「周藤良太郎と所恵美、どっちを選ぶ?」という意地悪な質問をされた場合、たっぷり10分迷った挙句、ボロボロと涙を流し「ごめんなさい」を繰り返しながら周藤良太郎を選ぶらしい。
※質問をした良太郎は事務所総出でお説教を食らい、まゆは恵美に30分以上泣きつきました。
サマーフェスから早一ヶ月が経った。最近では仕事が増え、ようやく私たちシンデレラプロジェクトの初アルバム発売というところまでやって来た。相変わらず(なんかアイドルみたいだなぁ)という感想が真っ先に浮かんでくる辺り、未だに気持ち的にもまだまだ新人アイドルなのだろう。
さて、そんなまだまだ残暑厳しい九月のことである。
事の発端は、最近やたらとプロデューサーが自分の周囲の様子を気にしていることに気付いたことだった。
一体どうしたのかと尋ねてみたところ……。
「誰かにずっと見られてる!?」
「振り向くと謎の女の影!?」
「それって幽霊!? 幽霊なの!?」
「私も幽霊見たーい!」
「いえ、ハッキリ見たわけでは……」
ソファーに座り、困惑した表情でそう語ったのはプロデューサー。未央は驚き、卯月は慄き、莉嘉は興味津々で、みりあはとりあえず楽しそうだった。
「うーん……この会社、呪われてるのかも」
黄色が何か言いだした。
「昔、アイドルに挫折した女の子が……この事務所で……!」
「「きゃー!?」」
どうやらそういった類いの話が苦手らしい卯月ときらりがお互いに抱き合いながら悲鳴を上げる。
「確かに良太郎さんも前に『自分と共演して挫折したアイドルが枕元に立つことがある』って言ってたから、あながち間違ってないかもね」
「……あの、しぶりん? 流石にそのコメントは色々と現実味がありすぎる上に重いから、未央ちゃんもリアクションに困るんだけど……」
(まぁ嘘だけど)
……私もこんなくだらない嘘は吐きたくなかったが、未央の発した『アイドルに挫折した女の子』という言葉に一瞬プロデューサーの顔色が変わった気がしたので、何となく話を流させてもらった。……もしかしたら、プロデューサーにとって地雷のような話題だったのかもしれないし。
「でも幽霊ってどうやったら見れるのかな?」
「あっ! アタシ、テレビでお姉ちゃんと見たよ! 写真撮るとそこに写ってるの!」
という莉嘉の意見を採用し、試しに未央のスマホで全員の集合写真を撮ってみることになった。
「はい、チーズ!」
真ん中にプロデューサーを据え、その周りを私・卯月・きらり・莉嘉・みりあで取り囲んだ集合写真。よく考えたら仕事での撮影やライブ後の集合写真以外でこうやって写真を撮る機会はなかったな。
「どれどれー?」
早速今撮った写真を確認すべく、全員で未央の後ろに回って手元のスマホを覗き込む。
まぁどうせ何も写って――。
『……っ!!??』
――背後のドアの隙間に、何やら人影らしきものが……!?
『きゃあああぁぁぁ!?』
一斉に悲鳴を上げ、近くのソファーや机の影に隠れる私たち。その際、未央が手にしていたスマホを高く放り投げてしまったが、プロデューサーが危なげなくそれをキャッチ。
「んー?」
プロデューサーを除き、唯一平気そうなのはみりあだけだった。
「や、やばいね……これは本物だよ……!」
やっぱり本気で言っていたわけではないらしく、本当に何かが写ったことで未央も若干動揺していた。
「ど、どうしましょう……!?」
「どうしましょうって……どうするのさ」
恐怖でテンパり目がグルグルしている卯月の言葉に、思わずそう返してしまう。
幽霊に対処する方法なんて知らないし、知っている人だって……。
「……いや待って」
『……という訳で、良太郎さんに電話してみたの』
「成程ね」
大体事情は把握した。
割と長くなりそうだったので、行儀が悪いと思いつつも電話をしながら楽屋に戻り、椅子に座ってじっくりと話を聞いた。ちなみに美希ちゃんたちとお昼に行く約束はしっかりと取り付けておいたので、彼女たちは彼女たちの楽屋で少々待機してもらうことになった。
全くの余談であるが、こちらの楽屋について来ようとしていた美希ちゃんはりっちゃんに首根っこを掴まれて引きずられていった。
『それで本題に戻るんだけど……霊能力者の知り合いっていたりする?』
「勿論いるよ」
『勿論いるんだ……』
「あ、ちなみに
『しかも選べるぐらい沢山いるんだ!?』
なんか専門用語っぽい単語も出てきてるし!? と電話の向こうの凛ちゃんは酷く驚いた様子だった。まぁ一般人からしてみたら、幽霊とかそういった類のものは基本的に眉唾だろうからなぁ。俺の場合は転生っていうオカルトを身をもって体験してるし、知り合いの関係上色々とそれっぽいものを見てたり見てなかったり。
「それでどう? 何か変わった音を聞いたりとか、変な夢を見るとか」
『えっと、ちょっと待って………………無いって』
どうやらすぐそこに武内さんがいるらしい。
「分かった。んじゃこっちから話してみるから、また連絡するね?」
『うん、ありがとう。お願いします』
ピッと通話を切る。
さて、もう少し美希ちゃんたちには待ってもらって(確か時間は大丈夫と言っていた)頭の中で霊能力者の知り合いをピックアップしていく。
さて、一番最初に思い浮かんだのは小学校の頃お世話になりこういう相談をしやすい相手筆頭である鵺野先生だが、残念ながら先生は現在九州で教職に就いているのでわざわざこちらに呼ぶのも忍びない。
次に思い浮かんだのは高校の後輩である
てなわけで早速連絡する。
「……川平、久しぶり――」
『スンマセン周藤先輩! 俺今から四十八時間で世界一周しないといけないんでちょっと今は無理っす! また今度お願いします!』
「――って、おーい」
こちらの返答を待たずして電話が切られてしまった。何やらとんでもなく焦った様子だったが……四十八時間で世界一周って、一体アイツは何をやっているんだ……?
しかしどうやら無理そうなので、次の候補である川平と同じく高校の後輩の
てなわけで彼女が暮らしているさざなみ女子寮へと連絡する。
「……え、那美ちゃんいないんですか?」
『うん。丁度鹿児島の実家に帰省してる最中だよ』
寮の管理人である
『何か伝言があるなら聞くけど?』
「あー、いえ、大丈夫です、ありがとうございます。皆さんによろしく言っておいてください」
通話終了。うーん、まさか頼みやすさから選んだトップスリーが全滅するとは……。
あとはそうだなぁ……美術部の
じゃあいずなとか? いや、あいつ何故かえっちぃ目に遭うことが多いからそれに凛ちゃんたちが巻き込まれたら大変だ。それにボラれるし、こいつは最終手段。
あとは幹也さんの奥さんの
「……って、いるじゃん、うってつけの子が」
ふと346プロに『ホラー系アイドル』がいたことを思い出した。除霊の類いは出来ないらしいが、霊感はあるらしいので原因解明的な意味ならば彼女でも大丈夫だろう。しかし同じ事務所なのだから真っ先に相談してそうなものだが……いいや、とりあえず連絡を取ってみよう。
ただ彼女のプライベートの連絡先は知らないので、彼女のプロデューサーに連絡を取る。
よく色んなアイドルの連絡先を知っているように思われるが、別に知り合い全員と連絡先を交換しているわけではない。現にシンデレラプロジェクトでも、アイドル以前から知り合いだった凛ちゃん・みりあちゃんの他には、彼女たちのリーダーだからという理由で交換した美波ちゃんしか知らないし。
さて、突然の『周藤良太郎』からの電話に若干緊張ぎみだったプロデューサーさんから彼女に電話が代わる。
『こ、こんにちは、りょ、良太郎さん』
「ん、こんにちは、小梅ちゃん」
というわけで、言わずと知れたホラー系アイドルの
「今大丈夫だった?」
『えっと、しょ、
「おっと、それは悪いことしたかな……」
彼女のプロデューサーに変な気を遣わせてしまったようだ。しかし打ち合わせということは今346の事務所にいるだろうし、好都合だ。
「ちょっとお願いしたいことがあるんだけどさ。小梅ちゃんの事務所のシンデレラプロジェクトって知ってる?」
『う、うん……一緒のお仕事は、まだないけど』
「そこに所属してる俺の知り合いが、ちょっと心霊現象の悩み事があるらしくて、もしよかったら相談に乗ってあげてくれないかな?」
『わぁ……! ど、どんな心霊現象? ポルターガイスト? 心霊写真? 金縛り?』
途端に声が弾む辺り十三歳の女の子らしい無邪気さを感じるが、テンションが上がるスイッチの内容が若干アレなのがアレである。
「その中だと心霊写真が一番近いかなぁ」
一応凛ちゃんから聞いた内容を簡潔に説明する。
「……てなわけだから、俺からの紹介だって言ってくれれば簡単に話は付くはずだから」
『う、うん、ありがとう、良太郎さん。えへへ、楽しみだな……』
小梅ちゃんが楽しそうで何よりである。
『……えっ? ……うん、分かった。あ、あの、良太郎さん』
「何?」
『あ、アノコも良太郎さんと、お、お話、したいって』
電話代わるね、という小梅ちゃんの声を最後に受話器の向こうが静かになったかと思うと、突如ノイズ音のようなものが混じりだした。多分アノコに代わったのだろう。
「久しぶりー、元気してた……って聞くのも変な話か。調子はどう?」
昨今の携帯電話ではあまり耳にしない『ピーガガガガッ』という音が受話器の向こうから聞こえてくる。多分調子は悪くないのだろう。
「そっか。この間の心霊番組、ゲストの俺と小梅ちゃんが視聴者にも好評だったらしいから、多分また呼ばれるかもね。その時は小梅ちゃん共々よろしく」
何やら遠くから女性のつんざくような金切り声が聞こえたかと思うと、ブツッと通話が終了した。どうやら恥ずかしがって切ってしまったようだ、可愛い奴め。
さて、これで向こうは一応大丈夫だろうから、春香ちゃんたちとお昼を食べに行くことにしよう。
おまけ『142sな二人』
「ご、ごめんね、輝子ちゃん、打ち合わせ中だったのに」
「い、いいぞ、別に。……でも、こ、小梅ちゃん、周藤良太郎と知り合いだったんだな……机の下の私とは、大違い……フヒヒッ」
「りょ、良太郎さん、どんな人とも仲良くなれるから、しょ、輝子ちゃんとも仲良くなれるよ、きっと。あ、アノコとも、仲良くなったから」
「そ、それは凄いな……コミュニケーションの塊……私とは、ち、違う人種……フ、フヒヒヒッアッハッハッ! ヒャッハーッ! ふざけんなよコンチクショー!!!!」
「お、落ち着いて、ね?」
・『自分と共演して挫折したアイドルが枕元に立つことがある』
※凛ちゃんの冗談です。
・プロデューサーにとって地雷のような話題だったかもしれない
実は未央挫折イベントが無かったため、彼女たちは武内Pの過去話を今西さんから聞いていないのです。さてどう影響してくるか……。
・鵺野先生
やはり名前だけだがLesson102以来の登場。本人は果たして登場する機会があるのか……。
・川平啓太
『いぬかみっ!』の主人公。女好きが玉に瑕だが本編終了後の未来では『
・四十八時間で世界一周
いぬかみ最終巻にて、とある人物の命を救うために自分を含めた三人の命を担保にして啓太が挑んだ『代償を求める神々』から与えられた試練。ワープでの前進禁止・三人の神様からの全力の妨害有というトンデモないルナティックな難易度だが、自身が持ちうるありとあらゆる力全てを出し切れば達成可能。
マジでここアニメ化して欲しかった。
・神咲那美
とらハ3のヒロイン。一応名前だけならば番外編17にて既出。
・槙原耕介
とらハ2の主人公。つまり恭也の先輩に当たるキャラ。女子寮の管理人なんて、まるでギャルゲの主人公だ(直喩)
・美術部の経島
作者的どうしてアニメ化しなかったんだランキング第一位の『ほうかご百物語』の登場人物。今からでも遅くないから白塚とイタチさんのイチャつく姿を見せてくれよー頼むよー。
・いずな
『ぬ~べ~』の登場人物にしてスピンオフ作品『霊媒師いずな』の主人公。
残念ながら彼女の登場=青年誌レベルになるので、けんぜん(笑)なこの小説には登場いたしません。
・式
『空の境界』の主人公。アサシンクラスではない。多分霊的現象に対して何かしらの対抗手段を持っているだけのいっぱんじん。いっぱんじんっていったらいっぱんじん。
・白坂小梅
本編初登場ではあるが、名前だけは一応番外編13にて既出。
アニメと違い、みく経由ではなく良太郎経由で紹介される形に。
・輝子ちゃん
「てるこ」とは読まないけど「きのこ」とは読むかもしれない。
・アノコ
タ
ス
ケ
テ
・おまけ『142sな二人』
喋り方本当にこれでいいのだろうか……。
あんまり話は前に進んでいないけど二話目。
良太郎の心霊関係に対するスタンスは次話にて。
そして今度こそ、次回新人アイドルの登場じゃーい!