アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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遅くなった言いわけは後書きにて。



Lesson21 兄弟姉妹

「………………」

 

 ゆっくりと瞼を持ち上げる。目の前に知らない天井が広がっている訳もなく、いつも通りの見慣れた天井だった。

 

「……なんだ、ゆめか」

 

 何か凄い幸せな夢を見ていた気がする。具体的には誰か大乳な女の子とイチャイチャする夢。

 

「あんな可愛い嫁さん貰って退廃的に暮らしてみたいもんだよ」

 

 まぁ、顔は覚えていないので本当に可愛い嫁さんだったかどうかは定かではないのだが。

 

 とりあえず上体を起こし、ベッドの縁に腰を掛けて大きく欠伸をかく。

 

「……起きるか」

 

 現在時刻は午前七時過ぎ。部活も何もしていない高校生の土曜日の起床時間にしてはやや早いかもしれない。しかし俺の休日の起床時間は大体こんなもの。

 

 特に日曜日の朝は戦隊ヒーロー、ライダー、魔法少女の三連コンボを視聴するために大体この時間だ。内容や名前はやや違うが、まさか転生したこの世界でもこの番組の流れが確立しているとは思いもよらなんだ。

 

 ちなみに俺の初主演作はゴールデンタイムに放送されていた『少年X』だったが、初出演作はこっちの世界のライダーである『覆面ライダー(ドラゴン)』だ。覆面ライダー天馬(ペガサス)に変身するライバル役で、最終回直前に敵にやられて退場してしまうが、ラスボスを倒すためのヒントを主人公に残すというなかなか美味しい役どころだった。

 

 劇場版とか特別編とかでまた出番ないかなーと思いつつ、寝間着から普段着に着替えて洗面所へ向かう。

 

 ガラッ

 

「「あ」」

 

 洗面所の引き戸を開けると、そこには着替え中で上半身裸の人物が。

 

「誰得だよ」

 

「言ってる意味は分からんがさっさと閉めてくれ。寒い」

 

 まぁ、兄貴なんだが。キッチンから母さんの鼻唄が聞こえてきている時点で兄貴以外にはありえないし。

 

 兄貴はどうやら朝イチでシャワーを浴びていたらしく、バスタオルでガシガシと頭を拭いていた。

 

「ほら、洗面台前からお退きなさい。イケメンが今から顔を洗うんだから」

 

「お前と俺はほとんど瓜二つだろ」

 

「いやいや、よくよく見れば違うって。目と口と鼻の数とか」

 

「造形は違えどそこだけは基本的に変わってたまるか」

 

 などと互いに軽口を叩きながら朝の身支度を整える。

 

「というか、兄貴は今日も休日出勤?」

 

「自営業みたいなもんだからな。休日も何もないさ。お前だって同じだろ」

 

「まあな」

 

 今日は雑誌の取材と来週の番組の打合せがある。夕方からはフリーになるが、残念ながら受験生らしくお勉強である。模試の合格判定はBと上々であるが、他の奴等より勉強の時間を取れない分油断が出来ないのだ。

 

 なお、本日の恭也は月村と二人きりでお勉強だと昨日月村本人から聞いた。嬉しいのは分かったから俺に惚気るのは止めていただきたい。何かもう妬みを通り越して悲しみを背負うことが出来てしまいそうになるから。

 

「全く、たまには丸々一日休みにしてデートにでも行ってくりゃいいのに」

 

「……いや、まず誰を誘うのかという問題点があるし……」

 

「四人で行きゃいいじゃん」

 

「死ぬわ! 精神的に!」

 

 美女(一名外見美少女)を三人も侍らせてたら社会的にも死ぬかもな。もしくは物理的に。

 

「あんまりウダウダやって、いい加減刺されても知らんぞ」

 

「い、いや、あの三人はそんな性格じゃ……」

 

「別にあの三人だけだとは限らんだろ」

 

 人知れず兄貴が好きだった人とか、あの三人を好きだった人とか。

 

「まぁ、もし刺されたら枕元に菊か百合の花でも持っていってやるよ」

 

「墓前はともかく、まだ息がある状態では止めてくれ……」

 

「腹切りの後は介錯して首を落とすのが常識だろ?」

 

「今日のお前ちょっと容赦なさ過ぎやしないか!?」

 

「うるせぇ! 幼なじみが今日知り合いの女の子と二人きりでイチャコラやってるのに対して『俺って何でアイドルやってるんだろうなぁ……』とか自分の考えがブレるぐらい考えちまった俺の切なさが分かるか!」

 

 二人のギャーギャーとした喧しい言い争いは、朝食が出来たと母さんが呼びに来るまで続けられた。

 

 

 

 

 

 

 とまぁ、そんなことを話したのがつい今朝のこと。

 

「ウチの兄貴がヘタレで困ってます」

 

「奇遇ね。私も楽屋に変な奴が来てて困ってるわ」

 

 雑誌の取材が問題なく終わり、昼食を取ってから訪れたテレビ局にて竜宮小町の楽屋を発見したので遊びに来た。

 

「りっちゃんが冷たいなり」

 

「わざわざお茶淹れてあげたでしょ」

 

「りっちゃんのお茶温かいなりぃ」

 

「さっさと飲んで帰れ!」

 

 最近りっちゃんからの風当たりが厳しい気がする。解せぬ。

 

「それにしても、良太郎君は本当にお兄さんと仲良しなのね」

 

 俺の話を聞いていたあずささんが頬に片手を当ててあらあらと微笑む。

 

「まぁ、悪くはないですね。もちろん、それなりに喧嘩することもありますけど」

 

「あら、それは意外ね。何だかんだ言って仲良く二人三脚でやってるのに」

 

 まぁ、デビュー当初からずっと二人でやってここまで来たんだ。仲が悪かったら到底無理だな。

 

「二人三脚だからこそ喧嘩することもあるんだよ。それに、喧嘩しない兄弟なんぞいないだろ」

 

 ねぇ、と兄や姉がいる二人に視線を投げ掛けてみる。

 

「……まぁ、そうね。私も、時々だけどお兄様と喧嘩することあるし」

 

「亜美も、真美とおやつの取り合いで喧嘩とかよくするよー」

 

 伊織ちゃんと亜美ちゃんも同意してくれた。亜美ちゃんは何となくそんな気がしてたけど、伊織ちゃんもするんだ。まぁ、水瀬財閥の御令嬢がアイドルをやってると色々あるんだろうな。麗華もデビューしたての頃は実家と揉めてたらしいし。

 

 兄弟姉妹なんて同じ穴から産まれても結局は別人なんだから喧嘩ぐらいするさ、と言おうかと思ったけど流石にこのメンツで言うと完全にセクハラだから自重する。おっぱい発言? あれは俺なりの愛ですよ。

 

「私は一人っ子だったから、兄弟や姉妹がいる三人が羨ましいわ」

 

「分かりました。年下ですが、僭越ながら俺があずささんの兄になりましょう。『お兄ちゃん』でも『お兄様』でもお好きにどうぞ」

 

「アンタの変な趣味にあずささんを巻き込まないでくれる?」

 

「りっちゃんは『にー様』で頼む」

 

「ふんっ」

 

 立ち上がったりっちゃんから鳩尾に(ニー)様を貰ってしまった。響ちゃんの沖縄弁みたいに『にーにー』を頼んでいたら連続膝蹴りだったかもしれない。危なかった。

 

 というか、プロデューサーをやってるストレスか知らないが、アイドル時代よりもりっちゃんの手が早くなってる気がする。これもスキンシップの一貫だと考えてはいるが、物理的ダメージは普通に辛いからもう少しなんとかならんもんか。

 

「そういえば、千早達がまだなのかって焦れてたわよ」

 

「ん?」

 

 千早ちゃんが?

 

「忘れたの? ほら、一緒にレッスンするって約束してたじゃない」

 

「あぁ、あれね」

 

 何かと思えば、どうやら以前激励に行った日に約束したことだった。

 

「スケジュールの帳尻会わせが終わって、何とか765プロのみんなの仕事がない日にレッスンをねじ込めたよ」

 

 こっちの都合で多少スケジュールが弄れるのも、俺の実力と兄貴の手腕の賜物である。まぁ、元々受験勉強という名目で仕事を減らしていたからっていう理由もあるんだけど。

 

「おー! りょーにーちゃんとレッスン! いついつー?」

 

「えっと……」

 

 手帳を取り出して日付を確認する。

 

「……ついこの間、その日に仕事が入ったわ」

 

「あり?」

 

 何というバッドタイミング。売れっ子の竜宮小町はやはり忙しかったか。

 

「えー!? じゃあ亜美たちはりょーにーちゃんとレッスン出来ないのー!?」

 

「しょうがないでしょ、仕事なんだから」

 

「ぶーぶー!」

 

「あらあら~」

 

「……まぁいいわ。アンタとのレッスンなんかなくたって、元々私達は優秀なんだから」

 

「お、言ってくれるねー」

 

 個人的には竜宮小町がどんなものか直接見てみたかったんだが、それはまた別の機会に、ってとこかな。

 

「そろそろ時間ね。みんな行くわよ」

 

「「「はーい」」」

 

「んじゃ俺もそろそろ行くかな」

 

 打合せまでの暇だった時間も丁度潰せたし。

 

「お茶ご馳走さま。今度はシュークリームでも差し入れるよ」

 

「おー! この間のシュークリーム? あれ美味しかったんだよねー!」

 

「その時は是非極上のオモテナシを頼むよ」

 

「ぶぶ漬けを用意しといてあげるわ」

 

「帰す気満々ですね分かります」

 

 

 

「ん?」

 

 りっちゃん達の後に続いて楽屋を出たところで携帯電話が着信音を奏でた。

 

「失礼。……母さんか」

 

 どうせまた「今晩のおかずは何がいいー?」とか、そこら辺の用事だろ。

 

「はい、もしもし」

 

『リョウ君リョウ君!! 大変なの大変なの!!』 

 

「……っ!?」

 

 突然の大音量に思わず携帯を耳から遠ざけてしまった。あまりの音量の大きさに、りっちゃん達も何事かとこちらを見てくる。

 

「……とりあえず落ち着いて母さん。何が大変なんだ?」

 

『えっと、さっき電話がかかってきて……』

 

 

 

「……はぁ!? 兄貴が病院に運ばれた!?」

 

 

 

 涙声の母さんの口から発せられた一言は、確かに仰天するに値する一言だった。

 

 

 




・目の前に知らない天井
伝説になるかもしれないけど神話にはならない。

・「……なんだ、ゆめか」
前回からの続き。夢落ちです。

・日曜日の朝
おかげで作者は日曜日も七時半起きです。
なんだかんだ言ってキョウリュウジャーもドキプリも面白かった。
次が不安、というかハピネスは……いや、えりか臭がしておもしろそうだけどね、プリンセス。

・ラスボスを倒すためのヒントを主人公に残すというなかなか美味しい役どころ
この覆面ライダー天馬に! 精神的動揺によるミスは一切ない! と思っていただこう!

・「誰得だよ」
ホモと腐ってる乙女に媚を売っていくスタイル。

・悲しみを背負うことが出来てしまいそうになる。
「この私も心を血に染めて、悲しみを背負うことができたよ!」
byラオウ ※エキサイト再翻訳

・「腹切りの後は介錯して首を落とすのが常識だろ?」
菊は花がポトリと落ちることから「首落ちる」と縁起が悪い花です。お見舞いに持っていくと正直洒落にならないので気をつけましょう。
※追記
「首落ちる」は菊ではなく百合などの下向きに咲く花でしたので、訂正させていただきます。

・「りっちゃんのお茶温かいなりぃ」
能面ダブルピース。

・連続膝蹴り
第何回だったか忘れたけど『杉田智和のアニゲラ!ディドゥーーン』にて杉田さんが語った「響が言う『にーにー』の意味を問うクイズの選択肢に『連続膝蹴り』があった」というエピソードより。

・ぶぶ漬け
要するに「帰れ」という意思表示です。他には壁に箒を立て掛けるなど。



短い上に遅くなり申し訳ありません。しかしおかげでようやく大学卒業が確定しました。
国家試験が控えているので時間に余裕ができたわけではありませんが、肩の荷は一つ下りた感じです。

次話にてあの三人がついに初の顔合わせになります。さてどうなることやら。

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