アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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まえがきショート劇場~茄子&友紀~

「様子を見に行くって役割の人選、私たちのことすっかり忘れ去られてましたね」
「私たちは犠牲になったんだよ。お話の展開という名の作者の都合……その犠牲に」


Lesson123 The first step for a ball 3

 

 

 

「ついにこの日が来たね……!」

 

「き、来ましたね……!」

 

「来ちゃったね……」

 

 思わず嘆息してしまいそうになるのをグッと堪える。流石に色々な人に失礼だし、既に覚悟は決めてきている。……ゴメン嘘、決めきれてない。

 

 一週間というのは案外早いもので、あっという間に346プロの定例ライブの日で私たち三人の初ステージの日がやって来てしまった。

 

 トレーナーさんや美嘉さんの厳しいレッスンを受け、トレーナーさん曰く「及第点」らしいが一応合格ラインにまで到達したと判断された私たちは、こうして無事に本番当日を迎えることが出来た。

 

「「「よろしくお願いします!」」」

 

 私たちより先に楽屋に入っていた他のバックダンサーの方々に挨拶をすると「よろしくお願いしまーす」と軽く挨拶を返してくれた。彼女たちは346プロに所属する別部署のアイドルらしく、年齢的にはほぼ変わらないものの私たちよりも少し長く在籍している先輩だそうだ。

 

 ただ美嘉さん以外の人のステージもあるので当然と言えば当然なのだが、正直私たち以外にもバックダンサーっていたんだと内心で思ってしまっていた。

 

「ライブ前の楽屋って、こんな風なんだ……」

 

 アイドルのライブ会場にフラワースタンドの運搬の手伝いで来たことがあったが、こうして中に入ることは当然無かった。良太郎さんの知り合いで妹のように可愛がってもらっているものの、流石に楽屋にまで連れて来てもらったことも無いし。

 

「最初はビックリしますよね。私も、以前会場整理のお手伝いをさせてもらって――」

 

 卯月の言葉は、楽屋へ入って来たプロデューサーに遮られてしまい最後まで聞き取れなかった。

 

「皆さん、こちらへ」

 

 

 

「「わぁ~……!」」

 

 卯月と未央が目を爛々と輝かせて感嘆の声を上げる。

 

「出演者の方々に、ご挨拶を」

 

 そう言ってプロデューサーに連れてこられたのは、今日の出演者の楽屋。つまり、346プロに所属するアイドルの先輩方の楽屋だった。そこには既に美嘉さんを除いた四人の先輩アイドルたちがライブに向けて準備を進めていた。

 

「こ、今回バックダンサーとして出演させていただきます! 島村卯月です!」

 

「本田未央です! 本日はよろしくお願いします!」

 

「し、渋谷凛です。よろしくお願いします」

 

「「「「よろしくお願いしまーす」」」」

 

 とりあえず挨拶を済ませると、先輩の一人がこちらに近寄ってきた。

 

「今日が初めてのステージなんですか?」

 

「は、はい!」

 

 えっと、頭頂部に一本アホ毛が立っている黒髪のこの人は確か……小日向(こひなた)美穂(みほ)さん。

 

「緊張しますよね? 私も今朝からずっと緊張していて……」

 

 やっぱり何度もステージに立っている人でも緊張するんだなぁと思っていると、今度は茶髪でポニーテールの先輩がその小さな体の何処から出ているのかと思うぐらい大きな声を張り上げた。

 

「初めましてっ!! 今日のライブ、全力で燃えましょうっ!!」

 

 この雰囲気は熱血アイドルとして有名な日野(ひの)(あかね)さんに間違いない。彼女の周囲だけ温度が三度高いというネットの噂も馬鹿には出来ない熱さだった。

 

「ふふーん! 何か分からないことがあったら、このカワイイボクが教えてあげてもいいですよ!」

 

 『カワイイボク』のフレーズだけで分かった、輿水幸子ちゃん。小柄な日野さんよりも更に小柄で横ハネが特徴的な藤色の髪だから間違いない。

 

「あら? 貴女、この前あった子よね?」

 

 化粧台の前に座っていた最後の一人が振り返る。そこにいたのは以前346プロの事務所を三人で散策した時に出会った、元アナウンサーとして有名なアイドルの川島瑞樹さんだった。

 

「は、はい! そうです!」

 

「今日はよろしくね。……あら」

 

 川島さんの視線を辿ると丁度城ヶ崎さんが楽屋に入ってくるところだった。

 

「おっはようございまーす!」

 

「おはよう! 今日は頑張りましょう!」

 

「勿論!」

 

 仲良さそうに日野さんと拳を合わせる城ヶ崎さん。

 

 そしてその後ろからプロデューサーと部長と共に背広を着た恰幅が良い男性が入って来た。当然関係者なのだろうが、アイドル以外のお偉いさんまでは流石に予習は出来ていない。

 

 三人が楽屋に入って来たことに真っ先に反応したのは川島さんだった。

 

「おはようございます。本日はよろしくお願いします」

 

 立ち上がり丁寧に頭を下げると、他の先輩方も立ち上がって姿勢を正して頭を下げた。私たち三人は咄嗟に動けなかったものの、遅れながらも「よ、よろしくお願いします」と頭を下げる。

 

(346プロがお世話になってるレコード会社の代表取締役社長です。今回のライブの出資者でもあります)

 

 私たちが理解していなかったであろうことを察してくれた輿水ちゃんがそうコッソリと教えてくれた。

 

(………………)

 

 なんだろうか。こうして先輩やスタッフやそのお偉いさんに挨拶をしていると、先ほどまでとは別の緊張というか不安のようなものがフツフツと沸き上がって来るような気がした。

 

「「………………」」

 

 心なしか、先ほどまでアイドルの先輩方を前にしてテンションが上がっていた卯月と未央の顔色も悪くなっているような気がする。

 

(……これを読むようなことがないといいんだけど)

 

 今朝、良太郎さんから「何かあったら遠慮なく開けて」と言って手渡された封筒が入ったカバンの紐を、ギュッと握りしめた。

 

 

 

 

 

 

「おー、盛況ですなー。流石、最近アゲアゲな事務所のライブだよー」

 

「ふーん。でもりょーたろーさんのライブに比べたらまだまだなの」

 

「アレと比べちゃダメだって……」

 

 突然ではあるが、今日のお仕事がオフだったり朝一で終わっていたりする私、美希、真美の三人は346プロダクションの定例ライブへとやって来ていた。

 

 他のお客さんたちを見回しながら感心したように真美が呟き、それに対してやや辛辣なコメントを述べる美希に、相変わらずの良太郎さん至上主義だなぁと苦笑せざるを得なかった。

 

 周りには人が多いので当然三人とも変装済み。完全に安心というわけではないものの、こういう場合にコソコソすると逆に怪しいので堂々とライブ入り口の列に並んでいる。

 

「ところではるるん……あれ、はるるん?」

 

「わ、リボンしてなかったから分からなかったの」

 

「だからそれはもういいって!」

 

 しかし美希と真美とは違い、完全にステルスする良太郎さんに比べてしまえばやや精度は低いものの、私の場合は不本意ながら……大変不本意ながら、リボンを隠せば基本的に身バレしなくなるのだ。

 

 それに気が付いたのはこの春から大学に通うようになってからである。それまでも「リボンを外せばバレないんじゃないか」と真に言われたこともあったが、物は試しとリボンを外す以外の一切の変装をせずに通学してみたらご覧の有様である。

 

 友人曰く「なんかアイドルオーラが消える」とのこと。

 

 その後の「大丈夫、普段からそんなにオーラある方じゃないから」という励ましに偽装された追い打ちのように見える死体蹴りはさておき、そのことを事務所のみんなに知られてしまった時は亜美真美を中心にやれ「リボンが本体だ」、やれ「リボンが天海春香だ」などと散々弄られ、先ほどのやり取りも今日だけで既に三回目である。

 

「でも加えることで変装するんじゃなくて引くことで変装するって凄いよね」

 

「引き算が重要……オシャレと同じなの!」

 

「意地でもリボン付け続けてやる!」

 

 もはや自棄になるように頭に乗せたキャスケットを強く抑えるのだった。

 

 

 

 さてさて、今日私たちがこうして346プロの定例ライブにやって来たのは私たちが346プロのアイドルの熱烈なファンだから……というわけでは、失礼ながら無い。そもそも大の良太郎さんファンである美希と真美が他のアイドルに鞍替えするということは、それこそ生まれ変わるぐらいのことがないと「生まれ変わってもミキはりょーたろーさんのファンなの!」「そーそー! ミキミキの言う通りっしょー!」……分かったから地の文に入ってこないで。

 

 では何故こうして私たち三人がやって来たのかというと、件の良太郎さんが所属する123プロが関係してくるのだ。

 

 というのも、私は天ヶ瀬さんから、美希は良太郎さんから、真美は恵美ちゃんからそれぞれ『346プロの定例ライブに知り合いが出るから様子を見てきて欲しい』という旨のお願いをされてしまったのだ。

 

 世話焼きな良太郎さんや気遣いが出来る恵美ちゃん、そしてなんだかんだ言って面倒見がいい天ヶ瀬さんたちからそう言った類のお願いをされること自体は別段不思議ではないのだが、少し疑問なのはそのお願いがそれぞれ別々に来たということなのだ。しかも美希や真美が聞いた良太郎さんや恵美ちゃんの言葉から察するに、どうやら三人が三人とも『それぞれが346プロに知り合いがいる』ということを知らないようなのだ。

 

「共通の知り合い……って訳じゃなさそうだよね」

 

「少なくとも『黒髪ロングのクールっぽい子』と『長い茶髪でフツーっぽい奴』が同一人物とは考えられないの」

 

「めぐちんの知り合いには実際に会ったことあるから真美は知ってるけど、髪がロングって時点で二人とは別人だしねー」

 

 というか天ヶ瀬さん、フツーっぽい子って説明はあんまりにもあんまりすぎやしませんかね。なんか飛び火して私の胸にまでグサリと来たんですけど。

 

 とにかくそんなわけで、私たち三人は別口から受けた依頼を一緒にこなすべく、こうして三人一緒の346プロの定例ライブへとやって来た次第である。

 

 ちなみにその連絡を全員が偶然同じ場所で受け、その場に居合わせた亜美も一緒に来ようとしていたが竜宮小町の仕事のため敢え無く不参加となった。

 

「えっと、確か城ヶ崎美嘉ちゃんのバックダンサーとして参加するんだっけ?」

 

 三人それぞれ別の知り合いが同じアイドルのバックダンサーとは凄い偶然である。

 

 パラパラとパンフレットを捲り、今日の定例ライブに参加するアイドルの名前を確認する。えっと、城ヶ崎美嘉ちゃんに元アナウンサーの川島瑞樹さん、小日向美穂ちゃん、輿水幸子ちゃん、そして日野茜ちゃんか。

 

「私、美穂ちゃんとは一緒にお仕事したことあるなぁ」

 

「ミキは美嘉と一緒にモデルの撮影やったことあるの」

 

「真美は茜ちんと一緒にバラエティー番組ー。亜美と二人がかりだったのに綱引きで負けちったー」

 

 そんなことを話しながら私たちは会場内の自分たちの座席の場所へと辿り着いた。

 

「って、ここー?」

 

 そこは二階席の一番端の三席だった。高い位置からステージ全体を見渡せると言えば聞こえはいいが、少々角度が付いて見づらい席でもあった。

 

「でもまぁ隅っこだし、ここなら他のお客さんにもバレづらいと思うよ?」

 

「んー、まぁ確かにそうなの」

 

「はるるんの言う通りかなー。しょーがないか」

 

 少々不満はあったものの、最後は美希と真美も納得してくれた。

 

 さて、まだお客さんが少ないうちに大人しく――。

 

 

 

「あーっ!? な、765プロのアイドルがなんでこんなところにいるにゃ!?」

 

 

 

「「「………………」」」

 

 ――座って、待ってたかったなぁ……。

 

「……はるるーん、何バレてるのさー」

 

「……全く、春香はしょうがないの」

 

「さっきまで散々気付かれないとか言って弄ってたくせに、ここぞとばかりに責任を押し付けるのは止めてくれない!?」

 

 最近ますます良太郎さんに毒されているような気がする二人の物言いに泣きたくなり、とりあえず全部良太郎さんのせいにして後で文句を言おうと心に誓った。

 

 

 




・小日向美穂
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。キュート。
恥ずかしがり屋ながらも万物の諸価値を転換し生の哲学を切り開く歌声を持つらしい17歳。
SSRは引けましたか……?(小声)

・日野茜
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。パッション。
夏とラグビーとお米とお茶が似合う熱血17歳。ボンバー!!!!
三話初登場時の作画はなんとかならなかったんですかねぇ……。

・唐突な 輿 水 幸 子
アニメではこの場にまゆがいたのですが、今作では幸子にバトンタッチ。
第一話でも美穂とまゆの三人で映ってたし、多分最適な人選だと思う(自画自賛)

・kwsmさん
既登場なのでスルーします(無慈悲)
ただキャミ姿はちょっとセクシーだった(小並感)

・レコード会社の代表取締役社長
作中では明言されていませんでしたがどうやらモデルとなった方がおられるようなので、その方の役職から当てはめてみました。

・はるみきまみ
今回登場する765枠はこの三人。全員とは言えませんが、他のメンバーも各所各所で登場させる予定です。

・リボンキャストオフ春香
当然「リボンが本体」というワケではなく、実際には『天海春香』という人間を構成する要素にリボンが含まれてしまった結果である。『天海春香』という人間がこの世界に形作られ、そして『登場人物』としての役割を与えられた時に既に彼女はリボンを装着していた。故に『天海春香』を認識する以上リボンという要素を切り離すことは出来ず、リボンを外した時点で『天海春香』は世界に設定された『天海春香』とはかけ離れた存在になってしまい『天海春香』として認識することが出来なくなる。つまり「リボンを外したから天海春香として気付かれない」のではなく「リボンを外した時点で彼女は『天海春香』ではなくなる」ということが正しいという設定をたった今考えながら適当につらつら書いてみたけどちょっと楽しかった。



 ついに邂逅を果たしてしまった346と765です。凛ちゃんたちとの絡みを想像された方もおられたでしょうが、実は絡むのはその他のメンバーの方なんだなぁこれが。いくら何でも舞台裏に入れるわけないでしょ(正論)

 そして本番直前のひと悶着と虎の巻の内容を次回に控え、今回はここまでです。



『どうでもいい小話』
作者的『デレステのステージに立たせてみたら予想以上に可愛かったアイドル』一覧
・杉坂海
・白菊ほたる
・三好紗南
・小関麗奈

 加筆修正は皆さんの心の中でどうぞ。

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