アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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良太郎がフルスロットルです。


番外編01 もし○○と恋仲だったら

 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

「……私は、帰ってきたー!」

 

 空港を出て、ぐぐっと大きく伸びをする。

 

「よーやっとワールドツアー終わったぜ……」

 

 いくら体力に自信があったからとはいえ、世界一周ツアーは無茶があったと今更ながら反省。しかし面白かったので後悔は一切していない。要するにいつも通りのステージをする以外は海外旅行みたいなもんだし。

 

 ただまぁ、一つ不満があるとするならば、最愛の恋人との触れ合いがお座なりになってしまっていたという点か。移動と仕事ばかりで全然会うことが出来ていないのだ。

 

「なぁ、兄貴」

 

「ダメだぞ」

 

 続いて空港から出てきた兄貴に、提案する前に却下されてしまった。

 

「せめて内容ぐらい聞いてくれよ」

 

「どうせ『このまま会いに行く』とか言うつもりだろ? 明日からオフなんだから今日ぐらいしっかり身体を休めろって」

 

「今の俺に必要なのは身体の休息じゃない、恋人との触れ合いなんだ」

 

 エロ的な意味ではなく、要するにイチャイチャしたいのである。

 

「ダメなもんはダメだ。あんまり無理を言うようだったら、お前が隠してる本のこと言っちまうぞ」

 

「既にバレてお説教を経て正式に所持を許可されているから一向に構わん」

 

「オープン過ぎるだろお前……!?」

 

 バレた時はマジで焦ったが、男だからしょうがないと許されたのだ。俺の恋人マジ寛大。おっぱいだけじゃなくて心もデカイ。

 

 ただ、その際に「あまり自分以外の女性は見ないでほしい」と可愛らしいお願いをされてしまったので、それ以来ほとんど買っていない。

 

 なお、隠してるのはグラビアの写真集であって決してR18的な物じゃナイデスヨー。

 

「というか、もうこんな時間だぞ? 今から行ったら向こうにだって迷惑がかかるだろ」

 

「む、それもそうか……」

 

 現在の時刻は既に午後九時を回っていた。言われてみれば、確かに兄貴の言う通りである。

 

「しょうがない……明日にするか……」

 

「そうしておけ」

 

 ガラガラとキャリーバッグを引っ張りながら、俺と兄貴はタクシー乗り場へと向かうのだった。

 

 

 

 タクシーで一時間弱揺られ、俺達は実家マンションへと帰ってきた。

 

「「ただいまー」」

 

「コウ君リョウ君おかえりー!」

 

「おかえりー、コウ、リョウ」

 

 玄関を潜ると我が家のミニマムマミーと、今では兄貴の嫁となった早苗姉ちゃんが娘のカナちゃんを抱き抱えながらリビングからパタパタと走ってきてお出迎えしてくれた。

 

「世界一周お疲れ様」

 

「いや、ホント疲れたよ。カナー、パパ帰ってきたよー」

 

 早苗姉ちゃんからカナちゃんを受け取ってデレッとする兄貴。すっかり父親の顔になっちゃってまぁ。

 

「お土産はー?」

 

 お母様は二言目がそれですか。

 

「土産は後日郵送されてくるから、今日は我慢してくれ」

 

 子供のようにまとわりついてくる母さんを軽くあしらいつつ、リビングの片隅のお父祭壇にて父さんに、兄貴と二人で帰宅報告をする。……父さんの写真に向かって手を合わせているが、しっかりと父さんは健在である。何というか、既に習慣である。果たして我が家の父上様はいつになったら帰ってくることやら。

 

「お風呂沸いてるよね?」

 

「沸いてるけど、リョウはまず自分の部屋に行きなさい」

 

「何ゆえ」

 

 風呂に行こうとしたら早苗姉ちゃんにストップをかけられた。早く風呂に入って寝たいんだけど。

 

「部屋でお客さんが待ってるよー」

 

「お客さん? ……っ!?」

 

 母さんの言葉にまさかと思い、急いでリビングを後にする。

 

「うんうん、愛だねー。……うわーん! お父さーん! コウ君に続いてリョウ君まで親離れしちゃって寂しいよー! 結構早い段階でしてた気もするけどー!」

 

「あぅあぅ」

 

「うぅ、おばあちゃんを慰めてくれるのー? カナちゃんは優しいねー……」

 

「……相変わらず、お義母さんの見た目でおばあちゃんってのは無理があるわね」

 

「本人はおばあちゃんってフレーズが大層気に入ってるみたいだけどな」

 

 母さんの泣き声が背後から聞こえてくるが、今はスルー。自分の部屋の前に着くと、そのまま勢いよくドアを開けた。

 

 俺の部屋の中では、一人の女性が俺のベッドに腰を掛けていた。

 

 彼女こそ、俺が今一番会いたかった女性。俺の最愛の恋人。

 

 

 

「……ただいま、貴音」

 

「お帰りなさいませ、あなた様」

 

 

 

 四条貴音が、優雅に微笑んでいた。

 

 

 

「……会いたかった貴音ー!」

 

「きゃ」

 

 なんか感動の再会的なモノローグになったが、そんなのお構いなしに荷物を放り出して貴音に抱き着く。

 

「ほふぅ、貴音ー……」

 

「ふふ、まるで甘えん坊の子供のようですね」

 

 貴音のやーらかい身体に顔をグリグリと押し付けてモフモフしていると、貴音は優しい手付きで頭を撫でてくれた。

 

 あー、癒される……。

 

「って、どうしてここに?」

 

「今日帰ってくるという話を聞いていましたから、帰ってくるあなた様をお出迎えしたいと思ったのです。それで、お母様と早苗殿にお願いをして……」

 

「俺の部屋で待っててくれた訳か」

 

 なんともまぁ可愛らしいサプライズである。今日は会えないとばかり考えていた俺には最高のサプライズだ。

 

 

 

 なお、ここまでの会話は全て貴音の胸に顔を埋めている状態で進めている。しかしエロ的な考えは一切起きず、ただただ貴音の包容力に癒されるばかりである。

 

 

 

 いつまでも押し倒している状態も辛いだろうと一旦離れ、今度は膝枕をしてもらう。貴音の大乳が間近で堪能できる素晴らしい体勢だ。思わず全国の貴音ファンに「どうだ羨ましかろう」とドヤ顔したくなる。表情はやはり動かないけど。

 

「ワールドツアー、お疲れ様でした。どうでしたか?」

 

「移動の連続で疲れたが、楽しかったぞ。貴音に会えなかったのは辛かったけど」

 

「ふふ、わたくしもです。あなた様とこうして再び触れ合える日を心待ちにしておりました」

 

 手を伸ばして貴音の頬に触れると、貴音は目を細めて俺の手を取り更に頬を刷り寄せてくる。

 

「……んっ」

 

 指先が耳に触れると貴音の身体がピクリと僅かに跳ね、大乳が目の前で揺れる。恋人同士になって知ることになった貴音のウィークポイントだ。

 

「もう、おイタはダメですよ」

 

 内心でニヤニヤしているのがバレたらしく、メッと注意と呼べない注意を受けるが一向に反省するつもりはない。

 

「……それで、あなた様。話をする時はしっかりと人の顔を見ていただきたいのですが」

 

「ちゃんと見てるぞー」

 

「先ほどから胸に視線が固定されているようですが」

 

「胸の先にある貴音の顔を見てるんだって」

 

「わたくしからはあなた様の顔が見えていると言うのに、目線が合わないのは面妖な話ですね」

 

「面妖だね」

 

 全く、と困ったように眉根を寄せる貴音。胸を見ている事に対してはお咎めはない、というか特には気にしてないみたいだ。胸を凝視されていることよりもちゃんと目を見てくれないことに拗ねている辺り、俺の恋人すげー可愛い。

 

 貴音はこういった性的な事に対する認識が少しばかりズレている。以前、ちょっと好奇心を抑えきれなくなって「おっぱい触らせてください」と素直に頭を下げたらあっさりと了承されてしまい、逆に困惑してしまった。「恋仲だから問題ない」って、いやまぁ、貴音がいいならいいけど。個人的には大変ありがたいし。

 

 とてもやーらかかったです。(キリッ)

 

 その後も見ている見ていないだのと言い合いながらイチャイチャと頬をつつき合う。これだよ、こういうイチャイチャが今の俺には必要だったんだよ。

 

「……こうしてあなた様と恋仲でいられることが、まるで夢のようです」

 

「夢じゃないさ。貴音のために頑張ったんだぜ? 俺」

 

 

 

 少しだけ、過去語りをさせてもらうことにする。

 

 恋人同士になって初めて明かされたことなのだが、貴音は母方の祖母が日本人のクォーターで、ヨーロッパのとある小国の貴族の出身らしい。直系ではないらしいが由緒正しき身分とやらだそうで、色々と決まりごとがあったらしい。しかし成人の義までは自由に過ごすという約束を取り付けて、わざわざ日本に来てアイドルをしていたそうだ。

 

 それでここからが問題なのだが、貴音には親に決められた許嫁がいたらしいのだ。今は日本で自由にしているが、いずれ貴音が帰ってしまえば俺達は別れなければならなくなる。

 

 

 

 ――俺の貴音を渡してたまるか!

 

 

 

 要するに、貴音の実家に俺がその許嫁よりも価値がある人間だと認めさせればいい訳だ。そこで俺は兄貴や知り合いと話し合って一つの結論に至った。

 

 

 

 とりあえず世界でも獲ってみるか、と。

 

 

 

 世界で活躍している友人や知り合い――フィアッセさんとティオレさんのクリステラ親子、スティーヴ・パイやカイザー・ラステーリなど――に協力してもらい、周藤良太郎海外進出計画を決めて即実行に移した。当時十九歳の話である。

 

 とりあえず持ち歌を全部五ヶ国語(英語、中国語、フランス語、ドイツ語、ロシア語)で歌い直し、各国の様々なメディアに出演して、色んなコンクールやら賞やらを総なめにしまくった結果。

 

 

 

『本年度『NMU(ナショナルミュージックアルティメイト)』アイドル部門最優秀賞は……リョウタロー・スドウ!』

 

 

 

 二年後のそこには、元気にトロフィーを受け取る俺の姿が!

 

 『NMU』。文字通り、世界一の音楽を決める式典。そこで最優秀賞を取るということは、文句なしに世界一だと認められるということだ。

 

 そのNMUに乗り込んだ俺は、日本人初にして歴代最年少で最優秀賞を勝ち取って見せた。あの日高舞ですらなし得なかったことを、ついに成し遂げたのである。(あの人の場合、活動期間が短かっただけで、普通に活動していたら分からなかったが)

 

 『He is the IDOL.』

 

 それは、世界に認められた俺への最大の賛辞。

 

 長く苦しい戦いだった……!

 

 何とか期限である貴音の成人の義に間に合わせることができたので、授賞式の帰りの足でそのまま貴音の母国へ突撃。貴音の両親に「お前らの娘寄越せやフォラァ」とトロフィーを投げ付けたのだった。

 

 すみません、意味がない嘘吐きました。帰りの足で実家に行ったことはホントだけど、普通に「娘さんをください」って頭下げました。

 

 その際、貴音の許嫁が突っかかってきたりするハプニングもあったが、誠心誠意オハナシをしたらちゃんと分かって貰えた。いやいや、イイヒトダッタナー。

 

 以上が、今に至るまでの簡単なダイジェストである。

 

 

 

 

 

 

 わたくしは、足を紐で結ばれた鳥でした。

 

 空を飛ぶことを許されても、いずれ再び鳥籠に囚われることが定められた一羽の鳥。

 

 許嫁との婚姻までの僅かな時間を自由に生きようと、祖母の故郷である日本でアイドルになりました。しかし自らに残された時間はごく僅か。

 

 そんなわたくしを救ってくださったのが、良太郎殿でした。

 

 

 

 ――俺の貴音を渡してたまるか!

 

 

 

 恋仲となった良太郎殿は宣言通りにNMUで頂点に立ち、わたくしが欲しいと言ってくださった。

 

 嬉しかった。こんなわたくしのために世界一になると言ってくれて、さらに実現してくれたことが。

 

「……貴音?」

 

 今こうして、わたくしの膝の上に頭を乗せているこの方が愛おしい。

 

 

 

 あぁ、この方を好きになって良かった。

 

 

 

「……愛しております、あなた様」

 

「……俺も愛してるよ、貴音」

 

 

 

 わたくしの頬に添えられている良太郎殿の左手に、自分の左手を重ねる。

 

 お互いの薬指にはめられた銀のリングが、カチリと音を立てた。

 

 

 




・周藤良太郎(22)
21の時にNMUアイドル部門で最優秀賞を獲得し、名実ともに「世界一のアイドル」の称号を手に入れた。良太郎が本気を出すとこうなる。全ては愛の力。
なお世界進出を決めたため、大学には行っていない。

・四条貴音(21)
三年前から突如としてその美しさが増し増しになり、文句なしにトップアイドル。今では女優としての仕事が多い。
良太郎との交際は一応秘密ということになっているが、世間を騒がす日も近い。
なお、付き合う理由は特に無し。というか考えてない。大事なのはイチャラブするっていう事実だから、そこは重要じゃないよね?(暴言)

・「……私は、帰ってきたー!」
再び貴音をモフモフする為に、貴音をクンカクンカする為に!
日本よ、私は帰って来たっ!

・「オープン過ぎるだろお前……!?」
健全な写真集なので問題はないです。(棒)

・今では兄貴の嫁となった早苗姉ちゃん
早苗さん大勝利UC。なおあくまで番外編なので、他の世界線では嫁役が変わる模様。
ちなみに娘の名前は 早苗 → 風神録 → 神奈子 という連想ゲームから。

・貴音の胸に顔を埋めている状態
・「どうだ羨ましかろう」
・「おっぱい触らせてください」
既に恋人なので自重しない良太郎。マジ炉心融解しろ。

・貴音は母方の祖母が日本人のクォーター
オリジナル設定。いくら髪色が若干おかしい世界でも、純粋な日本人があの銀髪は流石に……。
故郷に関しても当然オリジナル。別に月出身というわけではない。

・スティーヴ・パイやカイザー・ラステーリ
共に『コータローまかりとおる!』における世界的に有名なギタリスト。
クロスはお休みといった矢先のこれである。

・NMU(ナショナルミュージックアルティメイト)
オリジナルの世界大会。都合のいい大会がなかったので。

・『He is the IDOL.』
彼はアイドルであり、アイドルとは彼のことである、的な意味合いのはず。(英語弱者)

・長く苦しい戦いだった……!
この良太郎はTASではなくチートです。



というわけで、遅ればせながらの誕生日おめでとう記念的な意味も含めて番外編ヒロインのトップバッターは貴音でした。お姫ちんマジお乳ちんでお尻ちん。
主人公(作者)の言動から何となく予測してた人はいるんじゃなかろうか。なんだかんだ言って765プロの中で一番の『美人』は誰かと問われたら貴音だと思う。異論はしょうがないから認める。

ラブコメとか長らく書いてなかったからちゃんと書けてるか不安。確かこんな感じでいいはず。

次回からは今度こそ本編に戻ります。といってもアニメ本編からは外れ、様々なアイドルにスポットを当てたオリジナルの個人回になります。
てなわけで久しぶりの次回予告です。



 良太郎の下にかかってきた一本の電話!

 それは、新たな事件の幕開けだった!



「兄貴が病院に運ばれた!?」



 今、兄と弟、姉と妹の絆が試される!



「これでも、真美は亜美のおねーちゃんだしね!」



 次回! 『アイドルの世界に転生したようです。』第21話!

 『兄弟姉妹』で、また会おう!!



※若干の虚偽が含まれておりますのでご注意ください。

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