アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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お話が進むような進まないような、そんなCI編スタート!


Lesson187 My existence value

 

 

 

「お待たせしましたー! ご注文のブレンドコーヒーです!」

 

「ありがとう、菜々ちゃん。……ところで、カフェテラス(こっち)でも資料室(あっち)でも給仕してるけど、大丈夫? 本当の職業忘れてない?」

 

「それ、良太郎さんにだけは言われたくないです……」

 

「えー? 一応これでもアイドル一筋六年やって来たんだけど?」

 

「『アイドルらしくない』と言われたことは?」

 

「数知れず」

 

「分かってるんじゃないですか……」

 

「おっかしいなぁ……」

 

 なんで『キングオブアイドル』だの『アイドルの頂点』とまで呼ばれているにも関わらず、職業を忘れられることが多いのだろうか。

 

 そんな疑問を浮かべつつ、菜々ちゃんが持って来てくれたコーヒーを一口。一番は勿論士郎さんが淹れてくれた翠屋のコーヒーなのは当然だが、最近では事務所で美優さんが淹れてくれたコーヒーの次ぐらいにこの346のカフェテラスのコーヒーを飲むようになった。まぁ純粋に346の事務所に来る頻度が増えたということなのだが……その内、123より346に入り浸る回数が増えそうで怖い。

 

 さて、そんなわけで早速346の事務所にやって来たところから今回のお話は始まるわけなのだが、今回はカフェテラスでこうしてコーヒーを飲みながら人を待っていた。

 

 ただ相手は凛ちゃんたちシンデレラプロジェクトのメンバーではなく、友紀や茄子でもない。かと言って美城常務でもないその相手は――。

 

 

 

「あら、待たせちゃったみたいね」

 

 

 

 ――コイツである。

 

「ここは座ってるだけで色んな女の子が見れるから、待ってるだけで楽しいんだよ」

 

「相変わらずね……」

 

 呆れたように笑いながら彼女――速水奏は俺の向かいの席に腰を下ろした。

 

 先日、この事務所にて謎の再会を果たした高校の後輩である彼女。どうやらここでアイドルになったらしいのだが、そのときはお互いに時間が合わずにその場を離れてしまったため、改めて場を設けて少し話をしようということになったのだ。

 

 というわけで、こうして時間を指定してカフェテラスにやって来てもらったわけなのだが……。

 

「リョーくんヤッホー! この間のサイン、忘れちゃったからまた書いてねー!」

 

「うわぁ、本物の周藤良太郎だ……」

 

 この間の金髪碧眼ハイテンション娘に加えて、何やら灰色ショートカット色白少女も増えていた。

 

「ごめんなさい、付いてくるって聞かなくて」

 

「別にいいけど……いきなりフランクだね、キミ」

 

「はれ? ダメだった?」

 

「いや、別にいいけどさ」

 

 ほぼ初対面の人間にこのノリで接することが出来る辺り、外国の血を感じる。いや、あくまでも彼女の性格の問題のような気もするけど。

 

「ユニットメンバー?」

 

「部署が同じっていうだけで、()()違うわ」

 

 とりあえずアイドルということで間違いないみたいだ。

 

「一応自己紹介しておくけど、123プロダクション所属の周藤良太郎だ」

 

「はいはーい! アタシは宮本フレデリカ~! 十九歳!」

 

「えっと、塩見周子、十八です」

 

「フレちゃんに周子ちゃんね」

 

 とりあえず二人にも座ってもらう。

 

「にしても、まさかお前がアイドルになるとは思わなかったよ、速水」

 

「そうね、私もまさかアイドルになるとは思ってなかったわ」

 

 三人の飲み物の注文を終えて、この間からずっと思っていたことを投げかけると、速水はしれっとした表情で肩を竦めた。

 

「えっと……奏ちゃん、良太郎さんとどこで知り合ったの?」

 

「俺の高校の後輩。俺が三年のときに、速水が入学してきたんだよ」

 

「懐かしいわ……入学して早々、あの周藤良太郎がいるって聞いて驚いたのに……実際に会ってみたらコレなんだもの」

 

「先輩捕まえてコレ呼ばわりとは良い度胸してるな?」

 

 そう言いつつ俺自身はそれほど気にしているわけではない。速水のこの態度も昔からのそれなので慣れたものだが、そんな俺たちのやり取りを知らない周子ちゃんはやや気まずそうにチラチラとこちらの様子を窺っていた。一応、俺を大御所アイドルとして扱ってくれているのだろう。果たしてこの態度がいつまで続くのか……。

 

 一方、フレちゃんはストローの袋で花の輪を作って遊んでいた。この子はこの子で大変自由である。

 

「友紀や茄子はこのこと知ってるのか?」

 

「姫川先輩と鷹富士先輩? えぇ、知ってるはずよ。所属したその日に挨拶してるもの」

 

 なら俺に教えてくれてもよかったんじゃないか、二人とも……後で問い詰めちゃる。

 

「さっきの言い方からすると、スカウトか?」

 

「ええ。街を歩いてたら、声をかけられたの。それまではアイドルになるなんて考えもしなかったけど……ふと、思ったのよ」

 

 足を組み換え、コーヒーカップを持ち上げる速水。こんな短いスカートでそんな仕草をするとは実に豪胆な奴である。もしくは絶対に見られないという自信があるのか、はたまた見せパンなのか……難しいところである。

 

「……話、続けてもいいかしら?」

 

「どうぞどうぞ。悪いな、話の腰を折って」

 

 速水は胸もいいが足もいいなぁとガン見してたので睨まれた。

 

(……謝るところは、話の腰を折ったところだけで、足を見てたことじゃないんだ……)

 

(お腹空いたなーケーキでも頼もっかなー!)

 

 何故か変なものを見る目をこちらに向けてくる周子ちゃんと、先ほどから鼻歌交じりにメニューを眺めているフレちゃん。本当にマイペースなフレちゃんはともかく、早速周子ちゃんからの信頼度が下がり始めている気がする。解せない。

 

「コホン。……ふと、思ったのよ。()()周藤先輩が『周藤良太郎』として生きている世界が、姫川先輩や鷹富士先輩も飛び込んでいってしまったアイドルの世界がどんなのものなのか……って」

 

 一つ咳払いをして仕切り直した速水はそう言った。

 

 ちなみにではあるが、俺は言わずもがな、友紀と茄子も高校ではそれなりに有名人だった。

 

 二人とも美人であることは勿論のこと、友紀は野球部の公式戦の度に応援に行って誰よりも大きな声で応援をする一種のマスコットガール、茄子は握手をするといいことがあると噂の一種のパワースポットのような扱いだった。

 

 ちなみに速水も新入生の中では抜きん出て美人だった上に、とある出来事……というか事件……寧ろ事故のせいで一部の人間の中では結構な有名人だったのだが……まぁ、今はいいだろう。

 

「フレちゃんと周子ちゃんも?」

 

「あー、はい、あたしもそうです」

 

「スミマセーン! イチゴのパフェ一つ下さーい!」

 

「……フレデリカもそのはずよ」

 

 何処までも自由なフレちゃんのフォローをする速水。コイツにしては珍しい姿である。

 

「デビューはしてるのか?」

 

「まだ貴方の耳に届かなかったぐらいの評判ではあるけど、一応してるわ。ただ……」

 

「?」

 

「あたしたち、元いた部署から美城常務に引き抜かれたんです」

 

「……そうか、お前たちが()()なのか」

 

 速水の言葉を継いだ周子ちゃんの言葉に、俺はなるほどと頷いた。

 

 以前美城さんが話していた、彼女自らが立ち上げるプロジェクト。志希も所属予定のそれが、ついに動き出したということか。

 

「? 何か知っているの? というか、そもそも何で他事務所のアイドルの貴方が当たり前のようにいるのよ」

 

「……そーいえばそーだよね。周藤良太郎がいるってこと自体が衝撃強すぎて頭から抜けてたけど」

 

「この間もいたよねー」

 

 根本的な問題にというか疑問点にようやく辿り着いたらしい三人。普通は一番最初に疑問に浮かぶのはそこだよな。

 

「んーそもそも俺がこの事務所に来るようになった理由から全部話すと、ザックリ一話四千文字換算で九話、計三万六千文字ぐらいになるけど……」

 

「かい摘まんで話しなさい」

 

「はいはい。それじゃあ、二人もフレちゃんみたいに何か頼んだらいいよ。ここは俺が出すから」

 

「えっ」

 

「あら、ありがとう。それじゃあ私は……」

 

「か、奏ちゃん……?」

 

 あっさりと受け入れた速水に対し、まだ少し抵抗がある周子ちゃん。果たしてこの謙虚な態度がいつまで続いてくれるやら……なんとなく、この子はフレちゃんや志希と同じ人種のような気がするし……。

 

 ついでだし俺も何か頼むことにして、追加注文をするために菜々ちゃんを呼んだ。

 

 

 

 

 

 

「『とときら学園』の評判、いいみたいですよ!」

 

 いつものように資料室でのひと時。テレビ番組の視聴率が載っている雑誌のページを広げながら、卯月はまるで自分のことのように嬉しそうにそう言った。

 

「視聴率もいいみたい」

 

 つい先日、ゲストとして『とときら学園』にスモックを着て参加したキャンディーアイランドのかな子も、困ったように笑っていた。

 

 ちなみにそのときのゲストはキャンディーアイランドの三人の他に菜々さんも含まれていた。年齢的には、杏たちとそれほど変わらないはずなのに……何故か、菜々さんのスモック姿だけは見ていてハラハラした。……本当に何でだろうか。

 

「おぉ! これは美城常務も『ぐぬぬ……!』ってなるね!」

 

「「………………」」

 

「……およ?」

 

 しかし、何故かかな子と智絵理は浮かない表情。

 

「『シンデレラの舞踏会』に向けて頑張らなきゃって思ってたのに、緊張しちゃって……」

 

「私も、上手く話せなかったです……」

 

「いやいや、渾身のツッコミあったじゃん!」

 

「『なんでやねん』、可愛かったですよ!」

 

 未央と卯月の言う通り、最近だとキャンディーアイランドの定番となりつつある『杏のボケに対する二人からのツッコミ』が、この間の放送でもしっかりと使われていた。

 

「ありがとう。杏ちゃんがいいタイミングでボケたり話振ったりしてくれたおかげだよ」

 

「杏って、案外ユニットをまとめてるよね」

 

 

 

 ――向こう何年か分、まとめて働いてるだけだよー。

 

 

 

 積まれた段ボールの壁の向こうから、そんな杏の声が聞こえてきた。今日も今日とて、お気に入りのウサギのソファーでダラダラとしている杏。

 

 不真面目ですぐにさぼろうとするものの、良太郎さんからも「杏ちゃんはいい司令塔役になるよ」とまで言わしめたのだから、本気を出せばきっと凄いのだろう。……本気を出すまでが、それはもうレジギガスもビックリするぐらいのスロースタートなのが玉に瑕だが。

 

 だから杏に本気というか実力を出させるためには、きっと彼女を無理やりにでも引っ張る存在をセットにするといいのだと思う。

 

 例えば――。

 

 

 

「にょわー! しゅっごい大変! うれすぅいー!」

 

 

 

 ――たった今しがた資料室に飛び込んできた、きらりのような存在と一緒にすれば。

 

「って、どうしたのいきなり」

 

「大変なのー? 嬉しいのー?」

 

「どっちも! だよ!」

 

 ノソリと段ボールの影から顔を出した杏に向かってピースサインを突き出すきらり。

 

「………………」

 

 そんな彼女の様子に、どうやら杏は何か嫌な予感を感じ取ったらしく、そのまま静かに戻っていった。

 

 ……ということは、仕事の話、かな?

 

 

 




・塩見周子
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール。
色白狐系京都娘な四代目シンデレラガール。
名前だけの登場でしたが、ようやく本編登場。今は大人しいですが、そのうちにいつもの調子になっていきます。

・速水は胸もいいが足もいいなぁ
だがやはり胸がいい(真理)

・とある出来事
ヒント:良太郎の同級生 × 速水奏の特徴 =

・「デビューはしてるのか?」
丁度このCI回のときに奏のPVが事務所で流れていたので、デビューはしてるはず。

・ザックリ一話四千文字換算で三万六千文字ぐらい
Lesson160~168ぐらい。

・レジギガスもビックリするぐらいのスロースタート
隣に「いえき」か「スキルスワップ」持ちを並べよう。



 というわけでCI回スタートです。

 つまり本来であればKBYDの出番でもあるのですが……ヒントは前回の凸レ回。

 そしてついに美城常務の方も動き出すようです。



『どうでもいい小話』

 ついに今日の15:00にデレステ宝くじの抽選発表ですね。

 前回の宝くじ同様に……今回! 三等以上が当たったら!



 R18作品を書きますっ!



 さぁ、出ませい!

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