アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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修羅場(導入編)



Lesson22 兄弟姉妹 2

 

 

 

 ――ねぇ、どうして?

 

 ――お、おい。

 

 ――ねぇ、どうしてなの? どうして貴方は私に振り向いてくれないの?

 

 ――ま、待てって。

 

 ――私はこんなにも貴方を愛しているというのに、貴方は他の女のことばかり……。

 

 ――落ち着け! 冷静に話し合おう! な!?

 

 ――でも、もういいの。貴方を私だけのアナタにする方法、思い付いちゃったから。

 

 ――ま、待てって……なぁ、頼むから……!

 

 ――大丈夫……すぐに私も行くわ。

 

 

 

 ――ダカラ、イッショニ愛死アイマショウ?

 

 

 

 

 

 

 なーんて展開があるわけもなく。

 

「全く、車に引かれそうになった子供を助けて怪我するとか、何処の転生オリ主だよ。チートな特典でも貰う気かっつーの」

 

 なぁ、と同意を求めると、目の前のつぶらな瞳は「わふっ」と小さく鳴いた。

 

「だよなー、ハナコもそう思うよなー」

 

「でも、凄いですよ。見ず知らずの他人のために道路に身を投げ出せるなんて」

 

「もちろん悪いことだったとは言わないよ。けど、やっぱり家族としては危険なことはして欲しくないんだよ」

 

 ハナコ(犬)を抱き上げ、花屋の小さな店員さんに向き直る。

 

 たった今言ったように、兄貴は女の子を助けて怪我を負った。右足を骨折して頭も少し打ったため、しばらくの入院を余儀なくされてしまったのだ。フラグ立て乙である。

 

 思わず電話で母さんに「誰に刺された!?」と聞いてしまったのも既に昨日の出来事で、日付は変わって日曜日。命の無事は昨日確認したので、今日は着替え等を兄貴のところに持っていく予定だ。

 

 それで、ついでだし見舞いの花でも買っていってやるかと、現在花屋で店員さんに見繕ってもらっている最中である。ちなみにこの花屋はいつもお父祭壇に飾る花を買っている馴染みの花屋だ。

 

 なお、母さんは一足先に病院へ向かっており、俺はスーパー戦隊、ライダー、魔法少女を視聴してからのんびりと家を出た次第である。

 

「まぁ、こう言っちゃなんだけど丁度良かったっちゃー丁度良かったんだよね」

 

「え?」

 

 俺の言葉が意外だったらしく、小さな店員さんは作業の手を止めて顔を上げた。

 

「最近兄貴あんまり休み取ってなくてさ。これ以上働いてたらどのみち過労で倒れてたね、きっと」

 

 俺達は兄貴が簡単な基本方針をいくつか提示し、俺がその方針に沿う形で動き、その後のフォローを兄貴が行うというスタンスで今までやってきた。基本方針以外は割りと自由にやらせてもらっている俺に対し、周囲との折り合いをつけている兄貴の苦労は推して知るべし。

 

 むしろ今までよく倒れずにいたものである。

 

「都合よく命に別状はないけど入院することになったし、ちょっと早い冬休みに入って貰うことにするよ」

 

 まぁ、ある程度の調整は必要だから荷物の中には仕事用のノートパソコンも入ってるんだが。それでも元々仕事は減らしてあったし、しばらくは俺一人でも何とかなるだろう。

 

「はい、出来ました」

 

「お、ありがと」

 

 話をしている間に花束が出来上がったようだ。花の名前はよく分からないが、全体的に明るく見ているだけで元気が出てくる気がする。

 

「いや、兄貴には勿体無いぐらい綺麗な花だよ。ありがとう、凛ちゃん」

 

「いえ。幸太郎さんに、お大事にって伝えてください」

 

「あぁ」

 

 お代をカウンターに置き、花束を受け取って代わりにハナコを返す。

 

「それじゃ」

 

「え? 良太郎さん、お釣り……!」

 

「家のお手伝いを頑張ってる凛ちゃんに足長お兄さんからお小遣いだよ」

 

「で、でもこれ一万円札……」

 

「翠屋っていうシュークリームが美味しい喫茶店があるから、友達を誘って行ってくるといいよ。もしくは俺の新曲のCDを買ってくれると嬉しいかな」

 

「……あ、ありがとうございます!」

 

「じゃあ凛ちゃん。ハナコもまたな」

 

「わふっ」

 

「また来てくださいね!」

 

 首元に引っ掻けておいたサングラスをかけ直してからボストンバッグを肩にかけて、花束をしっかりと手に持ち、ハナコの前足を持って一緒に手を振る店員さんに見送られながら『渋谷生花店』を後にした。

 

 

 

 

 

 

 普段あまり浪費することもない小遣いを贅沢に使ってタクシーに乗り、やって来た市民病院。サングラスを外したせいで正体が看護士さんにバレかけ、しかしその看護士さんが他の看護士さんに「あ~さ~く~ら~!」と怒られている隙に逃げ出したりと、少々ハプニングもあったが無事兄貴の病室の前まで辿り着いた。

 

 ……辿り着いた、のだが。

 

「……何か、嫌な予感」

 

 何というかこう、病室のドアの隙間か不穏な空気が廊下まで滲み出てきていた。

 

 え、何、部屋の中で黒魔術の儀式でもやってるの? レベル8をリリースして儀式召喚でもするの? 汝が我がマスターなの?

 

 非常に中に入りたくないのだが、このまま荷物を持って帰るわけにもいかないので、覚悟を決めて中に入ることにする。だ、大丈夫大丈夫。軽いノリで入っていけばいつもみたいにギャグ補正がかかるはずだから。

 

 世界の大いなる意志を信じて、ドアをノックする。

 

「はーい」

 

 聞こえてくるのは母さんの声。よし、母さんがいるならきっと大丈夫……と信じたい。

 

 意を決して、俺はドアを開けた。

 

「おーっす。現役アイドルが着替え一式をお届けに来た、ぜ……」

 

 言葉を元気よく発することが出来たのはそこまでだった。

 

 兄貴が入院する個室の中にいたのは。

 

 

 

 いつも通りのニコニコ笑顔の我が家のミニマムマミーと。

 

 昔から変わっていない快活な笑みを浮かべる早苗ねーちゃんと。

 

 相変わらずクールで大人な微笑みを浮かべる留美さんと。

 

 765プロのみんなを見るような暖かな眼差しの小鳥さんと。

 

 顔面蒼白を通り越してやや土気色になりながら冷や汗をダラダラと流す兄貴であった。

 

 

 

「……すみません、部屋間違えました」

 

「間違ってない! お前の兄貴の病室は間違いなくここだ! だから帰るな! 回れ右をするな!」

 

 素早く離脱しようとしたが兄貴に呼び止められてしまった。

 

(呼び止めないでください。私と貴方の関係はアイドルとプロデューサーです。お互いのプライベートには干渉しないと決めたじゃないですか)

 

(血の繋がりを否定するほど嫌か!? いやまぁ気持ちは分からないでもないけどお願いしますいかないでください何でもします)

 

 ん? 今何でもするって言ったよね? と返す余裕もなく、そんなアイコンタクトをしながら離脱を試みる。

 

「リョウ君ごくろーさま! 荷物持ってきてくれてありがとー!」

 

「あら良、久しぶりね」

 

「そんなところに立ってないで、入ってきたらどうですか?」

 

「荷物持ちますね?」

 

「……はい」

 

 離脱に失敗してしまった。兄貴を無視してさっさと出ていけばよかった。

 

 ニッコリと笑う小鳥さんにボストンバッグを渡し、中に入る時とは別の覚悟を決めて俺はドアを閉めた。

 

 

 

 

 

 

「え!? りょーたろーさんのお兄さんが事故!?」

 

「あぁ。命に別状はないらしいが、しばらく入院だそうだ」

 

「ミ、ミキもお見舞いに行った方がいいのかな!?」

 

「落ち着きなって美希」

 

 良太郎さんのお兄さんが入院したと聞き、オロオロとしだした美希の肩を春香が押さえてソファーに座らせる。

 

「まだ俺達はお兄さんの方とは直接的な面識はないんだから、いきなりお見舞いに行っても迷惑になるだけだ。だから、うちの事務所からは小鳥さんが代表してお見舞いに行ってくれている」

 

「え? なんで小鳥さんが?」

 

「何でも、律子が現役でアイドルをやっていた時からの知り合いだったらしい。今朝いきなり電話がかかってきて、お見舞いに行くから今日は午後から事務所に行くってさ」

 

「だから今日は小鳥さんの姿が見えないんですね」

 

 ただ、かかってきた電話越しに凄まじい熱意というか何というか、意気込み的な何かを感じたんだが、一体あれはなんだったのだろうか。

 

「それはそうとお前達、今日は午後からの予定じゃなかったか?」

 

「えっと、ちょっとでもテスト勉強ができたらなって思いまして……」

 

「ミキも同じくテスト勉強なの」

 

「「え」」

 

 美希の口から予想外の言葉が発せられたため、思わず声が裏返ってしまった。

 

「……二人とも、その反応はなんなの?」

 

「え? あ、ご、ごめん」

 

「ちょ、ちょっと意外だったから、つい」

 

 こう言っちゃなんだが、美希と勉強が素直には結びつかない。事務所で起きていること自体が珍しいのに、その上勉強をするというのだから、思わず耳を疑ってしまったのも無理はないはずだ。

 

「しつれーなの、二人とも。ミキだってちゃんと真面目に勉強ぐらいするの!」

 

「ご、ごめん、別にバカにするつもりはなかったんだけど……」

 

「……ん?」

 

 もしかして。

 

「美希、お前この間の『熱情大陸』を見たのか?」

 

「もちろんなの! りょーたろーさんが出てる番組を見ないという選択肢を、ミキは持っていないの!」

 

「やっぱり」

 

 どうやら『熱情大陸』で受験勉強を頑張っている良太郎君の姿を見て影響されただけらしい。

 

「それに、今度のテストで結果がよかったら次のライブのプレミアムチケットをプレゼントしてくれるって良太郎さんと約束したの!」

 

「えぇ!? 美希、いつの間に良太郎さんと!?」

 

「この間仕事の現場で同じになって、学校の話になったの。それで、次のテストで頑張ったら良太郎さんがご褒美をくれるって言うから、プレミアムチケットをお願いしてみたらオッケーだって!」

 

「い、いいなぁ! ね、ねぇ美希、それ、私の分もお願いできないかなー?」

 

「いーやーなの! 春香も自分でお願いするといいの!」

 

「仕事の現場で良太郎さんと一緒になる前にテストもライブも終わっちゃうよー!」

 

 ま、まぁ、動機は何であれ、勉強することはいいことだ。

 

 勉強の前にお茶を淹れようと席を立った春香を見送りながら、俺はホワイトボードに小鳥さんが午前中不在の旨を書き記す。その際、聞いていた病院の名前を書いたのだが、そこで一つ引っかかることがあった。

 

(……あれ?)

 

「プロデューサー、どうしたの?」

 

「いや、この病院の名前、何処かで聞いたことがあると思ってな」

 

 もちろん、そこの病院の存在自体は前々から知っていた。しかし、つい最近聞いたばかりのような気がしてならない。一体何処で聞いたのやら……。

 

「おまたせー。って、あれ? 良太郎さんのお兄さん、そこの病院に入院してるんですか?」

 

「え、春香、この病院に何かあったか?」

 

「何かあるもなにも……」

 

 春香はカチャリと人数分の湯のみが乗せられたお盆を机の上に置く。

 

「そこの市民病院って確か――」

 

 

 




・何処の転生オリ主だよ
おま言う

・「誰に刺された!?」
感想ではどちらかというと「やっぱり刺されたか」という反応の方が多かった。
兄貴は愛されてますね(棒)

・「足長お兄さんからお小遣いだよ」
後輩の女の子に物を奢るのが好きな作者。野郎? 水道水でも飲んでろよ。

・渋谷凛
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール。
ニュージェネレーションの一人で、最も有名なモバマスキャラと言っても過言ではない。
原作では15歳だが、この作品では何と亜美真美と同い年の13歳である。まさにロ凛ちゃん。

・「あ~さ~く~ら~!」
『ナースのお仕事』と聞いてアレな感じなものを思い浮かべてしまうのは、心が汚れている証拠。

・レベル8をリリースして儀式召喚でもするの?
『カオス -黒魔術の儀式-』
混沌の黒魔術師の帰還はよ(バンバン

・汝が我がマスターなの?
このセリフでロリロリィなセイバーがピーカブースタイルで上目遣いになっている所まで妄想した。

・SHURABA!
どうだお前ら! これか!? これがお望みだったんだろ!?

・ん? 今何でもするって言ったよね?
女性三人に求婚されているのにはっきりしない兄貴は○モ。はっきりわかんだね。

・「良太郎さんと約束したの!」
兄貴のことをどうこう言いつつ、自分は自分でちゃっかりアイドルとのフラグを立てていた模様。
結局兄弟である。

・「そこの市民病院って確か――」
次回に続く!



色々と書いてるうちに修羅場は次回になってしまった。申し訳ない。

※前回のあとがきで拾い忘れていたネタを一つ追記しました。

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