このことによる内容の変化はありませんのでご安心ください。
「あの人が、本当に周藤良太郎……?」
それが、私の偽らざる本音だった。
別に美嘉ちゃんや凛ちゃん、みりあちゃんの言葉を疑うわけではない。そもそもこうしてアイドル事務所に入った身として、周藤良太郎を見間違えるはずもないし見間違えるわけにもいかない。
それでも、今目の前にいる青年が、日本が誇るトップアイドルの『周藤良太郎』だとは俄かに信じられなかった。
た、確かに男の人が、その……お、女の人の体に興味を持つことはしょうがないことだし、周藤良太郎がそういう人だという前情報があることもある程度理解している。理解してはいるのだが……だ、だからといって、ああも堂々と恥ずかしげもなく人前で、それも女の子の前で高らかに主張する必要はないのではないだろうか。
「……? ミナミ、どうかしましたか? ムズカシイ顔、してます」
「え? そ、そんな顔してた?」
「ダー」
アーニャちゃんことアナスタシアちゃんに指摘され、ペタペタと自分の顔を触る。あまり嫌そうな顔をしていたら流石に失礼だろう。……向こうの方がもっと失礼なような気がしないでもないが。
「うーん、なんか私もイメージしてた周藤良太郎と違うなぁ。なんかこう、思ってたよりロックじゃない」
腕を組み、私以上に露骨な不満顔を見せるのは首にヘッドフォンをかけた
「うーん……?」
一方、前川みくちゃんは周藤さんの姿を見ながらしきりに首を傾げていた。
「みくちゃんはどうかしたの?」
「んー、なんか、良太郎さんを見てると何かをあんまり思い出したくないことを思い出しそうな、こう喉に小骨が引っかかってる感覚というか……」
「お、なんかその表現猫っぽい! やっぱり猫と言えば魚ってわけ?」
「あ、みくはお魚は嫌いにゃ」
「……えぇ~? 猫キャラなのに魚嫌いって何それ」
「べ、別にキャラと好き嫌いは別にゃ!」
あからさまにガッカリした声を出す李衣菜ちゃんに反論するみくちゃん。申し訳ないが私も李衣菜ちゃんに同意である。
「……私も、リョータローを見ていると何かを思い出しそうになります」
「え?」
不意にアーニャちゃんがそんなことを言い出した。
みくちゃんに続きアーニャちゃんまで、周藤良太郎と何かしらの係わりがあったということなのだろうか。
「……ん?」
蘭子ちゃんへサインを書き終わった周藤さんがこちらに気付いた。先ほどの一件であまり良い印象が持てない私は、思わず身構えてしまう。
そんな私の心情を一切気付くはずがない周藤さんは、ヒラヒラと手を振りながらこちらに近づいてきた。
「おや、そこにいるのはいつぞやのロシアンハーフ少女アーニャちゃんじゃないか」
「……え」
まさか本当に知り合いだったのかと振り返ると、当のアーニャちゃんは可愛らしく小首を傾げていた。
「えっと……何処かで、お会いしましたか?」
「ありゃ、忘れちゃった? ……って、あぁそうか。あの時は完全変装状態だったっけ」
じゃあどうすれば分かるかなーと首を傾げたかと思うと、良太郎さんはパチリと指を鳴らした。
「
突然そんなことを言い出した良太郎さんだったが、アーニャちゃんはそれに目を輝かせた。
「……オォ! あの時の、親切なお兄さん!」
「久しぶりだね。まさかあの時の子とこうしてアイドルになって再開するとは思ってなかったよ」
「私も、です。それに、あの時はアチキー……メガネ、かけていました」
「変装の一環だからね。逆にあの状態でバレたら困っちゃうし」
などと仲良さげにお喋りを始める二人。無表情の周藤さんはともかく、アーニャちゃんは結構楽しそうである。
……な、なんだろうか、このモヤモヤとした感じ。自分が苦手としている人と自分と仲が良い人が楽しげに話をしている場面というのはこんなにも複雑な気分になるのか。
「うーん……私も周藤さんのこと、ちょっと苦手……かな?」
「わ、わたしも……」
「かな子ちゃんと智絵里ちゃんも?」
こっそりとそんなことを言いながら苦笑いを浮かべる
「その、女の人の体形をどうこうって言う人は……あんまり」
ほら、私もそんなにスリムじゃないから、とかな子ちゃんはやや自虐的だが、やはり良太郎さんの発言を好意的に捉えることが出来ない子は他にもいたようだ。いやまぁ、冷静に考えれば好意的に捉えるなんてことは到底出来そうにない発言ではあるのだが。
「だから、美波ちゃんの言いたいことは良く分か――」
「えー!? 良太郎さんがあの『翠屋』のシュークリームを差し入れに!?」
「はい……十分な数があるから、皆さんも良ければ、とのことです」
かな子ちゃんの言葉をかき消すように聞こえてきた、そんな未央ちゃんとプロデューサーさんの会話。
「………………」
「……か、かな子ちゃん?」
「……美味しいから大丈夫だよっ!」
「かな子ちゃんっ!?」
陥落が凄まじく早かった上に、アイドル要素も人間性も全く関係ない事柄が理由だった。
まさかシュークリーム一つでそこまで……そ、そんなに美味しいのだろうか。……さ、差し入れなら頂いても不自然じゃないわよね、えぇ。
「ち、ちなみに智絵里ちゃんはどうして周藤さんのことが苦手なの?」
「そ、その……お、お顔がその……怖くて……」
どうやら周藤良太郎の無表情が苦手なようだ。確かに、あれだけ感情豊かに喋っているのにその表情が一切変わらないというアンバランスさが不気味に感じる。
(こ、これはもっと私がしっかりしないと……!)
そんな意気込みを抱いていると、アーニャちゃんと一通りの会話を終えた周藤さんがこちらを向いた。
「それで、君のお名前も聞いていいかな? これからアイドルとして活動していくなら、是非とも仲良くしたいんだけど」
「……はい、そうですね」
敵対感情は胸の奥に秘め、先ほどプロジェクトメンバーに自己紹介した時と同じように笑みを浮かべる。
「
なんか微妙に美波ちゃん……新田さんに距離を置かれているような気がする。
うーん、そこまでお堅そうな性格には見えなかったんだけどなぁ。少なくとも、初期千早ちゃんほどではないとは思うのだが、千早ちゃん以上に俺の発言が何かしらのデリケートな部分に触れてしまったのだろう。
とはいえ、女の子の胸に関する事柄に対して俺の口は常時起動中だしなぁ。
「りょーたろーさん! 女の子にあーいうことを言うのはメーッ! だよぉ?」
「いやまぁ、俺も少しぐらいは反省してるんだよ? だから今日ぐらいはもうああいう発言を控えようかとうわおっきい」
「もーっ! だからそーいうのがダメって言ってるんだにぃ!」
いや、胸のこともそうだけど君の場合はむしろ身長が。まさか女の子で北斗さん並に背が高い子がいるとは思いもしなかった。そして身長が高い分、俺の視線の高さに大乳が迫って来ていて中々の迫力。
「っと、自己紹介まだだね。一応知っているとは思うけど、周藤良太郎です」
「はーい! きらりはぁ、
「おう、おにゃーしゃー」
うーん、独特な雰囲気な子だなぁ。パステルカラーの服と身長と口調のおかげで恐らくシンデレラプロジェクトのメンバーの中で一・二を争うキャラの濃さである。ついでに周藤良太郎相手に自分のキャラを全く崩そうとしない辺りプロ根性とかハートが強いという以前に、素でこーいう性格の子なのだろう。
そしてキャラが濃い子と言えばもう一人。
「ほーらぁ! 杏ちゃんもちゃんと挨拶しなきゃダメだにぃ?」
「えー? ……でもまぁ、しょーがないか。上下関係をしっかりしておくことも印税生活への第一歩か」
先ほどからきらりちゃんの小脇に抱えられている少女である。スパッツに『働いたら負け』Tシャツって、完全に部屋着じゃん。それを着て堂々と外に出てる人初めて見たぞ。
きらりちゃんから降ろされた少女はそれまでのダルそうな雰囲気が一変し、ニコッと可愛らしい笑みを浮かべた。
「初めまして! 346プロダクションでアイドルをやらせていただくことになりました、
「……え、あ、うん、よろしく」
「……はい、本気しゅーりょー」
そう言って再びダラけた雰囲気を醸し出しながら、うさぎのぬいぐるみと共に去っている少女。え、何この麗華とか伊織ちゃんとはまた別のベクトルの豹変は。今の一瞬だけだったら凄いアイドル
「……まさかTシャツに書かれている言葉がネタではなく本気ってことか」
「もー! 杏ちゃーん!」とその小さな背中を追いかけるきらりちゃんを見送り、そう独り言ちる。
どうしてあんな子がアイドルを志したのだろうと思うと同時に、元暴走族の拓海ちゃんの時も思ったがそんな彼女たちを引っ張り出してくる346のアイドル雇用力に驚愕である。……あ、もしかしてさっき言ってた『印税生活』で引っ張ってきたか?
「えっと……良太郎さんは怒らない?」
「え? 何が?」
「その……さっきの子、印税生活とか、あんまりアイドルっていうものを真面目に考えてなさそうだったから……」
そんなことを尋ねてくる凛ちゃん。
確かにあまり褒められた態度ではないが。
「お給料を貰っている以上、アイドルだってお仕事っていう側面もあるわけだからねぇ」
765プロのやよいちゃんだってアイドルを始めたきっかけは『家計を助けるため』だったのだから、職業としてアイドルを始めることに対してとやかく言うつもりはない。
それに、経緯はどうあれ一応はしっかりと自分で働いて食い扶持を稼ぐという方法を取ろうとしているだけまだマシである。
「俺が中国で知り合った人の方がよっぽど筋金入りだよ。『働くくらいなら食わぬ!』って豪語してたし」
「……その人、普段はどうやって暮らしてるんだろうね」
「霞でも食ってるんじゃないかな」
なんか仙人みたいな雰囲気を醸し出してたし。
「とにかく、俺は『アイドル』の活動そのものを軽視したりしない限りは何も言わないよ。理由だってきっかけだって、人それぞれだしね」
まぁ願わくば、彼女がアイドルを続けていく過程で『アイドル』という仕事の意味を理解してくれるといいなぁ。
「ちなみにその仙人みたいな人とは何処であったの?」
「ちょっと山の方を観光することがあってさ。何か川で釣りしてた」
「……針が真っ直ぐだったとか言わないよね?」
「カバみたいなペット連れてたし、多分本当はお金持ちなんじゃないかな」
・「あの人が、本当に周藤良太郎……?」
この小説書いてて割と本気でマジレスしたの初めてなんじゃないだろか。
・多田李衣菜
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール。
ロックなアイドルを目指すろっくな17歳。
とりあえず「ロック」と言わせておけばいいという風潮。一理ある。
・「喉に小骨が引っかかってる感覚というか……」
似たような状況のアーニャとみくですが、その大きな違いは『良太郎が相手の存在を認識しているか否か』です。アーニャは普通に素顔でしたが、みくは『前川さん状態』だったので良太郎は気付いておりません。
同じ事務所の未央ですら気付けなかったんだから(劇場388話参照)当然だよなぁ?
というわけでみくにゃん赤面イベントはもうちょい先です。
・三村かな子ちゃん
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。キュート。
346における雪歩枠その1。なお出てくるのはお茶ではなくお菓子。
なお周りの人間が痩せすぎなだけで決してふt(以下削除)
・緒方智絵里
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。キュート。
346における雪歩枠その2。男の人が苦手というか普通に人見知り。
雪歩枠ということで察しているでしょうが、この作品における出番はすk(以下削除)
・「美味しいから大丈夫だよっ!」
かな子の決め台詞(?)
・新田美波
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール。
「歩く○クロス』と呼ばれてしまう色気溢れる19歳。
CPの常識人枠その1で割と重要な役割を担ってもらう予定。
・諸星きらり
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。パッション。
186センチという世紀末的高身長の17歳。おっすおっす☆
実は蘭子以上にセリフに困る子。ちょーむつかしいにぃー☆
・双葉杏
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。キュート。
働くことに関して一格言持つ17歳。
きらりと同い年だが身長差は何と45センチ
たぶんCPでの常識人枠その2。その真価はおそらく次話。
く労人枠になる可能性も微レ存。
なんだかんだいって面倒見がいいし。
いも
・アイドル
きっとアイドルから溢れ出るオーラ的な何か。
良太郎は53万ぐらいありそう。
・『働くくらいなら食わぬ!』
・「……針が真っ直ぐだったとか言わないよね?」
・「カバみたいなペット連れてたし」
まるで太公望みたいだぁ(直喩)
りーなP&ちえりP「「おいこの扱いどういうことだよ」」
め、メイン回ありますから(メインになるとは言っていない)
てなわけで、今回は第一印象を悪く捉えた子たちがメインとなりました。普通はこういう反応だよなぁ?
あ、美波とはちゃんと仲良くなるのでご安心を。視点を貰って好待遇。後は……分かるね?
話数がズレて、次回がラストになります。