アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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未央プラス123三人娘のターン。


Lesson222 Near to you 2

 

 

 

 今日はアタシとまゆと志保の三人で雑誌のグラビア撮影の仕事。学校が終わってスタジオへと直接行くことになっているのだが、時間に余裕があったので近くのファミレスに寄り道。志保は「早く行って出来ることもあるでしょう……」とやや苦言を呈していたが、なんだかんだ言って付き合ってくれるからいい子である。

 

「………………」

 

 さて、適当にポテトやらドリンクバーやらを注文して一息付いたところで、先ほどからずっと一人で机に突っ伏しているまゆに触れることにしよう。

 

「一体どうしたんですか、まゆさんは」

 

「さぁ?」

 

 とはいえ、まゆがこんな状態になるのはリョータローさん関係だろう。寧ろそれ以外に思いつかなかった。

 

「……今朝、用事があって登校前に事務所に寄ったんですよぉ」

 

 額をテーブルに付けて腕をダラーンと下した姿勢のまま、ポツリポツリとまゆは話し出した。体勢の問題もあって少々聞き取りづらいが、頑張って耳を傾ける。

 

「そこでたまたま、事務所に来てた良太郎さんと会えたんですよぉ」

 

「それは……」

 

 寧ろまゆのテンションが有頂天になる案件では……? と志保と目を合わせる。志保も訝しげな表情を浮かべていた。

 

「勿論『あぁ、朝から良太郎さんに会えるなんて、今日はなんて素晴らしい日なんだ』って、そのときはすっごいテンション上がったんですよぉ……それこそ今日のグラビア撮影の仕事で、美希さんや美嘉ちゃん以上の撮影が出来るのではと思ってしまうぐらい……」

 

「それは相当テンション上がってますね」

 

 やっぱり有頂天だった。

 

 

 

「でも……何故か良太郎さん、まゆと顔を合わせてくれなかったんですよおおおぉぉぉ!」

 

 

 

 腕を枕にするように顔の下に持ってきたまゆは「ひーんっ!」と情けなく泣き出してしまった。周りから注目を浴びてしまい、変装をしているといえ、あくまでも軽いものなので身バレが怖い。

 

「落ち着いてください、まゆさん。イマイチ状況が分かりません」

 

「うんうん。もーちょっと詳しい状況を教えてもらえない?」

 

「ぐすっ……えっとですねぇ……ほわんほわんほわん、まゆまゆ~」

 

「意外と余裕あるね」

 

「私の心配を返してください」

 

 

 

 

 

 

 ――あっ! 良太郎さん! おはようございます!

 

 ――っ! お、おはようまゆちゃん。

 

 ――はぁ、朝から良太郎さんに会えるなんて、まゆは幸せ者ですぅ……!

 

 ――うん、俺もまゆちゃんと会えて幸せだよ。

 

 ――……えっと、良太郎さん? どうしたんですか?

 

 ――え、何が? 俺はいつも通り絶好調だよ?

 

 ――いえ、その……何故お顔を見せていただけないのでしょうか?

 

 ――いや、俺の顔なんて見飽きてるでしょ?

 

 ――そんなことないですよぉ!? まゆは毎日毎時間毎分毎秒でも見てられますよぉ!

 

 ――いやいや、たまには見ない日があってもいいと思うんだよね。

 

 ――そんな日があったらまゆは死んでしまいますぅ!

 

 ――いやいやいや……。

 

 

 

 

 

 

「……という感じで……どれだけ前に回り込もうとしても、良太郎さんの動きについていけず……」

 

 まゆの身体能力的に考えると、本気で動くリョータローさんには敵わないだろう。きっとリョータローさんの周りをグルグルと回って顔を見ようとするまゆという、非常にシュールな光景が広がっていたことだろう。

 

「……話を聞く限り、確かに変ですね」

 

「そうだねー」

 

 ドリンクバーで作ったミックスジュースを飲みながら、首を傾げる志保に同意する。良太郎さんにまゆと顔を合わせづらい理由でもあるということなのだろうか?

 

 良太郎さんがまゆの顔を見たくないから……というのは若干考えづらい。というかその状況が全く思いつかない。思いつかない以上、一先ず考えるのはやめておこう。

 

 となると、逆に()()()()()()()()()()()……?

 

「……あ」

 

 そんなことを考えていると、まゆを慰めるのが面倒くさくなってポテトを摘まんでいた志保が店の前の道路に面している窓に視線を向けてそんな声を漏らした。

 

「おっ、未央じゃん……って、あれ?」

 

 釣られてそちらを見てみると、そこには歩く未央の姿があった。トレードマークとも言えるピンク色のパーカーの上から茶色のダッフルコートを羽織った彼女は、何故かやや俯き気味だった。普段の彼女の性格を考えると、明らかに元気がない様子だった。

 

「……うーん、こっちもかなぁ?」

 

「……まぁ、まゆさんの方は放っておいていいと思いますが」

 

 「志保ちゃんが酷いですぅ!」と嘆くまゆはさておき、やっぱり今の状況の未央が気になってしまった。

 

 未央が目の前を通り過ぎてしまう前にコンコンとガラスを軽く叩くと、それに気付いた未央が顔を上げてこちらを向いた。

 

「……? ……っ!?」

 

 ガラス越しで声はよく聞こえなかったが、多分「うわっ!?」と驚いたんだと思う。

 

 そのままチョイチョイと手招きをする。きっといつもの未央だったら、喜々としてファミレスに飛び込んできただろう。

 

 しかし、未央は「えっと……」と考える素振りを見せた。もしかして何か用事があったのかとも思ったが、なんとなくそういう雰囲気でもなかった。やっぱり、まゆに続いてこちらも何かワケあり少女のようだ。

 

 じっと未央のことを見ていると、しばらく自分の爪先を見つめて悩んでいた彼女は、顔を上げて困ったようにヘラッと笑った。そのままファミレスの入口へと向かっていく。とりあえず同じテーブルにはついてくれるようだった。

 

 店員に連れがいることを伝えた未央がこちらにやってくる。

 

「やっほー未央!」

 

「こんにちは、未央さん」

 

「やっほー! しほりんは稽古ぶりだね! めぐちんとままゆは久しぶりー! ……って、え? ままゆはどうしたの?」

 

 どうやら気付いていなかったらしく、未だに机に突っ伏したままグズグズ泣いているまゆの姿を見てギョッとしていた。

 

「なんか今朝事務所でリョータローさんに会ったんだけど、顔を見せてくれなかったーって言って泣いてるの」

 

「良太郎さん関係でまゆさんが大げさなリアクションを取ることはいつものことなので、お気になさらず」

 

「……え」

 

 アタシの隣に座ろうとした未央の動きが止まった。

 

「? 未央さん、どうかしたんですか?」

 

「……えっと、その……ゴメン」

 

「ん?」

 

 何故かいきなり謝りだした未央に、アタシたち三人は首を傾げる。

 

 

 

「良太郎さんのそれ……私たちが原因だ……」

 

 

 

「……え?」

 

「私たちって……どういうこと?」

 

「………………」

 

 怯えるように、怖がるように、チラリとアタシたちを一瞥した未央。やがて意を決したように顔を上げた。

 

「……あのさ、ゴメン……場所、変えてもいいかな?」

 

 

 

 

 

 

「……そう」

 

「そんなことが……」

 

「本当にゴメン……」

 

 ファミレスから近くの公園へと場所を移したアタシたちは、未央から昨日起きたことの顛末を聞かされた。

 

 未央のユニットメンバー内での意識のスレ違い。自分のアイデンティティーが崩れていく恐怖による慟哭。……そして振り上げられてしまった手と、それを庇ったリョータローさん。そんなことがあったなんて……。

 

 けれど、これでまゆが言っていた今朝のリョータローさんの行動の意味が分かった。

 

 つまりリョータローさんは殴られた顔を見られたくなかったのだろう。恐らく、一晩経って顔に痣か何かが出来てしまったんだと思う。勿論、リョータローさんは今日も仕事なので何かしらの対処はしているだろうけど、本人と同等かそれ以上にリョータローさんの機微に詳しいまゆにバレる可能性を考慮した結果の行動だったというわけだ。

 

 ……というか、リョータローさんってば、未央たちと知り合いだったんだ。前に美嘉たちと一緒に街で遊んでる最中に会ったとき、莉嘉ちゃんたちとも知り合いみたいな雰囲気だったから「あれ?」って思ってたけど、まさか凛と昔からの知り合いでニュージェネどころかシンデレラプロジェクト全体と知り合いだったなんて……。

 

「……あ、あの、まゆさん?」

 

 そんなことを考えていたアタシは、志保の声で我に返った。

 

 振り返ると、そこには俯くまゆに恐る恐る話しかける志保の姿。話の内容の重さに失念していたが『周藤良太郎が顔を殴られた』なんて、まゆが黙っているはずが……!?

 

「……大丈夫ですよぉ、恵美ちゃん、志保ちゃん。殴られたのは良太郎さんの行動の結果であって、未央ちゃんたちに悪意があったわけじゃないって分ってますから」

 

「……ま、まゆ?」

 

 意外なことに、まゆの声は落ち着いたものだった。顔を上げると、穏やかな笑みを浮かべるいつものまゆが……。

 

「ただ……頭では分かっていても、感情と身体が勝手に動き出しそうだから……志保ちゃん、ちょぉっと私のこと後ろから羽交い絞めにしてもらっていいかしらぁ……?」

 

「大丈夫じゃないじゃないですかっ!?」

 

 慌ててガシッと後ろから抱き着くようにしてまゆを抑える志保。……一先ず、まゆのことは志保に任せておこう。

 

「……私さ。しぶりんと一緒にしまむーに会いに行って……これできっと全部解決するって……楽観視してた。ちゃんと話し合えば、この間みたいに全部上手くいくって、そう簡単に考えてた」

 

 でも、とベンチに座った未央は、髪型が崩れることも考えずにグシャグシャと頭を掻いた。

 

「しまむーが抱えてたのは私が思っている以上のもので……それに対してしぶりんがあんなに怒るなんて考えもしてなかった。私は……二人のあんな姿、見知りもしなかったし考えもしなかった」

 

「未央……」

 

「私馬鹿だ……しぶりんとしまむーのこと、何も見てなかった……! ニュージェネのリーダーを自称してるくせに、メンバーのこと何にも分かってなかった……!」

 

 

 

「当たり前です」

 

 

 

「……え」

 

「まゆ……?」

 

「まゆさん……?」

 

 それは、まゆが発した一言だった。まるで怒っているようにも聞こえるその一言は……驚くぐらい優しい声色だった。

 

 呆気に取られて力が抜けていた志保の腕からスルリと抜けたまゆは、未央の目の前にしゃがみ込む。そして優しく未央の両手を取り、自身の両手で包み込んだ。

 

「自分の抱えてることはね、ホントは誰にも知られたくないもの。だから、それを知らなくても当たり前で、問題はそれを()()()()なんですよぉ」

 

「……知った後……」

 

「……私にも、経験あります」

 

「しほりん……?」

 

 まゆの隣にしゃがみ込むように、志保も未央の顔を覗き込んだ。

 

「自分を正当化するために、勝手に相手を悪者にして汚く罵ったことがあります。きっと今の卯月さんも、私と同じなんだと思います。自分を守ろうとして、自分の中で別の標的を作ってそこに矛先を向けているだけなんです」

 

 それはかつて卯月と同じように『周藤良太郎』を嫌うことで自分を守ろうとした少女の言葉。本当は誰も悪くないのに、自分を守ろうと他人を傷付け……その結果、結局自分も傷付いてしまった少女の思い。

 

「私のときは、恵美さんが受け止めてくれました。まゆさんが気付かせてくれました。……今の卯月さんには、まだ言葉が届かないかもしれない。それでも――」

 

 

 

 ――卯月さんを受け止めることが出来る場所に、居てあげてください。

 

 

 

「……卯月さんはきっと、そんな場所を……人を、求めてるんです」

 

「………………」

 

「未央……」

 

 未央はズズッと鼻をすすり、ゴシゴシと袖で目元を拭った。

 

「……何も出来ないのは、やっぱり辛いけど……出来ないなら出来ないなりに、私……待ってみる」

 

 目元を涙で光らせながら、それでも未央はニカッと笑顔を作ってみせた。まだちょっと無理がある、いつもの笑顔と比べて陰ったそれは……それでも、未央の()()だった。

 

「そうだよね、辛いのは私だけじゃない。……しまむーやしぶりんの方が、もっと辛いんだから。……リーダーらしい包容力、見せちゃいますか!」

 

 そのまま勢いよく立ち上がった未央。

 

 アタシは、そんな未央の腕を引き……。

 

「って、わっ!?」

 

 未央の頭を胸元に抱きかかえるように、彼女を抱きしめた。

 

「でも、ホントに辛かったらちゃんと吐き出すんだぞ。……アタシたちは、未央の先輩で――」

 

 

 

 ――友達なんだから。

 

 

 




・「ほわんほわんほわん、まゆまゆ~」
FGOネタ……ではなく、元ネタは『悪魔のメムメムちゃん』という漫画らしい。

・「リョータローさんってば、未央たちと知り合いだったんだ」
未央と恵美たちが知り合い、リアルタイムで早二年半の月日が流れ……ようやく認識の齟齬が解消されます!



 残念ながら、未央は卯月の問題を解消するための直接的ない要因にはなれません。ですが、全てが終わった後に、ちゃんと受け止める役目が待っています。

 次回は勿論、あの二人の話に……。

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