前回のあとがきにて堂々と『次回最終話』みたいなことを言っておきながら、話がまとまらなかったため分割することとなりました。申し訳ありません。
「うわ、結構激しいぞコレ!?」
突如振り出した雨は、思いの外勢いが強い。ザーザーを超えてゴーゴーという濁音が聞こえてくる。
「良太郎、お前何か珍しく役に立つこととかしてねーよな?」
「さらっとひでぇな」
まぁ自覚してるけど。
だがこうならないためにも、
しかし本当に雨脚が強い。これは一旦屋根のあるところに撤退を――。
ガシャアアアアアン!!!
『きゃああああっ!?』
『うわああああっ!?』
突然、眩い光と轟音が俺たちの視覚と聴覚に突き刺さり、それと同時にステージ上のありとあらゆる電飾が光を落とした。どうやら今ので停電してしまったようだ。
「か、雷!?」
「す、すごく近くに落ちましたよぉ!?」
「しまった!? なのはちゃんにダンス指導して『メイド小学生が踊ってみた』動画をこっそり上げていたのが恭也にバレたか!?」
「これ恭也さんの怒りですか!?」
「何やってんだよお前は!?」
いやぁ最近ダンスの練習を始めたとか言うもんだから、ちょっと教えてみたら思いの外飲み込みがよくて……。
『落雷のため、一時建物の中に避難してください! 繰り返します――!』
スタッフの声が拡声器によって響く。
「とりあえず俺たちも避難避難! あっちのテント行くよ!」
「「わ、分かりました!」」
「ったく……!」
周りの観客が一斉に避難を始める中、俺たちもバチャバチャと水浸しの芝生の上を走ってテントへと逃げ込んだ。
「あー、もうビショビショー」
「服が張り付いて気持ち悪いですぅ……」
そう言いながら自身の服を摘み上げる恵美ちゃんとまゆちゃん。
テントの下へ逃げ込んだことでこれ以上雨に打たれることは無くなったが、だからといって身体が乾くわけではない。夏場特有の薄手の服が濡れたことで彼女たちの身体にピッタリと張り付いており、二人のボディラインがハッキリと浮き彫りになってしまっていた。
これが俺一人のときならば『水も滴る
「とりあえず身体拭こうか。タオルは持ってきた? 無いなら貸すけど」
「ちゃんとありますよー」
「お心遣いありがとうございますぅ」
冬馬は先ほどからガシガシと自分のタオルで頭を拭いていたので聞かなかったが、恵美ちゃんとまゆちゃんもちゃんとタオルは持って来ていたようで何よりである。
「……うわっちゃあ、タオルも濡れちゃってるし」
「うわ、サイアク……」
「……ん?」
ふと女の子二人のそんな会話が聞こえてきた。会話の内容から察するに、どうやら身体を拭くためのものがなくて困っている様子だ。振り返ると、ふわふわしたポニーテールのややチャーミングな眉毛の少女と茶色の髪を二つ結びにした少女がびしょ濡れで荷物を探っていた。
「あの、良かったらタオル使う?」
「え……?」
「いいんですか?」
「夏とはいえ、濡れたままだと冷えちゃうからね。ちょうどタオルも二枚あることだし」
「で、でもそれじゃあ貴方の分が……」
「こういう場合は女の子優先。俺は風邪引いたこと無いから平気平気」
後ろでボソッと「バカだからか」とかぬかしやがった冬馬は後で成敗しようかと思ったが、その前にまゆちゃんから「えいっ」という可愛らしい掛け声とともにミュールの踵で足を踏み抜かれて悶絶しているので勘弁してやる。
「……って、アレ?」
「……あっ!?」
よく見たら二つ結びの女の子に見覚えがあった。ちょうど一年前、合宿に向かう恵美ちゃんたちを空港に送っていった帰りに公園で蹲っていた少女である。
「えっと……北条加蓮ちゃんだったよね?」
「す、すど――!?」
「しっ」
俺の名前を口走りそうになった加蓮ちゃんの口元に人差し指を立てる。
「今日の俺はただのアイドルファンだから。ね?」
「~っ!?」
ちょっとわざとらしいがウインクをしながらそう告げると、加蓮ちゃんはコクコクと頷いてくれた。分かってもらえたようで何よりである。
「良太郎、知り合いか?」
「うーん……まぁそんな感じ。加蓮ちゃんっていって、前に公園で具合悪そうにしてたところを俺がちょっとお節介を焼いたんだよ」
んでこっちは、と冬馬と恵美ちゃんとまゆちゃんを手で示す。
「俺の
「………………」
「よろしくー!」
「よろしくお願いしまぁす」
「よ、よろしくお願いします!」
俺が仕事仲間という言い方をしたことで察してくれたようで、恵美ちゃんとまゆちゃんは自然に、冬馬は片手を上げるだけで挨拶をした。
「えっと、こっちは――」
「加蓮、お前また倒れたのか!?」
加蓮ちゃんがたった今紹介しようとした少女は俺の手から奪うようにタオルを持っていくと、二枚とも使って加蓮ちゃんの身体を拭き始めた。
「わぷっ!? ちょっ、奈緒!?」
「ほら早く身体拭けって! ただでさえすぐ体調崩すんだから!」
「一年前の話だから! とりあえず落ち着いてって!」
どうやら体が弱いという加蓮ちゃんの事情を理解して心配してくれる友達なようで何よりだ。
「全く……あ、ごめんなさい! 私の友達です」
「か、
「いいよいいよ。元々そういうつもりだったんだから、二人で使って」
そう促すと、再度「ありがとうございます」と言ってから二人はタオルで身体を拭き始めた。
(……それにしても、奈緒ちゃんかぁ)
脳裏に浮かぶのは現在765プロに所属している関西系少女。今はいいが、二人が顔を合わせるような機会があったら少々紛らわしいことになりそうである。
「良太郎、お前なら
しばらくすると雨脚が少し弱まり、停電も復旧して照明が点灯した。しかしステージ上は未だに水浸しで、スタッフの人たちがトンボを使って除水作業に勤しんでいた。そんなスタッフの中にはスーツの上から雨合羽を着た武内さんの姿も混ざっており、本当にスタッフ総出で事の対処に当たっているのだろう。
「
さて、冬馬からの質問である。
一体何を、という明確な言葉が抜けているが、言いたいことは何となく分かった。
未だにステージ上をじっと見つめる冬馬の横に並び、チラリと横目で早速仲良くなった女の子四人組の楽しそうな姿を見ながらそうだなぁと考える。
「とりあえずステージ下の芝生が良い感じに水浸しだから、ジャージに着替えてヘッドスライディングかな」
こう、試合が雨で一時中断になったときに野球選手がズシャアアアッて滑り込む感じに。
「………………そうか。……いやまぁ、それもありか」
俺の発言がネタなのか本気なのか判断が出来なかったらしい冬馬は、色々と言いたそうであったが、最終的には納得したらしい。
冬馬が何を聞きたかったのか。要するに『今のような状況下に陥った場合、アイドルは何をすべきか』ということである。
勿論、控室でステージが復活するのを待つも良し、スタッフの復旧作業を手伝うも良し。
俺の場合は、俺自身や観客たちの熱を
しかし、彼女たちはどうだろうか。
現状としては、雨はだんだん弱まりつつあるものの、傘を差さずに外に出るのが若干憚られる程度にはまだ降り続いている。中にはそんな状況にも関わらずステージ前で待機し続ける猛者もいるものの、流石にそれも数人程度。九割以上の観客は未だにステージ前から離れて雨宿りを継続中だ。
観客たちの心は、物理的に距離が離れたことで少し離れてしまっている。そんな状況で彼女たちは歌い、踊らなければならない。興味を持たれないのではなく心が離れているという状況は、新人の彼女たちにとっては初めてのはずだ。
「……ここが正念場だぞ」
まだ姿を見せていない凛ちゃんに、届かないと分かりつつも小さくエールを送るのだった。
雨が小降りとなり、ようやくライブが再開されることとなった。
私たちニュージェネレーションズの出番から再開されるため、衣装に着替えて以前も使用した『勇気の一言』を決めるためのジャンケンをしていると、プロデューサーが私たちを呼びに来た。
「ステージ、オッケーです」
「「「はいっ!」」」
私たちがそう答えるが、プロデューサーの顔は何故か浮かなかった。
「……ですがまだ、お客様が戻り切っていなくて……驚くかもしれません」
「そっか……大雨、降ったばっかりだもんね」
「ですが……」
「でも!」
プロデューサーの言葉を未央が遮った。それは彼の言葉を軽視したわけではなく――。
「お客さんはすぐそこにいるんでしょ? なら、私たちの歌とダンスで全員呼び戻すつもりでいかなきゃ!」
――今の私たちにはその気遣いは不要なんだと、伝えたかったからだ。
思い出すのはニュージェネレーションズのデビューイベント。ショッピングモールの中、観客は買い物途中に足を止めてくれた極僅かな人数。確かに人の少ない中でステージに立つのは、その前のステージとの落差が激しすぎて少し辛かったが、それでも私たちはそれが現実なのだと受け止めた。『まだ私たちには歌を聞きに来てくれるファンはいないのだ』と。
しかし今はどうだろうか。開演前に少し覗いた観客席には、なんと私たち三人の団扇を手にした人たちがいたのだ。
一瞬良太郎さんたちかとも勘繰ったが、それも違った。紛れもなく、私たちのことを見に、私たちの歌を聞きに来てくれた人がいたのだ。
『私たちの歌を聞きに来てくれた人がいる』
その事実が、私たちの心を奮い立たせた。
「ただ興味半分で足を止めた人しかいなかったあの時とは違う」
「今この会場には、確かに私たちの歌を聞きに来てくれた人がいるんです!」
「ならその人たちも、そうでない人たちも全員まとめて、私たちが呼び戻してみせる!」
良太郎さんが聞いたら「生意気な奴め」と笑うだろうか。それとも「その意気だ!」と褒めてくれるだろうか。
……違う、多分こうだ。
――なら、見せてみな。
『『『皆さーん!!』』』
未だに雨が降り続ける中、それでも何人かの観客がステージ前に戻り始めたその時にその声は響き渡った。
『『『初めまして! ニュージェネレーションズです!』』』
それは、ステージの上に勢いよく登場した卯月ちゃんと未央ちゃん、そして凛ちゃんの三人の声だった。
『待っていてくださって、ありがとうございます!』
『雨、大変だけど、盛り上がるように頑張ります!』
卯月ちゃんと凛ちゃんの言葉に、一足先にステージ前に戻った観客から拍手が起こる。それは先ほどまでとは雲泥の差があるパラパラとした寂しい拍手。
そんな拍手を聞き、デビューイベントの時も着ていた赤い衣装を身に纏った彼女たちは……まるで万雷の拍手を浴びたように満足げな笑みを浮かべていた。
『聞いてください! ニュージェネレーションズで――!』
――できたて Evo! Revo! Generation!
・『メイド小学生が踊ってみた』動画
相変わらず小ネタばっかりばらまいて回収はしないスタイル。
・「これ恭也さんの怒りですか!?」
元ネタはGA五巻より。GAの二次とか考えたけど、流石にマイナーすぎるよなぁ。
・加蓮ちゃん再登場
最近作者内での株が急上昇中。「かえでさんといっしょ」が終わった後に短編書こうかとも考えてた。現在は保留中。
・神谷奈緒
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール。
最近だと魔法少女好きが協調され始めた、チャーミングな眉毛の17歳。
デレマス勢のツンデレ筆頭で、第五章での本格参戦が作者的には楽しみ。
・少々紛らわいことになりそうである。
読み方が同じのキャラは多数いるが、特に(日野)茜と(野々原)茜とか、(北沢)志保と(槙原)志保とかは文章だと余計に紛らわしい。
・ニュージェネの変化
一見強化されているようにも見えますが、折れていない分アニメよりも弱い状態が続いております。
・できたて Evo! Revo! Generation!
ニュージェネレーションズのユニット曲の一曲目。
衣装可愛いんだけど、ちゃんみお引退宣言がフラッシュバックするんだよなぁ……。
加蓮再登場&奈緒の初登場。この二人をアニメで見た時、異様にテンションが上がったことを覚えています。
次こそ、今度こそ、間違いなく、第四章最終話です。
『どうでもいい小話』
おいおい……5th静岡公演も当たったぞ……(;゜Д゜)ドウイウコトナノ…!?