アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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なんの捻りも無いサブタイになってしまった……。


Lesson182 The adjective which fits me

 

 

 

 もうすぐ十月である。

 

 この時期になってくると暦の上では秋と言っても差し支えがないだろうが、それでも時折顔を覗かせる夏の暑さがまだまだ秋を遠くに感じさせる。

 

 そんな夏と秋の境目と言っても過言でもない季節と言えば。

 

 

 

「勿論、カラオケっしょ!」

 

「意味が分かりません」

 

 

 

 アタシの発言が志保によってバッサリと切り捨てられるが、これぐらいでへこたれるようでは志保との付き合いはやっていけない。寧ろここで志保がノリ気で「是非行きましょう!」などと言い出したら、逆に心配になるところだった。

 

「全く……いきなり『緊急ミーティングがある』って言われたから来てみれば……」

 

 はぁと溜息を吐く志保。

 

 今日は平日で、既に放課後。今日は夜にレッスンがあるだけでお仕事が入っていなかったので、志保を誘ってカラオケに行く予定なのだ。

 

「まぁまぁ志保ちゃん、そう言わずに」

 

「シキちゃん、カラオケ初めて~」

 

 勿論まゆや志希も一緒で、要するに123プロアイドル女子組である。もうそろそろ美優さんも入ることになるだろうが、今はまだこの四人だ。

 

「帰ります」

 

「まーまー志保、これもボーカルレッスンだと思ってさ」

 

「レッスンなら事務所でやります。丁度次の曲で少し気になっていたところがあるので、どなたかにお話を伺おうと思ってたんです」

 

 次の曲、というのはデビュー曲である『ライアー・ルージュ』の次の曲、要するに新曲である。これは志保だけでなくアタシやまゆにも用意されていて、もうしばらくしたら三人同時に発表する予定だ。アタシや志保は一曲目に比べてガラリと曲調が変わり、まゆは曲調こそ変わらないものの、なんとピアノの伴奏まで本人ですることになっているので割と大変そうである。

 

 ともあれ、確かにウチの事務所にはリョータローさんだけじゃなく、ジュピターの三人もいるのでボーカルのアドバイスを貰うには贅沢すぎる環境だ。

 

「でも志保ちゃん、今日は良太郎さん、夜遅くまで仕事が入ってるから事務所には戻らないって言ってましたよぉ?」

 

「あたしの記憶では、ホワイトボードの予定はジュピターの三人も埋まってたよー」

 

 下手すると本人以上に良太郎さんの予定を把握しているまゆと、記憶力がいい志希。この二人が言うのだから、今日は事務所に言ってもアドバイスをくれる人はいないのだろう。

 

「ほら、ボーカルのことだったらカラオケでも出来るじゃん? これだけいるなら志保の気になってるところにアドバイス出来るかもしれないじゃん?」

 

「……はぁ、分かりました」

 

 小さく溜息を吐きながらも志保は了承してくれた。

 

「よぉし! それじゃあレッツゴー!」

 

「ごー!」

 

「ゴー!」

 

「全く……」

 

 拳を突き上げたアタシに乗ってくれたのはまゆと志希だけだったが、志保もさほど嫌そうな顔をしていなかった。

 

 ……思えば、765プロの合宿で初めて志保と会ったとき、アタシって志保から「私は、貴女と仲良くしたいと思っていません」とか言われたんだよねぇ……それが今では、こうしてカラオケに誘えばちゃんと来てくれるぐらいには仲良くなれて……。

 

「アタシゃ本当に嬉しいよぉ……!」

 

「うわっ!? 何っ!? いきなり恵美ちゃんが泣き始めたんだけどっ!?」

 

「はぁ、またですか恵美さん。最近はだいぶ落ち着いてきたと思ったのに……」

 

「ほら恵美ちゃん、ハンカチどうぞ。ティッシュも使う?」

 

「なんか二人とも手慣れてるんだけどっ!?」

 

 まゆからハンカチを受け取り、目元を拭う。

 

 そんなやり取りをしながら、アタシたちの足は駅前のカラオケボックスへ。このカラオケボックスはウチの事務所の人たちがよく行ってるため、店員さんがこちら側の事情に詳しい人たちばかり。アイドルたちばかりで行っても大きな騒ぎにならないので何度も利用させてもらっている。……改めて、一般人に対する良太郎さんのサインの効力というものを目の当たりにした一面だった。

 

「……ん?」

 

 そんな駅前の通りで、アタシの目に留まったのは駅前に大きく張り出された広告。それはとある化粧品メーカーの広告で、つい先日までは別の広告だったのを覚えているから、最近新しく張られた広告だと思うのだが……。

 

「……あれ? これって……美嘉ちゃん、ですよねぇ?」

 

「うん……」

 

 そこに大々的に写し出されていたのは、同じ学校の先輩にしてアイドルとしては同期のアタシの親友、城ヶ崎美嘉なのだが……。

 

「なんというか……今までとは随分と雰囲気が違いますねぇ」

 

 今までの美嘉はカリスマJKとして女子高生が憧れる存在で、化粧品でも女子高生向けのコスメとかそういった類の広告に写っているイメージが強く、実際そういうものばかりだった。

 

 しかし今回の美嘉の広告は、大人の女性向けの化粧品。今までのギャル然としたメイクや服装から、大人の落ち着いたそれにガラリと変わっている。彼女自身も若干キリッとした表情をしているような気もした。

 

「少し意外です。美嘉さんがこういう方向性で行くなんて……」

 

 美嘉のことを知っている志保も驚いた様子だ。

 

「んー? 結構似合ってると思うんだけど、みんな的には何か違うのー?」

 

「いや、違うってわけじゃないんだけど……」

 

 違うわけじゃないし、これはこれでアリだとも思う。けれどなんというか……。

 

 

 

「らしくない……かな?」

 

 

 

「え? ……美嘉!」

 

「やっほー」

 

 声をかけられて振り返ると、そこにはなんと美嘉本人の姿が。

 

「あれ、今日用事があって少し学校に残ってくって言ってなかった?」

 

「その用事が終わったの。そしたら123プロのみんなが揃ってアタシの広告見上げてるから、気になって。そっちの子は初めてだよね? どうも、城ヶ崎美嘉です」

 

「一ノ瀬志希でーす! よろしく美嘉ちゃん!」

 

 これが初対面になる美嘉と志希のやり取りを見つつ、先ほどの美嘉の言葉を反芻する。

 

「やっぱり美嘉自身も、この広告は『自分らしくない』って思ってるんだ」

 

「……まぁ、ちょっとはね」

 

 そう問いかけると、美嘉はアハハと苦笑しながら頬を掻き、自身が写し出された広告を見上げる。制服姿のギャルとしての美嘉が、広告の中の大人の雰囲気の美嘉を見上げていた。

 

「会社の方針でさ。『化粧品メーカーとのタイアップで、高級感溢れる大人路線で行く』んだって。……『結果を出せていない部署は本格的な整理が始まるんじゃないか』って、ウチの部署のプロデューサーたちが怖がっちゃって、断ろうにも断れなかったんだ」

 

「そんな! まるで今までの美嘉ちゃんが結果を出せていないみたいじゃないですかぁ!」

 

「ありがと、まゆ」

 

 プリプリと怒るまゆにお礼を言いつつ、美嘉は「でもしょうがないよ」と首を振った。

 

「アイドルは遊びじゃないし……我儘ばっかり言ってらんないっしょ」

 

「………………」

 

 少し寂しそうな目をした美嘉になんと声をかけるべきかと悩み……頭に浮かんだ言葉全てを、首を振って霧散させた。

 

「ねーねー美嘉! 今から時間ある!?」

 

「え? えっと……この後は、ちょっと事務所のスタジオ借りて自主練を……」

 

「今からみんなでカラオケ行くんだけどさ、美嘉も行こーよー!」

 

「はぁ!?」

 

「ほらほら~」

 

「ちょ、ちょっと恵美!?」

 

「……そうねぇ、美嘉ちゃんと一緒にカラオケは行ったことありませんし、ご一緒しませんかぁ?」

 

「まゆまで!?」

 

 アタシの考えを読み取ってくれたまゆと一緒に美嘉の腕にしがみつく。志保は「あまり無理強いはダメですよ」と言いつつもその行動自体を止めようとはしないし、志希はアタシたちをニコニコ笑って見ているだけで、二人とも美嘉が来ることに対して反対意見はなさそうだった。

 

「ほら気分転換ってことで……さ?」

 

「……はぁ……もー分かったよー。こうなったらトコトン歌ってやろーじゃん!」

 

「イエーイ! そうこなくっちゃ!」

 

 無事に美嘉が折れてくれたので、まゆと共に腕を組んだままカラオケへと向かう。

 

 

 

 

 

 

(はぁ……気ぃ使わせちゃったなぁ……)

 

 アタシの両腕を引く親友二人に、申し訳ない気持ちと一緒に感謝の気持ちも湧いてきた。

 

 しかし、アタシが気になっていることはそれだけではなかった。

 

 

 

 ――それと実は、城ヶ崎さんにユニットの話が来てまして……。

 

 

 

 なんでも、近々あの常務が直々にプロジェクトを立ち上げるらしく、そこの中核を成すユニットのメンバーにアタシが選ばれたらしいのだ。

 

 新しいユニットのメンバーに選ばれる。アイドルならば、これほど嬉しく楽しみな話はない。

 

 ……でも、今のアタシはそれに諸手を挙げて喜ぶことが出来なかった。

 

(……奈緒と加蓮は、今回の一連の騒動のせいでCDデビューが中止になった……)

 

 思い出すのは、最近アタシの部署に入って来た新人二人の姿。まだまだ新人だけど一生懸命頑張ってて、アタシもレッスンに付き合ってあげて、ようやくCDデビューが決まって……けれど、それは露と消えた。

 

(これじゃあまるで、アタシが二人のCDデビューを奪ったみたいじゃん……!)

 

 そんな直接的な話ではないと分かっている。それでも、そうとしか思えなかった。だからこの話も、断りたい。アタシの新ユニットの前に、奈緒と加蓮をデビューさせてほしい……!

 

 けれど、本当にそれを断ったとしたら……上の人間が望む結果を出せなかったとしたら……アタシの部署の奈緒と加蓮のデビューが、また大きく遠ざかってしまうことになる。

 

 アタシだけじゃない。今のアタシには、アタシの部署の未来すらかかっているんだ。

 

「………………」

 

「……ん? 美嘉?」

 

「美嘉ちゃん? どうかしましたかぁ?」

 

「……ううん、何でも。ほら、カラオケ行くんでしょ! 今のアタシ、思いっきり歌いたい気分!」

 

「おっ! ノッてきたねー!」

 

 

 

 ……恵美、まゆ……アンタたちだったら……良太郎さんだったら、どうするのかな……?

 

 

 

 

 

 

おまけ『新曲の感想』

 

 

 

所恵美『フローズン・ワード』

 

「カッコいい曲ですねぇ」

 

「ワールドじゃなくてワードだからねっ!」

 

「分かってますって……」

 

 

 

佐久間まゆ『マイ・スイート・ハネムーン』

 

「……なんというか、こう、そこはかとない怖さを感じるんですが……」

 

「ま、まゆらしい曲だよね」

 

「うふふ」

 

 

 

北沢志保『絵本』

 

「志保お゛お゛お゛ぉぉぉ! 志保も辛かったんだねえ゛え゛え゛ぇぇぇ!?」

 

「もう志保ちゃんは一人じゃありませんよぉ……!」

 

「恵美さんはともかく、まゆさんまで涙目にっ!?」

 

 

 




・ピアノの伴奏まで本人でする
後述するまゆの新曲、中の人がピアノ弾いてるってSSAで知ったゾ……。

・常務が直々にプロジェクトを立ち上げる
秒読み入りまーす。

・おまけ『新曲の感想』
それぞれ作者の感想のままです。

・「ワールドじゃなくてワードだからねっ!」
(前科一犯)

・「そこはかとない怖さを感じるんですが……」
最近まゆはだいぶマイルドになってきたと思ったけど、そんなこと無かったぜ!

・「志保も辛かったんだねえ゛え゛え゛ぇぇぇ!?」
志保も『お姫様』に憧れてたんやなって……。



 良太郎不在だからネタが少ないのはいつものこと。

 なんか意図せずシリアスになってしまった……主人公ー! 早く来てくれー! シリアスぶち壊してー!(必死)



『どうでもいい小話』

5thSSA振り返り公演楽しかった……アリーナからだと微妙に見えてなかったダンスがちゃんと観れて満足なんだけど。

 とりあえず復刻すいとーよ選手権でまこさんとアッサムが可愛かったからユッキとフレちゃんの恋仲○○特別編書いてきます(迫真)

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