「やっぱりアホだろオメェ」
「あう……」
島村から一連の事情を聞いたが、やはりそう断言せざるを得なかった。ユニットメンバーが別のユニットを組んだだの、ソロ活動を始めただの……全く、そんなことで悩んでたのか、こいつは。
はぁと溜息を吐くと、島村はベンチに座りながら身を縮こませた。
そんな島村の姿を見て、ふと思ったことがある。それは島村の姿がどこぞの元弱小事務所の看板アイドルの姿に重なったが故に、思ってしまった疑問。
「……オメェは、自分のユニットメンバーが信じられねぇのか?」
「……えっ」
アイツなら間違いなく
アイツらの強みは……その信頼関係なんだと思う。
「渋谷も本田も、ニュージェネは辞めないって言ったんだろ? なのに、お前はその言葉が信じられねぇのか?」
「そ、そんなこと……!」
「信じてないから、不安に思ってるんじゃねぇのか?」
「………………」
再び、島村は俯き沈黙してしまった。
少し言い過ぎたかと思ったが、これぐらいで凹むぐらいならきっとそこまでだ。
「……俺は、お前たちが今までどんな活動をしてきたのか知らない。どういう経緯で知り合って、どうしてユニットを組むことになって、どんな活動をしてきたのかなんて、そんなこと一切知らない」
そう。偉そうなことを言っておきながら、俺はコイツのことを全て知っている訳じゃない。良太郎みたいに他のアイドルのことを気にかけているわけでもない。こいつらがユニットとして活動しているのを実際に見たのだって、サマーフェスだけだ。
けれど、それだけでも分かることはある。
――待っていてくださって、ありがとうございます!
――雨、大変だけど、盛り上がるように頑張ります!
あの日、アイツらが見せた輝きは……間違いなく、765プロの連中に見たそれと同じものだった。
「ユニットが解散するかもしれないって考えたら、足下すら怪しくなるぐらいにショックを受けるってことは、そんだけユニットが大切なんだろ? それはきっとお前だけじゃねぇ。渋谷や本田だって、同じぐらい悩んで、その上で出した結論だ。なら……信じてやってもいいんじゃねぇか」
「……天ヶ瀬さんも」
「ん?」
「天ヶ瀬さんも、同じことがあったら……ユニットのお二人のことを信じますか?」
「……あぁ」
もっとも、信じているのはアイツらだけじゃない。
かつて、何も知らずにただ言われるがままにアイドルをやっていた頃の俺たちを、良太郎は『信じる』と言ってくれた。それなのに、結局裏切ったのは俺たちだった。天海たちだってそうだ。あんな嫌がらせをしたっていうのに、今では自分たちの事務所の新人アイドルを任せてくれるぐらいには信用してくれている。
だから、俺たちは……天ヶ瀬冬馬は、二度と裏切らねぇ。あいつらが信じてくれるなら……いや、例え信じられなくなったとしても、俺はあいつらを裏切らない。
それが、今の俺をここに立たせてくれた奴らへの精一杯の恩返しだ。
「……私、もう一度、凛ちゃんと未央ちゃんとお話してみようと思います」
それまで俯いていた島村が、顔を上げた。
「もしかして、また泣きそうになるかもしれません。それでも……私は、二人を信じたいから。……信じるために、もっと二人が思っていることを聞かせてもらおうと思います」
「……まぁ、お前がそれでいいって言うんなら、俺はもう何も言わねぇよ」
俺の役目はここまでだ。直接解決することなんて到底出来やしないから、適当に背中を蹴り飛ばすことしかできなかったが……俺はこれぐらいが丁度いいさ。
まぁ頑張れよ、と言い残してその場を去ろうとして――。
「あ、あのっ!」
――島村に呼び止められた。
「……んだよ」
「そ、その……と、とても失礼なこととは重々承知の上なんですけど、それでも、その、いい機会だから……い、いや、いい機会なんて言い方はそんなに良くないとは思うですけど、その……」
何故か慌てた様子でよく分からないことを言い募り、全く要領を得ない。
「……言いたいことがあるならさっさと言え!」
「は、はいっ! 連絡先を教えてもらうことは出来ますかっ!?」
「………………は?」
こいつが言った言葉の意味を十秒ほど考えてしまった。
今、俺の連絡先を聞いたか?
「……念のため聞いてやるが、
世間ではトップアイドルの一人として数えられている俺の連絡先だ。互いにアイドルの身とはいえ、それでもそれを聞くというのは良く言えば勇気があり、悪く言えば非常識だ。
「あ、いえ、その、失礼なことを聞いたとは思ってます! けど、あの、その……」
顔を赤くして、指をモジモジとさせながら言葉が続かない島村。
「………………」
バリバリと頭を掻きながら考える。
「……出せ」
「え!? お金ですか!? 代金が発生するんですか!?」
「するかバカ! スマホ出せって言ってんだ! ついでにメッセージアプリ起動しろ!」
「は、はい!?」
差し出されたスマホを受け取り、俺のスマホと一緒に操作する。偶然同じ会社の機種だったので、操作には不自由しなかった。
「ほらよ」
目的の操作を終え、島村にスマホを返す。
ワタワタと慌ててスマホを受け取った島村だが、その画面を見て大きく目を見開いた。
「……え、あ、え!? あ、天ヶ瀬さん……!?」
「……くだらねぇこと連絡してくるんじゃねぇぞ」
そう言い残して、公園を後にする。これでもう俺の気まぐれ相談は終わりだ。
「……あ、ありがとうございました!」
「……フンッ、まぁ精々ガンバレ」
(……うおあああぁぁぁ!? あれでよかったか!? なんか変じゃなかったか!? あ、天海のときはもっと自然な流れだったから、なんも意識してなかったけど……! アレ、俺、女子から連絡先をこうして直接聞かれたのって初めてじゃ……!?)
「……未央。私たち、話したいことがあるんだ」
「はい」
「……そっか、ちょうどいいや。私もあったんだ、話したいこと」
次の日。私と卯月は、事務所で未央を待っていた。現在彼女は『秘密の花園』という舞台に出演するために、演劇の練習を頑張っているらしい。
事務所に帰って来た未央にそれを告げると、彼女は笑顔で快諾してくれた。
そして「でもここじゃ狭いねー」と笑う未央に連れられ、私たち三人は事務所の中庭までやって来た。
「……あの日はゴメン、話の途中で飛び出しちゃって」
夕日に染まる中庭で、未央は私たちに背中を向けながらそう謝った。
「……ううん。私も、いきなりだったから」
「ありがと。……あの後ね、ここまでプロデューサーが追いかけてきてくれて、私の話を聞いてくれたんだ」
よいしょと呟きながら、未央は噴水の縁に腰を下ろした。一瞬だけどうするか悩んだが、私はその左隣に腰を下ろし、その後反対側に卯月が腰を下ろした。
「話を聞いてもらいながら、落ち着いて自分たちのことを冷静に考えてみた。しぶりんは、かみやんやかれんと一緒にユニットを組んでみたい。私は、ニュージェネレーションズとしてもっと頑張りたい。……しまむーは、私と一緒で良かった?」
「……はい。私も、もっとこの三人で一緒にユニットを組んでいたいです」
あの時とは違い、今度は卯月もしっかりと自分の思いを口にしてくれた。
「でも私は、凛ちゃんを信じようと思います」
そして、卯月はその上で新しい思いを口にしてくれた。
「凛ちゃんは、ちゃんとニュージェネレーションズも大事にしてくれるって言ってくれました。だから、私はそれを信じます。他の人とユニットを組んでも、それと同じぐらい私たちのユニットを大切にしてくれるって」
私はそう信じますと、卯月は笑顔を見せてくれた。
……それは、私が初めてアイドルになろうと決意したときに彼女が見せてくれた、その笑顔だった。
「うん! 私もしまむーと一緒。しぶりんが私たちニュージェネを絶対に忘れないって信じてる。しぶりんだけじゃない、しまむーも、私だって、三人は絶対に一緒だって」
その右腕には、何やらマジックで書いたと思わしき文字が書かれていた。Aというアルファベットの上にバツが書かれており、その上にWのアルファベットが書かれていた。
「へへ~、漫画読んでて思い付いたんだ~」
「……?」
卯月はそれが何なのかよく分からないらしく首を傾げている。
かくいう私も一瞬なんことが分からなかったが、まさかと気付いた。
「もしかしてそれ……『16
「それ! よかったー気付いてくれる人がいて……これで二人とも知らなかったら私完全に滑ってたよ……」
「たまたま知ってただけだよ」
「な、なんですか、じゅうろくてんしょうって……?」
「……漫画の話だから、別に気にしなくていいよ」
未央がそれと言ったので正解らしいが、それは某少年漫画の一場面。自分たちの力不足を知った主人公が、それぞれ別々に修行をして力を付けてからまた集合しようと仲間たちに向けて行ったサイン。確かアレは3Dの上に斜線を引いてその上に2Yと書くことで『
ということは、未央のこれは……。
「『
「そっ! しぶりんは多分、美城常務の企画に参加するから、秋のライブは出れそうにないでしょ? だから、秋じゃなくて冬。一番最初に常務が提案した年度末のライブまで、それぞれ新しいことをやってみよう。……そして、三人ともパワーアップしてから、もう一度集まろう」
――そのときはきっと、誰にも負けない最強無敵の私たちだよ。
「……うん」
「はいっ! ……あ、でも、秋のライブがダメだったら……」
元気よく返事をした卯月だったが、それに気付いてシオシオと元気が無くなってしまった。
「大丈夫だって! 私たちが信じてるのは、別に
ねっ! と未央が視線を向けた先を見ると、そこにはプロジェクトのみんながこちらを覗き見ていた。
「……フンにゃ! とーぜん! 三人がいなくても、みくたちだけで十分にゃ!」
「そーだにぃ! きらりたちが未央ちゃんたちの分まで頑張っちゃうよぉー!」
……そっか、そうだよね――。
――私たちはみんな……仲間、なんだもんね。
こうして私たちは、少しだけ自分たちの道を歩くことにする。
「……うん、加蓮? 奈緒? ……私、決めたよ」
「はぁ……はぁ……監督! もう一回やらせてください!」
「……あ、あの! 天ヶ瀬さん! お、お願いがあります!」
だから、ほんの少しだけ『new generations』のお話はお休み。
そして――。
「……これで、よーやく全員揃ったわけだ」
346プロダクションの玄関ホール。そこに大きく掲げられたポスターを見上げながら、独り言ちる。
そこに写るのは十二人の少女たち。一城の主より冠を賜った『お姫様』。
――『Project:Krone』、活動開始。
・アイツなら間違いなく仲間を信じただろう。
ちなみにここの冬馬君はアニマス最終局面の春香さんの一連の出来事を知りません。
故にほんの少しだけズレてます。
・「連絡先を教えてもらうことは出来ますかっ!?」
しまむー超頑張った。
・(……うおあああぁぁぁ!? あれでよかったか!?)
そしてこのヘタレである。
・『秘密の花園』
実在する物語らしいですね。オリジナルの劇中劇だと思ってたゾ(教養不足)
・『16点鐘』
言わずと知れた某海賊漫画。
それがし、龍玉しかり鳴門しかり、修行を経て成長した姿で登場する展開が大好き侍で候。
彼女たちは折れなかったから、弱かった。
けれど折れなかったが故に、しなやかだった。
ついに三人にもパワーアップフラグ! 特にしまむーはどうなる!
盛り上がっているところで、次回は番外編です。