アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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四月一日のアレは勿論嘘です d(* ´∀`)b

記念に残しておくので、まだ見てない or 気になる方は活動報告へどうぞ。


Lesson157 Got it going on! 3

 

 

 

「さて、いよいよだ」

 

 開演の定刻が間近に迫り、会場の雰囲気も本番直前独特の緊迫したものに変わり始めた。

 

 今回は野外フェスで座席は無いため観客は立ち見状態になる。以前765プロのアリーナライブの際にずっと座っていた冬馬も、今回は否応が無しに立つこととなっていた。

 

「セトリ(セットリスト)は公開されてないですけど、多分一番最初はシンデレラガールズで『お願い!シンデレラ』だと思いますぅ」

 

「それじゃあ白だな」

 

 カチカチとすぐにペンライトを白色で点けられるようにスイッチを変えておく。

 

「いやぁ、それにしてもライブにこういう風に参加するのは久しぶりだなぁ。会場のこういう雰囲気を観客側で楽しむのもいいもんだ」

 

 俺の記憶が正しければ去年の冬の春香ちゃんたちや恵美ちゃんたちのアリーナライブ以来のはずだ。ピーチフィズやジュピターのライブも一応見に行ったが、関係者側からの参加だったし。こうして(いち)アイドルファンとしての参加は本当に久しぶりだ。

 

「冬馬、ここまで来たらちゃんとコールもしっかりやれよ?」

 

「………………分かったよ」

 

 すっげぇ嫌そうな顔をしていたが、一応冬馬は頷いた。今さらお前のキャラが壊れたところで誰も何も言わないんだから、さっさとキャラ崩壊してしまえば楽になるのに。

 

「………………」

 

「ん? まゆ、どうかしたのー?」

 

 何故かまゆちゃんはパンフレットに写っているシンデレラガールズの写真を見ながら首を傾げていた。

 

 恵美ちゃんが呼びかけると、まゆちゃんは「別に大したことはないんですよぉ」と首を横に振った。

 

「ただ……何となくこのメンバーに親近感が沸くというか、私もここに加わっていた世界線があったような……」

 

「良太郎、佐久間(こいつ)は一体何を言っているんだ?」

 

「何って電波だろ。珍しいことじゃない」

 

「それで微妙に納得してしまう自分が嫌だ」

 

 こっち方面では割と毒され始めているようで何よりである。安心しろ、その内にお前もアーティストを育成する芸能専門学校に通ってたような気がしてくるから。

 

「……おっ!」

 

 そんなことをしている内にスッとステージを照らしていた照明が落ち、スピーカーからイントロが流れ始めた。それと同時に幕が開き、ステージ上のディスプレイには十二時を指し示そうとしている時計が表示されていた。このカチコチという時計の針が進む音が混ざったイントロは予想通り『お願い!シンデレラ』のものだ。

 

 

 

『……お願い、シンデレラ!』

 

 

 

 その歌い出しと共に、会場のボルテージが一気に跳ね上がった。

 

 ステージの上に立っているのは愛梨ちゃん、美嘉ちゃん、日野茜ちゃん、白坂小梅ちゃん、楓さん、瑞樹さん、藍子ちゃん、小日向美穂ちゃん、幸子ちゃんの九人。346プロのアイドル部門を代表するユニット『シンデレラガールズ』だった。

 

 さて、今日は俺もただの観客として全力で楽しむことに専念しよう。

 

 周りの観客たちと共に全力かつある程度自重した声量で歓声を上げながらペンライトを振り上げた。

 

 

 

 

 

 

「始まったよっ!」

 

 曲が始まると同時に沸き上がった歓声が、モニター越しと直接の両方から私たちの耳に届いてきた。

 

 346プロサマーフェスの幕開けを飾るシンデレラガールズの『お願い!シンデレラ』。346プロのアイドルを象徴する曲であり、今年の冬に私がフラスタ搬入の手伝いをしにライブ会場へ赴いた際に聞いた曲でもあった。

 

 先輩たちの華やかな姿にみんなが目を輝かす一方で、智絵里は一人青い表情で手を胸の前で握りこんでいた。よほど緊張しているのだろう、ギュッと目を瞑りながら智絵里流の緊張しないおまじないである「カエルさん、カエルさん……」を繰り返し呟いていた。

 

「智絵里ちゃん、声出しに行く? もう少し時間あるから」

 

 そんな智絵里に美波がそう提案した。

 

「それじゃあ、ちょっと行ってくるね」

 

「……でも、ミナミ、リョータローに言われました……」

 

「あっ……えっと……」

 

 アーニャに指摘され、バツが悪そうにする美波。彼女に宛てた良太郎さんからのメッセージは『他人のことを必要以上にしないこと』というものだったはずだ。しかし美波は先ほどから他の人に飲み物を取ってきたり、空調のことを気にしたりと周りに気を遣ってばかりだ。

 

 ……やはり、美波はまだ良太郎さんのことを信用しきれていないのだろうか。いや、それなら良太郎さんにチケットを渡してほしいなんてことを言わないはずだ。

 

 それか、プロデューサーから私たちのリーダーを任されたから、張り切っている?

 

「ミナミ……やっぱり、リョータローのこと、苦手ですか?」

 

「ち、違うの、そういう訳じゃないんだけど……その、私も何かしてないと落ち着かなくて」

 

 だからこれは他人のことじゃないから、と美波。正直屁理屈にも聞こえるが……。

 

 結局、智絵里と共に楽屋を出て行ってしまった美波に、私は何も言うことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ愛梨ちゃんも美嘉ちゃんに負けず劣らずエロいなぁ」

 

「お前のそれは本当に褒め言葉なのか……?」

 

 『お願い!シンデレラ』から始まり、美嘉ちゃん、愛梨ちゃんたちの個人曲が続き、ここでようやくMCタイムとなった。

 

 腕を振りまくって喉も乾いたので持ち込んだミネラルウォーターを飲みながら先ほどのステージを反芻していると、冬馬から呆れた目で見られた。

 

「なんというか美嘉ちゃんが『想像を滾らせるエロス』なのに対して、愛梨ちゃんはこう『ガツンと殴りかかってくるエロス』的な?」

 

「分かる!」

 

「同士よ!」

 

 名も知らぬ隣のファンが賛同してくれたので、ガッチリと熱い握手を交わす。こういう突然発生するファン同士の交流もライブやコンサートの醍醐味である。

 

「何やってんだか……」

 

「お前も見ただろ、あの愛梨ちゃんの揺れる『アップルパイ』を! アレに魅了されなかったら男として嘘ってもんだろ!」

 

「ちょっとイケメンだからってスカしてないで、こんなときぐらい自分を曝け出せよオラァン!」

 

「良太郎もお前もうっせぇよボケっ!」

 

 

 

「……恵美ちゃん、もしよかったら余ってる胸の脂肪を分けてもらえないかしらぁ……?」

 

「余ってないし分けられないし、とりあえず落ち着こうか、まゆ」

 

 

 

 

 

 

 さて、先輩たちの活躍のおかげでステージは順調に進んでいたのだが、舞台裏では早速事件が起こってしまった。……それも、恐らく良太郎さんが危惧していたと思われるものだ。

 

 ――美波が倒れたのだ。

 

「リハーサル室で、練習に付き合ってもらってたんです……そしたら、気分が悪いって言って……」

 

 美波と一緒に練習をしていた智絵里が、涙を流しながらその時の状況を説明する。

 

「風邪ではないようですが、極度の緊張で発熱が……」

 

「緊張……」

 

 千川さんの言葉をプロデューサーが噛みしめるように繰り返す。

 

「だ、大丈夫ですよこれぐらい、すぐに準備を……」

 

「……新田さん、今の状態でステージへの出演は許可出来ません」

 

「……えっ」

 

「……申し訳ありません」

 

「……そんなっ……!?」

 

 それはプロデューサーと美波、両者にとって最も辛い選択肢。告げた方も告げられた方も、思わず目を背けたくなるぐらい悲痛な面持ちだった。

 

「……私、最低だ……みんなに迷惑かけて……折角、良太郎さんがアドバイスしてくれたのに……それを無視して、こんな……!」

 

 上体を起こして俯く美波。ギュッとシーツを握りしめた拳の甲にポツリポツリと彼女の涙が零れ落ちた。

 

「良太郎さんに、ごめんなさいって……ありがとうって……私たちの歌とダンス、見てもらいたかったのに……!」

 

 そうか、確かにリーダーとして頑張ろうとしていたというのもあるだろうけど……美波は観に来てくれる良太郎さんに()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。だからいつも以上に張り切って、いつも以上に緊張したのか。

 

「………………」

 

 そんな弱弱しい彼女の姿を見ていたら――。

 

「……なら、早く熱を下げなよ」

 

 ――気が付けば、口が開いていた。

 

「し、しぶりん?」

 

「凛ちゃん、そんな言い方は……」

 

「良太郎さんにステージを見てもらうんでしょ? ユニット曲は無理でも、全体曲ならまだ時間がある。それまで大人しくして熱を下げて、それからステージに立てばいい」

 

 それなら大丈夫でしょ、とプロデューサーに確認すると、彼はいつもの困った表情に驚きの色を交えながらも「……それならば」と承諾してくれた。

 

「で、でも、私、もう良太郎さんに合わせる顔が……」

 

「……今ここにいる人たちの中なら、私が良太郎さんのことを一番分かってるつもり。だから断言するよ」

 

 

 

 ――良太郎さんはこんなことで()()()()()()()ほど甘くない。

 

 

 

「……っ!」

 

「……美波が私に良太郎さんへチケットを渡してくれって言ったのは、美波なりに覚悟を決めたからなんでしょ? なら、それを受け取った良太郎さんは諦めてくれないよ。美波が『美波に出来る最高のステージ』を見せてくれるまで、良太郎さんは諦めないし……ずっと待っててくれるから」

 

「……うん」

 

 全く……本当はこんなに感情的になるつもりは無かったのに、思わずこんな説教臭い言葉が口をついて出てきてしまった。

 

「しぶりん、おっとこまえ~」

 

「カッコ良いです、凛ちゃん!」

 

「……あんまり褒められてる気がしない」

 

 思わずハァッとため息をつきそうになったが、今はため息をついている場合じゃないとグッと飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 シンデレラガールズのソロ曲も終わり、ついにシンデレラプロジェクトのメンバーの子たちもステージに登場し始めた。トップバッターを飾ったのは『Rosenburg Engel』こと蘭子ちゃん。次はみくちゃんと李衣菜ちゃんの凸凹猫ロックコンビ……もとい『*(Asterisk)』。

 

 そして彼女たちのMCを挟んだ後、次は美波ちゃんとアーニャちゃんの『LOVE LAIKA』の出番――。

 

『それでは、今日は特別なバージョンでお届けするよー!』

 

 ――ん?

 

『それでは、どうぞー!』

 

 二人のQサインを合図に流れ始めたのはラブライカの『Memories(メモリーズ)』だったが、ステージの上にアーニャちゃんと共に上がって来たのは美波ちゃんじゃなかった。

 

「……蘭子ちゃん?」

 

 先ほどまで黒い堕天使の衣装で自身の曲を歌っていた蘭子ちゃんが、一曲挟んですぐに今度は真っ白なラブライカの衣装で登場したのだ。

 

「アレ? さっき歌ってた子だ」

 

「美波ちゃんは……?」

 

 周りの観客もその変化に気付き、やや困惑した様子だったが、彼女たちが歌い始めると「これはこれで」と満足そうな様子に変わった。

 

 なるほど、こういう担当曲の交代っていうのもライブの醍醐味……なんだけど。

 

(……美波ちゃん、何かあったかな)

 

 あの子は周りに気を遣いすぎて自分のことに気が回らなくなるタイプだと思ったから、その辺のことをメッセージに書いておいたんだけど……見てくれなかったか、それとも忠告を聞くに値しないと判断されてしまったか。

 

「……? 良太郎さん、どうかしましたかぁ?」

 

「ん、何でもないよ、まゆちゃん」

 

 いや、わざわざ俺にチケットを渡してくれた彼女のことを信じよう。もし何かトラブルがあったのだとしても……彼女はきっとステージに立つと。

 

 

 

 

 

 

「……ん? 雨の匂いだ」

 

「へ?」

 

 ラブライカの曲が終わった途端、良太郎の奴が突然そんなことを言い始めた。

 

「……あ、言われてみればそんな気がします」

 

「お天気も少し怪しくなってきましたねぇ」

 

 所と佐久間の言葉を聞きながら空を見上げると、確かに空模様は悪くなっていた。

 

「雨の匂いは土の匂いらしいな」

 

「そうなんですかぁ?」

 

「ペトリコールとゲオスミンって奴が匂いの元なんだと」

 

 アメリカで懐かれた変な子に教わった、と良太郎は語る。

 

 一体どんな奴に懐かれたんだ……と問いたいところではあったが、それ以上に重要なところを流すところだった。

 

「ってことは雨が降るかもしれねーってことじゃねーのか?」

 

「「「……あ」」」

 

 直後。

 

 

 

『うわぁっ!?』

 

 

 

 曇天の空から降り注ぐバケツをひっくり返したような豪雨が、熱気に包まれていた観客を襲った。

 

 

 




・ペンライト
前回書き忘れたけど、アイマスのライブは諸事情により乾電池タイプのペンライトはNGだから気を付けよう! 作者はそれに気付かず買い直す羽目になったぞ!

・「私もここに加わっていた世界線があったような……」
なおこの世界線ではまゆに代わり、藍子がシンデレラガールズ入り。

・アーティストを育成する芸能専門学校
アイドル系のクロスするために勉強しなければと思いつつ、そっちより前にプリパラとアイカツが残って(ry

・『Memories』
そういえば触れていなかったラブライカのユニット曲。
どう考えても殆どの人が世代じゃないはずなのに、Winkっぽいっていう感想が多いのは何故……?

・こういう担当曲の交代っていうのもライブの醍醐味
5th石川公演では卯月の代わりにまゆが入ったラブレターを期待している。

・「雨の匂いは土の匂いらしいな」
劇場623話より。つまりこの発言をした人物と関わりがあるということで……。



 てなわけで良太郎の原作ブレイクは果たせなかった第三話でした。しかしこれで美波は弱体化補正回避です。アーニャがPK入りして暗黒面に堕ちる美波なんかいませんでした。

 そしていよいよ123の新人の姿が……(現れるのか?)

 次回、第四章最終話です。



『どうでもいい小話』

 皆さん、作者の奏さんお迎え記念ゲリラ短編はお楽しみいただけたでしょうか?

 こちらもまた第五章内にて加筆修正を加えた完全版を公開する予定です。

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