アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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久しぶりのシリアス注意報。


Lesson195 Ring a bell

 

 

 

「そっかー、ついに始まるんだね。志希の346プロでの活動が」

 

「ようやくですか」

 

 たまたま時間が空いたアタシたち四人は事務所のミーティングルームで、美優さんが淹れてくれたお茶を飲みながらまゆが焼いてきてくれたクッキーを食べていた。話題は、ようやくアイドルとしての活動を本格的に始めることになる志希のことだ。

 

「でもそうなると、しばらく志希ちゃんがこちらの事務所に来る回数が減るんですよねぇ」

 

 少し寂しいですねぇと、ソファーに座り自分の膝の上に乗っている志希の頭を撫でるまゆ。最初は「どちらがリョータローさんに相応しいか」などと志希に対して対抗心を見せていたまゆだが、いつの間にかこの事務所で一番志希を可愛がるようになっていた。こうして膝枕をして頭を撫でたり、お菓子を食べさせたりと、文字通りの意味での猫かわいがりである。

 

「にゃはは~、どーせリョータローと同じで、色んな所にフラフラしてるとは思うけどね」

 

「それ自分で言っちゃうんですね」

 

 ゴロゴロとまゆに甘えながらクッキーを食べている志希に、呆れた様子の志保もクッキーを食べながらはぁと溜息を吐いた。

 

「でも少し複雑ですね……」

 

「ん? 志希が他の事務所に行っちゃうこと?」

 

 それを寂しがるなんて意外と可愛いところあるじゃーんと志保に抱き着こうとしたら、サッと躱されてしまった。我が事務所の猫第一号は未だに懐いてくれないので、少し寂しい。

 

「そうではなく。……志希さんが参加することになる企画というのは……その、言ってしまえば未央さんたちと敵対する企画になるわけですよね? ……そう考えると、素直に応援できないんです」

 

「志保……」

 

 流石にこの場面で「じゃあそれが無かったら素直に応援してあげたんだね」とは言わないでおく。

 

 ただ言われてみればそうである。アタシたちの事務所の後輩である志希を応援したい気持ちは勿論ある。しかもそのプロジェクト内では、なんと志希は美嘉と一緒のユニットになるというのだ。後輩と友人のユニットなのだから、もはや応援するのは当然である。

 

 しかし志希たちが頑張った結果、未央たちのシンデレラプロジェクトが解散する羽目になったらと考えると、確かに少し複雑な気分だ。

 

 果たして、アタシはどうすべきなのか……。

 

「ふふっ、そんなこと考えてたの?」

 

 ぐぬぬ……と割と真剣に悩んでいると、何故かクスクスとまゆに笑われてしまった。

 

「まゆは悩まないの?」

 

「悩まないわよぉ」

 

 しかもそれを問いかけたら断言されてしまった。

 

 

 

「だって、どっちも応援するもの」

 

 

 

「「「………………」」」

 

「良太郎さんなら、きっと迷わずにこう言うと思ったの」

 

「……あー、うん」

 

「確かに、あの人ならば言いそうです」

 

 思わず志保と二人で納得してしまった。

 

 志希には別事務所でのデビューとなるが、それがアタシたちのように後悔が付きまとうような結果にならないように、全力で頑張ってもらいたい。そして未央たちにはそれ以上に負けないぐらい頑張ってもらって、プロジェクトを存続させてもらいたい。それぐらい単純なことで良かったんだ。

 

 どっちも頑張れ。みんな頑張れ。きっとアタシたちは、それぐらいで丁度いいのだろう。

 

「応援してあげるんだから、ちゃんと頑張りなよ? 志希」

 

「……まぁ、それなりにやってみるよー。一応約束だしねー」

 

 口ではそう言いつつも、少しだけ照れた様子の志希が可笑しくて、思わずクスリと笑ってしまった。

 

(……未央も、頑張れ)

 

 

 

 

 

 

「わぁ! こんなに沢山!」

 

 私が鞄の中から数冊の本や数枚のDVDを取り出すと、しまむーはパァッと顔を綻ばせた。

 

「にへへ~、特訓の参考に借りてきちゃった!」

 

 『演劇のすすめ』『基本のボイストレーニング』『バレエの基本』『ウケる会話のコツ』エトセトラ……全て近所の図書館で借りてきたものだ。

 

 秋のライブが成功しないと、私たちは年度末を前にしてプロジェクトを解散させられてしまう。そうならないためにも、私たちはみんなパワーアップしなければいけない。ただそのパワーアップの方法というのが、イマイチ思い浮かばなった。

 

 どうしたものかと自分の部屋で悩んでいたところ、たまたま目に入った本棚の漫画類を見て思い付いた。

 

 少年漫画の基本中の基本。強大な敵に立ち向かうために主人公たちがすることといえば修行、即ち特訓! アイドルとしてのレッスンは勿論続けているが、それじゃいつもと変わらないから、それ以上の何か別の力を手に入れることが必要じゃないかと考えたのだ!

 

 要するに、修行パートというやつである!

 

 しかしこういう場合、修行する主人公たちには師匠が存在するのだが……生憎、私たちの師匠ポジションとなる人物はトレーナーさんたちぐらいしか思いつかない。別にトレーナーさんたちのレッスンが悪いとは一言も言わないが、それでも特別にパワーアップしたいとなると、何か違うのだ。

 

 本当は、折角知り合えたのだから良太郎さんにレッスンを見てもらえるのと一番素晴らしい展開になるのだが……まぁそう都合よくはいかないだろう。いくら妹のようにかわいがってもらっているしぶりんがいるとはいえ、流石に無理だろう。

 

 そうなると、一先ず自分たちの力で何とかしないといけないわけだが……何をどうしていいのか皆目見当が付かなかったので、こうしてアイドルに関係ありそうなものを片っ端から用意してみた、ということだ。少なくともアイドルとして習得していてもおかしくなさそうなラインナップにはなっているはずだ。

 

「これを参考にして、ニュージェネがパワーアップ出来ないかなーって思ったんだ!」

 

「私、こういうの全然思い付きませんでした。新しいの考えるの、苦手なのかも……」

 

「い、いやいや、私は勢いだけでも動きたくなるタイプだから……あ、あはは……」

 

 未央ちゃん凄いです! としまむーに褒められるが、その発想の出所が少年漫画だというのが若干言い出しづらくて、思わず笑顔が引き攣ってしまった。

 

 その時、ガチャリと資料室のドアが開いた。誰が入って来たのだろうかとそちらに視線を向けると、我らニュージェネ最後の一人のしぶりんだった。

 

「凛ちゃん! おはようございます!」

 

「遅いぞーしぶりん!」

 

「……うん、おはよう」

 

 私としまむーで声をかけるが、何故かしぶりんの顔が一瞬曇ったような気がした。

 

「今日から秋のライブに向けて、猛特訓を――」

 

「……あのさ」

 

 ――するんだから……と続けようとした言葉は、しぶりんによって遮られてしまった。

 

「二人に、話しておきたいことがあるんだ」

 

「話して……」

 

「おきたいこと……?」

 

「……うん」

 

 そう頷いたしぶりんは何故か悲しい目で……でも、強く決心したような、そんな目だった。

 

 

 

 

 

 

「『Project:Krone』……?」

 

「……べ、別の企画に参加するって……ど、どういうこと……?」

 

 そこはいつもの資料室。いつも私たちがみんなでコミュニケーションを取る場であり、みんなと一緒にいる時間が、以前のプロジェクトの部屋と同じぐらい長くなってきたこの部屋に、卯月と未央の震える声が響いた。二人ともとてもショックを受けている様子で、思わず膝の上に置いた手に力が入ってしまった。

 

「な、何で……!? これからみんなで力を合わせて立ち向かおうってときじゃん!?」

 

「……私も、初めは断るつもりだった」

 

 でも……と目を瞑ると、思い出すのはほんの昨日のこと。

 

 改めて加蓮と奈緒の二人と一緒に、私たちのために用意された曲を歌ってみたあのとき。私は、今までに感じたことのない何かを感じたのだ。そしてそれはきっと、私が触れたことのない何かで……私が触れたいと心の何処かで思っていた何かだった。

 

「私は……加蓮と奈緒と一緒に歌ったときに感じた何かを、確かめたい」

 

 きっとこの何かは、私が――。

 

 

 

「……ちょっと待ってよ」

 

 未央の震える声が耳に届く。彼女の肩は震えていて、見ると卯月も泣きそうな表情をしていた。

 

「ニュージェネは、どうするの……? もしかして、辞め――」

 

「辞めない! ニュージェネは辞めない!」

 

 勿論、私にそんな気はサラサラない。加蓮と奈緒と一緒に感じた何かがあると同じように、ニュージェネの三人でしか感じられない何かだってあるのだ。だから辞めるという選択肢は最初からなかった。

 

「掛け持ちでなんとか……!」

 

「そんな簡単なことじゃないじゃん……!」

 

「我儘だって分かってる! でも……!」

 

「……私、ヤダよ……私はこの三人だからやってこられた……この三人ならどんなことでも乗り越えられるし、どんなことでもチャレンジ出来るって……」

 

「未央……」

 

「ねぇしぶりん! その新しい何かってニュージェネじゃダメなの!? 私たちとじゃ無理なの!?」

 

「………………」

 

 答えは、出したはずだった。

 

 私は間違いなく、それはあの二人じゃないと見つけられない何かだと判断した。だから良太郎さんに背中を押してもらった。そのための電話だった。そして応援してもらった以上、もう迷わないって決めたはずだった。

 

 でも。

 

 二人に話すこの瞬間になって――。

 

 

 

「……分からない」

 

 

 

 ――踏み出したはずの一歩を、引いてしまった。

 

「……しまむーは、どうなの?」

 

「えっ」

 

 突然未央から話を振られ、戸惑う卯月。チラリと私に向けられた卯月の視線からも、私は目を逸らしてしまった。

 

「……わ、分かりません。わ、私にも……分かりません……」

 

 とても悲しい声。あと少し何かがあれば、まるで涙が零れてしまいそうな……そんな聞いていて辛い声。そんな声を、私が出させてしまっている。

 

 未央も卯月も。二人とも辛そうな顔をしている。

 

 私が……そうさせてしまったのだ。

 

「……ゴメン、私ちょっと出てくる」

 

「未央っ!? 待って!」

 

 引き止めようとした私の声を振り切るようにして、未央は資料室から駆け出して行ってしまった。

 

「ほ、本田さん? ……っ!? 本田さんっ! 待ってください!」

 

 資料室のすぐ外から、そんなプロデューサーの声が聞こえた。きっと彼が未央を追ってくれているだろう。

 

 ……本当は、私も追うべきだった。寧ろ私が追わなきゃいけなかった。

 

 

 

 けれど……一度踏み出し損ねた一歩は、まるで鉛のように重かった。

 

 

 




・自分の膝の上に乗っている志希の頭を撫でるまゆ
123のまゆは(良太郎が絡まなければ)お姉ちゃん属性。

・要するに、修行パートというやつである!
ちゃんみおの本棚は少女漫画よりも少年漫画のイメージ。



 重いなぁ(白目)

 良太郎がいないからこの有様だよ!(なおいてもそんなに変わらない模様)

 原作のニュージェネ解散イベントが発生しないまま今回の離脱イベントを迎えてしまいましたが、果たして……?

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