アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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デレマス最終話編、開幕。


Lesson225 Happily ever after

 

 

 

「「「……はー」」」

 

 

 

「「「……ん?」」」

 

 私たちシンデレラプロジェクトに割り当てられた控室。化粧台の前に座っていると、右隣から全く同じ息を吐く音が聞こえてきた。そちらに首を向けると、そこには私と並んで同じように首だけこちらに向けている未央と卯月の姿があった。どうやらニュージェネ三人並んで全く同じタイミングだったらしい。

 

「……ふふっ、一緒ですね」

 

「いやぁ、流石私たち! 息ピッタリ!」

 

 クスクスと笑う卯月と未央。思わず私も笑ってしまった。

 

「二人とも、緊張してる?」

 

「そりゃしてるよー! なんだかんだって、これだけ大きな舞台で自分たちの歌を披露するのって二回目だし!」

 

「……あ、そっか」

 

 美嘉のバックダンサーはカウントしないし、秋フェスにはニュージェネとして参加してないから、夏フェス以来ってことになるのかな?

 

「……でも、私は『楽しみ』っていう気持ちの方が大きいです!」

 

「卯月……」

 

「……うん、そーだね! 私もすっごい楽しみだよ!」

 

 笑顔を浮かべた卯月の言葉に、元気よく同意する未央。去年の年末の出来事を思い出し、卯月がそう言ってくれることが地味に嬉しかった。

 

「そーれーにー……」

 

「え?」

 

「しまむーの場合は、今回は特別に見せたい相手がいるもんねぇ~?」

 

「……え、えぇ!?」

 

 ニヤニヤと笑う未央に肩を組まれた卯月が顔を赤くする。

 

「わ、私は別に、と、冬馬さんに見てもらいたいなんて……!」

 

「おやおや~? 未央ちゃんは天ヶ瀬さんなんて一言も……ちょっと待って()()()()?」

 

「あっ……!?」

 

 想定していなかった言葉が出てきたためギョッとする未央と、失言に気付いて固まる卯月。かくいう私も正直驚いている。

 

「え、ちょっと待ってしまむーまさかホントに?」

 

「べ、べべべ、別に変な意味はないですよ!? ホントですよ!? ほら、良太郎さんだって良太郎さんじゃないですか!?」

 

「そっちは関係ないって! 今まで『天ヶ瀬さん』呼びしてたしまむーが『冬馬さん』って呼んでることが重要なんだよ!」

 

 真っ赤になって否定する卯月に、いやいやと驚きの表情を隠せない未央。

 

 卯月があの天ヶ瀬冬馬さんに個別でレッスンを見てもらっていたという事実を聞かされたときは私もかなり驚いたが、それがまさか()()するとは全く想像していなかった。

 

「若い男女……二人きりのレッスン室……何も起きないはずがなく……!」

 

「未央ちゃんっ!?」

 

「二人とも、どうしたのー?」

 

「なになにー?」

 

 プロジェクトメンバー全員が揃っている控室でそんな風にギャーギャーと騒いでいれば、他のメンバーたちの注目を浴びるのは当然のことだった。

 

「いやいや、何でもないよー。しまむーにも春が来たかもしれないってこと」

 

「春?」

 

「まだ冬だよ?」

 

 よく分からなかったらしい莉嘉とみりあが首を傾げる。

 

 しかし未央の言葉の意味が分かったらしい他のメンバーは「あっ(察し)」と言った様子で、興味津々に目を見開いたり優しい目で卯月を見たり、反応は様々だった。

 

「み、未央ちゃん~……!」

 

 そんなみんなの視線に、卯月は真っ赤な顔で縮こまってしまった。そしてキッと未央を睨むが、申し訳ないが全く怖くない。未央も「ごめんごめん」と苦笑しながら頬を掻いた。

 

「やっほー! みんな、そろそろ……って、どーしたの?」

 

 プロジェクトクローネの控室からやって来た美嘉が、こちらの控室を覗き込むなり首を傾げた。

 

「な、何でもないんですよ美嘉ちゃん! ホント何でもないんです!」

 

「へ?」

 

 真っ赤な顔のままブンブンと手のひらを横に振る卯月。ここでこういう反応をするから余計に怪しまれるんだけど……。

 

「くんくん……この匂いは恋のもがぁ」

 

「志希、それ以上は収拾つかなくなるから」

 

 いつの間にかそこにいた志希が余計なことを口走る前にその口を両手で塞ぐ。本当に場を引っ掻き回す絶妙なタイミングで現れる辺り、良太郎さんそっくりである。

 

「よく分かんないけど……みんな、そろそろリハだからステージ行くよ」

 

『はーい!』

 

 美嘉に促され、ぞろぞろと控室を出ていくみんな。私も卯月の背中を押す未央を追い、志希の手を引っ張りながら控室を後にする。

 

 さぁ、リハーサルだ。

 

 

 

 ――『シンデレラの舞踏会』の開演のときは、刻一刻と迫っていた。

 

 

 

 

 

 

「はい到着ー!」

 

「良太郎さんはもう来てるんですかねぇ……?」

 

 ピョンと車から降りる恵美さんに続き、まゆさんも周りを見回しながら車を降りる。

 

「留美さん、送迎ありがとうございました」

 

「いえいえ。それではいつものことではありますが、くれぐれも気を付けてくださいね」

 

「「「はい!」」」

 

 さて、私たち三人は仕事先から留美さんの車で送ってもらい、346プロダクション主催の冬のライブ『シンデレラの舞踏会』へとやって来た。会場前の広場は既にライブの開演を心待ちにする大勢のファンでごった返している。

 

「さてと、リョータローさんと冬馬さんと合流するわけだけど……」

 

 そう言いつつキョロキョロと良太郎さんたちを探す恵美さん。しかしこの人ごみの中から自力での人探しは無理があるので、これは素直に連絡を取った方が早いだろう。

 

「あ、いた」

 

「えっ」

 

 しかしそれは私がスマホを取り出すよりも早かった。恵美さんが指さす方に視線を向けると、そこにはサングラスをかけて帽子を被り、壁にもたれかかりながらスマホを弄る男性の姿があった。

 

「お疲れ様です、冬馬さん」

 

「ん? ……おぉ、お疲れさん」

 

「格好の描写が良太郎さんと被るので、それ止めてもらってもいいですかぁ?」

 

「開口一番それたぁ今日もご機嫌だなぁ佐久間ぁ!!」

 

 相変わらず良太郎さんとは百八十度正反対な態度のまゆさんに、冬馬さんがこめかみに青筋を浮かべる。最近、ただ単にまゆさんが冬馬さんのことを嫌いなだけなんじゃないかと思い始めた。

 

「ったく……」

 

「あ、あはは……そ、それで、リョータローさんはまだ来てない感じですかね」

 

「アイツならとっくにいるぞ」

 

「え?」

 

 よく見れば、冬馬さんの足元には良太郎さんのものと思わしき荷物が置いてあった。今回のライブのショッパーもあるところを見ると、既に物販にも並んだ後のようだ。

 

「えっと、その良太郎さんは……?」

 

 スマホを弄りながら顔を上げずに「ん」と冬馬さんが示す方向には――。

 

 

 

「りゅーせー!」

 

「「「りゅーせー!」」」

 

「凄ぇ! 未央ちゃんの『ミツボシ☆☆★』完璧じゃないか!」

 

「ただもんじゃないな!?」

 

 

 

 ――何やら見覚えのあるサングラスの男性が、無駄にキレのいいダンスを披露していた。

 

「……なんですか、アレ」

 

「俺が知るか」

 

 見間違いだと信じてグニグニと眉間を揉んでみたが、その光景は変わってくれなかった。

 

「え、えっと……本番前に、ファンを盛り上げてくれてるの……かな?」

 

「恵美さん、無理にフォローしなくてもいいと思います」

 

「流石良太郎さん! どんな状況でも完璧なパフォーマンスを披露するプロ精神が素敵ですぅ……!」

 

「まゆさんはお願いですからもう少し現実を見てください」

 

 バックダンサー時代を含めると一年以上の付き合いになるまゆさんだが、それでも何故この状況で目をハートに出来るのかが未だに理解できなかった。この人、それこそ良太郎さんが女装だとかしだしたとしてもきっと肯定するのだろう。

 

「志保、それ既に確認済みだから。女装した良太郎さんの写真見て『性別が変わっても良太郎さんは素敵ですぅ!』って言ってたから」

 

 りっくん……お姉ちゃん、今とっても頭が痛いわ。

 

 

 

「よし! いいかみんな! これは本番前の会場の外の空きスペースで周りの迷惑にならなかったから許されたことだからな! 本番で会場内に入ったら、主役は当然アイドルたちだ! 変なパフォーマンスや掛け声を出してアイドルより目立とうとするなんて言語道断だからな! 改造ペンライトとかも持ち込むんじゃねぇぞ!」

 

『オッス!』

 

「アイドルたちを困らせるな! アイドルたちを悲しませるな! それが俺たち崇高なるファンの役目だ! それを忘れるな!」

 

『オッス!』

 

「それじゃあ解散! 今日は全力で楽しむぞ!」

 

『おおおぉぉぉ!!』

 

 

 

 なんか無駄なカリスマを発揮していた。いやまぁ、言っていることは何も間違ってないんだけど……。

 

 最後に一人一人と「健闘を祈る!」と握手を終えた良太郎さんがこちらにやって来た。

 

「お疲れさま、三人とも。今日は仕事どうだった?」

 

「えっと……はい」

 

「絶好調でしたよぉ!」

 

「そうかそうか」

 

 スッと差し出されたまゆさんの頭を「偉い偉い」と撫でる良太郎さん。蕩けた表情になったまゆさんに、何とも言えない感情になった。

 

「それにしても、いつの間に物販なんて並んだんですか?」

 

 ショッパーを覗き込むと、既に売り切れになっているグッズまでしっかりと確保してあった。確か良太郎さんも午前中は仕事で、物販に並ぶ余裕なんてなかったと思うのだけれど。

 

「あぁ、コレ? 例のごとく、なじみのアイドルオタクに頼んだんだよ」

 

 なんでもありとあらゆるアイドルのイベントに参加している重度のアイドルオタクが知り合いにいるらしく、その人に頼んで物販に並んでもらったらしい。

 

「まぁその見返りってことで、次の志保ちゃんの仕事の予定を軽く話しちゃったから、もしかして出待ちされるかもね」

 

「なに勝手に人の情報話してくれてるんですかっ!?」

 

「大丈夫大丈夫。基本的に人畜無害な子だから、個人で楽しむ用の写真しか取らないよ」

 

 そういう問題じゃないんですけど!?

 

「あぁ、そうだった、志保ちゃんに渡すものがあるんだった……」

 

「今は謝罪の言葉しか受け取るつもりはありませんよ」

 

「メンゴ」

 

 かなり強めに良太郎さんの向こう脛を蹴っ飛ばす。流石に弁慶の泣き所というだけあって、私の力でもダメージを与えることが出来たようで「ぐおおおぉぉぉ……!?」とのたうち回っていた。そんな姿を見て少しだけ溜飲が下がる。

 

「こら志保ちゃん! 先輩にそういうことしちゃいけません! メッ!」

 

「どの口が……」

 

 私に向かって注意するまゆさん、そしてそんなまゆさんを見る冬馬さんの目は呆れ果てていた。

 

「ってて……はいコレ」

 

「? 伊達眼鏡、ですか?」

 

 良太郎さんから渡されたそれは、おそらく変装用と思われる伊達眼鏡だった。それだったら私も持っているのだが……。

 

「それは『346プロの眼鏡の妖精に貰って神様っぽい女の子に願掛けをしてもらった』身バレ防止用の眼鏡なんだ」

 

「どういうことですかっ!?」

 

 良太郎さんの言っていることの意味が何一つとして分からなかった。

 

「あぁ、それか」

 

「志保の分も貰って来たんですねー」

 

「それ本当に便利ですよねぇ」

 

「既に三人とも受け入れてる!?」

 

 良太郎さんの全てを肯定するまゆさんはともかく、冬馬さんまで納得している辺りどうやらこれはガチらしい。一体どういうことなの……?

 

「それをかけておけば身バレしないから安心して楽しめるよ。その効果はリボンを外した春香ちゃんレベル!」

 

「………………」

 

 その説明で「それは本当に凄い効き目だ」とか思ってしまい、心の中で春香さんに謝罪をするのだった。

 

 

 




・冬馬さん
深い意味はない(意味深)

・「何も起きないはずがなく……!」
元ネタは『男同士、密室、7日間。何も起きないはずがなく……』
BL作品のキャッチコピーらしい。勉強になったね!(要らぬ知識)

・『ミツボシ☆☆★』
未央の一つ目のソロ曲。
チョイスした理由は、それなりにダンス難易度が高そうだったから。

・「これは本番前の会場の外の空きスペースで~」
※それでも良い子は真似しないでください。

・変なパフォーマンスや掛け声
今のコール、自分だけで楽しんでない?(世直しギルティ―並感)

・なじみのアイドルオタク
Lesson156参照。

・身バレ防止用の眼鏡
おなじくLesson156参照。



 ついに始まってしまいました、デレマス最終話編こと25話編です。

 作者的にも少し寂しいですが、頑張って書き上げていきたいと思います。

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