アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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話がそれほど進まない二話目です。


Lesson165 Beyond the sea 2

 

 

 

 『魔王エンジェル』は日本におけるトップアイドルの中でも『周藤良太郎』の次に名前が挙がるほどの知名度のアイドルグループである。寧ろ『周藤良太郎』という例外を除いてしまえば、日本でナンバーワンの人気を誇っていると言っても過言ではない。

 

 最近はずっと海外での活動を主にしてきたため、若干日本での露出は減っていたものの、それでも今なお日本でもトップアイドルとして名前の挙がる彼女たち。

 

 そんな彼女たちの一員である朝比奈りんが、いきなり帰って来たのだから驚きである。

 

「いやホント驚いた。一年ぐらい外国って話じゃなかったか?」

 

「うん。でもあくまでも試験的な目安だったから、そろそろ戻ってIEのことも考えるって麗華が」

 

「なるほどね」

 

 まだ正式な開催時期が明言されていないIE、アイドルエクストリーム。その形式すら分からない状況なだけに、長く日本を離れて活動するのも少々危険だと判断したのだろう。流石はトップアイドルグループのリーダー兼プロデューサーである。

 

「それでその麗華は? あとともみも」

 

「二人とも例の如く別件の用事。だからアタシだけりょーくんに会いに来たってこと!」

 

 いや、大学の講義を受けに来たわけじゃないのか? 休学中とはいえ、一応お前もここの学生だろう。

 

「ところでりん。……近くない?」

 

「アタシの心はいつでもりょーくんの近くにあるよー!」

 

 などと答えになっていない返答のりん。四人掛けのテーブルだったので隣のテーブルから椅子を一つ拝借してきたのだが、それはもう密着するレベルで俺の隣に陣取ってきた。というか密着していた。久しぶりにむぎゅむぎゅと腕に押し付けられる幸せな柔らかさに、逆に戸惑ってしまう自分がいた。

 

 おかしい、俺にここまでのラブコメ補正が働くはずがない……!? オチは何処だ……!?

 

「なんというか……凄まじい、という感想が一番適しているのかもしれないな」

 

「……ここまでされておいて、勘付かない男がいるとは……」

 

「ん? 忍、何か言ったか?」

 

「……ここに前例があったことを忘れていたわ」

 

 俺の隣から離脱して月村の隣に移動した恭也たちが何やら話していたが、しかし俺の現状に対する解答ではなさそうなので無視する。

 

「いひひっ、りょーくーん! ……ん? そーいえばこの子誰?」

 

 どうやらようやくいつもの顔ぶれの中に見慣れない顔があったことに気付いたらしいりん。志希に視線をやりながら首を傾げていた。

 

「あぁ。一ノ瀬志希。つい先日、スカウト枠で123(うち)にきた新人だよ」

 

「一ノ瀬志希でーす!」

 

「え、新人!?」

 

 相変わらずヒラヒラと気の抜けた様子で挨拶をする志希に対し、りんは驚いた様子を見せた。

 

「へー……志保ちゃんだけじゃなかったんだ」

 

「まぁ色々あってな。志希、こっちは日本が誇るトップアイドルグループの――」

 

「くんくんっ」

 

「――何やってんのお前」

 

 こちらの業界のことを何も知らない素人な志希に対していかにりんが凄いアイドルなのかを説明しようかと思ったら、何故か席を立って近付いてきていた志希がめっちゃりんの匂いを嗅いでた。おいコラ羨まけしからん。

 

「え、ちょっ、何この子……?」

 

 流石にいくら同性とはいえ匂いを嗅がれるのは女の子的にはNGだったらしく、露骨に嫌そうな表情を浮かべるりん。

 

 そんなりんにお構いなしにスンスンと匂いを嗅ぎ続ける志希だったが、やがて何かに気付いたようでパッと表情が明るくなった。

 

「ねーねーリン!」

 

「……馴れ馴れしいわね、この子」

 

 基本的に自分もフレンドリーに接することの方が多いりんだが、流石にここまでグイグイと来る志希には若干頬が引き攣っていた。

 

「アメリカ帰りだから勘弁してやってくれ」

 

 まぁそうじゃなくても志希の性格的なものだろうけど。

 

 

 

「もしかして、リンって『恋』してる?」

 

 

 

「……はぁっ!?」

 

 それはもう子供のような無邪気さでとんでもない爆弾を放り込んできた。流石のりんもこれには顔を赤くしつつ驚愕の声を上げる。

 

「ちょっ、ホントこの子いきなり何言いだすの!?」

 

「えっとねー、リョータローの匂いにも興味あるんだけど、その前に興味あったのはコーイチとキャリーの二人からしてた不思議な匂いだったんだー」

 

「あぁ、あの二人ってそういえばデキてたっけ」

 

 志希と同じ研究チームにして彼女の保護者役でもあった日本人男性とアメリカ人女性の二人を思い返す。皆本さんにゾッコンなキャリーと、興味無い振りをしつつも何だかんだ意識している皆本さん。そしてそんな二人の様子を面白そうに眺める賢木(さかき)さんの姿を思い出した。

 

「んで、もしかしたら『人は恋をすると特別なフェロモンを発する』んじゃないかなーっていうのが、前のあたしの研究テーマ」

 

「確か人は恋をするとドーパミンだかセロトニンだか色々な化学物質が脳内に溢れかえるんだっけ?」

 

 この中では志希に次いで博識な月村が「えっと」と顎に人差し指を当てながら呟く。

 

「そーそー。要するにー『恋』っていうあやふやなものを科学的に証明してみよー! ってこと。だからリンー! サンプル取らせてー! コーイチたちのだけじゃ全然足りなかったんだよねー!」

 

「ちょっと待って色々整理させてこっち来ないでりょーくんは向こう向いててこっち見ないで顔隠させてだから匂いを嗅ぐなあああぁぁぁ!?」

 

 ひゃっふー! と喜々としながら何処からかピンセットとシャーレを取り出した志希が飛びかかり、りんは何やら真っ赤になってテンパりながら逃走を図った。

 

 そーいえば、彩玉(さいたま)大学の理工学研究科に進んだ犬飼(いぬかい)虎輔(こすけ)先輩が、所属する研究室に恋を科学的に証明しようとしている先輩がいるとか言ってた気がする。そこに連れてってみても面白いかもしれんな。

 

「……で? りんを助けなくていいの? 一応周藤君の事務所の新人が暴走してるのよ?」

 

「しばらく遊ばせておけば気が済むだろ。りんには悪いけど、猫にじゃれつかれていると思って勘弁してもらいたいな」

 

「本音は?」

 

「もうちょっと走って逃げるりんの乳揺れを眺めていたい」

 

「もう意識がりんの胸にしか行ってない……これはもうしばらく報われそうにないわね」

 

 ダメだコイツと何故か溜息を吐く月村をよそに、約半年ぶりのりんの乳揺れを堪能するのだった。

 

 

 

 ピリリリリッ

 

 

 

 ただその至福の時間はあっという間に終わりを告げる。

 

「……ん、電話……凛ちゃんから?」

 

 

 

 

 

 

 それは、余りにも突然すぎる出来事だった。

 

 いつものように学校を終え、いつものように駅で待ち合わせをした卯月や未央と合流し、いつものように346の事務所の玄関ホールを通り、いつものようにエレベーターでプロジェクトの部屋がある三十階まで上がる。

 

 いつもと同じなのは、そこまでだった。

 

 エレベーターを降りると、何故か廊下の床や壁にはブルーシートが張られていた。それはまるで、引っ越しの際に荷物で床や壁を傷付けないように保護しているようで……。

 

 

 

 そして私たちが目にしたのは、いつも私たちが使っている部屋から次々に荷物が運び出されている光景だった。

 

 

 

 突然部屋を失った私たちが行きついた先は、事務所の地下に存在する資料室だった。埃だらけのその部屋に集まった私たちは、全ての事情をプロデューサーから聞くこととなった。

 

「あ、アイドル部門の全ての事業の解体!?」

 

「は、白紙に戻す……!?」

 

「………………」

 

 悲痛な面持ちのプロデューサーの口から語られたのは、余りにも衝撃的で、そして信じられないことだった。

 

 

 

 ――現アイドル部門の全ての事業を解体し、白紙に戻す。

 

 ――その後、アイドルを選抜し一つのプロジェクトにまとめ、大きな成果を狙う。

 

 

 

 つい先日海外から帰って来たこの事務所の重役がアイドル部門全てのプロデューサーを集めてそう告げたらしいのだ。

 

「私たちのお仕事どうなるの……?」

 

「……現在進行中の仕事に関しては、続けてお願いします」

 

 不安そうに尋ねるみりあに対し、プロデューサーはそう返答した。

 

「……ってことは、この先は分からないってこと……?」

 

「ユニットはどうなるの……!?」

 

「それは……」

 

 李衣菜とみくの問いかけに言葉を濁すプロデューサー。

 

 そんな煮え切らない態度のプロデューサーに、痺れを切らせた未央が叫ぶ。

 

「本当に、プロジェクト解散なの!?」

 

「解散はさせません! 絶対に!」

 

『っ!?』

 

 ……こんなふうに声を張り上げるプロデューサーを、私は初めて見た。

 

「対抗する案を提出して、何とかします。……私を信じて、待っていてください」

 

 

 

 ――必ず何とかします。皆さんは、普段通り行動してください。

 

『………………』

 

 千川さんに会議へ呼ばれてプロデューサーはそう言い残して去り、資料室には私たちプロジェクトメンバーのみが残された。

 

「待つことしかできないのかな」

 

「夏フェスだって成功して、これからだっていうときなのに……」

 

 何もできない歯がゆさに、ギュッと二の腕を握り締める。

 

「……そうだ! 凛ちゃん!」

 

 突然、何かを思いついた様子の莉嘉が、私の服の袖を引っ張って来た。

 

「良太郎さんに助けてもらおうよ!」

 

「えっ」

 

「りょ、良太郎さんに……?」

 

「何かあったら、いつでも相談してって言われてるんでしょ!?」

 

「そうだよ! 私たちのお仕事無くなっちゃうかもしれないんでしょ!?」

 

 莉嘉とみりあの年下二人に懇願される。

 

 確かに良太郎さんは『理不尽な目に遭いそうになったら名前を出してくれて構わない』とか『いつでも相談してくれ』とか言ってくれたけど……。

 

 周りを見ると、他にも何人かは期待するような目で私を見ていた。

 

 周藤良太郎なら今の状況を何とかしてくれるのではないか……と、期待しているのだ。

 

「……分かった」

 

 観念して、ポケットからスマホを取り出す。

 

 ……いや、私も本音を言えば『助けてもらいたい』とそう思っている。

 

 けれど、心の中では『本当にそれでいいのか』と思っている私もいるのだ。

 

 メッセージアプリを立ち上げて良太郎さんにメッセ―ジを送ろうとし……やはり直接電話をかけることにした。

 

 コール音が二度三度と繰り返され、十を超えて数えるのを止めた辺りでようやく通話状態になった。

 

『ごめんごめん、ちょっと周りがうるさくてさ。場所移動してた』

 

 聞こえてきたのは、いつもの良太郎さんの声。

 

 その声に、私はほんの少しだけホッとしてしまった。

 

「……えっと、あのさ――」

 

 

 

『どうかしたの、()()

 

 

 

「――()!?」

 

 今まで一度も呼ばれたことのない呼ばれ方に、生まれて初めて良太郎さんからされた敬称略の呼び捨てに、思わず声を荒げてしまった。何故か知らないけど頬まで熱くなってきた。

 

「え、何々!? しぶりんどうしたの!? 何か面白そうな雰囲気を醸し出してるけど!?」

 

「何でもないからコッチ来ないでっ!」

 

 目を輝かせた未央を追っ払うのに夢中で、受話器の向こうの『やべ、間違えた』という良太郎さんの声は聞こえなかった。

 

 早速くじかれてしまった出鼻に、はぁ……と思わず違う溜息を吐いてしまった。

 

 

 




・俺にここまでのラブコメ補正が働くはずがない……!?
普段あーだこーだ言いつつ実際にその状況になると戸惑う系主人公。

・賢木さん
絶チルの登場人物でお医者さん。確かこの人も皆本さんと一緒に外国にいたはず。

・彩玉大学
・犬飼虎輔
『理系が恋に落ちたので証明してみた。』というネット漫画発の漫画ネタ。なお主人公ではない。

・ただその至福の時間はあっという間に終わりを告げる。
※別にシリアスが始まるわけではない。

・事務所の重役
一体何城常務なんだ……!?

・「――凛!?」
(りんが帰って来た理由の半分がこれをやりたかっただけだなんて言え)ないです。



 シリアスが始まるように見えるだろ……? これ、盛大な前フリなんだぜ?

 てなわけでいよいよ登場、名前を呼んではいけないあの人(知らないだけともいう)

 大丈夫、大丈夫……まだポエムパートではない……。



『どうでもいい小話』

SSA? 察して(血涙)
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