アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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5thの情報が年末に出ていたことに今さら気付いた作者。CD買わなきゃ……!(使命感)


Lesson148 My favorite one 2

 

 

 

 とりあえずお互いの買い物を済ませ、スーパーを後にする。

 

 ほんの少し彼女たちの分も一緒に俺が支払おうとも思ったのだが、恐らく彼女たちは遠慮するだろうし、無理に押し通しても彼女たちは恐縮しちゃうだろうから今回は止めておいた。あと晩御飯を奢るのと意味合いは変わらないはずなのだが、何か違う気がした。どうせ奢るならば俺だってもうちょっとカッコイイ場面を選びたい。

 

 女の子二人だけに夜道を歩かせるのは流石に憚られたので、ここだけはやや強引に車で寮へ送っていくことになった。

 

「それで、猫耳とロックのどっちがアイドルとして相応しいか、だっけ?」

 

 ルームミラー越しに後部座席に座るみくちゃんと李衣菜ちゃんに視線を向ける。ルームライトは点いていないが、外部の街頭からの明かりで何とか二人の様子は窺えた。二人とも助手席ではなく後部座席へ座る辺り、微妙に二人と馴染みきれていないのを感じた。

 

「一先ず、どうしてそんな話になったのか教えてもらってもいいかな?」

 

「は、はい」

 

「えっと、実は私たち、今度ユニットを組むことになったんです」

 

「へぇ、それはおめでとう」

 

 つまりこれでシンデレラプロジェクトメンバー全員がデビューするわけだ。カフェテリアの一角を占拠してストライキ騒動を起こしてまでデビューしたかったみくちゃんがやっと報われたようで何よりである。

 

「でも、そのユニットの方向性の意見が反発しちゃいまして……」

 

「おかげで方向性どころかユニット名すら決まってない状態で」

 

「しかも来月に346プロダクションのアイドルフェスの開催が決まっちゃいまして……ユニットとしてデビューしないにしても、どちらか片方のデビューが遅れるどころか最悪二人ともデビューが間に合わないんです」

 

「それで『一緒に住めば仲良くなるよ』っていう莉嘉ちゃんの意見に流されて、しばらく私と李衣菜ちゃんが一緒の部屋で暮らすハメに……」

 

 なるほどそうやって繋がっていくわけだ。

 

 そして何となく読めてきたぞ。

 

「だからどちらの意見をユニットの方向性として採用するか……つまりアイドルとして相応しいかっていうことを俺に決めて貰いたい、と」

 

「はい、そうです」

 

「周藤良太郎さんの意見だったら文句は言えませんから。ズバッと決めていただこうかと」

 

 なるほどね。

 

「それで、みくちゃんが『ネコ』で」

 

「はい」

 

「李衣菜ちゃんが『タチ』と」

 

「え?」

 

「ゴメン何でもない」

 

 危うく無垢な少女(李衣菜ちゃん)に余計な知識を教えるところだった。

 

 しかし俺の言葉の意味が分からずに李衣菜ちゃんが首を傾げる一方で、みくちゃんの頬がやや赤くなったのを暗がりの中でも俺は見逃さなかった。ははぁん、さてはオヌシ、むっつりじゃな?

 

 それにしても猫……正確には猫耳かロックか。

 

 まぁ色々と言いたいことはあるが、とりあえず簡単に結論を言っておこう。

 

「ぶっちゃけどっちでもいいよ」

 

「バッサリにゃ!?」

 

「バッサリですね!?」

 

 猫耳でもロックでもそれ以外でも、『人々を沸かせ魅せる』のであればそれはアイドルだ。そこに『アイドルらしさ』なんてものは存在しない。

 

 とゆーか『ピクリとも動かない無表情』『自他ともに認めるおっぱい星人』『基本的に他者からの評価が三枚目』とトリプル役満でアイドルらしくない俺にそれを聞いちゃう時点で彼女たちも色々と間違えているような気がする。

 

「それに、ユニットの方向性なんて重要なものに口出しは出来ないよ。事務所が方針を決めるならともかく、事務所からそれを託されたのであればそれは自分たちで答えを出さなきゃいけないことだ」

 

 まぁ多分武内さんがこの二人にユニットを組ませたということは多分()()()()()()を期待しているんだろうけど、流石にそれを教えるのは無粋だし武内さんにも悪いので黙っておこう。

 

 だけどまぁ……お手伝いぐらいはしてあげようか。

 

「もしかして二人とも、お互いがお互いに推しているものがどういうものか分かってないんじゃないかな?」

 

「え? いや、猫キャラなんて猫耳付けて語尾に『にゃー』って付けるだけですし」

 

「むっ!? それを言うなら李衣菜ちゃんなんて、自分でもロックがなんなのか分かってないでしょ!?」

 

「だから自分がロックだって思ったらそれがロックなんだって言ってるでしょ!?」

 

 ふぎぎぎぎっ……! と後部座席で取っ組み合いを始めるみくちゃんと李衣菜ちゃん。猫とロックがガチンコなキャットファイトとは洒落が効いてるなぁ。

 

「はいはいストップストップ。座りながらそんなに暴れると短いスカートの中が見えるよ」

 

「「っ!?」」

 

 バッと慌てて自分のスカートを抑える二人。まぁ流石に暗くて見えるわけがないし、そもそもルームミラーの角度的に彼女たちのスカートすら見えていない。

 

「やっぱり、今の二人に必要なのは『お互いに推しているものを詳しく理解する』こと。お互いにお互いの推しているものを知ってから改めて話し合うことをお勧めするよ」

 

 ただ押し付けあうだけじゃ物事は前に進まないが、お互いのことをしっかりと理解した上でならば少しは話が進むと思う。その点で言えば、二人一緒の部屋でしばらく暮らしてみるというの悪くない手である。

 

「そ、そうは言っても……」

 

「李衣菜ちゃんの説明でロックが何かなんて分かるわけないにゃ」

 

「何をー!?」

 

「なんにゃー!?」

 

「ほらほら、ゴングは鳴ってないんだから第二ラウンドを始めないの」

 

 今こそ立ち上がらなくていいし雄々しく舞い踊らなくてもいいから。

 

 そうこうしている間に346プロアイドル部門の女子寮前に到着。別に疚しい考えがあるわけではないが、この建物の中で大勢のアイドルが暮らしていると考えると胸が熱くなった。

 

「よし、それじゃあそんな迷える君たちのためにお兄さんが一肌脱いであげましょう」

 

「え、良太郎さん、どういうことですか……って、何本当に脱いでるんですか!?」

 

 別にネタ的な意味ではなく、普通に暑いから上着を脱いだだけである。だからみくちゃん、そんな手で顔を覆いながら指の隙間からこっち見ても何も恥ずかしいものは無いから。

 

「要するに二人とも『本当の猫の魅力』と『本当のロックの魅力』を知らないわけだから、それを教えてあげようじゃないか」

 

「良太郎さんが、ですか!?」

 

「いや、生憎その二つに関しては俺も熱く語れないよ」

 

 大乳の素晴らしさと翠屋のシュークリームとオリジナルブレンドのことだったらいくらでも語れるが。

 

「だから、その二つの魅力を教えてくれる人に会いに行くんだよ」

 

 要するに『餅は餅屋』ということだ。

 

「そんなわけで、明日とか時間あるかな?」

 

「あ、明日ですか!?」

 

「方向性を決めるなら早い方がいいでしょ? 学校終わりとかどうかな?」

 

「れ、レッスンは無いですけど、Pチャン……プロデューサーと打ち合わせの予定があるにゃ」

 

「ふむ……なら勝手に連れ回すわけにはいかないな」

 

 ならば、許可を取ろう。

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、みくちゃん……良太郎さん、もしかしてプロデューサーと電話してる……?」

 

 ちょっと待っててーと言いながら車を降りて何処かに電話をかけ始めた良太郎さん。みくたちもとりあえず車から降りると、何やら良太郎さんの言葉の端々から「武内さん」という呼称が聞こえてきた。恐らく、というか間違いなく、みくたちのPチャンに電話をかけていた。

 

 みくたちに猫とロックの素晴らしさを教えてくれる人に会わせてくれるという話ではあったが、流石に周藤良太郎さんと言えど打ち合わせを中止させるほどの影響力はないはず……と考えていると、通話を終えた良太郎さんが戻って来た。

 

「武内さんからの許可は取れたよ」

 

「「えぇ!?」」

 

 それでいいのPチャン!?

 

「もともと明日の打ち合わせっていうのも君たち二人のユニットの話し合いだったみたいだから、理由を話したらオッケー貰えたよ」

 

 その代わり明日は武内さんも一緒だけどね、と事も無げに話す良太郎さん。いくら業界で一番影響力があると称されているアイドルでPチャンとも知り合いだからとはいえ、他事務所の予定にすらサラッと介入してしまったことに空恐ろしいものを感じた。

 

 

 

 ――明日また来て下さい。貴女たちに本当の猫とロックをお見せしましょう。

 

 

 

 そんな美食家みたいな言い回しの言葉を残し、良太郎さんは去っていった。

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで迎えた翌日。学校を終えたみくと李衣菜チャンはいつもだったらそのまま事務所へと向かうのだが、今日はそのまま寮に戻り、一度着替えてから表に出る。

 

 案内してくれるのは良太郎さんだけど、車は同行するPチャンが出してくれるらしい。約束していた時間が近いから、そろそろPチャンなら表で待機していることだろう。

 

 

 

「君、こんなところで何してたの?」

 

「あ、いえ、私は……」

 

 

 

 警察に職務質問を受けるPチャンの姿がそこにあった。

 

 いやまぁ、女子寮の前でスーツ姿の強面の大男がじっと人待ちしていたら、誰がどう見ても不審者である。やや小慣れた感が出てきているのが物悲しく、そろそろPチャンの年間職務質問回数が気になってくるところだ。

 

 見て見ぬフリは当然出来ないので李衣菜チャンと二人で「その人私たちの知り合いなんです」と助け船を出す。

 

「本当にありがとうございました……」

 

「もー、しっかりしてよプロデューサー」

 

「もっと気を付けるにゃ」

 

 などと言いつつ、何をどう気を付ければ不審者扱いされないかという具体的な案は思い浮かばなかった。

 

「それでプロデューサー、今から何処に行くのか知ってるんですか?」

 

「いえ……ただ周藤さんから『ここに二人を連れてきて欲しい』という旨のメールをいただきましたので、そちらに向かわせていただいています」

 

 後部座席から運転席のPチャンに李衣菜ちゃんが今日の目的地を尋ねるも、Pチャンはいつものように首筋に手を当てながら自分も知らないと首を横に振った。

 

 そうして車に揺られること数十分……。

 

「……Pチャン、本当に此処?」

 

「……は、はい、住所及び建物の特徴は……一応、合致しています」

 

「……いや、まぁ『門が立派なちょっと大きな家』には間違いないですけど……」

 

 

 

「これは『ちょっと大きな家』じゃなくて『屋敷』って言うにゃ……」

 

 

 

 目の前に佇む立派な鉄格子の門。そしてその向こうに見える洋風の屋敷(という以外の表現方法が見つからない)を眺めつつ、みくたち三人は思わず呆然としてしまうのであった。

 

 ……え、本当に此処なの……!?

 

 

 




・『ネコ』『タチ』
要するに『受け』と『攻め』です(真面目に解説)
ただまぁ、ラブデスのコミュを見る限りでは李衣菜が攻めで間違ってないんだよなぁ(壁ドン並感)

・『ピクリとも動かない無表情』
・『自他ともに認めるおっぱい星人』
・『基本的に他者からの評価が三枚目』
今さらだけど何でコイツアイドルなんだろうか……。

・ゴング
・今こそ立ち上がらなくていいし雄々しく舞い踊らなくてもいいから。
ところで無尽合体キサラギはいつスパロボ参戦するんですかねぇ。

・明日また来て下さい。貴女たちに本当の猫とロックをお見せしましょう。
ぴよちゃんの妄想でも使われたし、これはアイマス作品と言っても過言ではありませんね!(過言)

・年間職務質問回数
この小説ではアニメよりも回数が伸びる予定。武内Pの明日はどっちだ……!?



 というわけで、アスタリスク回はこんな感じで進んでいきます。

 そして次回は『猫』『屋敷』で分かる人には既に分かると思いますが、ようやく『あの子たち』の登場です。また平均年齢が下がるよ!

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