アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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書いているうちに恋仲○○みたいになってたゾ……。

※昨日の誤爆事件の言い訳は活動報告にて。


番外編25 大家族 周藤さんち!(765編の3)

 

 

 

・三男と九女

 

 

 

 突然だが喉が渇いた。

 

「何かあるかなーっと」

 

 冷蔵庫を開くと中にはオレンジジュースのパックが。残り少なかったのでそのまま一気飲みをする。

 

「あーっ!?」

 

 何事かと振り返ると、いつものように兎のヌイグルミを抱えた伊織がこちらを指差し睨んでいた。

 

「ちょっと! 何全部飲んでるのよ!?」

 

「ひょっ?」

 

 よく見るとこれは伊織お気に入りの100%オレンジジュースだった。

 

「悪い悪い、残り少なかったから。また今度買い出しの時に買っとくわ」

 

「私は今飲みたかったのよ!」

 

 そんな我儘な……。

 

 しかしここで大人な俺は自分の非を認め、今から可愛い妹のためにオレンジジュースを買いに……。

 

「さっさと新しいジュース買ってきなさいよ、このバカ兄貴!」

 

「あぁん!?」

 

 何か人に言われた途端にやる気が削がれるってことあるよね。

 

 その後、厳正な話し合いの結果、俺がジュースを買う代わりに伊織も付いてくるということで決着が付いた。

 

「ったく、お前はもう少し兄を敬ってもいいんじゃないか?」

 

「健兄さんと幸兄さんはちゃんと敬ってあげてるわよ。これはアンタだけ」

 

 近所のコンビニへと向かう道すがら、兎のぬいぐるみの腕を弄りながら悪びれもせずにそう言い切った。

 

「……今更だけど、お前本当にいつもそれ持っているよな」

 

 流石に学校に行く時は持っていないが、基本的に家の中や出歩く時も常に伊織は兎のヌイグルミを抱えていた。

 

「……やよいたちからのプレゼントなんだから当たり前でしょ」

 

 やよい()()というのは双子の妹を含む伊織の妹四人である。

 

 何年か前、四人で少ないお小遣いを出しあって伊織の誕生日プレゼントとしてこのヌイグルミを買ってきたらしいのだが、そんな健気で可愛い妹たちの姿に伊織のみならず兄弟姉妹全員が感極まったのを覚えている。

 

 それ以来、伊織は兎のヌイグルミを大事にするようになった。その大事にする方法が部屋に飾るのではなく名前を付けて常に持ち歩くことなのだから、余程このヌイグルミを気に入ったのだろう。

 

 まぁその名前が『シャルル・ドナテルロ18世』なのは正直どうなのだろうかと思わざるを得ないが。

 

 そうこうしている内にコンビニに到着したので伊織を促す。

 

「ほれ、ジュース持ってこい。ついでに好きなもん一個ぐらいなら買ってやる」

 

「えっ」

 

「まぁ元はと言えば俺がお前のジュース飲んじまったんだから。すまんな」

 

 こうしたやり取りも伊織とのスキンシップの一環だが、嫌な思いをさせてしまったことには変わりないからな。

 

「……え、えっと……」

 

 さて俺も好きなジュース買うかと冷蔵庫の取っ手に手をかけると、シャツの裾を軽く引かれた。

 

 振り返ると伊織は俺のシャツを小さく摘まんで頬をほんのり赤く染め、しかし視線は全く別の方向を向いていた。

 

「……あ、ありがとう。……わ、私も我が儘言ってごめんなさい……お兄ちゃん」

 

(……全く、このツンデレっ娘め)

 

 口にすると絶対火が点くので心の中で呟きながら、素直じゃない妹筆頭の頭を撫でるのだった。

 

 

 

「それじゃあこれで」

 

「……迷いなく一番高いスイーツを選ぶ辺り遠慮がないというか容赦がないというか……」

 

 

 

 

 

 

・三男と十女

 

 

 

「……ん?」

 

 リビングのソファーで昼寝をしていたら何か柔らかいものが俺の体の上に乗っていた。

 

「あふぅ……」

 

 というか美希だった。俺の体にかけていたブランケットの中にまで潜り込んできてスヤスヤとお休み中である。

 

「こいつはまた……」

 

 美希がこうして人が昼寝をしているところに潜り込んで来るのは初めてではなく、リビングでウトウトしていると高確率でこうして美希がやって来る。

 

 じゃあ自分の部屋で、と思うだろうが別に俺の部屋でも躊躇なくベッドにまで潜り込んで来るので効果は無い。寧ろ『ベッドで妹と二人で横になっている』よりはソファーの方がマシなのではないかという『焼け石に水』にすらならないささやかすぎる抵抗だった。

 

 さて、正直姉妹の中でも五本の指に入る大乳がこれでもかというぐらい密着しているので大変幸せなのだが、いくら女の子とはいえ全体重をかけられると普通に重いので美希を起こしにかかる。

 

「おい美希起きろー。兄ちゃんが起きれないぞー」

 

「むにゃ……そのまま二度寝すればいいと思うな……」

 

「いくら何でも二度寝するという選択肢はねーよ」

 

 一瞬だけ心が揺らいだが、この状態を誰か(主に律姉ぇ、伊織)に見られたら何故か俺が怒られるのは目に見えているのだ。

 

 というか、こいつ起きてるじゃねーか。

 

「ほら強制ウェイクアップ」

 

「やーん」

 

「やーんじゃない」

 

 グイッと無理矢理美希の体を起こして自身も体を起こす。

 

 昼寝にちょうどいい場所とはいえ、あくまでもソファーの上なので少々体の節々が痛く、肩や首を回すと軽くコキコキと音を立てた。

 

「あふぅ……ミキはまだ寝たりないのー」

 

「じゃあ部屋に戻ってベッドで寝たらいいじゃねーか」

 

「りょーおにーちゃんも一緒に来てくれる?」

 

「なんでやねん」

 

 などと会話をしながら、美希は極々自然な動作でソファーに腰かける俺の太ももの上に頭を乗せて二度寝の体勢に入っていた。喉が渇いたので飲み物を取りに行きたかったのだが、もうしばらく我慢することになりそうだ。

 

「ったく、どーしてそーもお前は俺と一緒に寝たがるかね」

 

「んー……ミキにもよく分からないけど、こうして一緒にいると胸がポカポカするの。多分、別の世界のミキがりょーおにーちゃんのことを大好きで、だから今のミキもりょーおにーちゃんのことが大好きなんだと思うな」

 

「別世界ときたか。いつから美希は不思議ちゃんにキャラチェンジしたんだ?」

 

「むー、別にミキは二宮先輩みたいな不思議ちゃんじゃないの」

 

「アイツのアレを不思議ちゃんの一言で済ますのは止めてやろうぜ」

 

 別に本人は気にしないだろうが、それでは色々と不憫でならない。

 

 そんなことを考えながら、内心では妹に真っ正面から「大好きだ」と言われてしまい割と動揺しきっていた。

 

 いやまぁあくまでも兄妹としてということは分かりきっているが、それでも美少女から正面切って大好きと言われて動揺しない男はいないのだ。

 

「というわけで、お休みなのー」

 

「何が『というわけで』なんだよ」

 

 はぁと小さく溜息を吐きながらも、あっという間に寝ついてクークーと寝息を立てる妹を起こさないようにしながら先ほどまで自分が使っていたタオルケットを美希の体にかけるのだった。

 

 

 

「……あの、美希さん? お兄ちゃんそろそろ雉撃ちに行きたいんだけど……おーい」

 

 

 

 

 

 

・三男と十一女

 

 

 

「よいしょっと……!」

 

「ん?」

 

 庭に面する窓からふと外を見ると、やよいが庭で洗濯物を干している最中だった。

 

 小さな体をチョコチョコと世話しなく動かすその姿は、流石我が家一番の働き者と兄弟姉妹の中で称されるだけのことはあった。

 

 そんな健気に働く妹の姿を見てこのまま素通りしても良心の呵責に苛まれるだけなので、俺も庭に出てお手伝いをすることにする。

 

「やよい」

 

「あ、良お兄ちゃん、どうしたの?」

 

「いや、一人じゃ大変だろうから俺も手伝おうかと思って」

 

 何せ現在の我が家は十六人家族。当然それに比例して洗濯物の量も半端ではない。正直父さんが若くして築き上げたこの都内とは到底思えないような大きな家の庭でなければ干せないレベルである。

 

 普段ならば春香や雪歩や千早辺りがやよいのお手伝いをしているのだが、今日は三人とも出掛けているようなのだ。

 

「えっ……」

 

 しかし良かれと思っていた俺の提案に、やよいは若干困惑した様子を見せた。俺の被害妄想かもしれないが、暗にやよいから戦力外通告を受けたような気がした。

 

「……オーケー分かった。役に立たない兄ちゃんはすっこんでることにするぜ」

 

「えっ!? あ、ち、違うの待って良お兄ちゃん!」

 

 我が家の天使ことやよいにそんな反応をされたことが割りと本気でショックだったので響か真辺りをイヂメに行こうかと踵を返すが、やよいが腰の辺りに抱き付くようにして引き止めてきた。

 

 正直軽すぎて全く引き止めになっていなかったが、やよいを無理矢理振りほどくわけにはいかないので足を止める。

 

「別に良お兄ちゃんに手伝ってもらうのが嫌って訳じゃなくて……その……」

 

 俺の腰から離れたやよいはもじもじと指を弄ぶ。

 

「み、みんなの下着とかもあるから……」

 

 

 

「じゃあ問題ないな!」

 

「だからあるんだってぇー!」

 

 

 

 貴重なやよいからの突っ込みを受けつつ、流石にこれは俺も引き下がる。

 

「冗談だって」

 

「……本当に……?」

 

 若干疑いの眼差しのやよい。

 

「ホントホント。タオルとか俺や健兄ぃのやつなら手伝っても大丈夫だろ?」

 

「……うん、それならお願いしよっかな」

 

 ちょっと待っててーと言いつつ、やよいはまだ干していない洗濯物の仕分けを始めた。

 

 その際チラリと女性モノの下着が視界に入ったような気がしたが見なかったことにする。黒は一体誰のだろうなーとか考えないことにする。

 

「はいっ! それじゃあ良お兄ちゃんはこっちのカゴのお洗濯ものをお願い!」

 

「おう、任せろ」

 

 早速自分のシャツを手に取り、パンッと皺を伸ばしながら物干し竿にかけた。

 

「フンフフフーンッ」

 

 次々と手慣れた動作で洗濯物を干すやよいの鼻歌をBGMに、俺も任せられた洗濯物を干していく。

 

「よーし! 洗濯終わりー!」

 

 やがて大量にあった洗濯物は全て庭の物干し竿にかけられ、今回の洗濯は乾いた後に取り込むだけとなった。今日は快晴だし、昼下がりには乾くことだろう。

 

「手伝ってくれてありがとう、良お兄ちゃん!」

 

 ニパッと笑うやよいの頭を、どーいたしましてと撫でるのだった。

 

 

 

「ところでやよい、俺のカゴにこんな熊さんパンツが混ざってたんだがこれは誰の――」

 

「きゃぁぁぁ!?」

 

 

 

 

 

 

・三男と十三女

 

 

 

「さて、どーしてお前がここに呼ばれたのか分かるな?」

 

「分かんなーい! それよりりょーにーちゃん、ゲームしよーよゲーム! アミこの間よーやく二つ名ディノ一式が出来たんだー!」

 

「俺が散々粉集め付き合ってやったんだから知っとるわい」

 

 じゃなくて。

 

「いいから正座! 兄ちゃんは怒ってます!」

 

「ちぇー」

 

 俺の目の前を指差すと、亜美は渋々といった様子で腰を下ろした。正座じゃなくて女の子座りだが、まぁよしとしよう。

 

「それでもう一回聞いてやる。どーしてお前がここに呼ばれたのか分かるな?」

 

「んーっと、りょーにーちゃんがアミのせくちーさに我慢出来なく……」

 

「はいツーアウトー」

 

 心優しき兄の顔も三度までだとコキコキと拳を鳴らす。

 

「……アミと真美がりょーにーちゃんの隠してた本を見つけちゃったからでしょー」

 

「ったく」

 

 亜美が観念した通り、今回態々亜美を俺の部屋にまで呼び寄せたのはそのことについてのお説教をするためだった。

 

 そもそもこの間の亜美真美ビニ本発見騒動の際は何故か俺だけが怒られ、人の部屋を勝手に荒らした双子に対しては一切のお咎めがなかったのだ。

 

 流石の俺もこれには納得がいかず、こうして個人的にお説教をしようと思い立ったのである。

 

「ところで、真美も一緒に集合命令かけたはずなんだけどなんでお前一人なのよ」

 

「んっとねー、りょーにーちゃんの部屋でりょーにーちゃんが待ってるって言ったら真っ赤になって逃げちった」

 

「野郎じゃないけどアノヤロウ……」

 

 後で個別にとっ捕まえてやるからな。

 

 今はとりあえず目の前にいる十六人兄弟一番の末妹だ。

 

「それじゃ今はお前だけでいいや。本当に何してくれてるんだよお前らは」

 

「ぶー! アミたちだって新春菊って奴なんだからそーいうのに興味があってとーぜんじゃーん!」

 

「一瞬お前が何を言ってるのか分からんかったが思春期な。せめてもう少し原型を留めろ」

 

 というか、こいつ開き直ったな。若干頬が赤いところを見ると全く恥ずかしくないわけではないようだが、そんな可愛い態度を見せたところで俺の怒りは収まらないのだ! あぁ収まらないね! ちょっと頭撫でたくなったりなんかしてないんだからね!

 

「俺は別にお前たちに見るなとは言わんさ。俺もお前たちと同じ口だからな」

 

 俺も中学生の頃は兄貴二人や友人が持っていた成人向け雑誌をコッソリと読んでいたので、今の亜美真美二人の行動自体を咎めるつもりはない。思春期の中学生なんて大体そんなものである。

 

 問題は、それをどーして自分たちも怒られる可能性がある中で「りょーにーちゃんがこんなの隠してたー!」と律姉ぇのところに持って行って密告をしたのかということだ。

 

 それを問うと亜美は先ほど開き直った態度が嘘のように顔を赤くし、バツが悪そうに顔を背けた。

 

「そ、それはその……む、無理矢理テンション上げないとすっごく恥ずかしくなっちゃって……」

 

「ったく……部屋漁ることも見ることも別に止めねーから、せめて大人しくこの部屋の中だけで完結してくれ」

 

「え……いいの?」

 

 それならば俺に被害が出ることはない。まぁ迂闊に姉妹ものは調達できなくなったが、別にそちら側はそれほど興味ないというか私生活で補間されてゲフンゲフン。

 

 全く、なんでこんな普通だったら弟にするような会話を妹とせにゃならんのだ。

 

 

 

「それじゃありょーにーちゃん、今度はアミたちと一緒に見よ?」

 

「流石にそれは勘弁して」

 

 いくらなんでも妹とビニ本読む勇気は無いです。

 

 

 

 

 

 

・三男と十二女

 

 

 

 さて、末双子の片割れに対するお話は終わったから次は残りの片割れ、真美の番である。

 

「りょーにーちゃんたいちょー! ターゲット捕捉しました!」

 

 さて何処にいるのかと広い我が家を探していると、探索隊の隊員である亜美が戻ってきた。

 

「本当か、亜美隊員!」

 

「はっ! アミたちの部屋の自分のベッドの上で布団に包まっているところを発見! 投降を促したところ、ターゲットは『マミは絶対にこっから出ないかんねー!』と徹底抗戦の構えを見せております!」

 

「お前ら他人の物真似得意な癖に双子の相方の物真似下手だよな」

 

「それはりょーにーちゃんが何故かおんなじはずのアミたちの声を判別出来るだけっしょー!?」

 

 とゆーか最後までちゃんと乗ってよー! とポコポコ殴ってくるのを宥める。

 

 その後、お腹空いたーとキッチンに向かった亜美から入室許可を貰って部屋に向かった。

 

「真美ー入るぞー」

 

 応答を待たずにドアを開けると、亜美の言う通りベッドの上には大きく膨らんだ布団があり、俺が部屋に入ると同時にビクリと震えた。

 

「か、勝手に部屋に入ってこないでよー!?」

 

「許可は得てるから問題ないな」

 

 くぐもった真美の声が抗議してくるが、無視して近寄るとベッドに腰を下ろす。またビクリと震えた。

 

「で? どーしたよ。ビニ本読んでたのを知られたのがそんなに恥ずかしかったか?」

 

「……そ、そんなんじゃないもん!」

 

 じゃあ何なんだと首を傾げていると、今度は布団の中の真美から話しかけられた。

 

「……りょ、りょーにぃはさ……え、えっちなことに興味がある女の子はキライ……?」

 

「……別にキライではないけど」

 

 思わず「大好きですっ!」と高らかに宣言しそうになったのをグッと堪える。別に言っても言わなくてもイメージ的なものは今さら変わらないとは思うが。

 

 すると真美はヒョッコリと布団から顔だけを出した。顔はほんのりと赤く、上目遣いでこちらの様子を窺ってくる。

 

「ホントーに?」

 

「ホントホント」

 

 さっき亜美にも言ったが、別に思春期の中学生が『性』について興味を持ってもなんらおかしくないし、寧ろ普通のことだと思っている。

 

「まぁ恥ずかしがるのは分かるが、俺は気にしてないからお前も気にするな。今後も見たいようならコッソリと見に来い。ただし静かにな」

 

「……マミはそーいう意味で聞いたわけじゃないんだけどなー……」

 

「ん? じゃあどういう意味だ?」

 

「な、何でもない! もー! りょーにぃ、今のは『え? 何だって?』って聞き逃すところっしょー!?」

 

「無茶ゆーな」

 

 バカバカー! とポコポコ殴ってくる真美を可愛い奴めと思いながら宥めるのだった。

 

 

 

「そ、それじゃあ今から……い、一緒に見る?」

 

「だから勘弁してって」

 

 本当にこいつら双子だな。

 

 

 

 

 

 

・三男と三女

 

 

 

「……ん?」

 

「良太郎、どうかしたか?」

 

 放課後。教室で友人と駄弁っていると不意に電波を受信した。

 

「悪い、貴音とラーメン食いに行くことになったから俺先に帰るわ」

 

 腰を下ろしていた机から立ち上がり、側に置いてあった通学カバンを拾い上げる。

 

「へー、貴音ちゃんと放課後デートかよ」

 

「ん? でも今お前携帯出してないよな? 何で分かるんだよ」

 

「いや、来たのは電波だから」

 

「「何だ、電波か。……電波!?」」

 

 それじゃーなーと教室を後にしようとしたら何故か総出で引き止められた。

 

「何だよ。アイツ待たせると結構うるさいんだから手短に頼む」

 

「いやいやいや、お前サラッと訳わかんねーこと言ったぞ!?」

 

「電波って、アレか? メールとかその類いのことだよな? 間違っても安部菜々(ウサミン)先生の方の意味じゃないよな?」

 

「用途的には前者だが、まぁ後者の方が近いかな」

 

 昔からそうだが、感情の起伏だとか「あ、今アイツ何かしたなぁ」みたいな簡単なことは何となく伝わってくるのだ。それを我が家では総じて『電波』と呼んでいる。

 

「マジかよ、まさかこんな身近にエスパーユッコも真っ青なガチエスパーがいるとは……」

 

「双子だからっていくら何でもそれは……」

 

「え、双子三つ子なら誰でも出来るんじゃねーの?」

 

「「おかしいのは周藤家だった!」」

 

 どうやらこの双子三つ子間電波送受信システムは我が家独自のものだったらしい。昔から双子三つ子の奴らは全員使えたからそれが当たり前だと思い込んでいた。

 

 ちなみに双子三つ子の間でそれぞれ受信しやすい電波がある。例えば雪歩が怯えると電波を受けた真が駆けつけ、響が胸のことで弄られると電波を受けた千早がイラッとし、美希が本人のいないところで「デコちゃん」と呼ぶと電波を受けた伊織が「デコちゃんゆーな!」と叫ぶ、等々。俺は専ら貴音のラーメン関係ばかりだ。

 

 割と便利なのだが、一番必要なはずのあずさ姉ぇの電波を受信出来る兄弟姉妹がいないのが悔やまれる。

 

「……ん、待てよ? ということは良太郎、お前貴音ちゃんのことなら何でもお見通しと……!?」

 

「筒抜けってわけじゃねーけど、まぁある程度は」

 

 そんな風に肯定すると、友人二人はゴクリと生唾を飲んだ。

 

「ま、まさか、スリーサイズとか……!」

 

「し、下着の色とか……!」

 

「……はぁ」

 

 全く、一体何を言い出すのかと思えばくだらない。

 

 

 

「そんなの知ってるに決まってるだろ」

 

「「おぉ……!」」

 

 崇められた。まぁ、本当は知らないけど。

 

 

 

「――てなことがあってよ」

 

「なんと……世の双子たちはさぞ不便なのでしょうね」

 

「全くだ。こんな便利システム持ってないなんて」

 

 世間の双子たちの不便さを不憫に思いながら、俺は貴音と並んで歩く。

 

 電波を受信した時には既に貴音は校内にいなかったが、何処の店に行くのかは分かっていたので少し急いだらすぐに追い付くことが出来た。

 

 ちなみに追い付いた時は丁度貴音がナンパされつつも全く相手にせずに歩いている途中で、俺が声をかけて貴音が笑顔で振り返った辺りで物分かりのいいナンパは退散してくれた。

 

 その際「ちっ、結局顔かよチクショウ」みたいな捨て台詞が聞こえてきた。真と並ばなければどうやら俺も割とイケてるらしい。真と並ばなければ。

 

「これもきっと我ら兄弟姉妹が皆、例え世界が異なっても変わることのない絆で結ばれているおかげなのでしょう」

 

「また異世界か」

 

 流行っているのだろうか。

 

 そんな話をしていても自然に足が動く程度に行き慣れた場所にあるいつもラーメン屋に辿り着く。新店開拓に行くことも珍しくないが、今日はいつもの味が食べたい気分らしい。

 

「おっちゃーん! いつもの二つー!」

 

「こら良太郎! 店主殿には敬意を払いなさいと言っているでしょう!」

 

 そんな俺たちを店主以下店員さんや常連の客が皆「あぁいつものやり取りだなぁ」みたいな目で見てくるところまでがテンプレートだった。

 

「そーいやこの間また真と雪歩がラブレター貰ったみたいだぜ」

 

「ふむ、やはりあの二人は同性異性に好かれやすいのでしょうね」

 

「真にとっちゃ同性は全くもって不本意だろうけどな」

 

 カウンターに並んで座り、お絞りで手を拭きながらそんな軽い世間話。

 

「で? 今週のお前は?」

 

「一の三、といったところです」

 

「相変わらずか」

 

 いつものことなのでサラッと軽く流したが、今のは貴音に対するラブレターを含む告白の『新規』と『リピーター』の数である。

 

 我が双子の妹ながら美人の貴音が告白される数も少なくなく、一度フられたぐらいじゃ諦められないとばかりに何度も告白してくるリピーターが多く、中には貴音の気を惹きたいばかりに本当にラーメン屋に弟子入りした猛者まで存在する。まぁそいつは自分で作ったラーメンを貴音に出してしまったばっかりに散々酷評されて色々なものが砕け散ったらしいが。

 

「他の姉さんたちや妹たちにも言えることだけど、さっさと男作っちまえばそーいうのも無くなるんじゃねーの?」

 

「そう言いつつ、強引になんぱしてきた男性を投げ飛ばしたことがあるのは何処の誰でしたか?」

 

「誰だろうな」

 

 へいお待ち! と相変わらず威勢がいい店主(おっちゃん)が俺たちの目の前にいつものラーメンを置くと、いつもの動作で箸を手にお互いの器に分担しつつ薬味を入れる。何度も一緒に食べているのでお互いがお互いの好みを把握しているので胡椒やニンニクの量は聞かなくても分かるし、今日はどれくらい入れる気分なのかも手に取るように分かる。

 

「……そうですね。こうしてわたくしの好みとその日の気分を完璧に把握出来る殿方が現れれば考えましょう」

 

「無理難題だな」

 

「故に、当分は良太郎で我慢することにしましょう」

 

「へいへい」

 

 二人揃って割り箸を割る。

 

「「いただきます」」

 

 

 

「――ってのが俺と貴音のラーメン屋でのやり取りだけど、どうしてお前らそんなこと聞きたがったの?」

 

「……りょーにーちゃんってさ……」

 

「いつも貴音とこんな感じなの……?」

 

「そうだけど」

 

「……むきゃあああぁぁぁ!」

 

「なのおおおぉぉぉ!」

 

「うお、何だどうした」

 

 

 




・三男と九女
手がかかる弟のような兄と少しだけ口うるさい姉のような妹。しかし基本的な上下関係はしっかりと兄と妹になっているあたり安定のツンデレである。

・三男と十女
大好きな兄と懐いてくれている妹その1。割とガチで好きだが当の兄は懐いた猫がじゃれついてきている程度にしか思っていない。

・三男と十一女
頼りになる兄と守りたくなる妹その2。だが実のところ良太郎の頭が上がらない兄弟姉妹筆頭の次点だったりする。

・三男と十三女
一番遊んでくれる兄と手がかかる妹。作者の個人的趣mゲフンゲフン諸事情により真美よりも妹度がマシマシで千早に続いて仲がいい。

・三男と十二女
大好きな兄と懐いてくれている妹その2。こちらは美希と違ってまだ好意を前に出せておらず、良太郎はまだちょっと距離があるのかなーとか思っている。

・三男と三女
唯一無二の兄と妹、以上。



Q これは恋仲○○シリーズですか?

A もしかしたらそうだったかもしれません。

 作者も驚くぐらい貴音がヒロインだった。いや、双子という唯一無二の設定を生かすにはこれぐらいやる必要があったんですお願いです信じてください(北斗隊員並感)

 さて、改めて765プロの良さを再確認してもらったところで次回からは本編に戻ります。CI編ではあるのですが、作者的テーマは『原点回帰』。大運動会編やお料理さしすせそ編辺りのノリを取り戻せたらと考えております。

 それでは。

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