アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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秋の定例ライブスタート!(開演するとは言っていない)


Lesson213 Is the moon out yet? 2

 

 

 

 さて、ついにやって来た346プロの秋の定例ライブ……オータムフェス当日だ。

 

 屋外で行われたサマーフェスとは違い、今回はしっかりと全天候型アリーナで行われる。落雷による停電は起こるときはアリーナだろうが屋外だろうが起こるだろうが……まぁ天気予報は悪くないから、その心配もないだろう。

 

 今回も凛ちゃんや美波ちゃんからチケットを貰い、そして同じように冬馬や恵美ちゃんたちを誘ったわけなのだが……残念ながら今回は誰も捕まらなかった。

 

 冬馬から「寧ろ何でお前は時間があるんだよ」と言われてしまったが、そんなもの作ったからに決まっている。勿論超能力的な意味ではなく、スケジュール調整をして定例ライブ当日に予定を空けたのだ。普段はそういうことをしないが……まぁ、今回は俺が直々に指導した子たちの初の大舞台。是非直接見届けてあげたかったのだ。

 

 というわけで前回と同じように変装をして一般客の中に紛れ込んで……ということはしない。今回は関係者席というものが存在するので、そちらでのんびりとサイリウムを振るつもりだったのだが……。

 

 

 

「ありがとうございます、美城さん」

 

「なに、確かに観客席で周りのファンと共にサイリウムを振るのも悪くないが……たまにはこうしてゆったりと座りながらライブ観賞というのもいいものだろう」

 

「ちなみに本音は?」

 

「……流石の私も、関係者席でサイリウムを振るわけにはいかないのでね」

 

(一応そこは自重するのか……)

 

 美城さんに誘われてやって来たのは、所謂VIPルーム。主に会社の重役や特別招待客などがステージを見るための部屋で、広々とした部屋内にソファーとテーブルが置かれ、広いガラスの向こうにステージと観客席を一望することが出来た。

 

 こんな部屋でゆったりと椅子に座りながらアイドルのステージを観ることが出来るとは、まるで自分がやんごとなき身分になった気分だ。こう、重々しい椅子に足を組みながら座ってワイングラスを揺らしたい気分。

 

「今用意させよう」

 

「コーヒーでお願いします」

 

 冗談のつもりだったが美城さんの心遣いで実現してしまうところだった。流石にみんながステージを頑張っている最中にアルコールを飲む気はないので、慌てて代わりの飲み物をお願いする。

 

「いやはや……美城君も、周藤良太郎の前ではまるで子どものようにはしゃぐんだね」

 

「今西さん」

 

 美城さんと一緒に今回同席することになった眼鏡をかけた灰色の髪の小柄な男性が、以前みくちゃんのストライキ騒動の際に謝りに行った今西さん。現在の346プロアイドル部門全体の統括部長だが、俺が過去に知り合ったときはまだ一部署の部長さんだったはずだ。出世したなぁ……。

 

「別に、はしゃいでなんていません」

 

 俺の分を含めて全員の飲み物をスタッフに頼んだ美城さんは、椅子の腰を掛けながらしれっとそう返した。まぁこの人はポーカーフェイス故に分かりづらいが、俺に限らずアイドルと一緒にいるときは基本的にテンション高めだからなぁ。

 

「……きっと、彼女のプロジェクトの初の大舞台を、周藤君に見てもらえるのが楽しみなんだよ。自分が自信を持って企画したプロジェクトだからね」

 

 こそっと耳打ちしてくる今西さん。しかし美城さんにも聞こえていたようで、彼女は「んんっ」と大きく咳ばらいをした。

 

「『Project:Krone』は、私が選んだ346に相応しいアイドルたちのプロジェクトです。自信ではありません。それは()()です」

 

 つまり自信ってことじゃないかとも思ったけど……ノリノリだから黙っておこう。

 

「それでまだ開演まで時間があるけど……アイドルのところにはいかないのかい? プロジェクトクローネのみんなだけじゃない、前からずっと君が気にかけていたシンデレラプロジェクトのみんなも、今頃きっとステージの裏で準備をしていると思うよ」

 

「……そうですね」

 

 スタッフの人が持って来てくれたホットコーヒーを一口飲みながら思案する。

 

 今回シンデレラプロジェクトからは凸レーションの三人、キャンディーアイランドの三人がユニットとして出演。蘭子ちゃんが小梅ちゃんとコンビを組み、そしてみくちゃんと李衣菜ちゃんがなんと夏樹ちゃんと菜々ちゃんの二人を追加して『*withなつなな』として出演するらしい。

 

 アーニャちゃんがクローネとして参加するので、ラブライカの美波ちゃんはソロでの出演。同じく凛ちゃんもクローネとして参加となり、ニュージェネレーションズの未央ちゃんと卯月ちゃんは今回は不参加とのこと。

 

 それ以外にも、美嘉ちゃんや幸子ちゃんや紗枝ちゃんなど、知り合いの346アイドルは多く出演する今回のライブ。

 

「……まぁ、後で少しだけ顔を出してみますよ」

 

 そのときは、ファンとしてではなく……彼女たちの成長を見守るアイドルの先輩として、少しだけ。

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 プロジェクトクローネのメンバーに宛がわれた控え室。化粧台の前に座り、鏡の中に映る私を見る。いつもはシンデレラプロジェクトでニュージェネレーションズとして赤と白を基調とした衣装を着ている私は、今回は全体的に黒を基調としたゴシック調な衣装を着ていた。黒はクローネのイメージカラーの一色でもあり……これが今日私がステージに立つ『Triad Primus』としての衣装だった。

 

「……なんか凛、落ち着いてるね」

 

「……そうかな?」

 

「そうだよ」

 

 私の左に座る加蓮にそんなことを言われて問い返すと、さらにその向こうに座る奈緒から肯定された。

 

 彼女たちも同じユニットメンバーとして私と似た衣装を着ていた。そして髪型がいつもと違っており、奈緒はお団子を、加蓮はチョココロネみたいなお下げ(良太郎さん談)をほどいて髪を下ろしている。二人とも、少しだけ落ち着いた大人の雰囲気を醸し出しているような気がした。

 

「やっぱりアレか? もう何回か大きなステージに立ったことがあるから、慣れてるのか?」

 

「そういうわけじゃないけど……」

 

「なら今日はリードお願いね、凛先輩?」

 

「ヤメてってば……」

 

 これからこの三人で初めてのステージに立つのだから、緊張しないはずがない。

 

 けれど確かに、美嘉のバックダンサーとして初めてステージの上に立たせてもらったときよりも、ニュージェネのデビューステージのときよりも、そしてサマーフェスのときよりも、比較的落ち着いているのは確かだった。自分ではそのつもりはないが……これが『場数を踏む』ということなのだろうか。

 

「そういえばリン、今回はリョータローからのピィシモー……手紙、もらってないですか?」

 

 そんなことを考えているとアーニャからそんなことを尋ねられ、思わずビクリと体を震わせてしまった。

 

「ん? 手紙?」

 

「アーニャちゃん、手紙って何のこと?」

 

「夏のフェスのとき、リン、リョータローからのアドバイスの手紙、貰ってきました。もしかして今回も、と思いまして……」

 

「良太郎さんからの手紙!?」

 

 何それ羨ましい! と眼を輝かせる加蓮に、思わず椅子を引いてしまった。

 

「なになにー?」

 

「リョーくんからの手紙がなんだってー?」

 

 その話を耳ざとく聞きつけた周子さんフレデリカさんの二人が近寄ってきたことにより、結局部屋の中にいたクローネメンバー全員がぞろぞろと集まって来てしまった。

 

「それで、結局良太郎さんからの手紙はあるの?」

 

「………………あるよ」

 

 ワクワクと期待した様子の加蓮が顔を覗き込んでくるので、ついに観念してしまった。

 

 そう、今回も初ステージや夏フェスのときと同じように良太郎さんから『アイドル虎の巻』を受け取ってしまった……というか、いつの間にか私の荷物の中に紛れ込んでいたのだ。恐らく、あらかじめ良太郎さんが渡しておいた奴をお母さんが入れたのだろう。私に受け取る気が無かったことを予測したのだろう……本当に、どうしてこんな無駄に手を込んだ手回しに全力をかけるのだろうか。

 

 しかも今回は『プロジェクトクローネ』宛と『シンデレラプロジェクト』宛の二通だ。一応、先ほど『シンデレラプロジェクト』宛の方を美波に渡しておいたのだが、それが良太郎さんからの手紙だと知って頬を引きつらせていた。多分開けたくないのは美波も同じだろうけど……彼女は前回の引け目があるだろうから、開けるんだろうなぁ……。

 

「リョータローくんからのアドバイスが書いてあるんでしょー? だったら読んでみようよー!」

 

 ねーねー! と私の体を揺する唯。他のメンバーもその度合いの差はあれど、手紙の内容に興味があるようだ。

 

「………………」

 

 ただ一人、このメンバーの中で私と同じように『周藤良太郎』が一体どういう人物なのかを正しく把握している奏さんだけが、苦い顔をしていた。

 

「……分かった、開けるよ」

 

 貰った以上、開けませんでしたという訳にもいかないので、私も観念してその封筒を開けることにする。

 

 全員が見守る中、封筒を開けると……中から出てきたのは、二枚の便箋だった。入っているのはそれだけ。また以前のように写真が入っているのかと思って一瞬身構えたが、そんなことはなかった。

 

 あれ、もしかして今回は真面目……? と思いながら便箋を開き、文章の内容を軽く流し読みをして――。

 

「………………はあああぁぁぁ……」

 

 ――思わず長い溜息を吐いてしまった。

 

「え、何々? どうしたの?」

 

 加蓮の問いかけに答えず、私は手紙を読み始める。

 

「『この手紙を読み始める前に、まずはすぐそこにいるであろう奏を拘束してもらいたい』」

 

「……えっ」

 

 突然名指しされた奏さんが素っ頓狂な声を上げる。そして彼女がそれ以上のリアクションを取る間もなく、すぐ傍にいたフレデリカさんと志希さんが奏さんの両腕を抑えた。

 

「ちょ、ちょっと凛? それ本当に書いて――」

 

 

 

「『さて、とりあえず緊張しているであろうみんなをリラックスさせる小噺を一つ。俺と奏が同じ高校に通っていたことはみんなも既に知っているだろうけど、実は奏も俺の高校ではそれなりに有名な生徒だったんだよ。そのきっかけって言うのが、奏が入学して間もない頃に――』」

 

 

 

「――ちょっと待って!? 本当にちょっと待ちなさい! 凛!」

 

 珍しく焦った様子で声を荒げる奏。私から手紙を奪い取ろうとするが、両腕をガッチリと抑えられた上に面白がった周子さんが後ろから腰に抱き着いているため全く身動きが取れていなかった。

 

「り、凛!? 貴女なら分かってくれるでしょ!? だから今すぐその手紙を読むのを止めなさい!」

 

「………………」

 

 そんな奏に必死の訴えに、私はニッコリと笑顔を返す。

 

 

 

「凛……!」

 

「……『――俺の友人であり学園内でも有数なイケメンを揶揄おうとしたことがあったんだ。ただそのイケメンって言うのが――』」

 

「凛っ!?」

 

 良太郎さんのアドバイスの手紙を、私はありがたく読み進めることにした。

 

 

 

(凛が真っ黒だ……)

 

(本人に言ったら怒るだろうけど……やっぱり、良太郎さんの妹分って感じだね……)

 

 

 




・「……流石の私も、関係者席でサイリウムを振るわけにはいかないのでね」
アイ転の常務だったら客席に紛れ込んでてもおかしくないけど、一応自重した結果。

・今西さん
名前だけは何回か出てたけど、実際に登場するのはこれが初めてだった気がする。

・アイドル虎の巻
既に定番となりつつあるこれ。今回の被害者は奏。

・真っ黒な凛ちゃん
服の色かな?(すっとぼけ)



 この小説が投稿されている頃、私はきっと船の上でしょう……。というわけで旅行のため、金曜日に予約投稿。過去最速で最新話が書けた気がする。

 なんかぐだぐだやってたら既に五話に収まる気がしなくなってきましたが……深くは考えないでいこう(思考停止)

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