「ちょ、ちょっと良太郎さん……!?」
「実を言うと、あの人ちょっと苦手なんだけど……まぁ悪い人ではないし、多分話せば分かってくれるんじゃないかな。それがダメでもある程度の譲歩は引き出せるかと……」
問い詰める暇も止める暇もなく、「んー今忙しいかなー」と呟きながらスマホを弄っていた良太郎さんは通話を始めてしまった。なんいうか、先ほどまで「俺の発言力が及ばないところの問題」だとか「君たちを傷付けてしまう」だとか色々言っていたのにどうしてだとか、何でウチの事務所のお偉いさんの携帯電話の番号を知っているのかだとか、聞きたいことがありすぎてもう何が何やら。
「良太郎さ――!」
「あ、もしもし、こんにちわ。お久しぶりです」
「――むぐっ!?」
大声で呼びとめようとした矢先に通話が始まってしまったため、慌てて自分の口を押さえて声を中断させる。
「今お時間あります? ……大丈夫ですか? 実は今、そちらの事務所にお邪魔してまして……はい。シンデレラプロジェクトっていう企画に知り合いの子がいまして、その縁で」
などと、仮にもこの事務所の重役と話しているにも関わらず、その口調は割と砕けたものだった。知り合いというのは本当だったようだ。
「……あ、大丈夫ですか? いやぁ、わざわざすみません」
それじゃあ今から伺いまーすという不穏な言葉を最後に残してから、良太郎さんは耳に当てていたスマホを外し、画面をフリックして通話を終えた。
「……ふぅ。というわけで、急遽アポが取れたから行ってくる」
『……え、えぇぇぇ……!?』
驚き疲れて全員の声に力が無かった。
「普通、そんなに簡単に会える……? しかも一応部外者なんだよ……?」
「会える会えない以前に、まず会おうとしないって……」
まぁウチにも何人か直談判しようとしてた人がいるけど、実際にするかどうかは別問題だ。
「それじゃあ、俺はちょっと上でお話してくるけど……誰か付いてきたい人いる?」
そんなことを聞かれたが、ここで手を挙げる勇気のある人は流石におらず、全員が首を横に振っていた。
「勿論アタシは行くよ?」
「アッハイ」
朝比奈さんはそれが当然と言わんばかりにススッと良太郎さんの傍に近寄った。
……これだけ露骨に好意を向けているっていうのに、良太郎さんはそれに気付いている様子はない。相変わらず鈍感というか、異性からの好意に疎いというか……。まぁ、その鈍感のおかげで良太郎さんには熱愛報道とかが無いのかもしれないけど。そうでなければ、大舞台の上で何の前触れもなく結婚報告をするようなアイドルになっていた可能性もあるわけだし。
「んじゃ俺たちはちょっと行ってくるけど、志希、お前は――」
「このみくとどっちが猫ちゃんキャラアイドルに相応しいか……勝負にゃ!」
「んー? なんのことー?」
「――ここで大人しく遊んでなさい」
振り返ると、何やら見覚えのある光景が広がっていた。完全に私と卯月と未央が美嘉さんのバックダンサーをやると決まった際の焼き増しだった。やはり、猫キャラとしては譲れないものがあるのだろう。……私はみくよりも一ノ瀬さんの方が猫っぽいかもと思ってしまったが、黙っておこう。
「というわけで、ちょっとの間志希ここに置いとくな。多分途中で失踪するだろうけど、慌てずに俺の携帯に連絡入れといてくれればいいから」
「失踪することが前提ってちょっと意味わかんないんだけど……」
「あと勝負するのはいいけど、あいつ兄貴以上の天才だから頭脳系は止めておいた方がいいってみくちゃんに忠告しておいてあげて」
んじゃよろしくーと、まるで近所のコンビニに行くような手軽さで行ってしまった。
幸太郎さん以上の天才……となると相当だなぁと思いつつ、良太郎さんの忠告をみくに伝えることにしよう。
「それじゃあ、このオセロで勝負にゃ!」
「まぁ、キミがそれでいいならいいけどさー」
「………………」
既に手遅れだった。何故よりにもよって、わざわざ頭脳系を選んだのか……。
その後、私は初めて64―0というパーフェクトゲームを目撃することとなる。
普通に「今から伺う」と言ったものの部屋の場所を知らなかったため、一旦受付に戻りお姉さんに場所を教えてもらい(その際アポを確認されたが、直接連絡を取ってもらった)、俺とりんは事務所の最上階に位置するその部屋の前までやって来た。
コンコンッ
「入りたまえ」
扉の向こうから聞こえてきたのは、凛々しい女性の声。なんか波紋法を教えてくれそう。
「失礼しまーす」
入室許可をいただいたのでガチャリと扉を開いて中に入ると、俺たちを出迎えてくれたのは一目でお偉いさんのものだと分かる立派な机に着いたスーツ姿の女性だった。彼女は入って来たのが俺たちだと気付くと、そのままスッと立ち上がってこちらにツカツカと歩み寄って来た。……背ぇ高い上にヒール履いてるから、俺より大きいんだよなぁ……。
まぁ何はともあれ。
「お久しぶりです、美城さん」
「あぁ、久しぶりだな、周藤君」
現346プロダクションの常務である美城さんが差し出してきた右手を握り返した。
「アメリカで偶然お会いして以来ですね」
「あぁ、その節は世話になった」
「なんのなんの」
「それで君は……1054プロダクションの朝比奈りん君だな。初めまして」
「あ、えっと、初めまして」
りんも美城さんと握手を交わした後、勧められたソファーにりんと二人並んで座る。
「今飲み物を用意させよう。希望があれば何でも言ってくれ」
「あ、お気持ちだけで結構です」
「アタシもいいです」
「……そうか」
美城さんも俺たちの反対側に腰を下ろした。
「さて、世間話から始めてもいいんですけど、そういうのは本題が終わってからでもいいと思うんですよね、俺は」
早速本題に入っても? と尋ねると、美城さんは「構わん」と頷いた。
「それじゃあ早速……アイドル部門の解体、ちょっと考えてもらえませんかね? 俺の妹分が困ってるんですよ」
隣のりんが(どストレートだー!?)と静かに驚愕していた。
「……はぁ。君がそれを知っていることに対しては別段言うことは無いが、一応それは社外秘なのだがね」
「彼女たちは悪くありません。俺が無理やり聞き出しました」
「……本来ならば、例えそうだとしても何らかの処罰があるところだが……まぁ、今回は君に免じて不問ということにしよう」
「すみませんね」
それでどうですか? と尋ねると、美城さんは間髪入れずに首を横に振った。
「いくら君の頼みとはいえ、それは出来ん。今回の一件は我が社の社運を賭けた一大プロジェクトだ」
そう言いながら美城さんは壁に設置されていたテレビにリモコンを向けて電源を点ける。
液晶が映し出したのは、とあるバラエティ番組だった。映っているのは……確か、346プロのアイドルで
『それでは! お二人にはこの三つのミカンジュースを飲み比べてもらうであります! まずは一つ目のジュースからどうぞであります!』
『口の中に広がるこの甘さ……まさしくメガネのよう!』
『それは味の感想でありますか!?』
『珠美分かりました! これこそが静岡産のジュースでありますぞ!』
『一つ目でもう答えを決めちゃうのでありますか!?』
「「「………………」」」
思わず三人で黙ってしまった。いや、俺は笑いを堪えた結果の沈黙なのだが、他の二人は多分違うと思う。
「……今、我がアイドル部門のアイドルたちはこのようなバラエティ路線の仕事も多い。しかし、私が美城のアイドルに求めるものはそれではない」
「……イチオー、アタシやりょーくんもバラエティ的な仕事あったりするんですけど」
「……君たちを批判する意図は一切ないが、気分を害したのであれば謝罪しよう」
「あ、いえ、別に気にしてませんので」
どうぞ続けてください、と手で先を進める。
「ありがとう。……私が美城のアイドルに求めているものは『かつての芸能界のようなスター性』だ」
「スター性……?」
あぁ、と美城さんはソファーから立ち上がった。コツコツとヒールの音を響かせながら、彼女は自身の机の背後に張られたガラスの前に立った。
「『夜空の向こうで輝いてる
「……どうも」
相手がジュピターの三人だったからカッコつけて言った言葉なのだが、アイツらが出版社に提供してくれやがったおかげで色々な人に知られて若干ハズい。
「親しみ易い、手の届く場所にいるアイドル。大いに結構だ。しかし、私が求めているのは手の届くことのないスター……幻想的な存在としてのアイドル」
――『別世界のような物語性の確立』だ。
「……幻想的な存在、ですか」
「あぁ。『日高舞』そして『周藤良太郎』……君たちは私が理想としているアイドルとしての姿そのもので、アイドルとはそうあるべきだと私は考えている。バラエティではなく、アーティストとして人々を魅了し、文字通り崇拝される神秘的な存在だ」
「……そーいうことですか」
とりあえず、美城さんが何を思って今回の取り組みを始めたのかは分かった。
要するに美城さんが思い描いているアイドルというのは文字通りに
(なるほどね)
彼女の人となりを知っている俺としては、色々と合点が行く理由である。寧ろこれまで俺が彼女としてきた会話の節々に感じてきた違和感のようなものの謎が解けたぐらいだ。
「そして私が求める、私が理想とするアイドルになる可能性がある人物が……君の言うシンデレラプロジェクトの中にもいるのだよ」
「……そのために、彼女たちのプロジェクトを解体すると?」
「それが主目的というわけではないが、結果としてはそうなるな。否定はしないよ。しかしこのプロジェクトのためには、今のアイドル部門全てを集結しなければならない」
そこまで強い口調で言いきった美城さんは、はぁっと疲れ切った様子で溜息を吐いた。
「……そもそもなんだ、今の美城のアイドル部門は。保育士、キャビンアテンダント、看護師、挙句の果てには元不良に探偵に巫女ってどういうことだ!? 下は九歳で、上は三十歳!? 確かに門戸は広く開けておいたつもりだが、節操なしにスカウトしてこいなどと私は一言も言っていないぞ!?」
((あ、美城の方針じゃなかったんだ……))
バラエティ豊かなメンバーが揃っているもんだから、事務所の方針だとばかり思っていたが、どうやらこれだけ色々な意味で愉快な人材が集まってしまったことは美城さんとしても予想外だったということか。
「……コホン、失礼。ここまで増えてしまったアイドルだ、幾人か
「お邪魔しまーす!」
振り返りながら高らかに美城さんが何かを言おうとした途端、何の前触れもなく扉が開いて志希が入って来た。
「志希!?」
「オセロも将棋も囲碁もチェスも飽きたから抜けてきちゃったー」
「……何でここにいるって分かったんだよ」
「勿論匂い」
猫っぽいのに犬っぽいってどういうことだよ。
とりあえず一応この事務所の常務の部屋なのだから、無断で入るのはマズいということで一旦外に――。
「……君は」
――出そうとしたら、何故か美城さんが反応を……って、アレ、驚いている?
「……一体今の今まで何処に行っていた!? 一ノ瀬志希っ!」
……どーいうこと?
・大舞台の上で何の前触れもなく結婚報告
二次創作では割とあるシチュエーションだけどリアルでやるとどうなるかを身をもって教えてくれた偉大なるパイセンに敬礼!
・64―0
一応出来るらしい。ちなみに33-4とは何も関係ない。
・なんか波紋法を教えてくれそう。
中の人的に「ルールブレイカーとかいう短剣を持ってそう」とどちらにするか悩んだ。
・美城常務
満を持して登場した、デレマス二期の敵役……ということになっているキャラ。自分はそれほど嫌いではないし、まぁやり方が合理的過ぎたということで。
なおこの世界では……。
・大和亜季
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール。
迷彩柄が良く似合うミリタリー系コマンドーな21歳。
Lesson132でチラ登場したが、今回正式に登場。アニメだと立てこもり騒動の際に楓さんの横にいた。
・上条春菜
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール。
眼鏡を愛し、眼鏡と共に生き、この世の全ての眼鏡を以下省略な18歳。
こちらもLesson156のおまけでのチラ登場から正式に登場。まぁまぁ、眼鏡どうぞ。
・脇山珠美
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール。
小学生にしか見えない身長と童顔を持つ剣道女子高生な16歳。
バンブーなんとかなんてアニメは関係ない。いいね?
・ミカンジュース
5th静岡初日ネタ。二日目は飛鳥君と悠貴ちゃんでお茶の飲み比べをしたらしい。
・「節操なしにスカウトしてこいなどと私は一言も言っていないぞ!?」
これには常務もプチおこ。
というわけで、結局話が収まらないので五話目に続きます。
ついに登場した美城常務。言うほどキャラ崩壊してないようにも見えますが、よくよく彼女の言動に注意すると違和感がチラホラ……(フラグ)
そしてようやく志希も参加し、次回はこの第五章最大のポイントが語られます。
『どうでもいい小話』
アイマスはいいぞ(ライブ参加後特有の語彙力消失)