アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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今年の更新が今回を含めてあと二回で、ちょうどこの話が終わったら新年ということに今更気が付いた。これはまた新年の番外編を書かねば。

……え? その前にイベントがある? ……作者の手帳には、日曜と祝日以外は仕事以外に何も書かれていませんね。


Lesson102 少女はその高さを知っていた 3

 

 

 

 それは、去年のクリスマス前の出来事である。

 

 月村のクリスマスプレゼント選びを手伝ってくれと頼まれた俺は恭也と共に街へと繰り出した。途中、春香ちゃんと千早ちゃんとあずささん三人と偶然出会い、五人で街を歩く。そんな最中、突風に飛ばされた帽子を追いかけて一人の男の子が道路に飛び出した。あわや大惨事というところだったが、寸前で駆け出した恭也が男の子を助け出して難を逃れた。

 

 その後、突然千早ちゃんが過呼吸になって蹲るというハプニングがあったため俺たちは恭也を残してその場を去ったのだったが、詳しくは『Lesson65 俺がアイドルになったワケ 2』を参照にしてもらおう。

 

 

 

「お前たちが去った後にその子が来てな。母親と揃ってお礼がしたいと言われたのだが、お前たちのことも気がかりだったから名乗っただけで俺もその場を離れたんだ」

 

「まさかあの後でそんなことが起こっていたとはな……」

 

 あの時は千早ちゃんのことで手一杯だったってのもあるし、俺たちがいなくなった後ならなおさら知る由もないわな。

 

 だがこれで合点がいった。志保ちゃんからしてみれば恭也は弟の命の恩人なのだ。偶然同姓同名だったとしても、その恩人の名前を騙る飄々とした人物が目の前に現れたらそりゃイラつきもするか。

 

 というか、結局とどのつまり恭也の女性関係だったってことじゃないかいい加減にしろ!

 

「それで? その子がどうかしたの?」

 

 いつの間にか俺と恭也の会話を聞いていた月村がそう尋ねてくる。月村がこちらの会話に参加するということは、それまで月村と会話をしていたりんの意識もこちらに向くということなのだが、今回は純粋にこちらの話の興味があったのか特に不機嫌な様子は見られなかった。

 

「いやそれがな――」

 

 まぁ別段隠すようなことでもないかと、千早ちゃん関連のことを除いたクリスマス前の出来事を含めて志保ちゃんに敵意を向けられていたことを簡単に説明する。

 

「いやまぁなんというか……」

 

「偶然といえば偶然……なのかなぁ?」

 

 案の上月村は苦笑し、りんはうーんと首を捻った。

 

「……なぁ良太郎、一つ確認したいことがあるんだがいいか?」

 

「ん? なんだ?」

 

 何故か俯いたままの恭也の表情は見えないが、なんか声が一オクターブ低いような気がした。

 

「お前は、そのバックダンサーの子たちとの初対面時に俺の名前を使ったんだな?」

 

「おう、流石に『周藤良太郎』を名乗るのもあれだと思ってな。貸してもらったぜ」

 

 そうか……と呟きながら恭也は顔を上げた。

 

「それじゃあ、使用料をもらわないとな」

 

「は? ……って、あっぶねぇー!?」

 

 何の前触れもなく恭也が俺の脳天に目がけて金属トレイが振り下ろしてきた。あわやというところで白刃どることが出来たが、トレイは前髪に触れていた。あと一瞬反応が遅かったら直撃だった。これを受け止めることが出来た理由の七割は恭也がそれなりに手加減したからで、二割は偶然。残りの一割はたまたま昨日の晩に惑星クバーサを救っていたおかげだろう。

 

「な、何をするだぁー!?」

 

「お前が俺の名前を名乗ったせいでこっちは大変な目にあったんだぞ!?」

 

 体重を乗せつつ力を込めてくる恭也。当然腕のみで抵抗できるはずもなく既にトレイは額に付いており、後ろに仰け反る形でギリギリと押し切られつつある。

 

 ちなみにこれだけ騒いでいるものの、常連さんからすると俺と恭也のこんな感じのやり取りは日常茶飯事なので気にしたそぶりは無かった。色々な意味で訓練されすぎてるなここの常連……。

 

 結局何で恭也がこんなにキレているのか分からず、かといってその理由を考えている余裕も無いのだが、代わりに月村が事情を説明してくれた。

 

「周藤君、そのバックダンサーの子たちの中に佐竹美奈子さんっていたんじゃない?」

 

「いるな」

 

 一旦引いて改めて振り下ろされたトレイには流石に対応できず、直撃しておそらく真っ赤になっているであろう額をりんに「大丈夫?」と摩られつつ黒髪ポニーテールの少女の顔を思い出す。

 

「実は私達、ドイツから帰ってきたその日についでに外食でもしようってことになって、前々から評判を聞いていた『佐竹飯店』っていう中華料理屋に行ってみたのよ」

 

 あー、そういえば美奈子ちゃん、実家が中華料理屋って言ってたっけ。

 

「そこで私たちの会話で高町恭也だって知ったお店の人が『娘から話は聞いてるよ!』って言ってサービスしてくれたんだけど……」

 

「え、よかったじゃん」

 

「……料理が全部十人前になって出てくるとは思っていなかったわ」

 

「……ふぁっ!?」

 

 え、何それ怖い。サービスっていうレベルじゃねぇ。

 

 ……あ、分かった二人以外にも半透明な人が沢山憑いてきていてその人たちの分も含まれてたとかそういうオチかな? やばいわーこれは霊ですわー小学校の頃にお世話になった鵺野先生呼ばねば。あ、そういえば九州に転勤したんだった。

 

「料理はどれも美味しかったからいいんだけど……後半になってから響いてきて、最後にデザートとして杏仁豆腐十人前と胡麻団子十人前が出てきたところから記憶は無いわ……」

 

 そ、それでお値段据え置きとか素晴らしいサービスですね!(白目)

 

 「美味しかったけど油が……」や「美味しかったけど胸やけが……」という月村の話を聞いて若干食欲が失せつつあるものの士郎さんが作ってくれたクラブハウスサンドを一口齧り……。

 

(……あれ、結局俺と志保ちゃんとの直接的な関係の問題は何も解決してないな)

 

 もっと根本的なことがあったことを思い出した。

 

 確かに初対面時に睨まれたのは俺が高町恭也の名前を騙ったからなのだろうが……正体を明かした後に握手を弾かれるぐらいには周藤良太郎に嫌悪感を持っていたはずである。いやまぁ、単純に前者の延長線上の行動っていう考えもあるのだが。

 

 

 

 あの時、一瞬志保ちゃんの瞳に浮かんだ『敵意』が、どうしても頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

『………………』

 

(うーん、ガチガチだなぁ……)

 

 パイプ椅子に座りこみ、閉じた膝の上に拳を乗せた姿勢でバックダンサー組全員が固まっている様子に思わず苦笑してしまう。

 

 今日は私と千早ちゃん、そしてあずささんの三人で行うミニライブの日である。アリーナライブの宣伝を目的とした今回のミニライブは都心に近い複合商業施設内で行われるので家族や友達など訪れる人は多く、先ほどチラリとステージを見に行ったが予想通り多くの人たちが既に私たちのライブの始まりを待っていた。

 

 そこでバックダンサーのみんなは初めて人前で踊るわけなのだが……先ほど述べたように、全員が緊張しきっていた。イベントのMCとして大勢の人前に立ったことがある恵美ちゃんやまゆちゃんも同じように緊張しているのが少し意外だった。

 

「あらあら、みんなそんなに緊張しなくていいのよ?」

 

 リラックスしましょう? と控室に備え付けられたポットでお茶を淹れるあずささんが声をかける。

 

「や、そ、そーは言われましても……」

 

「振り付けを忘れないようにと頭の中で反芻していると否応がなしに緊張してきちゃうというか……」

 

「うぅ……ステージの前、お客さん沢山いた……」

 

「覗くんじゃなかった……」

 

 うーん、私も昔はこんな感じだったなぁ~と思わず懐かしんでしまう。

 

「……そ、そうだ! 春香さんたちの初ステージはどんな感じだったんですか!?」

 

「え?」

 

 唐突に恵美ちゃんがそんなことを尋ねてきた。いつもの恵美ちゃんの声と比べてやや上ずっていたような気がする。多分、話題を変えて今のこの雰囲気をどうにかしようと思ったのだろう。

 

「うーん、そうだなぁ……」

 

 話題が逸れてみんなの緊張が解れるならばと考え、少し昔のことを思い返す。

 

「私たち765プロのアイドルは殆ど同時期に事務所に入った全員同期みたいなものだから、先輩って呼べる人はいなかったの。だから私たちの場合こういう先輩のバックダンサーをするっていう経験も無くて、自分のデビューの時がそのまま初ステージだったんだ」

 

 思い出すのは、ここよりも小さなデパートの特設会場。私も今のバックダンサー組のみんなのようにガチガチに緊張していて、それでもついに憧れのアイドルとしてステージに立てると浮足立っていて、そして勢いよくステージの上に駆け上がり……。

 

「………………」

 

「……春香さん?」

 

「え、えっと~……」

 

「春香ちゃん、ステージに上がろうとして派手に転んだのよね~」

 

「ちょ、あずささん!?」

 

 言葉を濁そうとした途端、あずささんにアッサリと暴露されてしまった。あずささん本人としては昔を懐かしんでの裏の無いお言葉なのだろうが、自分の黒歴史をあっさり暴露された側としてはたまったものではない。

 

「そ、そうなんですか?」

 

「えぇ。『へぶっ!?』って言いながらそれはもう綺麗に」

 

 「顔面からビッターンと」と本当に悪意はないのかと若干疑問に思ってしまうぐらいあずささんは詳細に答える。

 

 私もその時のことを思い出してしまい、あれが私のアイドル人生での初コケだったのかなぁと若干現実逃避めいたことを考えてしまった。

 

「それは……何というか……」

 

「その……大変でしたね……」

 

 バックダンサー組のみんなは気を遣って言葉を選んでくれたみたいだが「あぁ最初からそんな感じだったんだなぁ」と言わんばかりの生暖かい視線がすごく恥ずかしかった。

 

「でも春香は今でもたまにステージの上で転ぶじゃない」

 

「千早ちゃん今はそういうことを言ってるんじゃないの!」

 

 本当に最近千早ちゃんが明け透けにものを言ってくるようになったような気がする。遠慮が無くなり気心が知れた仲になれたと喜ばしい反面、千早ちゃんってこんなキャラだったのかぁと少々残念な気分になった。

 

「……ふふっ」

 

 ん? と思って視線を横に向けると、私たちのやり取りを見てバックダンサー組のみんなが笑っていた。志保ちゃんは相変わらず硬い表情のままだったが、それでも身体の強張りは無くなっているように見えた。

 

 少々複雑な気分ではあるが、今のでみんなの緊張が解れたのならば良しとしよう。

 

「スタンバイお願いしまーす!」

 

「はーい!」

 

 私たちを呼びに来たスタッフさんに返事をしつつ、立ち上がる。

 

「それじゃあみんな、本番だよ! リラックスしていこう!」

 

『はい!』

 

 明るいいい返事のバックダンサー組の返事に頷きつつ、私たちは控室を出ていくのだった。

 

 

 




・惑星クバーサを救っていたおかげ
ボス戦という名のミニゲーム。作者は何度も真っ二つにされました(全ギレ)

・料理が全部十人前
※『ちょっと』大盛りになった『二人前』です。

・鵺野先生
教職に就きつつ十六歳と結婚した若干犯罪臭い先生。
なおNEOは読んでいない。

・春香さん初ステージ
オリジナル設定だけど、間違いなくこんな感じだったはずだという自信がある。

・今週のちーちゃん
覚醒して色々と吹っ切れたちーちゃん。この小説ではこんな感じになりました。



 志保ちゃん関連の事柄はもうちょい引っ張ります。ある意味第三章最大の問題ですから。

 次回、修羅場注意。

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