二日目の午後からのレッスンは、振付の修得度ごとに三つのグループに分かれて行われた。まだ合格ラインに達していないグループをりっちゃん、合格ラインに達してそこから細かい部分を突き詰めていくグループを冬馬と俺が担当することに。
というわけで俺は美希ちゃん、響ちゃん、真ちゃんのダンス得意組及び恵美ちゃん、まゆちゃんのバックダンサー組の中でも既に上位の五人を纏めて見ることになった。
「というわけで始めるけど、みんな準備いいかな?」
「勿論なの!」
「いつでもいいぞ!」
「へっへーん! 成長した僕たちを見せてあげますよ!」
「お、お手柔らかにお願いしますね?」
「よろしくお願いしまぁす、良太郎さん」
よーし、それじゃあ張り切っていこう!
「……きゅぅ~……」
「……もう動けないぞ……」
「……周藤良太郎には勝てなかったよ……」
「……お手柔らかにって言ったのに……」
「……ふ、ふふふ、良太郎さんの激しい扱き……」
なんか目を離している内に、良太郎が面倒を見ていた五人が即
ふと時計を見上げると時刻は二時半。一時間以上ぶっ続けだったみたいなので、ここで全体休憩と相成った。
秋月の号令で全員が休憩に入り、俺も先ほど手渡されたスポーツドリンクの残りを一気に呷る。
「ふぅ……」
「………………」
「……何だよ」
ふと視線に気付いて振り返ると、先ほどまで俺が面倒を見ていたグループの一人である水瀬伊織がジト目でこちらを睨んでいた。
少々好戦的な性格ではあるが、別にこいつに睨まれるようなことに……いやまぁ、身に覚えはあるが。しかし961プロ時代に竜宮小町の仕事を奪ってしまったことに関しては以前全員で謝罪をして和解をしたはずなのだが。
問いかけると、水瀬伊織はふんっと鼻息荒くそっぽを向いた。
「別に。……ダンスの精度が上がってるって思っただけよ」
そう言い残して水瀬伊織は行ってしまった。
「……えっと」
今のは、褒められた……のか?
「ふふ、伊織、あんな態度ですけど天ヶ瀬さんのことを目標だと思ってるんですよ」
「へ?」
そんなことを言いながら天海春香がクスクスと笑っていた。
「去年は色々あってジュピターの皆さんのことを敵視していたみたいなんですけど……今はそのわだかまりも無くなって、良太郎さんの前に倒すべき相手だって」
「さっきも『今は素直に教わる側に甘んじといてあげるけど、いつか見てなさい』って息巻いてましたよ」と天海春香は語ってくれた。
「……そうか」
正直なところ、961プロを抜けて一時期低迷していたことがある俺たちと比べると右肩上がりを続ける竜宮小町でそれほど差はないと思っていた。しかし、当の竜宮小町のリーダーである水瀬伊織が……嫌がらせをして良い感情を持っていないはずの俺たちを認めてくれているということに、少し胸がジンとした。本来ならば未だに低迷を続けていたはずの俺たちを拾い上げてくれた幸太郎さんたちへ改めて感謝したい。
……良太郎だけには絶対に感謝してやらねーけど。
「……そうだ天海春香、さっきの振付なんだけど」
「あ、はい」
少々気になったことがあったので注意点を告げようとすると。
「春香、外へ休憩に行きましょ」
「え? ち、千早ちゃん」
突然現れた如月千早が天海春香の腕を引っ張って行ってしまった。
「え、ちょ、あ、天ヶ瀬さんのアドバイスが……」
「ダメよ春香。そんなふしだらなことお姉さんは許した覚えありませんよ」
「ふしだらって何っ!?」
何やら随分と不名誉な印象を持たれてしまっているようだったが、それを訂正する暇無く二人はいなくなってしまった。
一体何事かと考え、去年の年忘れライブにて良太郎が天海春香みたいな女の子が俺のタイプだとぬかしたことが原因だと思い当たった。そう言えばあの時も隣にいた如月千早に睨まれたんだった。
……やはり良太郎には感謝どころか、文句を言っても許されると思う。
先ほど春香ちゃんと冬馬が話してたかと思うと、その春香ちゃんが千早ちゃんに連れていかれた途端に冬馬が突然無言で殴りかかって来たので小手返しでひっくり返す。
「おいおい、いくら好みの女の子とのお喋りが中断させられたからって八つ当たりは良くないんじゃないか」
「うっせえ! おめーのそういう無責任な発言のせいで何人が迷惑を被ってると思ってんだ!」
「おっと、これは口の悪い後輩に対する教育的指導をせねばなるまい」
「ぬぐわぁあああ!?」
そのまま流れるように四の字固めに移行して冬馬の左脛にダメージを与える。
ふはははっ、馬鹿め! 高町道場で散々扱かれた上に、無駄に腕の立つ級友たちにアイドルとか関係無くプロレス技をかけられ続けた俺に勝てると思っているのか! ……あれ、何だろう、汗が目に染みて痛いや。
「ねーねー! りょーたろーさん!」
「ん?」
美希ちゃんが膝に手を突くようにして前屈みになりながら俺の顔を覗き込んでくる。その両腕によって美希ちゃんの大乳が挟みこまれる形になっていて大変素晴らしい光景が頭上に広がっていた。
「外でミキたちと遊ぼっ? デコちゃんたちと水鉄砲持ってきたの!」
「オッケー。でもその前にやることがあるから先に――」
「隙ありぃ!」
そろそろ解放してやろうかと足の力を緩めた隙を見事に突かれ(美希ちゃんの胸に目を奪われていたからでは断じてない)、冬馬に体勢をひっくり返されてうつ伏せになってしまった。
「いだだだだだっ!?」
途端に俺の足に激痛が走る。本来ならばひっくり返されても痛くないようにかけるのが正しい四の字固めだったのだが、どうやら決まり方が甘かったらしい。
「良い子のみんなはこういうことが起こらないように正しい四の字固めやり方をマスタぁああああっ!?」
「りょーたろーさんっ!?」
「積年の恨みぃぃぃ!」
「……あのバカ二人は何をやってんだか」
「ま、まぁまぁ、あれが男子のノリって奴だよ」
仰向けに返し返した俺と再び悲鳴を上げる冬馬を見ながら、りっちゃんは溜息を吐き赤羽根さんは苦笑するのだった。
結局俺と冬馬の下らないやり取りは、りっちゃんから両成敗という形でお叱りを受けることで終結することになった。
「えーい!」
「くらえー!」
私と千早ちゃん真、雪歩の四人で外にある手押しポンプ式の井戸の水で涼んでいると、運動場の裏側からキャッキャッとはしゃぐ真美たちの声が聞こえた。
覗いてみると、亜美真美と伊織、響、そして美希の五人が水鉄砲を使って遊んでいた。私たちも体力にはまだ余裕があるが、随分と元気だなぁと思わず他人事のように思ってしまった。
「やーん! デコちゃん、ミキばっかり狙わないでなのー!」
特に美希は先ほどまでへばっていたというのに、そんなそぶりを全く見せずにはしゃいでいた。
「いおりんはミキミキが羨ましいんだよー!」
「一人だけハリウッドに行っちゃうしねー!」
「なっ!? そ、そんなじゃないわよ!」
亜美と真美のからかうような言葉に、伊織は顔を赤くしながら否定する。しかし初めて美希のハリウッドデビューが決まった時、少々羨ましそうな目で睨んでいたから多分図星なのだろう。勿論、ハリウッドに行くだけなら伊織なら簡単だろう。しかし、業界の人間の言う『ハリウッドに行く』という意味合いは少々異なるのは全員が認識している。
「……そっか。今回のアリーナライブが終わったら、美希と千早は外国に行っちゃうんだよなー」
「「「「………………」」」」
さぁっと風が通り抜ける。
響は本当に何気なくその言葉を呟いたのだろう。現にその直後には亜美によって顔面に水をかけられて、怒った響は亜美を追いかけて行ってしまった。
しかし、私たち四人は思わず黙ってしまった。
美希と千早ちゃんが、外国に行く。
事務所に入った当初から一緒にいた仲間が、遠い海外の地へ行ってしまう。
その事実を頭では当に理解していたのだが、それでもその『実感』は私たちの何処にも無かった。
――ガチャ。
「で? どうです? 赤羽根さんも歌とか」
「い、いやぁ、俺は別に……」
宙に浮いてしまっていたような気がする私たちの意識は、そんな男性二人の声によって地面に降りてきた。
その声は、運動場の裏口から出てきたプロデューサーさんと良太郎さんだった。
「って、お? 水浴びか、気持ちよさそう……だ、な……」
プロデューサーさんの声が尻すぼみに消えていく。
(あ……)
何事かと思ったが、その理由はすぐに分かった。
伊織たちは休憩時間を利用して水鉄砲で遊び始めた。当然先ほどまでの格好から着替えているわけがないし、そもそもこの時期に上着なんて羽織るはずもない。
何を言いたいのかというと、五人はTシャツのまま水鉄砲で遊んでいたということだ。
Tシャツが濡れれば、当然薄い生地故に中に着ているものが空けて見えてしまう訳で……。
「「「「っ……!?」」」」
それに気付いた途端、カァッと亜美以外の四人の顔が真っ赤になった。頭のいい伊織もそうだが、先ほど良太郎さんを水浴びに誘っていた美希も気付いていなかったらしい。
さてこの状況をどうするのだろうと完全に傍観者的視点でプロデューサーさんと良太郎さんに視線を向ける。
プロデューサーさんは顔を赤くして視線を逸らしながらもチラチラと見ており、良太郎さんは視線を逸らすことすらせずにおもむろにサムズアップをしたかと思うと――。
「真に良きものをお目にかからせていただき大変幸せに候っ!」
「変態っ!
全く躊躇せずにそう言い切った良太郎さんに、涙目の伊織が水をかけるのだった。
「……へんたいたーれんってどういう意味なんだろ」
「さぁ……?」
「くっ……(美希と響の胸元を見つつ)」
「ち、千早ちゃん、目が怖いよ……?」
おまけ『ラブライブ編第一話(仮)』
「『ラブライブ』?」
それは、兄貴が持ってきた一本の仕事の話が始まりだった。
「って何ぞや」
「今、中高生の間で『スクールアイドル』が流行ってるのは知ってるだろ?」
「まぁな」
寧ろアイドルやっててそれ知らないのは色々と問題あるし。
スクールアイドルとは文字通り
「そのスクールアイドルの一番を決めようっていう大会が開かれることになったんだよ。それが『ラブライブ』だ」
「ふーん」
俺たちプロのアイドルをプロ野球選手、スクールアイドルを高校球児とすると、ラブライブは要するにアイドル甲子園ってことかな。
「それで? 高校を卒業してかれこれ数年経つ俺には関係無いと思うんだけど」
「誰も出場しろとは言わないさ」
何でもテレビ局が数個の高校に絞ってそのラブライブを題材にしたドキュメンタリー番組を作成したいらしく、俺がそのリポーター役の一人として抜擢されたらしい。
「なるほど、よくある『○○高校の軌跡を追った』とかそういう感じのやつだな」
「よくあるとか言うな」
とりあえず概要は把握した。
しかしスクールアイドルって女の子ばっかりだったはずなのだが、普通男の俺をキャスティングするか……? いやまぁ別に俺は問題ないからいいんだけど。
「ちなみに他のリポーター役は?」
「1054の麗華ちゃんとか、765の春香ちゃんとかに話が行ってるらしい。あと346の卯月ちゃんに、876の愛ちゃん」
「うーんこの」
なんだろう、この予定調和染みた知り合いだらけのキャスティングは。というか男俺一人だし。
「それでだ。テレビ局側は注目する高校をリポーター役のアイドル自ら選んでほしいらしくてな。これ出場予定の高校の資料」
そう言いながら兄貴は机の上にドサッと厚い紙の束を積み上げた。
「……おいまさか」
「頑張れ」
頑張れじゃねーって。確かにまゆちゃん選抜した時よりは紙の枚数が少ないけども。
「これとかどうよ」
「おい今お前適当に選んだろ」
真ん中辺りから引き抜いた資料を高々と掲げ上げたのだが、案の定咎められてしまった。
仕方がない、真面目にやるか――。
「――って、お?」
その資料に書かれていた高校の名前に見覚えがあった。
「これ母さんの母校じゃん」
「何?」
兄貴も食い付いて俺の手元覗き込んでくる。
学校の名前は『音ノ木坂女学院』。そこそこの歴史がある母さんの出身校だった。
「確か廃校寸前で『学校が無くなっちゃうよー! どうしよー!』とか母さんが嘆いてたっけ」
ひーんっ! と涙を流すリトルマミーの姿を思い出す。
「そう言えば、知り合いの子で何人かここに通ってる子がいたっけ……」
そっか、ここにもスクールアイドルがいたのか……。
……よし。
「ここに決めた」
多分、適当に引き抜いた資料がここの高校のものだったのも何かの縁なのだろう。
俺がリポーターとして向かう高校は、ここに決めた。
日本の頂点に立った
廃校を避けるために頑張る
物語はこうして交わり始める……かもしれない(未確定)
・即○ち2コマシリーズ
3クリックさんよりはマシなんじゃないですかねぇ(指摘)
・天ヶ瀬さんのことを目標
アニメ本編は別として、この作品では未だに実力ではジュピターの方が上だという設定になっております。魔改造もされてるし、多少はね?
・「ダメよ春香」
過保護なちーちゃんの目が黒い内は冬×春は許されない(ないとは言っていない)
・小手返しからの四の字固め
相手が強くなければこれぐらいは軽い良太郎。なお返されている模様。
・「赤羽根さんも歌とか」
コブクロP
・変態四段活用
変態
・おまけ『ラブライブ編第一話(仮)』
ラブライブ編のことを感想で触れられたのでちょっと書いてみた。実際にこうなるかどうかどころか本当に書くのかどうかすら未定。
ちなみにさらっとしまむーの名前が出てたけど、あえて触れない。
デレマスが終わったことによる虚無感が拭えない月曜日でした。
濡れ透け伊織&美希に劇場で思わずガッツポーズをした諸兄は作者だけじゃないと信じている。
『どうでもいいわけじゃないけど小話』
「Mマスとかw乙女ゲーじゃないんだからw」( ^Д^)σ
↓(作者楽曲視聴中)
「なんだ名曲揃いじゃないか……(恍惚)」(*゜Д゜)
・結論『食わず嫌いは良くない』