「『だが断る』っと……送信」
おぉ、直ぐ様反応があった。しかも電話だし。メールの返事に電話をかけることが最近の流行りなんだろうか。
とりあえず通話っと。
「現在この電話は使われておりません。もしくは呼び出しに応じるつもりがありません。『ふざけんなコラ』という言葉と共に通話が終了しますので、しばらくした後にかけ直してください」
『ふざけんなコラ――!』
ピッ
「さてと、これでオッケー」
携帯電話の電源を落としてからポケットにしまう。後が怖いが、これでしばらくは自由だぞ。しばらくシリアスな空気とかやりたくないでござる。
さてさて、現在俺は再び伊達眼鏡と帽子を装着して会場をウロウロしていた。大勢の観客がいるスタンド周りを歩いていても、相変わらず全く気付かれる様子がない。本当に便利だなこれ。
売店で買ったアイスコーヒーで喉を潤しつつ、観客席側から会場のステージを見下ろす。
ステージでは現在、様々な事務所のアイドル達によるチアリーディングが行われている。麗華達は参加していないが、765プロからは春香ちゃんと響ちゃん、876プロからは愛ちゃんと涼が参加している。
いやはや、いいもんですなぁ、うら若き乙女達のチアリーディング。
他の面子と比べてもちっちゃな響ちゃんと愛ちゃん。元気一杯にポンポンを振っている姿を見ると、保護欲が沸いてくるというか、グリグリと頭をなで回したい衝動に駆られる。あと揺れる乳とチラリと覗く太ももが堪らない。
春香ちゃんも同年代の娘と比べたら結構胸ある方だと思うんだけどなぁ。……周りが化け物揃いなせいで影が薄くなりがちだが。それよりも、春香ちゃんの特徴はやっぱり笑顔だよな。なんというか、こう、正統派アイドルって感じがする。
涼は……うん、たまに忘れそうになるけど、あれ男なんだよな。事前情報無かったら絶対分かんなかった。茶色のショートボブといい、ハスキーな女性のような声といい、男子校でモテモテという話も頷けるよ。微塵も羨ましくないけど。秋月家の方針だかなんだか知らないけど、りっちゃんも従弟に対して随分と酷なことするなぁ。
さて、いい目の保養になったチアリーディングもそろそろ終わりだ。今から移動して、愛ちゃん達のところに顔出しに行くかな。
……って、あ! 春香ちゃんが響ちゃんを巻き込んで転んだ!
チラリは!? ポロリは!?
チラリなんてなかった。ちくせう。
チアリーディングが終わり、アイドル達の昼休憩と相成った。俺も売店のホットスナックを軽く腹に入れ、愛ちゃん達876プロに宛がわれた場所へ向かう。当然関係者以外立ち入り禁止だが、堂々と歩いているため逆に怪しまれない。疚しいことがなければどうってことないさ! あ、あの娘おっぱい大きい。
「確かスタッフはこっちって言ってたよなー……っと、居た居た」
既にチアの格好から着替えてしまっていたが、間違いなく愛ちゃんと涼だった。
「おーい! 愛ちゃーん! 涼ー!」
手を振りながら二人の名前を呼ぶ。
どうやらこちらに気付いたようだ。愛ちゃんは手にしていた大きな包みを涼に預けると、こちらに向かって満面の笑顔でダッシュしてきた。
来るなら来い! 足を肩幅に開いて愛ちゃんを待ち受ける。
「りょーおにーさーん!!」
ズドーンという擬音が聞こえてきそうな勢いで、愛ちゃんが突っ込んできた。いくら愛ちゃんがちっちゃくて軽いとはいえ、人一人が勢いよく突撃してきたらその衝撃は凄まじいものだ。
だがしかし、高町ブートキャンプを乗り越えた俺に抜かりはない。衝突する軸を中心からズラし、クルリと回るように力を受け流しながら愛ちゃんを抱き抱える。
「りょーおにーさん久しぶりですー!!」
「久しぶりだねー、愛ちゃん」
その場でクルクルと二回転ほどしてから愛ちゃんを下ろした。やわっこかったです。
「さっきのステージ格好よかったです!!」
「ありがと。愛ちゃんもチアリーディング可愛かったよ」
「ありがとうございます!!」
うん、相変わらず愛ちゃんは元気がいいね。声の大きさも相変わらずだ。すぐ側にいるんだからもう少し声のボリュームを落として欲しいかなー。
「良太郎さん」
「涼も久しぶり。チアリーディング可愛かったぜ」
「あ、ありがとうございます……」
愛ちゃんの頭をグリグリと撫でながら、近寄ってきた涼も褒めておく。それに対して涼は苦笑い。まぁ、男だって知っててわざと言ってるからな。
「いきなりだったからビックリしましたよ」
「サプライズなんだから当たり前だろ」
「律子姉ちゃんも怒り心頭ですよ、きっと」
「……やっぱりそうかな?」
麗華もぶちギレてたみたいだし。これぐらいの茶目っ気は許してもらいたいもんだ。遊び心がなくっちゃアイドルなんてやってられないって。
「それはもう、いきなり殴りかかってくるんじゃないですかね」
ん? 何やら涼の視線が俺の後ろに……はっ!? 殺気!?
「チェストォォォ!」
「
慌ててその場に屈むと、俺の頭があった空間を拳が通過していった。あの勢いは確実に俺をヤるための一撃だ。
「りっちゃん、流石に延髄への一撃は危ないと思うんだけど」
「アンタが迷惑をかけた関係各所全ての怒りよ」
その場に屈んだまま振り返ると、そこには鬼の形相を浮かべるりっちゃんの姿が。下から見上げるとよく分かるけど、やっぱりりっちゃんもおっぱい大きいなぁ。
「律子姉ちゃん」
「涼、ステージよかったわよ」
りっちゃんも涼達の陣中見舞いかな。
「ちょうど良かった、今から765プロの陣中見舞いに行こうと思ってたんだ」
「あたし達の出番は午前中で終わりなので」
なるほど、涼が抱えてる包みは765プロへの差し入れだった訳だ。
「大歓迎よ。あの子達も喜ぶわ」
「じゃあ俺もついでに一緒に」
「あんたは来なくていいわよ。色々と面倒臭いから」
「つれないこと言わないでよ律子姉ちゃん」
「あ、気持ち悪いからそれ止めてくれる?」
真顔で拒否られると流石に堪えるんですけど。
「……あの、三人とも、知り合いの人?」
「ん?」
愛ちゃん達と一緒にいた女の子が首を傾げていた。えっと、この娘は……。
「水谷絵理ちゃんだよね。愛ちゃんや涼からよく話は聞いてるよ」
今のままじゃ分かんないだろうから、伊達眼鏡を下にずらす。
「初めまして、周藤良太郎です」
「……え?」
あ、ポカンとしてる。
「愛ちゃん達から話聞いてない?」
「……えっと、仲の良い『りょうたろう』って名前のお兄さんがいるとは聞いてましたけど……ほ、本物の周藤良太郎さん?」
「もちろん。周藤良太郎は二人もいないよ」
「こんな奴が二人もいたらたまったもんじゃないわよ」
まぁ、同じような系統の元アイドルならいるけど。
「これからもアイドルを続けるなら、いずれ一緒に仕事する機会もあるかもね。是非とも愛ちゃんや涼と一緒に頑張って」
「……は、はい!」
うんうん、小乳だけどいい娘じゃないか。愛ちゃん達と合わせて将来に期待かな? ただ今は熟成期間ってとこか。
ホント、こういう若い子達が頑張ってる姿はいいもんだ。ホント。
「……ねぇねぇにーちゃん、何で真美達のお弁当ちゃっちいのー?」
「えっと……け、経費削減の折でな……は、ははは」
はぁ、と全員のため息が一致する。他の事務所のアイドルが豪華な仕出し弁当を食べている一方で、私達のお弁当は幾分か見劣りがするものだった。
まだまだ765プロは私達竜宮小町以外の仕事が少ない。この運動会で目立つことが出来れば、もっと人気が出て仕事も増える。そうすれば、私達はこんな寂しいお弁当のような存在ではなくなるはずだ。
そんな中、一人美希だけがご機嫌だった。
「随分と美希はご機嫌ね」
「だって、良太郎さんが見てくれてるの! だったら頑張らない理由がないの!」
「あぁ、そう……」
周藤良太郎のゲリラライブが終わった直後はトリップしてこの世にいなかった美希だったが、周藤良太郎が自分達を見ているのではないかという考えに至った途端、午前中にふてくされていたのが嘘のようにハリキリ始めた。全くもって現金なものである。
「……何というか、貧相な弁当を食べてるわね」
「げ、麗華……」
「げ、とは随分なご挨拶ね、伊織」
今朝もやってきた麗華が再びやって来て、私は思わず眉を潜めてしまった。
私と麗華は年は少し離れているものの、お互いがアイドルを始める以前からの知り合い、所謂幼馴染という存在である。出会いは、とある会社で開かれたパーティー会場。私は水瀬財閥の娘として、麗華は東豪寺財閥の娘としてパーティーに参加し、そこで親同士に紹介されたのが始まりだった。
――初めまして。
――初めまして。
幼馴染とは言いつつ実際はそれほど仲が良いわけではなく、出会うたびに何かしらの言い争いをしていた記憶がある。好きな色、好きな花、好きな食べ物や飲み物。様々な小さなことで衝突しあい、お互いが一歩も譲ることなく決着が付いたことは一度も無かった。
たった一回を除いて。
――私、アイドルになることにしたから。
突如麗華から告げられたその言葉。何をバカなことをとその場は聞き流したが、その一年後に本当にアイドルとしてテレビに出ている麗華の姿を見た時は素直に驚いてしまい、そして羨ましいと思ってしまった。
当時デビューしたばかりだった周藤良太郎と共にテレビに映っている麗華の姿は、大財閥の娘としての姿ではなく、一人の少女としての姿。あの周藤良太郎と一緒のアイドルをしているというだけでなく、自分がしたいと思ったことを自由にしている姿を羨ましく感じてしまった。
それが、私の敗北。本人には口が裂けても言わないが、私が麗華に感じた初めての敗北。
アイドルになった以上、周藤良太郎だけでなく麗華にだって二度と負けてやるものか。
そんな生涯のライバルというべき相手が、私達のところにやってきた。
「それで? 何の用なのよ。律子ならいないわよ」
「別に律子一人に用事があったわけじゃないわ。アイドルの先輩として、陣中見舞いに来てあげただけよ」
「大したものじゃないけど」
そう言いながら、麗華と一緒にきていた三条ともみが包みを差し出してくる。
「えー? 何々―?」
「なんか美味しそうな匂いー!」
双子が嬉々として包みを受け取り、早速包みを開く。
「おー! 唐揚げだー!」
「卵焼きもあるー!」
包みの中身は二段重ねの重箱で、中には様々なおかずと沢山のお握りが詰められていた。
「どうせ大したもの食べてないんじゃないかと思って、用意しといてあげたのよ。感謝しなさい」
「……ありがとう」
実際にお弁当が大したものじゃなかったので、この差し入れは普通に嬉しかった。あの見下した笑みは腹立つが、正直にお礼を言っておく。
「それじゃあ早速――」
「お、この卵焼き美味い。誰の手作り?」
「あ、わたしが……って、え?」
突然聞こえてきた男の声。おかしい、この場にはプロデューサー以外の男はいなかったはずだ。
しかし聞こえてきた声は間違いなく男のもので、そしてさらに先ほど聞いたばかりの声で……。
「りょ、良太郎!?」
「おっす、陣中見舞いに来たよー」
どうやら、この昼休憩は休憩にはならなさそうだ……。
・だが断る。
この周藤良太郎が金やちやほやされるためにアイドルをやっていると思っていたのかーっ!!
・うら若き乙女達のチアリーディング
衣装っていうと健全だけど、コスプレっていうと不健全な香りがする。
・あれ男なんだよな。
作中唯一の男の娘。作者は男の娘とかTSとかはあまり好きではないのだが、涼ちんだけは許容できる。何故だろう。声?
・疚しいことがなければどうってことないさ!
そうですね。(白目)
・高町ブートキャンプ
戦闘民族高町家で行われる間違いなく強くなれる特殊訓練。地獄以上の苦しみがあるが、可愛い女の子に囲まれているため、人によっては耐えられる……かも。
・「R+下弾き!」
その場緊急回避。決まると格好いいが、横緊急回避と比べるとあまり実用性はなかったような気がする。
・伊織と麗華
一応公式で知り合いということになっているらしい。前に絡ませるのをすっかり忘れていたため、今回いおりん視点となった。
遅くなって申し訳ない。体育会編が終わったらしばらくオリジナルストーリーが続く予定なので、頑張って今年中にあと一回は更新したい所存。