アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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今回ちょっと叩かれそうで怖いゾ……。


Lesson166 Beyond the sea 3

 

 

 

 さて、間違えて凛ちゃんを「りん」と呼んでしまうというハプニングでのっけから躓いてしまったものの、改めて凛ちゃんからの話を聞く。どうやら俺に相談したいことがあるらしい。

 

 凛ちゃんからの相談事はこれで何回目だろうなぁなどと思ったが、電話の向こうの凛ちゃんの声色は何やら真剣そうだった。多分これまでの相談事よりも深刻なのかもしれない。しかも、珍しいことにシンデレラプロジェクトメンバー全員から相談に乗ってもらいたいとお願いされているらしい。

 

 ならば電話口よりも直接会って相談を受けた方が良いだろう。

 

「んじゃ、今からそっち行くから待っててね」

 

『えっ』

 

 

 

 

 

 

 という訳で既に本日の講義を終えていた俺はなのはちゃんの未来の兄夫婦と別れ、346プロの事務所へとやって来た。以前、例のストライキ騒動の際に今西さんから「これからも是非遠慮なく遊びに来てくれ」と言われているので遠慮は無い。普通ならば社交辞令だけど、あの人だったら割と本気にしてもよさそうだし。

 

「……で、何で二人まで来てんのよ」

 

 以前と同じように受付で中に入るための手続きをしながら振り返ると、そこには志希とりんの姿が。

 

「暇だからー」

 

「レッスン行けよ」

 

「今日はりょーくんと一日一緒にいようと天地神明にかけてきたから」

 

「覚悟が重いよ」

 

 ほら、ただでさえ周藤良太郎が手続きに来て驚いてる受付のお姉さんが、朝比奈りんの登場に目を白黒させてるじゃないか。

 

「いーじゃんいーじゃん、邪魔しないからー」

 

「いやまぁ、確かにお前の場合は目の届くところにいてくれた方がありがたいが」

 

「りょーくんアタシは!?」

 

「お前は一体何と張り合ってるんだよ……」

 

 とりあえず、二人も一緒に手続きを済ませる。

 

「……しかし、なんだか騒がしいな」

 

 りんが必要事項を書類に記載している間に周りを見渡すと、何やらスタッフたちが慌ただしく走り回っていた。既に変装を解いている状態なので、俺が周藤良太郎だと気付いたらしいスタッフも何人かいたが、その誰もが足を止めることなく(せわ)しなく動いている。まぁ職務を全うしているだけで当たり前と言えば当たり前なのだが。

 

(もしかして、凛ちゃんの相談事と何か関係あるのか……?)

 

「りょーくん、お待たせ。アタシも手続き終わったよ」

 

「ん、じゃあ行くか、()ちゃん」

 

「り、()()ちゃん!?」

 

 やべ、また間違えた。

 

 

 

 流石に「別の女の子と呼び間違えた」とは言えないので、とりあえず「ちょっとした軽口」という(てい)で押し通すことにした。本人は何やら「新鮮でいいかも……!」とちょっと嬉しそうだったので、これ以上触れないでおこう。

 

「んー、なんかリョータローから嘘つきの匂い」

 

「黙ってなさい」

 

 とりあえず到着した旨を凛ちゃんにメッセージで送ると、どうやらこっちまで迎えに来てくれるらしい。

 

 ……なるほど、ということは『りん』と『凛ちゃん』が初めて顔を合わせることになるのか。

 

「………………」

 

 なんだろう、ちょっと嫌な予感がしてきたぞ。

 

「良太郎さん」

 

 などと考えている内に、あっという間に凛ちゃんがやって来てしまった。いつも学校帰りに事務所へやって来ているらしいので、黒のカーディガンを羽織った制服姿だった。

 

「や、凛ちゃん」

 

「ごめん、良太郎さん。わざわざ来てもらっちゃって……」

 

「いいよ別に。なんか深刻そうだったから、電話越しじゃなんだと思ってね」

 

「ありがと。……ところで、後ろの二人は……?」

 

「えっと……こっちの赤紫の髪は一ノ瀬志希。ウチの新人」

 

 予想通り「え、新人いたの?」という反応をされたので先ほどの説明を繰り返す。そろそろコイツの紹介が面倒くさくなってきたぞ……。多分これ、この後プロジェクトメンバー全員にもやらなきゃいけないんだろ? 次は出来るだけ省略したいなぁ。

 

「んで、こっちは1054プロダクションの『魔王エンジェル』朝比奈りん」

 

「りょーくんの妹分なんだって? よろしくー」

 

「あ、えっと、渋谷凛です。よろしくお願いします……」

 

 突然の(俺以外の)トップアイドルの登場に、やや驚きつつもりんの握手に応じる凛ちゃん。りんはりんで、俺の妹分と話してあるので他のアイドルの子と比べると若干フレンドリーな対応である。

 

 

 

「……ん? 朝比奈()()さん?」

 

「……ん? 渋谷()?」

 

 

 

 ヤバい、二人して何かに気付こうとしている。

 

「俺も初めて気が付いたときはビックリしたよ。驚いたでしょ?」

 

「……いやまぁ」

 

「驚いたけど……」

 

 何やら小骨が喉に刺さったような言いようのない表情をしている二人。

 

「「……まぁいいか」」

 

 ……二度と呼び間違えないようにしよう。

 

 

 

 というわけで、二人のリンの邂逅を終えて俺たちは凛ちゃんの案内の元、シンデレラプロジェクトが使っているという部屋へと向かうのだが……。

 

「……あれ、地下にあるの?」

 

「……まぁ、色々あって」

 

 何故か下へ降り始めた凛ちゃん。凛ちゃんやみりあちゃんの話からして、結構事務所の上の階にあったって話だった気がしたけど。

 

(……なーんか雲行きが怪しくなってきたぞ)

 

「……ここ」

 

「ここって……」

 

「思いっきり資料室って書いてあるにゃー」

 

 そうして凛ちゃんに案内された部屋は、志希の言う通り『資料室』と書かれた部屋だった。

 

「みんな、良太郎さん来てくれたよ」

 

 ガチャリと凛ちゃんが扉を開けて中に入り、それに続く形で俺、志希、りんと後に続いた。

 

「助けてりょうお兄ちゃーん!」

 

「助けて良太郎さーん!」

 

 その途端、ちっこい弾丸二つが俺の懐に飛び込んできた。ゴフッと腹部にダメージを受けるが、後ろに志希とりんがいるため倒れ込むわけにはいかず、なんとかその場に踏みとどまる。

 

「あのね、シンデレラプロジェクトが無くなっちゃうの!」

 

「私たち解体だって!」

 

「お仕事も無くなっちゃうの!」

 

「全部じょーむとかいう人のせいなんだって!」

 

「「あとね! あとね!」」

 

「待って! 落ち着いて! ステイ! Just a moment(ちょっと待って)!」

 

 

 

 

 

 

「どうぞ、良太郎さん。一応、皆さんが来る前に軽く掃除は済ませておきましたので」

 

「ありがと、美波ちゃん」

 

 美波に勧められ、良太郎さんは一人用のソファーに腰かける。女の子だからという理由で朝比奈さんに座るように進めていたが、朝比奈さんは相談を受けるのは良太郎さんだからという理由で断っていた。一ノ瀬さんはその辺ブラブラしてるからまぁいいだろうとのこと。

 

「いえ、こんなところにまで来ていただき、本当にありがとうございます。こんなものしか用意できてませんが……」

 

「これはご丁寧に」

 

 前の部屋のようにお茶を淹れる設備が整っていないので、わざわざペットボトルのお茶を買って用意する辺り、美波は本当に出来る女って感じだなぁ。

 

 そしてそれ以上に、以前とは比べ物にならないぐらい良太郎さんへの好待遇っぷりにギャップが凄い。いやまぁ、わざわざ出向いてくれた他事務所のトップアイドルに対する対応と思えばこれが普通のなのかもしれないけど。

 

「お二人も、よろしければ……」

 

「あー、アタシはいいや。ありがと」

 

「あたしもいらなーい」

 

「……まさか、良太郎さんだけじゃなくて『魔王エンジェル』の朝比奈りんさんまで一緒とは……」

 

「お、驚きです……」

 

 最近良太郎さんに慣れ始めた様子のプロジェクトメンバーだが、やはり突然現れた朝比奈さんには驚きを隠せない様子だった。

 

「な、なんにゃあの奔放な猫キャラは……! 猫(ぢから)九千……一万……一万千……バ、バカにゃ……まさか……ま、まだ上昇しているにゃ……!?」

 

 あとついでに何故かみくが一ノ瀬さんを見ながら一人戦慄していた。一応良太郎さんの事務所の新人だという説明は終わっているが、何かしら思うところがあるのだろう。恐らくアイデンティティ的な何かが。

 

 

 

「……なるほどねぇ」

 

 一応私たちの中では最年長のリーダーであり、こういう場合のまとめ役として最適な美波からの説明を聞き、良太郎さんは頷いた。

 

「ロビーの方がバタバタしてたのはそのせいだったのか」

 

「色んな部署の、色んなアイドルの子たちが大変みたいで……」

 

「スタッフさんたちも大忙しみたい」

 

 そうだなーと呟き、足を組みながら天井を見上げて一人瞑目する良太郎さん。

 

「とりあえず結論から言わせてもらうけど……この件に関して、俺は君たちを直接助けてあげることは出来ないかな」

 

「えぇぇぇ!?」

 

「なんで!? どうして!?」

 

 再び良太郎さんに駆け寄り彼の身体を揺さぶる莉嘉とみりあ。他のメンバーも少なからずショックを受けた様子だが……杏や美波は「やっぱり」という表情を浮かべていた。かくいう私も、何となくそう言われるような気がしていた。

 

「落ち着いて。確かに俺は『何かあったら俺を頼ってほしい』とは言ったよ」

 

「だったら……!」

 

「でも、これはあくまでも君たちの事務所の問題。こう言っちゃうと情けないかもしれないけど、俺の発言力が及ばないところの問題なんだよ」

 

「……え?」

 

 組んだ足を戻し、前かがみになり膝に肘を着いて組んだ手に額を乗せる良太郎さん。目元が見えなくなり、唯一見える口からは大きな溜息が零れた。

 

「いや、正確に言うと口出しは()()出来る。アイドルに対する不当な扱いっていうのは間違いないわけだし、俺がそう発言すればそれは世間に対して大きな影響を及ぼすだろうね」

 

 今は『日本のテレビの顔』とも称される、トップアイドル『周藤良太郎』が及ぼす影響力。きっとそれは、私が想像する以上の力を持っていて、良太郎さんもそれを自覚しているのだろ。

 

「でもそれは、そっくりそのまま()()()()()()()()()も巻き込んでしまう。……君たちを助けるために、君たちを傷付けるとか本末転倒にもほどがある」

 

「あっ……」

 

 そうか、今回の仮想敵である相手は他ならぬ()()()()()()()なんだ。それが原因でアイドル部門そのものが傾いてしまったら、結局私たちはアイドルを続けることが出来なくなる。

 

「じゃ、じゃあ私たちは、どうしたら……」

 

「簡単じゃない」

 

 そう良太郎さんに対して未央が問いかけると、それに応えたのは朝比奈さんだった。

 

「辞めればいいのよ」

 

「……え」

 

「辞めればいいじゃん。事務所の方針が合わないんでしょ?」

 

「そ、そんな簡単に……!」

 

 あまりにも切り捨てるような朝比奈さんの物言いに、未央は食って掛かろうとする。

 

「そりゃ、簡単じゃないわよ。でも、アンタらもアイドルの端くれなら知らないとは言わせないわよ。世間ではトップアイドルと呼ばれる存在だったにも関わらず、所属事務所に嫌気が差したから()()()()()()()()()()()()()()自分たちを貫いた大馬鹿アイドルがいたってこと」

 

 しかし、朝比奈さんのその言葉に動きを止める。

 

「それって……」

 

「……『Jupiter』……」

 

 そうだ、今は良太郎さんの事務所でトップアイドルとなっている彼らだが、その前は人気絶頂の真っ只中だったにも関わらず、方針が合わなくなったという理由で事務所を辞めていたんだった。

 

「だからまずはアンタたちが本当にしたいことがなんなのか答えなさい。アイドルがしたいの? それとも事務所にいたいの?」

 

「……それは……」

 

「りん、あんまり俺の妹分たちを怖がらせないでくれ」

 

 良太郎さんがストップをかけると、朝比奈さんはそれまでの勢いが嘘のように「はーい」と素直に後ろに下がった。……多分だけど、私たちの問題を良太郎さんに頼って解決しようとした私たちに対する叱責だったんだと思う。

 

「ま、さっきまでのはあくまでも極論で、最終手段。ここのトップの人が俺の話に一切耳を傾けてくれなかった場合の話さ」

 

 そう言いながら、良太郎さんはスマホを取り出した。

 

「……え、良太郎さん、まさか」

 

 今のセリフと、その手のスマホはまさか……。

 

 

 

「それじゃあちょっとだけ、ここのお偉いさんとお話をしようかな」

 

 

 




・「これからも是非遠慮なく遊びに来てくれ」
※なお言われなくても遠慮なく来た模様。

・美波は本当に出来る女って感じだなぁ。
美波はデキる(意味深)

・「……まさか……ま、まだ上昇しているにゃ……!?」
この後みくにゃんの猫スカウターがボンッと爆発します。

・良太郎が手助けできない理由
要するに、以前765と961の問題のときのように『事務所』に対しては強く働きかけることが出来ない、ということ。



 色々と突っ込まれそうな微シリアス回。感想はお手柔らかに……。

 って、アレ結局常務出てきてない……(無計画)

 最近こんなんばっかじゃねぇか!(自虐)

 しかし次回は流石に登場。ただ今回とのギャップで余計に酷いことになりそう……。

 それではまた来週。人によっては静岡でお会いしましょう。



『どうでもいい小話』

 ツイッターの方で『短編ss60分一本勝負』と勝手に銘打って書いた短編SSを投稿しました。

 一部抜粋して載せときますので、もし興味があったらツイッターの方も覗いていただけたら嬉しいです。




(前略)

「私は良太郎さんの妹分なんだよ? 他の子よりも長い付き合いなんだよ? だったらもうちょっと特別扱いしてくれてもいいじゃん」

 ほらほら妹が甘えてるよ頭撫でてよ、と目を瞑りスリスリと額を肩に擦り付ける凛ちゃん。

(後略)

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