アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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続けて二話投稿。

※注意
魔王エンジェルのキャラが違うと思いますが、この小説の彼女たちはみんな良い娘です。



Lesson02 魔王少女

 

「知り合いが頑張ってんだ。なら、することは一つだろ」

 

 そう言いながら良太郎は湯呑に口を付ける。その表情は知り合いを思い浮かべて微笑んでいる訳ではなく、何かを企むようにニヤリと笑う訳でもなく。

 

 

 

 無表情。

 

 

 

 周藤(すどう)良太郎(りょうたろう)は笑わない。まるで一切の表情を持ち合わせていないかのように、良太郎は表情を変えることがない。本人は「表情の動かし方を母親のお腹の中に忘れてきた」と言っていた。

 

 花が咲くような満面の笑み、月の光のような儚げな笑み、甘く香るような妖艶な笑み、小悪魔のような挑発的な笑み。様々な形はあれど、アイドルにとって笑顔とは大きな武器である。それが一切ないというのは、アイドルとして致命的な欠陥であると言っても過言ではない。

 

 

 

 そんな欠陥を抱えているにも関わらず、周藤良太郎は日本のアイドルの頂点に立つ存在である。

 

 

 

 一切揺るがない端正な顔立ちから紡がれる言葉は意外にも軽く、そのギャップと自分を取り繕わない素の態度が男女共に高い評価を受けている。

 

 しかしそれ以上に、周藤良太郎を語る上で欠くことができないのは歌とダンス、つまりパフォーマンスである。紡がれる歌は心を震わせ、ダンスの一挙手一投足が観客の目を捕えて離さない。

 

 まるで自ら笑わないことをハンデとして背負ってまで、アイドルになるために生まれてきたかのような存在。トップアイドルになるための努力をあざ笑うかのような才能の塊。

 

 ふざけている。全くもって腹立たしい。

 

 

 

 しかし、そんなふざけた存在に私達は救われてしまった。

 

 

 

 四年前、私達が『魔王エンジェル』ではなく、まだまだ駆け出しの『幸福(ラッキー)エンジェル』だった頃。憧れていたアイドルにテレビ出演を奪われ失意のどん底にいた私達の前に現れたのは、同じくテレビ出演を奪われた駆け出しアイドルの周藤良太郎だった。

 

「泣いている暇があったら、少しでも早く立ち上がった方がよっぽど有益だと思うぞ」

 

 私達にそう言った良太郎が取ったのは、信じられないような行動だった。本来出演する予定だった番組の収録日、収録の時間に合わせてテレビ局の近くの公園でゲリラライブを行ったのだ。

 

 ただの駆け出しアイドルのゲリラライブ。しかし多くの人が足を止め、良太郎の歌とダンスに心を奪われた。その結果、本来番組観覧に参加する予定だった客の多くがそこで足を止めてしまい、生放送だったその番組は急遽内容を変更せざるを得ない状況になってしまったのだ。

 

 実はこの方法、今から十五年前にあの伝説のアイドル日高(ひだか)(まい)が取った一種のストライキの模倣だったそうだ。『日高ジャック事件』と呼ばれており、彼女以外誰も真似することが出来なかった業界の歴史に残る大事件。それを為してしまった良太郎も「あの日高舞の再来」と一躍注目を浴び、どんな圧力にも屈することが無い不屈のアイドルとして尊敬や畏怖の対象となった。あの有名な『一文字で鬼、二文字で悪魔、三文字で日高舞』という言葉の後ろに『四文字で悪鬼羅刹、五文字で周藤良太郎』と称されるほどだ。さらに二年に一度行われる『アイドルアルティメイト』、通称『IU』にも日高舞と並ぶ高得点で優勝を果たした。

 

 

 

 『覇王』。日高舞の『オーガ』という二つ名に対して付けられた良太郎の二つ名である。

 

 

 

 そんな同期の姿に、私達は自分達の弱さを恥じた。憧れていたアイドルに裏切られ、私達はただ泣いているだけだったことに悔いた。そして二度と引かないと心に決めた。絶対に追いつく決意を込めて自分達のグループ名を『幸福エンジェル』から『魔王エンジェル』に変えた。それまで断っていた実家である東豪寺財閥からのバックアップを受けて我武者羅に走り続け、私達は日本のトップアイドルと称されるまでになった。

 

 しかし良太郎がいる場所は、あまりにも高すぎた。私達は未だに『覇王』と比較されることすら叶わないのだ。

 

 ……きっと私は、良太郎のことを尊敬している。けれどそれを認めてしまったらきっと届かない。だから私は絶対に良太郎を認めない。

 

 

 

 私、東豪寺麗華には夢がある。

 

 

 

 かつて私達を救い、目指すべき場所に居続ける周藤良太郎と肩を並べること。

 

 

 

 その日が来るまで、私は決して諦めない。

 

 

 

 

 

「んっと、そろそろ時間だな。仕度しねーと」

 

 兄貴は戻ってこねーけどというりょーくんの言葉に顔を上げると、既に三十分近くの時間が経っていた。

 

「それじゃ、そろそろ私達は帰るわ」

 

「おう、大福ご馳走さん。今度俺も差し入れ持ってくわ」

 

「アンタにお礼を言われる筋合いはないわ」

 

「んじゃ、りんとともみにすることにする」

 

 ありがとうな、とりょーくんはアタシとともみに視線を向ける。

 

「いいよ、気にしないで」

 

「そうそう! 今度美味しいケーキを差し入れてくれたらそれでいいから!」

 

 いひひっと笑いながらりょーくんの鼻先を突く。

 

「あぁ、分かった。約束する」

 

 いつもと変わらぬ無表情で、りょーくんは頷いてくれた。

 

 ……大丈夫、アタシは笑えているはず。いつも通りの朝比奈りんをふるまうことが出来ているはずだ。それでも少し不安になる。顔は赤くなってないか、バクバクという心臓の音は聞こえてしまってはいないか、緊張で指先が微かに震えていることに気付かれていないか。

 

 

 

 アタシがりょーくんに対する恋心を自覚したのは、四年前のあの日がきっかけである。

 

 

 

「泣いている暇があったら、少しでも早く立ち上がった方がよっぽど有益だと思うぞ」

 

 憧れていたアイドルに裏切られて失意の底にいたアタシ達に、りょーくんはそう声をかけてきた。その時りょーくんに対して抱いた感情は、怒りだった。自分たちと同じ立場のくせに、どうしてこいつはこう能天気なんだ。こいつは一体何様なんだと。

 

 しかし、そんな怒りも簡単に吹き飛んでしまった。

 

 りょーくんが行った突発的なゲリラライブ。本来生放送に行くはずだった観覧客達の足を止め、敵うはずが無かったテレビ局という企業に対して反抗してみせた。

 

「……どうだ? 立ち上がったら、有益なことがあったろ?」

 

 ゲリラライブを呆然と眺めていたアタシ達を見つけたりょーくんは、やはり変わらぬ無表情でそう言った。

 

 アタシが恋に落ちたのは、きっとその瞬間。笑顔を向けられた訳でも、直接慰められた訳でもない。決して屈せず立ち止まることの無かったその強い意志を好きになったのだと思う。

 

 お互い駆け出しではなくなり、頻繁にテレビ出演やライブ活動などを行うようになってからは頻繁に交流するようになった。常に変わらぬ無表情にも関わらず発言とノリは意外にも軽く、アイドルであるにも関わらずアタシ達の胸の大きさについて弄ってくることまであった。そのギャップに思わずキュンとしてしまい、胸の大きさを褒められて嬉しくなってしまう辺りアタシも相当惚れこんでしまっている。

 

 

 

 しかし、そんなりょーくんも時折寂しそうな雰囲気を醸し出すことがある。

 

 

 

 ふと気付くとボーッと空を見上げている時があるのだ。麗華は「どうせ何も考えてないわよ」と言っていたが、アタシはそうは思わない。決して変わらぬ無表情と軽い発言に隠れて気付かないだけで、人に言えない何かを抱えているような気がしてならないのだ。

 

 りょーくんの力になりたい。りょーくんの抱えているものを、アタシも一緒に抱えてあげたい。そういう関係になれることを、アタシは望んでいる。

 

 

 

 アタシ、朝比奈りんは恋をしている。

 

 

 

 憧れであり、目標である周藤良太郎という男の子に。

 

 

 

 この思いを胸に秘め、いつの日にかきっと……。

 

 

 

 

 

 バタン

 

 リョウの楽屋を後にして、わたし達は関係者以外立ち入り禁止の廊下を歩く。もちろん今のわたし達は関係者ではないので本来ならば立ち入り禁止なのだが、ここのスタッフのほとんどと知り合いの上、大体のスタッフはわたし達がリョウと交友があることを知っている。故にこうして堂々と歩いていても何も咎められないのだ。

 

「それにしても、何で言わなかったの麗華」

 

「……何のこと?」

 

「もちろん、これよ」

 

 そう言ってりんが取り出したのは、一枚のチケット。わたしと麗華も持っているそれは、今日これから行われるリョウのライブのプレミアムチケット。元々わたし達はリョウのライブの観覧が目的で今日こうしてやってきたのだ。あの菓子折りは本当に陣中見舞いのためのものであり、竜宮小町の記事の話こそがついでの話。

 

「麗華も素直に応援したらいいのに」

 

「煩いともみ! 絶対に何があろうともあいつだけは応援してやんないんだから!」

 

 我らが『魔王エンジェル』のリーダー様は頬をわずかに赤く染め、羞恥を誤魔化すように大声を出す。周りのスタッフが何事かと視線を向けてくるので、何でもないですと手を振っておく。

 

「もー、りょーくんの何が不満だって言うのよー。麗華だってりょーくんに感謝してるんでしょー?」

 

「感謝なんかしてない! アイツがいなくたって私達はここまでこれた!」

 

 麗華とりんは足を止め、額をぶつけるぐらい顔を近づけて睨みあう。廊下のど真ん中で言い争っているので、行き交うスタッフが少し邪魔そうに、それでいて触らぬ神に祟り無しと言わんばかりに避けて歩いていくので、わたしは申し訳ないですと頭を下げる。

 

 

 

 二人は隠しているつもりのようだが、わたしは二人がリョウに対して特別な感情を抱いていることに気付いている。

 

 

 

 まぁ、普段からあれだけ露骨な態度を取っているのだ。少し長い時間一緒にいるわたしが気付かないはずが無い。最も、麗華とりんはお互いに気付いていないのが若干滑稽である。

 

 わたしはというと……正直、よく分からない。

 

 元々わたしは、大きな騒ぎやらそういう事柄が苦手だ。アイドルを始めたきっかけも、幼馴染である麗華とりんに押し切られてしまった結果であり、自分から進んでなりたいと言い出したわけではない。きっと二人に誘われていなかったら、わたしは何事も無い静かな人生を過ごしていたことだろう。もちろん今では真剣にアイドルの活動を行っているし誇りもある。

 

 だから四年前のあの日、わたしは二人ほどショックを受けていなかった。元々わたしの心は他の人よりも冷たく熱くならず、リョウが行ったゲリラライブも感動はしたが、二人のように強く心を囚われた訳ではない。二人を立ち直らせてくれたことに対しては感謝しているが、それ以上の特別な感情を持ち合わせていない。

 

 

 

 けれど、わたしは四人でいる時間が心地よいと感じている。

 

 

 

 リョウが無表情に軽口を叩き、麗華が反応して怒り、それを見てりんが笑っている。そんな三人と一緒にいられるだけで、わたしは心が暖かくなる。きっとこの感情は、尊敬や恋などといったものではなく、もっと簡単で、もっと単純な原始的な感情。親しい人の側にずっといたいという、安らぎを求める動物としての本能。

 

 面倒事は遠慮したいが、それでもこの三人のためなら少し頑張ってみようと思う。

 

 

 

 わたし、三条ともみは静かに暮らしたい。

 

 

 

 けれど、今こうして四人でいる時間は悪くないと思っている。

 

 

 

 願わくば、少しでも長くこの時間が続きますように……。

 

 

 




・周藤良太郎は笑わない。
・東豪寺麗華には夢がある。
・朝比奈りんは恋をしている。
・三条ともみは静かに暮らしたい。
良太郎とりんのフレーズが先に思い浮かび、「アレ何かこれジョジョっぽい」と思ったのがきっかけ。結果、麗華・ジョバーナと吉良ともみが完成してしまった。

・「表情筋の動かし方を母親のお腹の中に忘れてきた」
それでいいのかアイドル。

・周藤良太郎は日本のアイドルの頂点に立つ存在である。
物語が始まったと思ったら既に主人公はナ○・スプリングフィールドよりもビッグネームだったでござる的な。

・『幸福エンジェル』
『魔王エンジェル』の前身。設定では憧れていた『雪月花』というグループに裏切られたことがきっかけで闇墜ちしたが、この小説では違う理由での改名。

・『日高ジャック事件』
嫌な……事件だったね……。当然オリジナル設定。舞さんだったらこれぐらい平気でやってそう。

・『一文字で鬼、二文字で(ry
実はこのフレーズが作りたいがために主人公の名前は五文字にさせられたという裏話。

・『覇王』
厨二乙。

・いひひっ
りんが「いひひっ」で伊織が「にひひっ」なので間違えないように。ここテストに出ます。

・恋する少女朝比奈りん
りんちゃんマジ乙女。腹黒なりん? りんちゃんのお腹は白くてスベスベですよ。(妄想)

・胸のサイズを弄る主人公
本当にそれでいいのかアイドル。

・時折寂しそうな雰囲気を醸し出すことがある。
(アニメの最終回見逃した上に録画してなかった……)

・元々わたしは、大きな騒ぎやらそういう事柄が苦手だ。
なんかそういうイメージ。元々CVみのりんだし。



一話二話連続投稿。ヤローが考える女の子の心理描写なんてこんなもんだよ!

とりあえず次回は765プロのアイドルが登場予定。
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