アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ちょっとだけキャラ崩壊気味だった彼女の恋仲○○です。


番外編42 もし○○と恋仲だったら 14

 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

 その日、私たちシンデレラプロジェクトのメンバーは久しぶりに全員レッスン室に集合していた。というのも、シンデレラプロジェクトとして出演するライブを控えていたため、久しぶりに全体曲の練習をするためだ。

 

 今ではそれぞれがバラバラに活動することが増え、色々なアイドルたちと仕事をする機会が増えた私たちではあるが……それでも、このメンバーが揃うと何処かホッとした気持ちになれた。

 

「ねぇ美波、聞きたいことがあるんだけど……いい?」

 

「えっ」

 

 通しでの練習を終えて休憩中。スポーツドリンクを飲んでいると、凛ちゃんが話しかけてきた。

 

 基本的に凛ちゃんは自分のことは自分の力で淡々とこなすタイプなので、こうして私を頼る言葉が少しだけ意外で、そして嬉しかった。

 

「なぁに? 私に答えられることなら、何でも聞いて」

 

 なので、私は二つ返事でそれを了承する。

 

 しかし、凛ちゃんが私に聞きたいこととは一体なんだろうか。先ほどまでの振付の中で気になるところがあるのだろうか? それとも歌の方?

 

「うん、大丈夫――」

 

 

 

 ――美波にしか、答えられないことだから。

 

 

 

「……え?」

 

 パチンッと凛ちゃんが指を鳴らすと、ガチャリという音と共にレッスン室が突然暗くなった。見ると未央ちゃんと李衣菜ちゃんが窓のカーテンを閉めており、ガチャリという音はみくちゃんがレッスン室のドアの鍵を閉めた音だった。

 

「……え、えっ?」

 

 一体何が起こったのか分からず困惑する。カーテンと鍵を閉める意味が分からず、そして他のメンバーが怯えた様子で部屋の片隅へと固まっている意味も分からない。更に言うなら、未央ちゃんと李衣菜ちゃんが申し訳なさそうにこちらに向かって手を合わせている意味も分からないし、凛ちゃんとみくちゃんが暗がりの中でニッコリと笑いながらこちらに近付いてくる意味なんて全く分からなかった。

 

「な、何? ふ、二人とも、どうしたの?」

 

 二人の笑顔が怖くて、思わず後ずさってしまう。特に凛ちゃんのこの満面の笑みは、ステージの上ですら見たことがないようなニッコリと花の咲くような笑みだ。凛ちゃんもこんな笑顔を浮かべられるんだなぁ……と考えてしまうのは、少し現実逃避が混じっていた。

 

「何でも聞いていいんだよね?」

 

「ミクもちゃんと聞いたにゃ。ね、美波ちゃん?」

 

 確かに言ったが、何故か肯定したくなかった。いや、既に肯定するしないの問題ではないような気もするけど。

 

 後ずさりを続けていき、ついに壁際まで追い込まれてしまった。

 

「……え、えっと……な、何を聞きたいの……?」

 

「うん、簡単なことだよ」

 

「そうにゃ、簡単なことにゃ」

 

 

 

「「いつから良太郎さんと付き合ってるのかな?」」

 

 

 

「……え、えええぇぇぇ!?」

 

 突然の二人からのそんな言葉に、一気に顔が熱くなるのを感じた。チラッと視界の隅に入って来た姿見に映る私の顔は、それはもう暗がりの中でも分かるぐらい真っ赤に染まっていた。

 

「ななな、何を言ってるの!? 二人とも知ってるでしょ!? わ、私はその……りょ、良太郎さんのことが苦手って……!」

 

「あ、そういうのいいから」

 

「ネタはとっくに上がってるのにゃ」

 

 そう言いながらスマートフォンを取り出す二人。タップやフリックを繰り返しながら、何やら中に保存している画像をハイライトが消えた目で見始めた。

 

「ほら、コレ見てよ、みく。良太郎さんと腕組みながら幸せそうな顔しちゃって……」

 

「こっちも見て凛チャン。良太郎さんにアーンされてるにゃ。顔は赤いけど、満更でもなさそうにゃ」

 

「きゃあああぁぁぁ!!??」

 

 思わず悲鳴を上げてしまった。

 

 二人のスマートフォンの画面に映っていたのは、紛れもなく私と()()()()の写真で、しかもオフの日に二人でデートに行ったときのものだった。

 

 思わず手を伸ばして二人からスマートフォンを取り上げようとしてしまったが、ひょいと軽く躱されてしまい私の手は空を切った。

 

「ふ、二人とも見てたの!?」

 

「たまたまだったけどね。二人とも変装してたけど、私は良太郎さんの認識阻害が効かないから」

 

 良太郎君は帽子と眼鏡を身に着けることで誰からも正体がバレないという特異な能力のようなものを持っているが、それは彼の知り合いには適用されない。逆に言うと、彼は変装をしても知り合いからは絶対にバレてしまうということだ。

 

「いやぁ本当に驚いたにゃ。アレだけ良太郎さんのことが苦手って言っておいて、その本人がちゃっかり良太郎さんの恋人になってるなんて」

 

「あ、別に怒ってるわけじゃないよ? 話してくれないなんて水臭いなぁって思ってさ……ほら、私は良太郎さんの妹分だから……ねぇ、オネエチャン?」

 

 怒っていないというのであれば、どうして先ほどから目が笑っていないのだろうか。

 

「それで、いつから付き合ってるの?」

 

「告白はどっちからにゃ? 良太郎さん? 美波チャン?」

 

 再びにじり寄ってくる二人。距離を取ろうにも、既に壁際に追いやられているのでこれ以上下がることは出来なかった。

 

 そんなとき、レッスン室の中にとある曲が流れ始めた。それは私たちの荷物を固めておいてあるところから聞こえてきて、どうやらスマートフォンの着信を告げるものだった。

 

 そして、それが聞こえた瞬間、先ほどから流れている冷や汗の量がどっと増えたような感覚を覚えた。

 

「……この曲は……凛チャン、分かるよね?」

 

「勿論、つい最近リリースされたばかりの良太郎さんの最新曲『空色ヴィーナス』だね」

 

「ねぇ、誰のが鳴ってるのか分かるー?」

 

「み、美波ちゃんのですっ!」

 

 ちょうど荷物を固めておいてある場所の近くで同じように固まっていた他のメンバーたちにみくちゃんが問いかけると、怯えた様子の卯月ちゃんが答えた。正直答えないでいてくれた方が嬉しかったが、反射的に答えてしまったであろう卯月ちゃんの気持ちもよく分かるので責めることは出来なかった。

 

「ねぇ知ってる、みく。この『空色ヴィーナス』って、良太郎さんが作詞したんだって。まるで誰かのことを歌ってるみたいだよね」

 

「凛チャンは物知りにゃ。みくが分かるのは、美波チャンは普段の着信音はみくたちで歌った『お願い!シンデレラ』になってるってことぐらいで、つまりこれは特別な誰かからの着信のときだけ音を変えているってことぐらいにゃ」

 

(誰かタスケテ)

 

 二人の言う通り、『空色ヴィーナス』は良太郎君が私をイメージして作詞してくれた曲で、それが嬉しくて思わず良太郎君からの着信音に設定してしまったのだ。

 

「ほら、誰からの着信なのかは分からないけど、出た方がいいんじゃないかな?」

 

「もしかして急用かもしれないし、まだ休憩中だから問題ないにゃ」

 

 言外に『出ろ』と言われていて、正直に言うと出たくなかったが……こんな状況でも良太郎君からの着信を嬉しいと思ってしまう辺り、存外私も色々とアレだった。

 

 その後、未央ちゃんが悲痛な面持ちで「……なんか……しぶりんが……ゴメン……」と私のスマートフォンを持って来てくれた。寧ろこちらが居た堪れなくなり、私は力なく首を横に振った。これは別に未央ちゃんが悪いわけじゃない……誰が悪いわけでもないのだ。

 

 改めて画面を見ると、勿論そこに表示されているのは良太郎君の名前。先ほどからだいぶ着信音が続いているので、もしかしたら本当に急用だったのかもしれない。

 

 観念した私は、通話ボタンを押した。

 

「……もしもし、良太郎君?」

 

『お、出た出た。よっ、美波』

 

 電話口から聞こえてくる良太郎君の声に、思わずホッとしてしまったが、目の前の凛ちゃんとみくちゃんの視線が怖くてブルリと震え上がってしまった。

 

「どうかしたの? 何か急用?」

 

『ちょっと美波の声が聞きたくなっただけ。いやぁ、恋人の声を耳元で聞けるって幸せだなぁ』

 

 思わず胸がキュンとしてしまったが、今はタイミングが悪すぎる――。

 

『あと、可愛い恋人が困ってるみたいだったからね』

 

「――え?」

 

『美波、ちょっとスピーカーモードにして』

 

 どういうことなのかと尋ねたかったが、とりあえず言われたとおりにスマートフォンをスピーカーモードにして少し耳から離す。

 

『あーこれを聞いてる少女諸君、確かに美波が少し涙目になってる姿は想像するだけで可愛いけど、これ以上は勘弁してあげてくれ』

 

「「「っ!?」」」

 

 凛ちゃんとみくちゃん、そして私が思わず息を呑んでしまった。それは間違いなく、こちらの状況を完全に把握している言葉だった。

 

 一体どうして……と困惑していると、視界の隅で何かが光った。そちらに視線を向けると、疲れた表情で杏ちゃんがスマートフォンの画面をこちらに向けて振っていた。

 

(あ、杏ちゃん……!)

 

 どうやらこっそりと杏ちゃんが良太郎君に連絡を入れてくれたらしい。孤立無援と思われた中での思いがけない救いの手に感激し、あとで沢山飴を買ってあげようと誓った。

 

『話が聞きたいなら別の機会に俺がするから、今はレッスンに集中すること。次のライブでもしミスがあるようだったら、美城さんに頼んで俺が直々に特別メニューでレッスンするからねー』

 

「「……はい」」

 

 結果的に良太郎君から注意を受ける形となり、シュンとしてしまった凛ちゃんとみくちゃん。少しだけ可哀想に思ってしまったが、私がその原因の一端を担ってしまっている以上、彼女たちにかける言葉は持ち合わせていなかった。

 

 

 

 

 

 

「今日は悪かったな、美波」

 

「ううん、大丈夫」

 

 ベッドを背もたれにして床に座る俺の肩にもたれかかる美波は、そう言って首を横に振った。その際、彼女の髪がさらりと首元を撫でて少しくすぐったかった。

 

 お互いにレッスンや仕事を終え、現在俺の部屋。流石にこのまま泊まるわけではないので、この後車で彼女を家まで送り届けなければならないが、それまでの僅かな時間を恋人との触れ合いタイムに当てている真っ最中である。

 

「杏ちゃんから連絡が来たときは何事かと思ったよ。……まぁ、いつかはバレるとは思ってたけど、凛ちゃんはともかくみくちゃんまであんな行動を取るとは思ってなかった」

 

 いくら彼女たちからの好意に気付くことが出来なかったからとはいえ、これは完全に俺の落ち度である。

 

「私は……いつかはこういうこともあるんじゃないかなって、少し思ってたかな」

 

「そうなのか?」

 

「うん。『周藤良太郎』と付き合うっていうことは、きっとそういうことなんだと思うから」

 

 だから私は覚悟してたよ、と美波は言う。

 

 咄嗟に「悪かった」や「ごめん」といった謝罪の言葉を口にしようとして、寸でのところで飲み込んだ。例えば立場が逆になったとして、そんな言葉を美波から言われて嬉しいはずがない。

 

「……ありがとう。ホント、出来た女だよ美波は」

 

「ふふ、こう見えて尽くすタイプよ」

 

「どこからどう見ても尽くすタイプだよ」

 

 寧ろ男をダメにするタイプだと思ったが、口に出すのは止めておこう。

 

 

 

 さて少しだけしんみりとした空気になってしまったので、いつものノリに戻って場を和ませることにする。

 

「昔は随分と嫌われてたみたいだったのになぁ……美波がこんなにデレてくれるとは」

 

「なっ……!? そ、そんなことないもん!?」

 

 今でもこうして揶揄うと、少しだけ以前のツンとした頃の美波が顔を出す。

 

「き、嫌ってたわけじゃなくて、苦手だっただけで……に、苦手って言っても良太郎君自身のことを苦手だったわけでもなくて、えっと、えっと……!」

 

 ただし言動は完全にデレきってしまっているので、それが可愛ことこの上なく、思わずギューッと彼女の体を強く抱きしめてしまった。

 

「……もう……そんなに抱きしめられたら、体が火照ってきちゃいます」

 

 言い訳を止め、力を抜いてクタッと俺の体に体重を預けてくる美波。

 

「もうすぐ夏だしな。これだけくっついてりゃ暑くもなる」

 

 相変わらずの思わせぶりな発言に内心で苦笑するが、美波はギュッと俺の胸にしがみついた。

 

「……そういう意味だもん」

 

「そういうのは、大人になってからな」

 

「っ!? わ、私だってもう大人です! 二十歳ですよ二十歳!」

 

「はいはい大人大人。もうそろそろ帰る時間だから、帰り支度をしましょうね~」

 

「良太郎君っ!」

 

「だから――」

 

 

 

 ――俺が大人にしてやるまで、ちょっと待ってろ。

 

 

 

「………………ハイ」

 

 世間では年齢にそぐわない大人びた色気などと称されることも多い美波だが。

 

 

 

 俺はこうして顔を真っ赤にして俯く美波の子どもっぽい姿の方が、大好きだった。

 

 

 

 

 

 

(……~っぶねぇ……今日もオトされるところだった……)

 

 

 




・周藤良太郎(21)
(前略)
可愛くて美人な恋人ができたことが嬉しすぎて、思わず恋人のことをイメージした曲を作っちゃうぐらい浮かれている。

・新田美波(20)
ついに二十歳になってしまった女神。
思わせぶりな発言で周囲を惑わせていたが、良太郎限定だが実は狙って発言している。
なお彼女が良太郎を好きになるまでの過程は、それはもう少女漫画もかくやといった展開があったりなかったり。

・ハイライトが消えた目
ヤンデレ凛ちゃん&ヤンデレみくちゃん

・良太郎君
そういえばこいつら一歳差だった(今更並感)

・『空色ヴィーナス』
久しぶりに作者のネーミングセンスが問われるシリーズ。

・「……なんか……しぶりんが……ゴメン……」
凛とみくのキャラをこんなことにしてしまって……ゴメン……(作者)



 なんか凄い久しぶりにまともに恋仲○○書いた気がする。



 さて次回は本編に戻りまして。

 なんと……!

 いよいよ……!

 ついに……!

 唯ちゃん回書くぞおおおぉぉぉ!

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