アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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作者の息抜き恋仲第二弾。


番外編45 もし○○と恋仲だったら 17

 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

 ピンポーン

 

「………………」

 

 ピンポーン

 

「……出ねぇ」

 

 とある平日の朝、オートロックのマンションの一階ロビーに俺はいた。

 

 何度も呼び鈴を鳴らしても反応が返ってこないところを見ると、もう七時になるというのに部屋の主は起きていないようだった。

 

「まぁ、そんな気はしてたよ」

 

 このまま呼び続けても無駄だと判断した俺は、合い鍵を使って自動ドアを開ける。最初からこうした方が早かったな、などと考えながらエレベーターに乗った。

 

 目的の階に到着すると、廊下を進み()()()()()へと向かう。途中、他の部屋の住人とすれ違うが既に顔見知りなので「おはようございます」「今日もご苦労様」と挨拶を交わす。

 

 部屋の前に着いたので、最終宣告としてドアベルを鳴らすも反応はない。ならば合い鍵所持者の権限に置いて、実力を行使しよう。

 

 鍵を開け、部屋の中に入る。一人暮らしをするにはだだっ広い部屋だが、実際に使っているのはリビングの一部屋だけなので迷う必要もない。廊下を進んでリビングに入ると、案の定ソファーの上に丸まって眠る人影があった。

 

「ソファーで寝るなって何度言ったら分かるんだか……」

 

 他の部屋を使わないことはまぁいいとして、せめてリビングの片隅に置かれたベッドで寝てほしい。二十歳の女性がタンクトップに短パンというラフすぎる格好のまま、ソファーでお腹を出しながら寝るんじゃない。いくら暖房が効いているからって風邪ひくぞ。

 

「すぅ……すぅ……」

 

 俺の呆れや心配をよそに、気まぐれ猫はスヤスヤと寝息を立てている。周囲に散乱した論文やスクリーンセーバーが起動したノートパソコン、カラになったマグカップから察するに、どうやらいつも通りの夜更かしだろう。これはちょっとやそっとは起きそうにない。

 

 ならばどうするか? 無理やり起こすに決まっている。

 

「おい、朝だぞ」

 

 彼女に覆いかぶさるようにして顔を覗き込む。傍から見ると俺が彼女を押し倒しているようにも見える体勢だが、他に見ている人がいるわけでもない。加えて、自分の()()なのだからこれぐらいは許容範囲だろう。

 

「んー……?」

 

 至近距離から声をかけたことにより、目は開かないが反応はあった。眠りが浅くなった今が勝負!

 

「ていっ」

 

 

 

 丸見えになっていた彼女のヘソに人差し指を優しく突っ込んだ。

 

 

 

 ――ひにゃあああぁぁぁっっっ!!!???

 

 

 

「よーやく起きたか。ったく、何度もソファーで寝るなって言ってるだろーが」

 

「それ以外に、っ、何かすること、あるんじゃない、かな!?」

 

「おはようのキスがご所望か?」

 

「早く、おヘソから指を抜いて、クニクニしないで、あっ」

 

 起きて早々に顔を赤くして悶える彼女が大変煽情的だが、流石に朝からスるつもりはないのでここら辺で止めておこう。

 

 ヘソから指を抜くと、彼女はタンクトップをグイッと下に引っ張ってお腹を隠しながら後退った。勿論ソファーの上なのでそれほど距離は取れない。そして下に引っ張ったことで逆に胸元が大きく開くことになり、下着をつけていない彼女の深い谷間が丸見えになった。

 

「朝から何するのさぁ……」

 

「いやぁ、可愛かったぞ」

 

「変態……」

 

()()()()()のお前には言われたくないんだけど」

 

 ともあれ。

 

 

 

「おはよう、志希」

 

「……おはよー、リョータロー」

 

 

 

 そっと志希の左頬に手を添えると、彼女は一瞬ビクリとしつつその意図を汲み取って目を瞑った。

 

 そしてそのまま、志希の唇を――。

 

 

 

 

 

 

「ったく、自分で作らないにせよ、せめて冷蔵庫の中身ぐらい買い足しとけって」

 

 ほぼカラの冷蔵庫を覗き込みながら、はぁと溜息を吐く。

 

 おはようのキスを終え、昨晩シャワーを浴びずに寝落ちしてしまったことを思い出したらしい志希が真っ赤になって逃げるように浴室へと駆け込んでいったのを見送ってから、俺は彼女の朝食を準備してやることにした。

 

 ただ必要最低限の調味料と僅かばかりの食料しかないので、『何を作ろうか』ではなく『何が作れるか』で頭を悩ませる。こんなことならばコンビニで何か買って来ればよかった。

 

 とりあえず卵とバターがあったのでオムレツでも作ってやろう。あとは残っていた野菜の切れ端でスープだな。

 

 料理をしない志希の部屋で料理を作ってやるようになってから、着実に自分の料理の腕が上がっていることが実感できた。基礎的なところは翠屋で教わっているので、あとは基本に忠実にやるだけなのでさほど難しいことはなかった。

 

「……普通は逆なんだよなー……」

 

 『一人暮らししている恋人の部屋にきて料理を作ってあげる』という素敵イベントのはずなのに、俺が料理を作る側なのが少々納得できなかった。女性が料理をすべきだとは言わないが、可愛い彼女が俺のために甲斐甲斐しく料理を作ってくれる幻想を抱いたっていいじゃないか。

 

 すっかり慣れた手つきでオムレツと野菜スープを並列して作り上げる。二品だけなので、さほど時間も手間もかからなかった。

 

 あとはそうだな……軽く部屋の片づけでもしておいてやりたいところではあるが、一見無造作に散らばっている論文の紙束も、もしかしたら志希なりに整理した結果なのかもしれないので触れない方が無難だろう。なので掃除機をかけるのも少しだけ躊躇われる。

 

 となると、他に俺がしておいてやれることは……。

 

 

 

「……志希ー、洗濯するから脱衣所入るぞー?」

 

『入るなバカー!』

 

 

 

 

 

 

「別に下着ぐらい、もう気にするような間柄じゃないだろ」

 

「あ、あたしは気にするの!」

 

 リョータローに対するあたしの精一杯の抗議は「はいはい」と軽く流されてしまった。

 

「俺としては、前みたいにラフな格好も大歓迎なんだけど」

 

「そ、それは……」

 

 思わず言葉に詰まってしまった。

 

 ……本音を言うのであれば、あたしだってリョータローが喜んでくれるのであれば、そういう格好をするのだってやぶさかじゃない。他の女性(ひと)を見るぐらいならあたしを見てほしいって思う。

 

 でも。

 

「……恥ずかしいし」

 

 結局のところ、それだった。

 

「ホント、昔ウチに泊まりに来てタンクトップ一枚でうろついてた頃とは大違いだな」

 

「そ、それは……!」

 

 思わずギュッと着ている服の前を押さえてしまった。肌蹴ていないはずなのに、見えていないはずなのに、既に()()()()()()()()はずなのに……今のリョータローに、自分の肌を晒すことが恥ずかしかった。

 

「今だから言うけど、たまにチラチラ見えてたからな?」

 

「~っ!?」

 

 顔から火が出るぐらい恥ずかしいとは、まさにこのことだろう。恥ずかしさを誤魔化すようにリョータローが作ってくれたオムレツを食べ進めるが、そんな様子を見たリョータローが「ゆっくり食べろよ」と言いながらサラリとあたしの髪を撫でくるのだから、さらに恥ずかしさが増していった。

 

 昔のことを思い出すだけで、いつも頭を抱えたくなる。

 

 あの頃のあたしは、まだ()()を知らなかった。だから別に見られるぐらい気にしていなかった。

 

 でも、今のあたしは()()を知ってしまった。

 

 ……違う。()()に溺れてしまったんだ。

 

 

 

 ――『恋』という、あたしがずっと研究してきたそれに。

 

 

 

 不思議な話で、おかしな話。コーイチとキャリーの二人を見たときからずっと気になっていた『恋』という現象が、ようやく一番身近な存在になったというのに……余計に分からなくなってしまったのだ。

 

 リョータローと一緒にいたい。でも近づきすぎると恥ずかしくて離れたくなる。

 

 リョータローに見てもらいたい。でも見られすぎると恥ずかしくて目を隠したくなる。

 

 リョータローに触れられたい。でも。でも。でも。

 

 心と脳が矛盾(エラー)をひたすら繰り返し、自分でも訳が分からなくなる。

 

 恋って何? 好きって何? どうしてこんなに恥ずかしくなるの?

 

 ……でも。

 

 

 

 ――その恥ずかしさでさえ……心地よいと思っているあたしがいた。

 

 

 

「志希はマゾ気質だからな」

 

「そーいう言い方すると一気に俗っぽくなるからやめてよ!?」

 

 いや、その……ちょ、ちょっと悪くないかなぁとか思ったりもしちゃったことあるけどさ……ち、違うからね!? そーいうんじゃないからね!?

 

「……ごちそーさまでした」

 

 オムレツと野菜スープを食べ終えて手を合わせると、リョータローは表情を変えずとも満足そうに頷いた。

 

 ……恋人の方が料理が上手いことに関して、何も思わないことがないわけではない。それも昔は全然感じたことなかったが、今ではリョータローにご飯を作ってもらう度に少しだけ悔しくなる。……あたしも、もーちょっと練習しよう。

 

「それじゃあ食器片づけておくから、お前は準備して来い」

 

「う、うん」

 

「あ、それとあのパソコンの周り、片づけて大丈夫か? 大事な論文だったらちゃんとまとめとけよ」

 

「あーうん。大丈夫――」

 

 その論文は全部覚えたから別に……と考えたところで、あたしは寝落ちする直前までノートパソコンで()()調()()()()()()()を思い出した。

 

「それじゃあ俺が片づけても大丈夫だな?」

 

「――ちょ、ちょっと待って!」

 

 今はスクリーンセーバーが起動しているから大丈夫だが、マウスを動かしただけでそれは解除されて画面が戻ってしまう。つまり()()をリョータローに見られてしまうのだ。

 

 慌ててノートパソコンを閉じようと駆け寄るが、こんなときに限ってカーペットに足を取られて転んでしまった。

 

「イタタ……」

 

「おいおい、大丈夫か? 何をそんなに慌てて……」

 

 打った鼻を押さえていると、あたしを起こそうと手を伸ばしたリョータローの動きが止まった。

 

 まさかと思って顔を上げると……あたしが倒れた振動でマウスが動いてスクリーンセーバーが解除され、()()()()()()()()()()()()のページが表示されたノートパソコンがそこにはあった。

 

「ち、ちが……じゃなくて、えっと、その……」

 

 咄嗟に否定の言葉が出そうになり、慌てて口を噤む。それを否定するということはリョータローとの()()を否定することであり、しかし肯定するには恥ずかしさが勝ってしまい……。

 

「………………」

 

「りょ、リョータロー……?」

 

 しかしリョータローからなんの反応もなかったので、不審に思って倒れた格好のままリョータローを見上げると……唐突に覆いかぶさるように抱きしめられた。

 

 

 

「あぁもう可愛いなぁお前はあああぁぁぁ!!」

 

「にゃあああぁぁぁ!?」

 

 

 

 『恋は盲目』という言葉があるが、それの意味がよく分かった気がする。

 

 好きな相手とのやり取り全てにおいて『好き』という感情が先立ってしまって、それ以上何も考えられなくなってしまう。

 

 かつては『天才』と持て囃されたあたしだったが……。

 

 (バカ)になるのも、悪くなかった。

 

 

 




・周藤良太郎(22)
私生活がだらしない恋人が出来た結果、元来の世話好きも合わさり通い妻ならぬ通い夫になった。

・一ノ瀬志希(20)
良太郎に恋をした(ツイッターでのアンケートの)結果、恥ずかしがりやになってしまった。
『トップアイドルの恋人が悪戯しながら朝起こしてくれた上に、美味しい朝食を作ってくれる』とか、まるでギャルゲの主人公のようだ。

・ヘソ責め
ツイッターのTLに流れていた『いいお腹の日』のイラスト見てて思いついた。



 誰だコイツと思わないでもないが、個人的には満足してる(特にヘソの辺り)

 次回からはついに、デレマス編最終話突入です!



『どうでもいい小話』

 6thメットライフドーム公演、お疲れさまでした!

 今回は初日現地二日目LVでの参加でした。

 全部語ると長くなるので、一言だけ。



 ……ななみん、可愛すぎひん?(真顔)

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