アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

150 / 555
うっひょおぉぉぉ!! 4thライブ本当にチケット当たったあぁぁぁ!?

みんな、さいたま公演二日目で会おうぜ!


Lesson125 Where are my glass slippers?

 

 

 

 突然ではあるが、123プロの事務所内にはレッスンルームも設けられている。

 

 少々こぢんまりとしているがオフィスビル内ということで防音防振対策は万全。外部のトレーナーや振付師の方のレッスンを受ける時は外のスタジオを借りるのだが、自分たちで行う自主練習はほとんどここを使っている。

 

 ちなみにレコーディングの設備もあったりするのだが、こちらは一度も使われていないとのこと。じゃあなんで作ったのかと聞いてみたところ、逆に作らないとスペースが余ってしまうらしい。じゃあなんでこんな広いビルのワンフロアを……とこの話を始めるとキリがないのでこの辺にしておこう。123プロにも色々と大人の事情があるということだ。

 

 さて、そんなリョータローさんからジュピターの三人も利用する123プロのレッスンルームに、今日はアタシとまゆと志保の三人の姿があった。

 

「そう、未央ちゃんの初ステージは成功だったのねぇ」

 

「みたいだよー」

 

「そうですか」

 

 自主練習中に一息を入れつつ、アタシは未央たちの初ステージの顛末をまゆと志保に伝えた。

 

 先日行われた346プロの定例ライブでの未央の初ステージは、概ね成功と言っていいものだったらしい。らしいというのは、アタシは直接見に行くことが出来なかったので出演した本人や代わりに行ってもらった真美から話を聞いたからだ。

 

 まぁ私たちみたいにステージの途中で転んだ挙げ句メディアに叩かれるといったレベルで悪い初ステージにはならなかったようで何よりだ。

 

「未央ちゃんと街中で出会ってまだ一ヶ月も経ってないのに、本当にトントン拍子よねぇ」

 

「本当ですよ」

 

 頬に手を当てながら呆れるというよりは半ば感心した様子のまゆに、こちらは本当に呆れたような様子な志保。

 

 確かにまゆの言う通り、アタシたちと未央が出会ったのはほんの一ヶ月ほど前。あの頃の未央はまだ明確に『アイドルになる』という意志を持っていなかったにも関わらず、既に美嘉のバックダンサーに選ばれるような状況になっているのだ。

 

 アタシが街中でリョータローさんや社長に声をかけられたときのように、本当にアイドルの人生ってゆーのは何があるか分からないだなぁとしみじみ思う。

 

 しかもこの『本田未央他二名のサクセスストーリー』と言っても過言ではない話には、まだ続きがあるのだからもうお腹一杯だ。

 

「? どういうことなの?」

 

「それがさー、まゆに志保聞いてよー。定例ライブの話を聞いた次の日に来たメールで言ってたんだけどさぁ……」

 

 

 

 

 

 

『……し、CDデビュー……?』

 

「はい。新田さんとアナスタシアさんのお二人、そして渋谷さんと島村さんと本田さんの三人には、それぞれユニットとしてCDデビューしていただきます」

 

 それが、先日PRPVの撮影を終えた私たちプロジェクトメンバーを招集したプロデューサーが告げた言葉だった。

 

 初め、プロデューサーの言葉の意味がよく理解出来ておらず、私は全く反応することが出来なかった。反応できなかったのは私だけでなく、誰も大きくリアクションを取らなかったところを見るに、きっとみんなも私と同じだったのだろう。

 

 そんな中、真っ先に動き出したのは未央だった。

 

「うおー!」

 

「きゃっ」

 

「うわ」

 

 そんな歓声を上げながら隣にいた卯月に抱き付き、隣にいた私まで巻き込んで床の上に崩れ落ちて三人で尻もちをつく。

 

「ど、どーしよ!? どーしよ!? CD、CDデビューだよ!?」

 

 興奮した様子で早口になる未央の様子に、ようやく事態を飲みこむことが出来た卯月の顔も徐々に破顔していく。

 

「っ……! うわー!」

 

 そして未央と同じように歓声を上げながら両腕を広げ、私と未央を纏めて抱きしめた。

 

「おめでとうございます!」

 

「すごーい! CDデビューだー!」

 

「どうしよう……いきなりすぎて……!」

 

 周りのプロジェクトメンバーの祝福の言葉や同じくCDデビューを告げられた美波さんの戸惑いの言葉を耳にしながら、それでもまだ少し私は茫然としていた。

 

 CD、CDである。それは今までの私にとって店で買って聞くものだった。そのCDに自分の歌が収録されて発売されるというのだから、私もどちらかというと喜びよりも戸惑いの方が大きい。

 

 しかし戸惑いながらも、先日バックダンサーとして初ステージに立った時以上に「あぁ私、本当にアイドルになったんだなぁ」と何処か他人事のような感想を抱いてしまった。

 

 

 

「ズルい! アタシは!? アタシもCD出したい!」

 

 

 

 そんな興奮したり戸惑ったりする私たちを現実に引き戻したのは、そんな莉嘉の叫びだった。

 

「……そ、そうにゃ! みくたちはどうなるにゃ!?」

 

 それしながら焦ったように問いつめるみくに、プロデューサーはいつものように表情を変えず、ただ一言だけ返事をした。

 

「……企画検討中です」

 

 

 

 

 

 

「なんと、もうCDデビューと来たか」

 

「うん」

 

 今日も今日とて渋谷生花店の店先である。

 

 最近は凛ちゃんの近況を聞きに行くついでに俺がお父祭壇の花を買いに行く役目を任されていた。それ以外でも割と頻繁に顔を出して世間話をしているが、今日はちゃんとお客様なのだ。

 

 しかしいつもいつも凛ちゃんが店番をしているわけではなく、今日は俺が店に来たと聞いてわざわざ下に降りてきてくれた。なんだかんだでええ子やなぁ。

 

 という訳で渋谷のおじさん(凛ちゃんのお父さん)に花を見繕ってもらいながら、凛ちゃんからCDデビューの話を聞くことになった。

 

「私と卯月と未央の三人、あと美波さんとアーニャの二人でそれぞれユニットとしてCDを出すんだって」

 

「なるほどね」

 

 あの人数を全員同時にデビューさせるには流石に武内さんの手が足りないだろうし、まず始めに既にステージ経験のある三人と一番年上の新田さんを含めたユニットをそれぞれデビューさせて、他のメンバーは順次デビューってところかな。

 

 なんとなーく、前に出る姿勢の強そうなみくちゃんや莉嘉ちゃん辺りがちょっとゴネそうだなぁと何となく思ってしまった。

 

「それで、三人のユニット名とかはもう決まってるの?」

 

「そう、そこなんだよ……」

 

「ん?」

 

 聞くと、武内さんから宿題と称して「ユニット名を考えておいてください」と言われてしまったらしく、今度三人で話し合う時までに案を出さなければいけないそうなのだ。

 

「『覚えやすく』て『三人らしい』名前がいいらしいんだけど、私じゃ全く思いつかなくてさ。……お父さんにもちょっと案を出してもらったんだけど……」

 

「? おじさん、何て名前を提案したんですか?」

 

 何故か凛ちゃんが言い淀んだので、疑問に思っておじさん本人に尋ねてみる。

 

「『プリンセスブルー』はどうかなって。世界初の青いカーネーションの一種で、花言葉は『永遠の幸福』だ」

 

「……正直コメントに困るぐらいいい名前だとは思うんですけど、いささか『凛ちゃん色』が強すぎやしませんかねぇ」

 

 おじさんの凛ちゃんに対する『頑張れ』という思いはひしひしと伝わってくるのだが、正直三人らしい名前ではないなぁ。

 

 凛ちゃんもそれに気付いているから若干嫌そうな顔をしつつも顔を赤らめて照れているのだろう。

 

 しかしこのまま没にするには惜しいぐらい本当にいい名前であることも確かである。

 

「となると、『プリンセスブルー』は凛ちゃん担当だね」

 

「えっ」

 

「イメージ的には卯月ちゃんが『プリンセスピンク』担当で未央ちゃんが『プリンセスイエロー』担当かな」

 

「待って、担当って何」

 

「ブルー! ピンク! イエロー! 三人揃って『美城戦隊シンデレジャー』!」

 

「語呂悪い! ……じゃなくて、待ってって言ってるんだから待つ素振りぐらい見せてくれていいんじゃないかな!?」

 

「はい」

 

 ズズッと渋谷のおばさんがわざわざ淹れてきてくれたお茶を飲んで小休止。

 

「ねぇ、良太郎さんだったら私たち三人にどんな名前つける?」

 

「俺だったら?」

 

「良太郎さん、123プロの新人アイドルユニットの名付け親だって聞いたよ」

 

「まぁ一応ね」

 

 俺が恵美ちゃんとまゆちゃんのユニット『Peach Fizz』の名付け親であることは別に隠しているわけでもなく普通に公表していることなので凛ちゃんが知っていても何も不思議ではない。

 

「そうだなぁ……」

 

 しかし、名付け親だからといって簡単に名前を思い付けるわけでもないのだ。ピーチフィズの名前を思い付いたのも割と偶然だったし。

 

 うーん、イメージ的にはさっきも言ったように凛ちゃんが青で、卯月ちゃんがピンク、未央ちゃんが黄色だから……。

 

「『CMYK』とか」

 

「色合いは問題ないかもしれないけど、黒は何処から来たのさ」

 

「『大三元』とか」

 

「芸名が白・發・中のどれかになりそうだからヤダ」

 

「『ディメンション・トラップ・ピラミッド』とか」

 

「ネタバレ防止のためにコメントは控えておくよ」

 

「『姦し娘』とか」

 

「とりあえず考えるのが面倒くさくなったことだけは分かった」

 

 ことごとく凛ちゃんからダメ出しを喰らってしまい、再びズズッとお茶を飲んで小休止。

 

「真面目な話、その名前を聞いただけでどんなアイドルなのか分かるような名前ってのは大事だよね」

 

 例えば346の姫川が所属する『チアフルボンバーズ』なんかが顕著に名前だけでどんな娘たちなのか分かりやすいと思う。この名前でまさか川島さんや楓さん辺りが参加しているとは誰も考えないだろう。

 

 故に先ほどおじさんが提案した『プリンセスブルー』からは卯月ちゃんと未央ちゃんのイメージが湧かないので余りよろしくないのではないかと個人的に思うのだ。

 

 じゃあ『Peach Fizz』はどうなんだと言われてしまえば正直何も言えないのでこの際置いておこう。俺自身のネーミングセンスの無さはあくまでも個人的な問題なのである。

 

 まぁ自分の娘のイメージを全面に押し出したい親心も分からないでもないが。

 

「フィーリングも大事だからね。凛ちゃんたち『新たな時代』を担うアイドルのユニット名だから、じっくりと考えてみなよ」

 

「それって結局丸投げ……え?」

 

 一瞬呆れた様子を見せた凛ちゃんだったが、何かに引っ掛かったらしい。

 

「良太郎さん、今なんて……」

 

「? 今は別に突っ込まれるようなネタは仕込んだつもりはなかったけど」

 

「そうじゃなくて……まぁいいや。一応参考にするね」

 

「え、参考になるのあった?」

 

「発案者がそれを言っちゃったら今までの会話全部無駄になっちゃうんだけど」

 

 はてさて、凛ちゃんたち三人のユニット名はどんなものになるやら。

 

 

 

 

 

 

おまけ『Jupiter』

 

 

 

「ところで良太郎さんの事務所に移籍したジュピターだけど、名前の由来ってあるのかな」

 

「『太陽系の中で一番大きな惑星だから』って理由だと俺は予想してる」

 

「そこで太陽の名前を使おうとは思わなかったのかな」

 

「まぁその時は既に太陽(オレ)がいたからね」

 

 

 




・123プロのレッスンルーム
設定としては最初からあったのだが書くタイミングがなかった。一応ワンフロア貸し切ってるんだし、これぐらいはね?

・「……企画検討中です」
「せめて名刺だけでも」に続く武内Pの名台詞。
あと他には「ぴにゃぴっぴ(低音)」とか……え、メディアが違う?

・『プリンセスブルー』
最近シリーズ化してる凛ちゃんの花屋SSシリーズで得た知識。
ええお父さんやなぁと純粋に思った。

・CMYK
減法混合に基づく色の表現法。シアン、マゼンタ、イエロー、キー・プレート(黒)の四色で、正確には違うが簡単に言えば色の三原色+黒。

・大三元
誰だよ役満の中で一番上がりやすいとか言ったやつ(麻雀歴7年弱で役満経験無し)

・『ディメンション・トラップ・ピラミッド』
二度以上見て初めて分かった遊戯さんの凄さ。この人やっぱり決闘王ですわ。

・姦し娘
うちら陽気な~!

・おまけ『Jupiter』
実際の理由は知らないというか調べていないというか。教えてエロい人!



 というワケでみく立てこもり騒動が起きた第五話編です。後書きに書いてあった放送当時の自分の感想を振り返りに行きましたが、雫のおっぱいのことしか書いてなくて参考になりませんでした。使えねぇなこいつ()

 正直この立てこもり騒動に良太郎を絡ませるのを個人的に楽しみにしていたので、精々引っ掻き回させていただきます。みくにゃんの明日はどっちだ!

 というわけで、また次回。人によっては楓さんssの方でお会いしましょう。



『サンシャイン第二話を視聴して思った三つのこと』
・ダイヤ会長、迫真の 公 開 処 刑 !

・海未は私ですが?(幻聴)

・凛ちゃんも歌おう!(幻覚)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。