今年も一年よろしくお願いします!
それは、あり得るかもしれない可能性の話。
「正座」
「はい」
新年一発目の番外編だというのに、「明けましておめでとう」よりも先に正座をさせられる主人公がいるらしい。
俺である。
「……何か言い訳とかある?」
「えーっとですね……」
「言い訳しないで」
「どっち!?」
正座を命じた上にかなり理不尽なことを仰るのは、つい先日『妹分』から『恋人』にまで関係が進んだ凛だった。
腕を組んで正座する俺の正面に立っているので、下から見上げると胸が結構強調されている。十八歳になった凛は身体も成長しており、その胸もアイドルを始めた頃とは比べ物にならないほど育っていた。
「………………」
胸をガン見していたことがバレた。というか、目の前にいるんだから視線がどこ向いてるかなんて丸分かりに決まっていた。凛はムスッとした表情のままほんのり頬を赤くしつつ、胸を強調していた腕を緩めてしまった。
……いや、まだだ。まだ俺には目の前のホットパンツから伸びる黒タイツが残されて……。
「……ぅぅん……」
「ふにぁ……?」
背後から聞こえてきた二人分の声にクルリと首だけで振り返ると、ベッドの上で
「……おはようございます……良太郎さん」
体を横たえたまま、トロンと目を開ける文香。パジャマの上のボタン二つが開いてしまっているために見える谷間が大変眩しい。
「おはよーにゃあ……りょーちゃん」
体を起こしてググッと背伸びをするみく。お腹が見えてしまうほどパジャマを引っ張り上げる胸が大変素晴らしい。
「おはよう、二人とも。明けましておめでとう」
「明けましておめでとうございます……」
「おめでとー……にゃふふ……昨日は楽しかったにゃあ」
「ええ……とても」
「………………」
みくと文香の言葉に、凛の視線から発せられる温度が五度ぐらい落ちた気がする。
「……ヤッた?」
「ヤッてないです」
ブンブンと首を横に振って全力で否定する。いくら俺たちの中で唯一用事があった凛だけ一緒に年越しを出来なかったからといって、彼女だけをハブいてスるようなことはない。
……そもそもまだ誰ともシてないから! みくと文香が言ってるのは昨晩一緒にやってたゲームの話だから!
「ゲーム(意味深)」
「もしかして眠い?」
「……ちょっとだけ」
凛の目元をよく見てみると、若干しょぼしょぼしていた。まぁ深夜までテレビ出演の仕事があったし、きっと軽く仮眠してからこっちに来たのだろう。
……その状態で目撃したのが、自分以外の
「ゴメン、凛。今から一緒に寝るか?」
「……それも魅力的なんだけど、いいや。私は一緒に寝るよりも、一緒に起きてたいから」
そう言いながら俺の目の前に膝をつくと、髪を耳にかけながら目を瞑り「ん……」と唇を突き出した。
あの
「あぁ!? 凛ちゃん、それは流石に抜け駆け……!」
「んっ……」
みくが言い切る前に、凛とのおはようのキスをするのだった。
俺、周藤良太郎は数十年前に時の総理大臣『杉崎鍵』が一夫多妻制を導入した世界に転生した。まるで漫画のような状況の世界に転生した当初はかなり困惑したものの、流石に二十年以上生きていけば人生観も変わってくる。今ではこれが普通のことなのだとごく自然に受け入れていた。
というわけで、という言い方が正しいかどうかは分からないが、転生特典でトップアイドルをしながら、俺は超絶可愛いアイドルの恋人が三人も出来たのである。
「ぐぬぬ……新年最初のキスはみくがするって決めてたのに……!」
「残念でした」
炬燵に入り悔しがるみくに対し、同じく炬燵に入り得意気な笑みを浮かべる凛。凛の後にちゃんとみくともキスをしたのだが、どうやら彼女は『新年最初』のキスがお望みだったらしい。俺としては、ちゃんと三人とも愛してるんだからキスの順番ぐらい別にいいじゃないか、と思わないでもない。
「特にみくは、お望み通り首筋を撫でながらしてやったろ?」
「そ、それは! ……その、気持ちよかったけど……りょ、りょーちゃんの恋人として譲れないのにゃ! 例えりょーちゃんが均等にみくたちを愛してくれてるからとはいえ、それに甘んじるわけにはいかないの!」
バンバンと机を叩きながら「戦わない猫はただの猫にゃ!」と息巻くみく。いや、野良猫ですら喧嘩すると思うんだけど……。
「文香はそういうの良かったのか?」
「え?」
俺と一緒にキッチンに立って朝食の準備を手伝ってくれている文香に尋ねると、彼女は雑煮に入れる小松菜を切る手を止めて首を傾げた。キッチンに立つため長い髪をポニーテールにしている文香は、なんというか新妻感が五割増しになっている気がする。
「いや、既に凛やみくと済ませた後ではあったんだけど、新年最初のキスとかそういうの」
文香の性格上、凛やみくのように自己主張するタイプではないので、一歩引いてしまうのは仕方がないとは思っているが……。
「……えっと」
しかし何故か文香は頬を赤く染めて目線を逸らした。いそいそと小松菜を切る作業に戻ったが、何やら焦っているようにも見える。
「どうした文香」
「……その……あ、あの……実は……」
何かを言いづらそうにしている文香。チラチラと俺の口元辺りに視線を向けているようにも見えるが……。
……あれ、もしかして。
「まさか、あの『ベッドの上で文香が覆い被さってきてガッツリキスされた夢』は夢じゃなかったのか!?」
「どうして大声で言っちゃうんですか……!?」
「「なんだってえええぇぇぇ!?」」
リビングからドタバタと二人がキッチンに駆け込んでくる。
「埃が立つからキッチンでは暴れない。火も包丁も使ってるんだから」
「ごめんなさい! でもこっちも大事なの!」
「それってもしかして、みくたちが寝た後!? ということは、りょーちゃんとの真の新年最初のキスは……文香ちゃん!?」
まぁ日付が変わってからベッドに入って、おやすみのキスはなかったから……年が明けてから最初のキスは文香だったってことになるな。
「「……抜け駆け……圧倒的抜け駆け……!」」
「ひぅ……!」
完全に目が座っている二人に怯え、慌てて俺の影に避難してくる文香。恋人になる以前だったら精々服の端を掴む程度だっただろう。しかし心身共に距離が近くなった今では、それはもうムギュリと胸が背中に押し付けられていた。なんとも暴力的な大きさと柔らかさににやけそうになるが、幸か不幸か表情は動かない。
「デレデレしない!」
しかしこの中で一番付き合いの長い凛には俺の心の機微が分かられてしまうようだ。
「いや、普通に性癖の問題にゃ」
みくから「そんなこと誰でも知ってるにゃ」と言い切られてしまった。
「それより! みくだって結構あるんだよ!」
「存じております」
前から抱き付いて胸を押し付けてくるみく。
前方のみく、後方の文香。本編では絶対考えられない大乳のサンドイッチに、思わずガッツポーズをしてしまう。
「………………」
そして凛からの視線が冷たくなるところまでが予定調和である。うん、知ってた知ってた。
「……私だって」
そして負けず嫌いの凛がそこで黙っているはずがない。二人に対抗するかのように、俺の右腕に抱き着いてきたのだ。今朝も言ったが、昔よりずっと育った胸を押し付けてくる凛。これで三方向を胸に囲まれている状態になってしまった。
「………………」
「……あれ?」
「良太郎さん……?」
「ど、どーしたにゃ?」
「………………」
「「「……き、気絶してる!?」」」
「流石の俺もあれはキャパオーバーだった」
「いや、一緒に暮らしてきてあぁいう場面結構なかった?」
「あるたびにギリギリ我慢してた」
「じゃあどうして今日に限って……」
「朝だったから……」
「ごふっ」
「文香ちゃん!? 一体どうしたにゃ!?」
俺の言葉の意味が分かってしまったらしく、雑煮を飲んでいた文香が盛大に咽た。寝込みにキスといい、意外とこの三人の中で一番のむっつりさんである。
多少のハプニングはあったものの、無事に朝食の時間となった。メニューは元旦の朝らしく、お雑煮とおせち料理である。
ちなみに「トップアイドルの癖に随分と朝のんびりしてるな?」と言われそうであるが、一夫多妻が浸透し恋愛観に対する考えが寛大なこの世界において、仕事よりも恋人と過ごす時間を優先しても何も言われないのだ。トンだご都合主義な世界であるが、まぁおかげで楽しくやれているので問題はない。
「凛、田作りどうだ? 味見はしたけど、甘すぎないか?」
「ううん、美味しいよ」
「えっと……みく、昆布巻きだったら食べられるんだよな」
「うん、魚介とはいえお魚じゃないから」
「ほい文香、黒豆」
「ありがとうございます……」
どうせ自分で作ったものなのだからと、俺が三人に取り分けてやる。
「それにしても、まさかりょーちゃんがおせち料理作れるとは思わなかったにゃ……」
「作れるというか、作れるようになったんだよ。三人とも料理は出来るけど、おせちは作れないって言うから」
「「「ぐっ……」」」
いやまぁ、今時おせち料理を作れる人の方が少ないので別にそれが普通なんだろうけど。
「ちょうど料理番組のロケで一緒になった美嘉ちゃんに教えてもらったから、若干城ヶ崎家の味に近いかもしれないけどね」
「「「……は?」」」
おっと、凛やみくはともかく、文香から今まで聞いたことがないような声が聞こえてきたような気がするぞ?
「それってもしかして……美嘉の家で、ってこと?」
「え、うん……たまたま美嘉ちゃんと莉嘉ちゃんを車で家まで送って行ってあげる機会があってね。そのとき……」
「……ちょっと待ってて」
「アッ、ハイ」
先ほどまでの炬燵でののんびりとした朝のワンシーンが一変、何やら不穏な空気になって来た。
「……どう思う?」
「……わざわざ家に上げてまで、好意の無い男性に料理を教えることがあるでしょうか……?」
「少なくともみくは絶対にやらないにゃ……」
三人集まれば姦しいとは言うが、三人は集まって俺には聞こえない音量で何やら相談事をしていた。
……あ、戻って来た。
「判決を言い渡します」
「判決!?」
え、もしかしてさっきの裁判だったの!? 容疑者不在のまま裁判行われてたの!? 弁論の余地すらねぇ!
「……も、もしこれ以上恋人を増やすのであれば」
「こ、今年中に」
「み、みくたちと………………を、作ること」
「………………え」
三人とも顔を真っ赤にして俯いており、声も小さかったが……生憎難聴系主人公ではなかったため、なんといったのかしっかりと聞き取れてしまった。
……いや、別に美嘉ちゃんと恋人になりたいとかそういう気持ちが……まぁ、ないと言ったら嘘になるし美嘉ちゃんにも失礼だけど……。
「……今のところ、俺はお前たちとしか
「「「っ……!」」」
さらに真っ赤になって沈黙してしまった三人が愛おしくて……笑えない自分が少しだけ悔しくなる。
あぁ、今年もいい一年になりそうだ。
「……うん、そんな気はしてたよ」
久しぶりの夢オチである。
皆さん、今年も一年よろしくお願いします。
「……もっかい寝よ」
・周藤良太郎(23)
再び一夫多妻時空にやってきた(夢オチ)トップアイドル。
凛・みく・文香の三人と恋仲になっており、マンションにて四人暮らし。
なお、まだ誰とも一線を越えてはいない。
・渋谷凛(18)
良太郎の恋仲1。順番的には一番最後に恋仲になった。
『兄貴分』から『恋人』になったばかりなので、まだ若干の気恥ずかしさが残っている。
けれど想い続けていた期間は他の二人には負けていない。
・前川みく(18)
良太郎の恋仲2。順番的には二番目に恋仲になった。
憧れのアイドルであった良太郎を熱意(と色仕掛け)で落とした主人公タイプ。
基本的には仲が良いものの、他の二人をライバル視している。
・鷺沢文香(22)
良太郎の恋仲3。順番的には最初に恋仲になった。
良太郎の牙城を真っ先に崩した猛者。決め手は控えめながらも情熱的な想い(と色仕掛け)だった。
・一夫多妻制
・杉崎鍵
※番外編17参照
・「戦わない猫はただの猫にゃ!」
魔法をかけられたマルコは、シンデレラだった……?
・『ベッドの上で文香が覆い被さってきてガッツリキスされた夢』
文香が一番、やるときは大胆に行動すると思う。
・「朝だったから……」
色々と大変(意味深)
・「美嘉ちゃんに教えてもらったから」
原作でも実際におせち料理を作っていたり、見た目はあれだがかなり家庭的。
・夢オチ
当然。
新年最初は恋仲○○の特別編でしたー。ちなみに人選は単純に『今まで恋仲○○に選ばれていなかったから』です。
というわけで、六年目を迎えたアイ転ですが、これからも末永くどうぞよろしくお願いします。
次回からはついに、長編外伝スタートです!
『どうでもいい小話』
ミリシタにて、フェス限志保登場! 無事にお迎えしました!
まぁ諸事情があり記念短編は書けなかったのですが……。