……え? リョータローさん、一万枚以上の履歴書全部一人で捌いたんですか?」

 

『いやまぁ、確かに大変だったけど。一枚見るのに一秒って考えると……えっと……ご、五時間かな(小声)』

 

「どう考えても三時間ぐらいなんですけどそれは」

 

 その計算ガバガバすぎやしませんかねぇ……。

 

 ちなみに『正確には二時間四十六分四十秒ですよぉ』と隣のまゆが教えてくれた。

 

『まぁぶっ続けって訳でもなかったしね。俺が大まかに応募者を仕分けて、次に留美さん、最後に兄貴っていう順番で履歴書に目を通すのが、書類審査の流れ』

 

 要するに、一応リョータローさんは応募者全員の顔に目を通したらしい。

 

『それを前提に話すけど……少なくとも、俺は彼女の顔は見てないよ。勿論全員の顔を覚えているわけじゃないけど、もし志保ちゃんがオーディションに参加してたら少なくとも二次審査までは通ってたと思うから』

 

 その点まゆちゃんは一際輝いてたよーというリョータローさんの言葉に対して再び身を捩らせるまゆやリョータローさんの志保に対する高評価は一先ず置いておいて、どうやらアタシの『北沢志保123オーディション不合格説』は間違いだったようだ。

 

『ただ……志保ちゃん、だよね? なーんか引っかかるんだよなぁ』

 

「え?」

 

 わざわざ電話してすみませんと言おうとしたが、リョータローさんのその発言に言葉が止まる。

 

「もしかしてリョータローさん、個人的に志保に会ったことあるの?」

 

『会ったことあるよーな無いよーな……顔立ちに見覚えがあるよーな無いよーな……何か大きな出来事で記憶が消し飛んでいるよーな……』

 

 何やら曖昧な様子だった。うーん……リョータローさんと志保は昔会ったことがあったのかな?

 

「……めーぐーみーちゃーん」

 

 ゆさゆさとまゆが肩を揺すってきた。もうそろそろ代わってもらいたいのだろう。

 

「まゆが代わって欲しいらしいので、代わりますね。すみません、変なこと聞いちゃって」

 

『オッケー』

 

 まゆは喜々としてアタシのスマホを受け取ると、いつもリョータローさんの前でしているようなとろけるような表情で話し始めた。……やっぱり好きなんじゃないかなぁ。

 

(……うーん……何だろう、結論を出すには判断材料が足りないのかなぁ)

 

 隣で嬉しそうなまゆの会話を耳にしつつ、街中ではお目にすることが出来ない星空を見上げる。

 

 もしかしたら、アタシが深入りしちゃいけないようなことなのかもしれないけど……。

 

 

 

 アタシは、志保と仲良くなりたかった。

 

 

 




・恋愛感情なんかじゃない
真偽のほどは、まぁいづれ。

・『穿いてますから』
とにかく明るい良太郎。
将来これを見返した時に「あぁこの時はこういう芸人が流行ってたんだなぁ」と思い返せればいいなぁ。

・『うーん、パンツじゃないから恥ずかしくないのになー』
パンツじゃないなら見せてよ!(必死)

・懐かない黒猫みたいな子
伊織は同じく懐かない猫だけどこっちはシャムネコっぽいイメージ。

・その計算ガバガバすぎやしませんかねぇ……。
二時間とか誤差だよ誤差(biim兄貴リスペクト)



 良太郎久々の登場(声のみ) しょ、小説とか全部声のみみたいなもんだし(暴論)

 志保関連の事柄はミステリー風味に小出ししていく予定です。映画でもツンケンしてたのを自分なりの解釈を交えてオリ設定を追加して理由付けしておりますので、ちょびっと複雑な事情になっております。



 さて前書きでも触れましたが、デレステが稼働しましたね(プレイ動画を見て初めて存在を知った情報弱者)

 楓さんとか蘭子ちゃんとか欲しいなーとか思いつつ、野生で出てきたしきにゃんをhshsしながらまったり楽しんでおります。見かけたら気軽に声かけてね!



『デレマス二十一話を視聴して思った三つのこと』

・ちゃんみおまさかの路線変更

・しまむーの闇は深い……

・橘ですっ!

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