当たるといいなぁ(なお作者のリアルラックが絶望的に低すぎる模様)
「えー!? 美希ちゃんって、お姉ちゃんと仲良いのー!?」
「うん。割とよく話すの。莉嘉のことも、少しは聞いてるよ?」
「ほうほう、みりあっちはりょーにぃとぷらいべーとな知り合いというワケですな?」
「そうだよぉ。みりあの通学路がりょうお兄ちゃんとおんなじだったんだ」
「……はぁ」
キャイキャイと楽しそうに莉嘉ちゃんやみりあちゃんと話す美希や真美。あっという間に仲良くなったらしい年少組の姿に、私は思わず嘆息してしまった。
346プロの定例ライブの会場にて私たちの正体があっという間に露見し、すわ大騒動かと焦ったのも束の間。なんと彼女たちも346プロのアイドルだったらしい。おかげで彼女たちも最初に思わず大声を出してしまった以外は大きく騒ぎにすることはなく、こうして落ち着いて全員で席に着くことが出来た。
ちなみに身バレした原因は私ではなく美希と真美だったらしい。先ほど散々身バレの原因を人に擦り付けてきた二人に色々と言ってやりたいところではあるのだが、結局私は自分から正体を明かすまで気付かれなかったという事実に打ちのめされて正直それどころでは無い。私がこれまで歩んできたアイドル人生は全てこのリボンに集約されてしまったのかと若干目頭が熱くなった。
「あれ、はるるんどったの?」
「花粉症?」
良太郎さんを殴る回数を二回に増やしてやる。
「でも、アイドルと言ってもまだ所属しているだけでデビューしているわけではないんですけどね」
そう言ってふふっと笑う美波さん。
「それにしても、春香さんたちみたいなトップアイドルでもこうやってアイドルのライブに来たりするんですね」
「一応私たちもアイドルである前に一人の女の子だからね」
私たちだって元々は『アイドルのファン』なのだからライブにだって行きたいのだ。時間を空けることはだいぶ難しくなってきたものの、良太郎さんやジュピター、魔王エンジェルの皆さんのライブにはそれなりに行かせてもらっていたりする。
昔は凄まじい倍率の良太郎さんのライブのチケットは抽選でかすりもしなかったが、プライベートでも割と交流が増えた今は直接チケットを融通してもらったりすることもあった。少々ズルいような気がして他のファンの方に申し訳ないが、一応私たちも『テストや受験を頑張ったご褒美』という形で受け取っているので問題ない……と自分自身に言い聞かせている。
「それに、今回はちょっと頼まれごとがあってね」
「頼まれごと……ですか?」
「うん。今回城ヶ崎美嘉ちゃんのバックダンサーとして参加する三人が私たち三人の……知り合いの知り合いらしくて、用事があって見に行けないから代わりに行ってくれって頼まれちゃったの」
「えっ!? もしかして凛ちゃんたちですか!?」
「え?」
もしかして彼女たちも知り合いだったのだろうか。
話を聞いてみると彼女たちは『シンデレラプロジェクト』という企画でデビューするメンバーらしく、バックダンサーの三人もそのプロジェクトの参加メンバーだったらしい。
「そんな人たちとこーして席が近くになるとか、すんごい偶然だねー」
「きっとこれがりょーたろーさんが言ってた『アイドルはアイドルと惹かれ合う』って奴なの」
「納得せざるを得ない……」
割と街中で良太郎さんや天ヶ瀬さん、今は海外に行ってしまっているが魔王エンジェルの皆さんとも出くわすことがあったし、否定材料が何処にも無かった。
「それにしても、アイドルの春香さんたちにそう言うことを頼むなんて、凄い人たちがいるんですね」
「言われてみればそうだね。要するに、トップアイドルを使いっぱしりにしてるってことだもんね」
「よもや、天上に住まいし神々の信託を受けたか!?」
「あ、あはは、ま、まあね」
可奈子ちゃんと李衣菜ちゃん、そして良く分からないけど蘭子ちゃんの言葉に苦笑する。デビューしたての恵美ちゃんたちはまた別として、私たちよりも更に上のトップアイドルである良太郎さんや天ヶ瀬さんからの依頼だとは明かしていないので当然の反応ではあった。
「そんなめんどーくさいこと引き受けるなんて、杏には考えらんないなー」
「でもでも、春香ちゃんたちみたいなすっごいアイドルに注目されるなんて、凛ちゃんたちもすっごいにぃ~!」
「わ、私たちは別に……」
「………………どうしてにゃ」
(……ん?)
「春香、さん。どうか、しましたか?」
「あ、ううん、何でもないよ、アーニャちゃん」
「………………」
「……は、始まっちゃいましたね……」
「……うん」
控室に設けられたモニターには、今回の出演者五人が揃って『お願い!シンデレラ』を歌っているステージが映し出されていた。この曲は346プロのアイドル部門を代表する曲で、この曲をステージで歌うことが346プロでアイドルをする上での一つの指標になるらしい。
そんな彼女たちのステージを見ながら、私たち三人は完璧に緊張に呑み込まれてしまっていた。既にステージ衣装に着替えて後はこうして控室で自分たちの出番、すなわち美嘉さんのステージまで待機しているのだが……準備万端とは強がりでも言えなかった。
私たち三人は曲が始まると同時に奈落から大きく飛び上がるのだが、先ほどの通しのリハーサルではタイミングが全く合わずに何度も着地を失敗した。結局一回も成功すること無くリハーサルは終わってしまい、後はぶっつけ本番。何か出来ることはないかと一通り振り付けの確認はしたが、どうしても『一回も成功しなかった』という事実が私たち三人の頭の中に強く残ってしまった。
先ほどから卯月は小さく震えており、未央もモニターを見たまま一言も発さずに微動だにしない。かく言う私も、先ほどから掌の汗が何度拭っても拭いきれなかった。
こんな緊張と不安に呑み込まれている状態で、とても練習通りに踊れるとは思えない。
どうしよう、まだ何かするべきことはあるかと考え、その時私はようやく『それ』の存在を思い出した。
席を立ち部屋の片隅に置いてあった自分のカバンに向かって走る。
勢いよくジッパーを開けて中を探ると、それは直ぐに見つかった。
「し、しぶりん?」
「ど、どうしたんですか?」
「……これ」
突然の私の行動に困惑する二人に見えるように、私はそれを掲げた。
「良太郎さんから、貰ったんだ」
「「良太郎さんから!?」」
それは、昨日の晩にお店まで来た良太郎さんが私に手渡した一通の茶封筒だった。
「『もし何かあったら開けて』って言って渡された」
「な、何が入ってるの?」
「分かんない。……でも、今がこれを開けるべき時なんだと思う」
別にトラブルがあったわけではない。けれど、もしこの中に良太郎さんからのメッセージが入っていたりして、それで少しでも私たちの勇気になればと思った。
「……開けるよ?」
二人が無言で頷いたのを確認してから、私は糊付けされた封筒の口を開いた。
中には、どうやらポストカード大の紙が何枚か入っているようだった。
意を決し、勢いよく中身を机の上に出した。
「「「っ……!?」」」
目を見開き絶句する。
「りょ、良太郎さん……!?」
中から出てきた『それ』は――。
「うわ、これしぶりん!?」
「わぁ! 凛ちゃん可愛いです!」
――幼き日に良太郎さんと一緒に取った私の写真だった。
「何入れてんのさあああぁぁぁ!?」
何かもう本当に色々と台無しというかあの人は何をしてくれているのだろうか。
「見て見てしまむー! このしぶりん、良太郎さんの影に隠れてこっち見てるよ! 顔真っ赤!」
「はい! こっちはちょっと前に出てきてますけど、良太郎さんの服の裾をちょこんと摘まんでます!」
「逐一詳細を口にしないでくれない!?」
まさか以前良太郎さんにアイドルを始める旨を伝えた時にした写真撮影云々の会話が伏線になっているなんて考え付くはずがなかった。
というか、本当に何のつもりだろうか。確かに緊張は吹き飛んで先ほどまで悪かった未央と卯月の顔色もすっかり元通りではあるが、そのためだけにこんなものを入れたというのか。
「あ、これ写真の裏に何か書いてあるよ。えっと……『これを読んでいるということは、多分凛ちゃんたちは不安と緊張で押し潰されそうになっていることだろう』」
「こっちは続きです。『リハーサルが上手くいかないとか練習通りに動けなくて不安になるのは分かるけど、まずはこの写真を見て落ち着いてほしい』だそうです」
「落ち着けないよ!」
寧ろこれで落ち着ける方がおかしい。
しかし手段はともかくとして、こうしてしっかりとした助言はあるようだ。これだよ、私が求めていたのは。
続きはこれだろうかと写真の中のランドセルを背負った私の姿を出来るだけ視界に入れないようにしながら次の写真を捲る。
『ちくわ大明神』
「……むきゃああああぁぁぁ!?」
「しぶりん落ち着いて!? キャラ変わってるから!」
一体どれだけネタを仕込めば気が済むんだこの人は!
衝動的に写真を破り捨てそうになるが後ろから未央に羽交い絞めにされて止められる。どうせコピーなのだろうから、この行き場のない感情をぶつけさせてほしい。
「つ、続きはこっちみたいですね。えっと……」
――今君たちが考えるべきなのは、頑張らなくちゃなんてことじゃなく、ましてや失敗したらどうしようなんてことでもない。自分たちを鼓舞する掛け声だ。
――君たちに必要なのはただ一つ、ステージに上がる瞬間の勇気だけ。だから自分自身を奮い立たせる勇気の一言があれば、絶対にステージは上手くいく。
――ちなみに『あんぱん』とかオススメ。
「……これで全部みたいですね」
「最後の『あんぱん』は一体……?」
最後の最後でまたネタが仕込まれていたが、この際それには目を瞑ろう。もういっそここまでのやり取り全てに目を瞑りたい気分ではあるが。というか既に疲れ果ててしまっているのでそのまま目を瞑って眠ってしまいたい。
「本当になんで最初からこれだけパッと書いて終われないのかな……」
割と良いこと言っているはずなのに素直に感謝することが出来なかった。
「でも緊張が取れたのは確かだよね」
「はい。ドキドキはしてるんですけど、不安とかそういう感じではないです」
「……一応感謝はする。感謝はするけど……とりあえず、帰ったら殴る」
良太郎さんへの処遇は置いておいて、勇気の一言を何にするかだ。あんぱんはさておき、自分の好きなものを掛け声にするというのは良い考えな気がする。
「……チョコレート!」
「な、生ハムメロン!」
「フライドチキン!」
当然な結果だが、ものの見事に全員バラバラだった。
「「「……ジャーンケーン……ポンッ!」」」
さて、今回の事の顛末と言う名のオチを語ることにしよう。
346プロの定例ライブは何事もなく盛況に終わった。美嘉ちゃんは勿論、他の出演アイドルのステージも大成功だったということで、そしてバックダンサーを勤めた凛ちゃんたちの初ステージも成功だった、という意味だ。
ステージに立った凛ちゃん本人曰く「まだまだなのは自覚してるけど、それでも自分たちに出来ることは全部出来た」とのことで、観客として見た春香ちゃん曰く「改善点がいくつかあるから今後の成長に期待」とのこと。百点満点とは言えないが、自他共に認める八十点といったところか。
……ただ、何故かその話を聞いた後に二人から殴られた。ニッコリとアイドルスマイルからのグーパンチが最短で俺の腹筋を襲い、彼女たちの細腕からは考えられないダメージを負った。麗華やりっちゃんのことも考慮するに、もしかして俺はドラゴンタイプの弱点がドラゴンタイプみたいに、アイドルからの攻撃に対する耐性が低いのかもしれない。
しかし凛ちゃんに怒られる理由はまだ何となく例のアイドル虎の巻の件だろうなぁと予想出来るのだが、春香ちゃんに怒られる理由に心当たりが無い。
そもそも、何故春香ちゃんがライブに……美希ちゃんが誘ったのかな?
とにかく、凛ちゃんの初ステージは成功。めでたしめでたしということにしておこう。
……『凛ちゃんたち』は……だけどね。
・『アイドルはアイドルと惹かれ合う』
いやまぁ、そうしないと話し進まないし(メメタァ)
・『お願い!シンデレラ』
中居君がCMで歌ったので、多分一番有名なデレマス曲。
・アイドル虎の巻の正体
緊張をほぐす何かだろうと大方の人が予想していたでしょうが、それが凛ちゃんの写真だと予想した人はいるまい(いないよね?)
・ちくわ大明神
誰だ今の。
・『あんぱん』
クラナドは人生。
・ドラゴンタイプの弱点がドラゴンタイプ
どちらかというと悪タイプなのでフェアリータイプの攻撃でダメージを喰らっている感じ。
『フライドチキン』叫んでないやん! と言われそうですがライブシーンを作者が書けるわけないでしょ!
というわけで第三話編終了となります。次回はチアーニャや○クロスみなみん登場の第四話……ではなく、今回ラストの引きをそのままに第五話に飛びます。
『どうでもよくないけど小話』
ついにラブライブサンシャインの放送が始まりましたね!
プロデューサーとしては、アイドルのライバルの動向は要チェックですよ!
『サンシャイン第一話を視聴して思った三つのこと』
・「ヅラ」ではない、「ずら」だ!
・親方! 空から堕天使が!
・というか、ヨハネ初期自己紹介文とキャラ違くないっすかね……?