アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

133 / 556
春の番外編祭り! 1/3

ついにこの人の出番です。


番外編19 もし○○と恋仲だったら 7

 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

 水平線の向こうに夕日が沈んでいく。空は太陽によって青から橙色のグラデーションに彩られ、海は赤く染め上げられていた。

 

「……綺麗だな……」

 

 海岸でそんな光景を眺める俺のその呟きに、隣に立つ彼女は俺の肩に頭を乗せながら「えぇ、貴方と一緒だから」と返してくれた。

 

「俺も貴女と一緒にこんな光景が見れて幸せです」

 

 ギュッと彼女の手を握りしめると、彼女からもキュッと握り返された。それは極々自然な動作で、俺と彼女の中では既に日常の一部分だった。彼女が何処にもいかないように、彼女を俺の横に繋ぎ止めるように、二度と彼女が離れていってしまわないように。

 

 ……いや割と切実に。

 

 

 

(……さてと)

 

 目の前の光景も、隣にいる女性とこういうシチュエーションになっていることも、体を寄せ合っていることで彼女の柔らかな身体と密着していることも、何処をとっても不満は無いのだが、それでも『解決していない現実』と『どうにかしなければならない現状』に向き合うことにしよう。

 

 聡明な諸兄はお気づきだとは思うが、念のためお手数だが今一度自分のモノローグを見返してほしい。

 

『水平線の向こうに夕日が沈んでいく』

 

 この世の自然の摂理的に考えて、西から昇った太陽が東に沈んでいくのはバカボンのパパ的な意味以外にはありえない。

 

 つまり今俺たちは『日本海』にいるのだ。

 

「……えらい遠出になったなぁ……」

 

 どうしてこうなったと改めて思い返す。

 

 完全オフの今日は朝から彼女と車でデートだったが、お昼を食べ終えた辺りで少し眠気がやって来た。この状況で車の運転は流石に不味いと考えていると、彼女が代わりに運転をすると申し出てくれた。

 

 男として少々情けないと思いつつも彼女の優しさに甘え、運転席を彼女に譲り俺は助手席に体を収めた。

 

 目的地は既にカーナビに登録されているのであとはその通りに運転するだけで良かったため、車を走らせて程なくして俺は夢の中へと旅立っていった。

 

 

 

 ……そして目が覚めたらそこは日本海だった。

 

 

 

「ほ、本当にごめんなさいね、良太郎君……」

 

「……いえ、いいんです。誰の責任でもありませんし、普通にドライブだったということにしましょう」

 

 しいて言うなら、彼女の悪癖とその悪癖を知っていながらハンドルを任せてしまった俺に責任があるのだろう。

 

 ……どちらかというと、普段は運転に集中してあまり見ることが出来ない彼女のπ/をマジマジと見たかったという下心があった分、俺の責任の割合が多い気もする。結局すぐに寝てしまったため見れなかったけど。

 

 どちらにせよ、最初からどちらの責任などという話をするつもりは無いので、気にする必要は無いと申し訳なさそうに目を伏せる俺の恋人――三浦あずさの頭を撫でるのだった。

 

 

 

「さてと……それじゃあ帰りますか」

 

 綺麗な夕焼けは十分堪能したので、そろそろ行こうかと車に乗り込む。今度はキチンと俺が運転席である。

 

「えっと、帰宅予定時刻はっと……」

 

 ピッピッとカーナビを操作して自宅に到着するまでの時間を調べると、どうやら結構夜遅くになるようだった。まぁあずささんも明日までオフだから帰るのが遅くなっても明日に影響することもないか。俺は普通に仕事があるけど、お昼からだから十分間に合うだろ。

 

「……あ……」

 

「ん? どうかしましたか?」

 

 それじゃあ早速出発しようとしたところであずささんが何かを言いたげにサイドブレーキを上げようとした俺の左手に触れた。

 

「あ、えっと、その……りょ、良太郎君は明日仕事なのよね?」

 

「? はい、お昼からですけど」

 

 一応話してあったと思うのだが、どうして今それを再確認したのだろうか。

 

「……あ、あのね……良太郎君が良かったらでいいんだけど……」

 

 

 

 ――今晩、お泊りしていかない?

 

 

 

 躊躇いがちに、けれど左手に自身の手を重ねたまま、あずささんは上目遣いでそう言った。

 

「っ……!」

 

 なんかもう脊髄反射的に肯定しそうになったが、踏み止まったのは果たして何の力が働いたからなのか。多分良心の呵責(ジ○ニークリケット)が手にした傘で俺の邪な心を引っ叩いてくれたのだろう。随分暴力的なコオロギがいたもんである。

 

 いや、別に最愛の彼女とのお泊りが嫌なわけではない。愛する女性と少しでも長く一緒にいたいという願望は当然俺にだってある。

 

 金銭的な問題はトップアイドル二人にあるはずもなく、年齢的な問題もお互い成人(いいおとな)だ。時間的な問題も彼女はオフで俺も午前中に帰ればいいので問題とはなりえない。恐らく今の状況で一番ネックになるであろう熱愛報道(パパラッチ)的な問題は……まぁ今は触れない方向で行こう。きっとこう、神様の意志的な何かできっと大丈夫だろう。

 

 思わず躊躇してしまった理由があるとするならば……彼女と交際を始めてから半年ほど経つのだが、未だに『そういう経験』が無いことだろうか。『そういう経験』がどういう経験なのかは各々のご想像にお任せするが、どちらにせよ清い交際であることには変わりない。

 

 はてさてどうしたものかと悩み始めた俺の思考は――。

 

「ご、ごめんなさい、やっぱり気にしないで――」

 

「……それじゃあ、何処か泊まれる場所を探しましょうか」

 

 ――すぐに中断され、俺はサイドブレーキを下ろさずに再びカーナビを操作して近くの宿を探すことにした。

 

「――え? で、でも……」

 

「俺が今晩あずささんと一緒にいたいって思ったんです」

 

 その言葉に偽りはないが、それ以上に――。

 

 

 

 ――少しだけ震えていたあずささんの右手を振りほどけそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 さて、ここで高級ホテルとか粋な温泉旅館とか、そういった類の宿を抑えることが出来れば話として恰好が付くのだが、現実はいつだって「これがリアルだから」と当たり前のことを思い知らされた。

 

「なんかすみません、こんなところで」

 

 物語のように都合よく当日の宿が空いているというところは意外に無く、結局部屋が取れたのは何の変哲もないビジネスホテルだった。それも二人用を一室のみ。

 

「ううん、私は全然気にしてないわよ?」

 

 実はビジネスホテルに泊まるのは初めてだったりするの、とあずささんは朗らかに笑いながらベッドの上に倒れこんだ。ギシリとベッドのスプリングで彼女の体が押し返され、重量感溢れる膨らみがユサリと揺れるのをしかと目撃した。

 

 ちなみにどうでもいいかもしれないが、未だに俺はその膨らみに触れたことは無いということを一応補足しておく。いや勿論俺だって触れたいことには触れたいのだが……こうなんというか、きっかけが無いというか、彼女とはいえ躊躇してしまうというか。多分「恐れ多い」という表現が一番適している気がする。

 

 そもそもタグに『おっぱい』を登録して百話以上も本編が続いているにも関わらず一回もそーいうイベントが無いというのはどーいうことなのかと小一時間以下省略。

 

 一先ず潮風で若干べた付く体を洗うために交代でシャワーを浴びることにした。ちなみにこういう時に定番の台詞である「先にシャワーを浴びて来いよ」は若干緊張していたが故に頭から飛んでいた。

 

 あずささんが先にシャワーを浴びている間、俺はホテルの隣のコンビニへと買い出しに向かう。夕飯はここに来るまでに既に終えているので、どうせ呑むだろうなとアルコール類と適当にツマミを購入して部屋に戻る。

 

「あら、良太郎君お帰りなさい」

 

 部屋に戻ると、そこには風呂上がりで肌がほんのり赤く上気した浴衣姿のあずささんがいた。ビジネスホテルに備え付けられている安物とはいえ、あずささんが着るとえも言われぬ色気を醸し出す辺りが流石である。

 

「それじゃあ次は俺がシャワー浴びてきますんで、あずささんはお好きに呑んでてください」

 

 コンビニの袋をあずささんに手渡し、すぐに出ますのでと言い残して俺はシャワーを浴びに行くのだった。

 

 

 

「………………」

 

 カシュッ

 

 

 

 とはいえ所詮男のシャワーである。いくら時間をかけたところで精々十五分そこらだ。早々に体を洗い終え、着替えの浴衣を着て頭を拭きながら浴室を出る。

 

「あずささん、お待たせしました……って」

 

「うふふ~。ごめんなさいね良太郎君、お先にいただいちゃったぁ~」

 

 ベッドに腰をかけてチューハイの缶を片手にあずささんは普段以上にうふふと笑っていた。わー、アルコールが入って暑くなったのか大きく広げられた胸元が色っぽーい……じゃなくて。

 

「いや、お好きに飲んでてくださいって言ったのは俺なので別にいいんですけど……」

 

 いくらなんでも酔うのが早すぎる気がする。

 

 あずささんの足元に転がる空き缶を拾い集めながら、一体どうして……と考えたところでそれに気づいた。

 

「……あれ? もしかして……」

 

 いちにーさんし、と空き缶を数え、そしてあずささんがたった今しがた手放した空き缶と新たにプルタブを引き起こした缶の数を合わせる。

 

「あずささん全部飲んだんですかっ!?」

 

 なんとあずささんは俺の分まで飲み干してしまっていた。お互いに呑む方なのでそこそこの量を買ってきていたのにそれを全て飲んでしまったことも驚きなのだが、それ以上にこの短時間にこんな量を飲んでしまっては急性アルコール中毒の危険性がある。

 

「あずささん、一旦その辺に……」

 

「え~い!」

 

 とりあえずお水を……と立ち上がったところ、あずささんに腕を引っ張られた。ベッドに倒れこむように体重をかけられたので咄嗟に反応できず、そのままあずささんを押し倒すような形でベッドに倒れこんでしまった。

 

 ベッドに手をついて突っ張ろうとしたのだが力を込めるのが遅く、倒れこむ勢いを殺しただけで結局はあずささんに覆い被さるように体が密着する。

 

 「ついに来たかラッキースケベ!」と思わず考えてしまったのは意外に余裕があったからではなく、ムギュダプンッという予想以上の柔らかさと文字通り目と鼻の先にあるあずささんのご尊顔にテンパっていたからである。

 

「……ねぇ、良太郎君」

 

「な、なんでしょうか」

 

 いつの間にか首の後ろに腕を回されており離れることが許されない状況の中――。

 

 

 

「……良太郎君の一番好きな場所に触って……?」

 

 

 

 ――潤んだ瞳のあずささんの柔らかそうな唇から、そんな魅力的な(トンデモナイ)言葉が紡ぎだされた。

 

 

 

 

 

 

 良太郎君のことを好きになった瞬間のことを、私は今でも鮮明に思い出すことが出来る。

 

 きっかけは、何でもない日常の風景の中だった。

 

 仕事の現場で偶然顔を合わせ、挨拶を交わしたそんないつも通りの一幕。私の顔を見て挨拶をした良太郎君の視線がついっと下に向いたその時、何故か私の心に複雑な感情が押し寄せたのだ。

 

 男の人が女性の胸に興味を示すということは昔からよく知っていたし、少し大きな私の胸が男の人の視線を集めやすいということもよく理解していたので、今更特に気にしたことは無い。中でも良太郎君は人一倍女性の胸に大変な関心を寄せているということは周知のことで、こうして私の胸を見てくることもいつもの事だった。

 

 それなのにも関わらず、何故か私の心は落ち着かなかった。

 

 その感情は良太郎君と会う度に大きくなり、次第に良太郎君と顔を合わせない日も落ち着かなくなった。

 

 一体どうしてと考え続け、やがて私は気付いてしまった。

 

 その複雑な感情の正体は『喜び』と『悲しみ』が入り混じったもので。

 

 良太郎君が『私を見てくれていることに対する喜び』と『私の胸ばかりを見ていることに対する悲しみ』だということに。

 

 

 

 今まで他の人に対して感じたことのなかったその感情の正体に気付いたその時が、私が良太郎君を好きだと自覚した瞬間だった。

 

 あぁ、彼が私の『運命の人』だったのか、と。

 

 

 

 その後紆余曲折あり、私と良太郎君はお付き合いをすることになったのだが……彼と過ごす幸せな日々の中、私の心の中では一抹の不安が拭い去れなかった。

 

 『良太郎君は私の胸が好きだから付き合っているのではないか』と。

 

 我ながら馬鹿な考えだとは思う。けれど、こうして恋人同士になった今もなお私の胸へと視線が注がれるたびにそんな考えが私の頭を過るのだ。良太郎君がそんな不誠実な人じゃないと知りつつも、心の奥底ではそんなイヤな考えが居座っていた。

 

 今の私の行動は、そんな良太郎君を試そうとする愚かなものだった。

 

 お酒に酔った勢いで良太郎君に抱き付きながら、頭の片隅の冷めた部分で私は怯えていた。

 

 別に触られること自体が嫌なわけではない。私にだって彼と今以上に触れあいたいという願望ぐらいある。

 

 それでも、もし良太郎君が躊躇わずに胸に手を伸ばしたら。

 

 好きに触ってと自分で言いながら、良太郎君と触れ合いたいと思っていながら。

 

 そんな私の我儘で自分勝手な考えに対する自己嫌悪で、次第に目頭が熱くなり始め――。

 

「………………」

 

「……え……」

 

 

 

 ――ギュッと、強く良太郎君に抱きしめられた。

 

 

 

 首の後ろに右腕を、腰の後ろに左腕を回し、ベッドの上で仰向けになる私を少しだけ持ち上げるような形で良太郎君は強く抱きしめてきた。

 

 お互いの浴衣だけで遮られた私の胸と良太郎君の胸板が先ほど以上に強く密着し、良太郎君のトクントクンという心音が聞こえてくるような気がした。

 

「りょ、良太郎君……」

 

「俺は、あずささんの全てが一番大好きです」

 

 だからこうして抱きしめました、と。

 

 顔の真横に良太郎君の顔があるため、彼が今どんな『眼』をしているのかは分からなかった。

 

「その……胸が好きなのは否定しません、否定できるとも思っていません、全力で肯定します」

 

 でも、と抱きしめる力が強くなる。

 

「あずささんのほんわりとした笑顔が好きです。少し猫気な髪の毛が好きです。透けるような白い肌も、お酒を飲んでほんのり赤くなった肌も好きです。少し控えめで落ち着いた性格も好きです。アルコールが入って少しテンションが高くなったところも好きです。ちょっと方向音痴な困ったところも好きです。貴女の全てが大好きです」

 

「……っ」

 

 気が付けば、無意識に私も彼の背中に腕を回していた。

 

「だから貴女が何処にもいかないように、これから先も貴女の側で貴女の手を握り続けることを許してください。……愛してるよ、あずさ」

 

「……はい……!」

 

 

 

 もう、私の何処が好きだとか、彼を試してしまったことだとか、そんなことは私の頭の中には残っていなかった。

 

 今の私の頭の中に占め、私の心の中を満たす思いはただ一つ。

 

 例え彼が私の『運命の人』じゃなかったとしても、私は良太郎君のことを愛し続けるということ。

 

 これまで散々迷い続け、しかし二度と私は迷わない自信がある。

 

 

 

 ――彼と手を繋いで歩けば、そこが私の『目的地』であり続けるのだから。

 

 

 

 

 

 

「……え、えっと、良太郎君? そ、その……す、『するなら使え』って言って渡されたものがあるん……だけど……」

 

「え? ……って、おい誰だあずささんにこんなもの渡した奴っ!? 心当たりが多すぎるっ! っていうかオチが酷いっ!」

 

 

 




・周藤良太郎(20)
説明不要(面倒くさくなったとも言う)のトップアイドル。
あずささんと交際半年を迎えたが、実はAまでしか進展していない。
最近「こいつただのヘタレなんじゃ」と作者の中でもっぱらの話題。

・三浦あずさ(23)
765プロ最胸アイドル(現時点で)
竜宮小町は既に解散しており、最近は歌のお仕事が多い。少々胸部装甲が厚めのため、モデルとしてのお仕事は少なめ。
運転免許に関しては特に設定がなかったと思ったので持っているということに。ただやはり運転は任せたくない。

・バカボンのパパ的な意味
作者は今でも陽が昇る方向を思い出す時に口ずさんだりする。

・π/
以前も使ったネタだけどあえて拾う。いいよね!

・ジ○ニークリケット
(別に作者は夢の国チキンレースがしたいわけじゃ)ないです。

・『そういう経験』
Cに決まってんだろ!(断言)

・タグに『おっぱい』を登録して(ry
アイドルがπタッチしたら犯罪だろ!(アイドルじゃなかったとしても犯罪です)

・「先にシャワーを浴びて来いよ」
良太郎が絶対に言わないであろうセリフ「ペッタンコにしか萌えないんだ」

・「オチが酷いっ!」
綺麗なまま話が終わると思うなよ!



 というわけで恋仲○○シリーズ、久しぶりの765からあずささんでした。やっぱりおっぱい星人としては触れておかねば(πタッチではなく)

 良い子のみんなは「いい話っぽくまとめてるけど結局内容はおっぱいだった」ことに気付いても言うんじゃないぞ! 作者との約束だ!

 さて次回も恋仲○○シリーズになります。もちろん『あの人』です。60連をスカした悲しみをぶつける所存です。



『現在考えているデレマス編の情報を小出しするコーナー その1』
・第四章及び第五章はデレマス編

・第四章はアニメ一期編、別名『シンデレラプロジェクト編』

・第五章はアニメ二期編、別名『○○○。○○○○ー○編』

※なお変更する可能性もあり。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。