アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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今宵、魔王へ真の覚醒をせし堕天使を目の当たりにせよ!
(ついに蘭子回ですのでお楽しみに!)


Lesson134 Fallen Angel's awaking

 

 

 

 ――果たして、我は何故この地に翼を留めているのだろうか。

 

 

 

 俺の隣に腰を下ろす蘭子ちゃん……否、我の隣で羽根を畳んだ《ブリュンヒルデ》は世を嘆き嘆息した。

 

 まるで現世(うつしよ)を拒絶するかのようにその魔眼を臥せ、しかしかつての古傷が疼くのか左の瞳を掌で抑える。

 

「ブリュンヒルデよ。それが我らを縛るこの人の世の掟。天よりこの地へ堕ちた我らはそれに従わねばならぬ」

 

 故に前を見るのだ。そう告げると、ブリュンヒルデは瞼を開けた。深紅に染まった魔眼は、魔力に満ちた銀髪によく映えた。成る程、天上の神々が嫉妬するだけのことはある美貌だ。

 

「……だがこの《混沌の具現(ダークマター)》を討ち滅ぼすには、この仮初めの肉体では《チカラ》が足りぬ……!」

 

「……やも知れぬ」

 

 かつて天上に座していた時ならば、聖なる力を以てして対峙することが出来たであろう。

 

 しかし、我もこの地上に堕ちて永い時を過ごしてしまった。かつての《チカラ》は陰り、この命を賭して刺し違える覚悟が必要だ。

 

「汝も覚悟を決めろ、ブリュンヒルデ。顔を上げろ。魔眼を開け。例えその身が及ばずとも、進まねばならぬ時が来たのだ」

 

 覚悟は出来た。今こそ最後の《チカラ》を解き放ち、真の覚醒を……!

 

「っ~!」

 

 しかしそれは、ブリュンヒルデの手によって引き止められた。白くか細き指が震えながら我が衣に添えられ、我を見上げる紅き魔眼は《堕天使の雫(ティアドロップ)》に揺れてチョー可愛い、じゃなくて……あーもういいや。

 

 プルプルと震えるながらすがるように俺の服を摘まみ、涙目で見上げてくる蘭子ちゃん。

 

 いやぁ美少女の涙目ってそそるものがあるなぁ、などと少々オニチクなことを考えてしまうのは、ぶっちゃけ俺も若干の現実逃避が入っていたからだ。

 

「……ほ、本当に無理なので助けて下さい……!」

 

 ついにいつもの言葉を使う余裕すら無くなった蘭子ちゃんだが、まぁその必死になる気持ちは分かるから何も言えない。

 

「ウマリャーユ、パマギーチェ……私も、助けて欲しいです……」

 

 さらにその隣に座るアーニャちゃんからもヘルプが来た。こっちは涙目にこそなっていないが、それでも凄く困惑した表情でコチラを見てくる。

 

 年下の美少女二人に頼られるという感無量なシチュエーションではあるのだが、正直そんなこと言っている場合ではないのだ。

 

 うんざりするように内心でため息を吐きながら、俺は眼前のそれに視線を戻す。

 

 

 

 ――それは拉麺と呼ぶには余りにも大きすぎた。

 

 ――大きく、多く、重く、そして大雑把過ぎた。

 

 

 

 ――それは正に麺塊だった。

 

 

 

「四人とも、速やかに粛々と食すのです。客の流れを滞らせるとロットが乱れ、店に迷惑が掛かります」

 

 そんなラーメンのようなナニカを一人何事もなく食べ進める貴音ちゃんの姿の向こう側では、俺たち三人と同じような表情で固まる涙目の響ちゃんの姿が見えた。

 

「……さ、流石にこれは自分も無理だぞ……」

 

 というかほとんどベソをかいていた。

 

 しかしながら俺も彼女たちの助けには到底なれそうにない。

 

 いや、普段ならば問題無かったのだ。精神年齢的な問題ゆえに忘れがちだが、俺の肉体はまだまだ全盛期真っ只中の二十歳と三ヵ月少々。ついこの間前世振りにアルコールが飲めるようになって最近晩酌が楽しみになってきた新成人である。

 

 しかしそんな若い胃袋を持つ俺でも()()無理なのだ。

 

 

 

(……佐竹飯店の後でコレは無理だって……!?)

 

 

 

 今度は内心ではなく本当に口からため息を吐く。

 

 

 

 ――どうしてこうなった……。

 

 

 

 

 

 

 こんな蘭子ちゃん回を匂わせるサブタイトルと冒頭の癖に何故こんなフードファイター染みた修羅場を迎えているのかというと、話は二時間ほど前に遡る。

 

 

 

 その日の全ての仕事を終えて残りの予定がスタジオでの自主練だけとなった俺は、最近では珍しく徒歩で移動をしていた。

 

 実は我が愛車はブレーキランプの調子がおかしかったので現在知り合いの修理工場に預けている真っ最中。代車を借りても良かったが、一・二日で直るとのことだったので久しぶりに徒歩と電車での移動を選択したのだ。

 

 そんな俺の今日の予定は、ジュピターの三人と共に出演する新番組の番宣をするために朝から情報番組の梯子だった。その度に主題歌となる新曲のミニライブを行い、その合間合間には雑誌や新聞の取材に答え、昼からは主題歌の発売イベントの握手会にも参加。言わずもがな凄い人数だったので久しぶりに昼飯を食う余裕も無かった。

 

 既に三時を余裕で回っており、今から食べると遅い昼飯で早い晩飯と言った中途半端な時間である。

 

 しかし俺はたった今腹が減っているのだ。

 

 別の仕事があるジュピターと別れて一人街を歩きながら、この空腹を満たすべく大通りを歩く。

 

 洋食和食中華ファーストフードその他諸々。店の前を通る度に空腹を刺激する匂いが鼻腔を擽るさて何処で何を食べるか……。

 

「うーむ、やっぱり腹が減ってると何でも美味そうに見えてくるなぁ」

 

 よし、この際一度目を瞑り、開いた時に真っ先に目に入った店に――。

 

 

 

「今、お腹が減ってるって言いました!?」

 

 

 

「ん!?」

 

 ――そんな矢先、何やら聞き覚えのある声に呼び止められた。

 

 振り返ると、そこには期待に満ちた目でこちらを見つめる茶髪ポニーテールの少女の姿があった。

 

「あれ、美奈子ちゃん」

 

「久し振り、良太郎君!」

 

 かつての765アリーナライブバックダンサー組の一人、元気印の中華娘、佐竹美奈子ちゃんだった。

 

「久し振りだね」

 

「うん! アリーナライブの打ち上げ以来だね!」

 

 ということは……半年振りぐらいになるのか。もうそんなに経つのかぁ……と思ったが現実でも大体それぐらいゲフンゲフン。

 

 ちなみに恭也を名乗っていた時の名残で対応はフランクなままだ。アイドルの先輩ではあるが、同い年なんだし個人的にもこちらの方がいい。距離を取られるのは少々物悲しいのだ。

 

 しかし背は春香ちゃんと同じぐらいなのに相変わらずの大乳だなぁなどと考えていると、その美奈子ちゃんの後ろから覗かせる顔があった。

 

「良太郎さん、お久し振りですー!」

 

「っと、奈緒ちゃんまで。久し振り」

 

 横山奈緒ちゃんが笑いながら片手を挙げる。アリーナライブの時から基本的にこの二人は仲がいいなぁ……ん?

 

「そっちの子は誰かな?」

 

 二人の後ろにもう一人女の子がいた。

 

 小学生ぐらいの身長で茶色の髪を三つ編みにした少女なのだが、何やら見覚えがあるような……?

 

「あー良太郎さん、この子は……っちゅーかこの人は……」

 

「765プロの新しい事務員の方なの」

 

「子供事務員とはこれまた斬新だね」

 

 765プロの子たちから「新しいプロデューサーと事務員の人が来た」という話は聞いていたが、まさかこんなに幼い少女だとは思いもしなかった。

 

 ナギさんの息子のネギ君が子供先生役として映画に出るって話は聞いてたけど、リアルでもこんな話があるんだなぁ。しかし高木さんならば割とあり得そうな話だし。

 

 すると何故か美奈子ちゃんと奈緒ちゃんは気まずそうな表情で顔を逸らした。

 

 それと同時に後ろの女の子も俯いてプルプルと震え始めた。

 

「……良太郎さん、ちゃうんです……」

 

「この方は馬場このみさんと言って――」

 

 

 

「……こんな大人のレディを捕まえておいて子供呼ばわりたぁどういう了見よ!?」

 

 

 

「――二十四歳のれっきとした成人女性なの」

 

「嘘だぁ」

 

「ノータイムで断言したわね!?」

 

 確かに見た目が幼い成人女性だったら身内に二人ほどいるが、両者とも童顔低身長だが出るとこは出てる故に『幼女』とはとても言えない見た目だ。

 

 しかし目の前にいる自称成人女性は完全に幼女なのだ。なんというか女性の身体つきと言うには悲しいぐらいに色々と足りていない。

 

 確かに見た目の割には落ち着いた雰囲気を醸し出しているような気もしたが、今こうして両腕を振り上げながら怒りを露わにする姿はどうしても年上には見えないのだ。

 

「えぇい! ならばこれを見なさい! 運転免許証よ!」

 

「お姉さんのヤツかな」

 

「国が定めた公文書すら否定!? 何が何でも信じないつもりね!?」

 

 いや、本音を言えば若干まだ疑ってはいるものの、免許証まで出されてしまえば流石に信じよう。

 

 ただリアクションがちょっと面白いのでもうちょっとだけからかってみたかった。

 

「良太郎さん、これ……」

 

「ん?」

 

 奈緒ちゃんが何やらスマホで一枚の画像を取り出して見せてきた。

 

 奈緒ちゃんたちの宣材写真かなぁなどと思って覗き込むと、そこに写っていたのは――。

 

 

 

「この間の歓迎会の時のこのみさんの写真です」

 

 ――一升瓶を片手に小鳥さんと肩を組んで笑う、出来上がった彼女の姿だった。

 

 

 

「すみませんでした」

 

「それで納得されるのはそれはそれで納得出来ない!」

 

 

 

「それで話を戻すけど、良太郎君、先程『お腹が空いた』って言ってたよね?」

 

「え? あ、うん」

 

 一通りのやり取りを終えると、美奈子ちゃんがズズイと身を乗り出しながら話を一番初めまで戻してきた。

 

 最近暑くなってきて薄着になった美奈子ちゃんの胸元が大分無防備なことになっていたが、その謎の気迫に気圧(けお)されて思わず一歩後ずさる。

 

「それはいけないね! 今から奈緒ちゃんとこのみさんにウチでご飯をご馳走するつもりなんだけど、是非良太郎君も来てください! お腹一杯ご馳走しちゃいますよ!」

 

「そりゃ勿論――」

 

 条件反射的に頷こうとして、はたと以前恭也が言っていたことを思い出す。確か佐竹飯店と言えば……。

 

「――あぁいや、ちょっと今から予定があって……」

 

「えっ……!?」

 

「うんたった今予定が無くなったから喜んでご馳走になろうかなー!」

 

 止めてくれ、その涙目は俺に効く。

 

「わっほーい! 追加一名様ご案内ー!」

 

 というわけで今日の晩飯(確定)は佐竹飯店で食べることが決まった。

 

 わぁ喜ぶ美奈子ちゃんは可愛いなぁなどと若干遠い目をしていると、何やら同じく遠い目をした奈緒ちゃんにポンと肩を叩かれた。

 

「Welcome to Underground」

 

「やかましーわ」

 

 『the』を付けない辺り完全にネタだった。

 

「それで、結局貴方は誰なの?」

 

 それじゃあ佐竹飯店に……といったところで馬場さんがそんなことを尋ねてきた。

 

「美奈子ちゃんや奈緒ちゃんと仲が良いみたいだけど、なんか何処かで見たことがあるような気がするわね……」

 

 そーいえば変装状態の上に名乗って無かったっけ。

 

 765プロの事務員さんならば今後もよろしくすることがあるだろうから、しっかりと挨拶をしておいた方がいいだろう。

 

「123プロの周藤良太郎です。これから度々顔を合わせる機会があると思いますから、よろしくお願いしますね」

 

「……え」

 

 

 

 さて、まだ全然冒頭の場面にまで辿り着いてないけど次回に続くよ

 

 

 




・冒頭熊本弁会話
(ノリと勢いで書いているので正直中身は)無いです。

・――それは拉麺と呼ぶには余りにも大きすぎた。
ベルセルクは内容重すぎて作者には無理だゾ……(惰弱)

・「今、お腹が減ってるって言いました!?」
地味な今期プリキュアネタ。
何かラスボス出るの早いなと思ったらまさかのゴセイジャー方式だったとは……。

・このみさん再登場
皆さんお察しの通り、765新事務員はこのみ姉さんでした。
後にアイドルとしてもデビューすることになりますが、しばらくは事務員として活動していくことになります。

・ナギさんの息子のネギ君
Lesson31以来のネギまネタ。一応春休みの世界旅行中にイギリスで会っている設定。

・「お腹一杯ご馳走しちゃいますよ!」
劇場版では大人しかった美奈子ちゃんがついに本領を発揮します。
「カロリーが逃げる」という迷言を残した彼女の快進撃がついに始まる……!?

・止めてくれ、その涙目は俺に効く。
止めてくれ、そのナルトスコラは俺に効く。

・Welcome to Underground
2ちゃんねるのページを開いている人の後ろから耳元でソッと囁きましょう。



 殆どの方が「……蘭子、回……?」と思われているでしょうが、誰が何と言おうと蘭子回です(断言)

 次回から本格的に蘭子登場、問題提起、解決策といつも通りに話が展開していくのでご了承ください。



『サンシャイン第十二話を視聴して思った三つのこと』
・開幕堕天使

・お姉ちゃんは小さい頃からポンコツ(知ってた)

・成長している果南(凝視)
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